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コロナ禍、経営面に多大な影響

新しい援助アプローチめぐり試行錯誤続く

新型コロナウイルスのパンデミックが国際協力業界にどのような影響を与えているのか。その一端を探るべく、国際開発ジャーナル社は6月9日から15日にかけて、開発コンサルティング企業を対象に経営面と事業面に関するアンケート調査を実施した。調査の結果、経営面への影響が深刻であった。

<調査概要>
実施主体:株式会社国際開発ジャーナル社
調査時期:2020年6月9日~6月15日
調査方法:インターネットによるアンケート調査
調査対象:途上国援助の現場第一線に立つ開発コンサルティング企業80社に実施。このうち46社が回答。回答率は57.5%。

46%が「非常に大きな影響」
インターネットによるアンケート調査を行った6月9日からの1週間は、政府の緊急事態宣言が解除されて新型コロナの感染状況も抑制曲線が強まっていた時期だ。とはいえ、開発コンサルティング企業の多くは強まる経営不安のさなかにあったと言えよう。
 調査では、まず「経営面への影響」を聞いた(グラフ1参照)。「影響が出ている」とした社は全体の95.7%に及んでいる。しかも、「非常に大きな影響」と回答した割合が45.7%と、最も高い割合を示している点に事態の深刻さが伺える。
 新型コロナのパンデミックを受けて、政府開発援助(ODA)の実施機関である国際協力機構(JICA)は、開発途上国の現場で働く開発コンサルタントや専門家ら国際協力事業関係者に一時帰国の指示を一斉に発出した。これ
に伴い、3月から4月初旬にかけてプロジェクト関係者の帰国が相次いだ。当然、円借款、無償資金協力、技術協力の各プロジェクトは一時中断、あるいは限定実施を迫られた。そうした中で、「日本人社員の勤務状況」では、回答46社のうち「海外プロジェクトに従事していた社員は全員帰国」とした社は約65%の30社に上り、「プロジェクトによっては現地に残っている」が11社(24%)、「現地駐在員が残っている」が4社(8.7%)といった状況だ。
 「現地に残っている社員」が従事するプロジェクト形態を聞いたところ、15社が回答(複数回答) 。それぞれ円借款が9 社(60%)、無償、民間事業がそれぞれ3社(各20%)という状況である。円借款や無償はフェーズによって施主が相手国政府や関係機関に移行することから、事業の遅延・中
断を嫌う施主の意向によっては日本人技術者が現場を離れるわけにはいかなくなる。業務内容は円借款、無償とも施工監理が中心と思われる。
 一方、技術協力プロジェクトに関しては、関係者はおおむね帰国している。ローカルスタッフや現地の協力会社などを通し、遠隔でマネジメントしている社が多いようだ。
 海外への渡航制限は半年近くに及んでおり、ODAについては一部業務の国内振り替えが進展している。ただ、コンサルタントの稼働率低下が目立っており、引き続き、最大の経営圧迫要因になっている。

開発コンサル意識調査図1

国内事業の創出目指す
 経営問題への取り組みを探る視点から、今回の調査では雇用調整助成金、持続化給付金など日本政府の公的支援策の活用・検討状況も聞いた(複数回答/グラフ2参照)。回答44社のうち、26社(59.1%)が「活用もしくは申
請中」とし、「活用しない」の13社(29.5%)を大きく上回っている。「今現在は不明」、「今後、状況に応じて検討」と回答した社もあり、6月から7月にかけての国内外の状況を踏まえると、その後に公的支援活用に踏み切った社は増えている可能性がある。
 この他の回答としては「都道府県の融資制度を検討中」や、一部ヒアリング調査では「事務所経費(家賃)補助の活用」といった声も聞かれた。
 新型コロナの影響を踏まえ、今後の経営方針については回答46社(複数回答)のうち、43社(93.5%)が「引き続きODA事業を行っていく」とし、「国際機関や相手国政府からの直接受注」17社(37%)、「国内事業の創
出に注力」10社(21.7%)、「国内事業にシフト」9 社(19.6%)と続いている。国内部門を持つコンサルティング企業に比べ、ODAなど海外業務に特
化する社はコロナ禍の打撃をもろに受けており、経験を積み上げるODAにあくまでも基軸を置きつつ、その知見・経験を生かす形で国内事業の創出を目指す方向性が読み取れよう。この傾向はさらに強まっていくはずだ。

技プロ主体に国内振り替え
 ODAをめぐる先行きの不透明感が色濃く漂う中、JICAは国際協力事業を少しでも前に進めるため、海外業務の一部国内振り替えを推奨している。コン
サルタント側の対応はどうか。
 回答46社のうち、「積極的に振り替えている」とした社は12社(26.1%)、「業務内容によって振り替えている」は24社(52.2%)という
状況だ。これに対し「振り替える業務はあまりない」は6 社(13.0%)。きわめて少ないながらも「国内業務への振り替えは考えていない」とした社もあった。重点を置く援助形態によって国内振り替え可能な業務範囲も絞られ
ており、振り替えに前向きな社は技プロ主体の展開を図っているところが多いと言えよう。
 一方、国内業務への振り替えに関し、JICA各担当者との間で「合意に至っているか」を聞いたところ、「十分合意に至っている」とした社は、回答46社中9社(19.6%)、「満足いく合意に至っていない」は15社(32.6%)、「まったく合意に至っていない」も2社あった。「合意に向け協議中」とする回答も相当数あり、調査時から2カ月余りが経過していることを踏まえると、合意の割合は増えていることが予想される。合意に至っていない項目で
は「経費などの取り扱い」「実施スケジュール」「代替案の内容」などが焦点になっている。

「前例のない挑戦」へ
 政府や外務省、JICAへの要望としては(複数回答/グラフ3参照)、①PCR検査の実施体制整備、②中断・一時帰国に伴う待機期間中の人件費補償、③プロジェクト再開指針の明確化、④国内業務の発注拡充、の諸点に要望が集
中している。 また今後の「ODAのあり方」につき、記述式で意見を求めたところ、“まったく新しい姿”を展望する声が多く、注目された。
「ODAのアイデンティティと目的、税金を使うための日本国民の理解、相手国との信頼と共通の開発方針など、これまでの常識と全く違う視点と取り組みが必要。前例のない挑戦が待っている」(プランニング系)、「試行錯誤のアプローチにチャレンジすることこそ評価されるべき。早く結果を求めるのではなく、革新的な手法の導入と失敗を恐れないチャレンジこそがコンサルタントの発想を引き出し、JICAが望む革新的なアプローチにつながっていくはず」(エンジニアリング系)といった指摘は傾聴に値する。第2波とも
いえる新型コロナの感染拡大が続く中、ODAでは新しい手法への試行錯誤が続いている。
(文責:本誌企画部)

開発コンサル意識調査図2

国際開発ジャーナル9月号掲載記事

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