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第2回開発コンサルタント動向調査結果

現地業務の国内振替促進を強く要望

東南アジア、アフリカを中心に技術者の現場復帰続く
新型コロナウイルスの猛威が依然、世界中を襲う中、開発途上国・地域を主な活動の場とする国際協力事業関係者への影響が懸念される。その一端を探るべく、本誌は前回(2020年6月)に続き、開発コンサルティング企業を対象にアンケート調査を実施した。経営・事業両面に大きな影響が出ている。

95%が「経営面に影響」
新型コロナのパンデミックを前に国際協力事業関係者の帰国が相次いだのは昨年2月から3月のことだ。政府開発援助(ODA)の最前線に立つ開発コンサルタントも例外ではなく、大方の技術者は日本に帰国した。もっとも円借款や無償資金協力事業など相手国政府との関係から現場を離れられず、本社
の感染症対策指針や緊急時における対処方針に基づきながら、中核的な技術者は現地にとどまった。 その後、国際協力事業は徐々に国内業務にシフトし、遠隔(リモート)による実施が促進されていった。ODAの実施機関である国際協力機構(JICA)は、いち早く「事業を止めない」という基本方針を打ち出し、案件内容に応じて一部リモートを活用しながら海外業務の国内振り替えを推奨していった。この方針は、今なお続いている。
 現在は、感染状況を見極めながらも海外渡航は緩和されつつあり、コンサルタントやゼネコン関係者らは安全管理、感染症対策などを徹底しながら海外のプロジェクト現場に戻っている。今回のアンケート調査は、上記のようなこの1年の業界の大きな流れ、動きの中で、特に開発コンサルティング業
界への影響を経営・事業面の2つの視点から、その一端を探ろうとしたものである。
 調査では、まず新型コロナ感染拡大による経営面への影響を聞いた。回答40社の95%にあたる38社が「影響が出ている」とし、「非常に」が15社、「大きな」とした社は12社に及んでいる。業態にもよるが、ODA依存度の
高い開発コンサルタント会社にとっては、稼ぎのフィールドとも言える海外現場が、この1年“消滅”しただけに経営的にはかなり辛い時期が続いていることが伺える。 一方、日本政府はコロナ禍が続く中、企業向けにさまざま
な公的支援制度を整備し実施してきた。経営問題を探る観点から、その利用状況を聞いた。「利用した」は70%の28社、「利用していない」と回答した社は30%の12社であった。利用した28社に内容を聞いたところ(複数回答)、もっとも利用されたのは「持続化給付金」の20件(71.4%)、次いで各種の「家賃(事務所)補助制度」の18件(64.3%)、「雇用調整助成金」15件(53.6%)、「無利子・無担保融資」13件(46.4%)と続いている。このほか、「テレワーク助成金」、「日本政策投資銀行からの優遇金利による
長期借入」との回答がそれぞれ1件あった。
 家賃補助制度を活用した件数が予想以上に多かったが、中堅・中小規模のコンサルタント会社にとって固定費に占める事務所賃貸料の割合は収入源が狭まる中で膨らんでおり、移転を余儀なくされた社も出てきている。

グラフ1

進む海外現場への復帰
海外渡航については徐々に緩和されつつあり、社員の勤務状況では「感染状況を見ながら海外現場に戻りつつある」30%(12社)、 「感染状況を見ながら海外現場に戻りつつある」と回答した社に、海外現場の国・地域を聞いたところ( 複数回答) 、東南アジア35.5%(11件)、アフリカ地域29.0%(9件)、中東地域12.9%(4件)、大洋州地域9.7%在している」32.5%(13社)と海外シフトは強まっている。
 社員が「現地駐在している」(13社)プロジェクト(複数回答)は、円借款68.8%(11件)、無償資金協力37.5%(6件)、技術協力プロジェクト、民間事業が各18.8%(3件)という状況だ。一方、「海外現場で勤務して
いた社員は全員帰国し、国内で業務に従事している」と回答した社も32.5%(13社)に上り、比重を置く業務内容・分野によっては、なお海外渡航を抑える姿勢が続いている。「海外出張は禁止」の回答も1社あった。
 「感染状況を見ながら海外現場に戻りつつある」と回答した社に、海外現場の国・地域を聞いたところ( 複数回答) 、東南アジア35.5%(11件)、アフリカ地域29.0%(9件)、中東地域12.9%(4件)、大洋州地域9.7%
(3件)の順であった。国別には、東南アジアでバングラデシュ4件
(回答数)、ベトナム・パキスタン各3件、インドネシア・カンボジア・ラオス・スリランカ各2件、アフリカではケニア4件、ウガンダ3件、ジブチ2件などが目立つ。
中東はエジプトの4件だ。コロナ禍の収束が見えない中、外務省やJICAに対する要望を聞いたところ(複数回答)、「海外業務の国内振替への促進」が最も多く72.5%(29件)、次いで「現地業務の実施・再開にあたってのバックアップ」67.5%(27件)、「プロジェクト再開の指針明確化」60%(24件)と続いている。
 国内業務への振替については、「事業を止めない」という基本方針に基づき、リモートを活用しながら進められているが、マンマンス(M/M)の拡充に加え、変更契約など事務手続きの迅速化や合理化を求める声が強まっている。一部に実施したヒアリング調査では、国内振替を含め、コロナ禍の中、
業務計画の変更に際しては申請、締結に至るまで、コンサルタント側は膨大な事務手続きに追われる状況が指摘されており、円滑な海外渡航と事業再開を阻害しかねないという声も強い。JICAには事務手続きの合理化など、善処が求められよう。

グラフ2

85%が「国内振替」推進
 一方、「現地業務の実施・再開にあたってのバックアップ」については、事業実施・再開に向けた環境整備として在外公館やJICA在外事務所のサポートは極めて重要であり、情報の共有などを含め、コンサルタントやゼネコンなど民間とのタッグ強化が求められる。
 今回の調査では、「JICA本部の説明では、現地派遣につきサポートするということだったが、実際は在外事務所の支援はまったく得られず、予定していた渡航を断念し、余計な経費だけかかった」とし、「本部の決定に在外も足並みを揃えて欲しい」という意見が寄せられている。海外業務につい
ては、徹底した安全対策など“平時”にはない準備と取り組みが必要なだけに、外務省、JICAなどの一層のバックアップを求めたいところだ。
 JICAは、事業の前進を期すため、国内で対応可能な業務については国内振替を推進している。「積極的に」と「業務内容によって」振り替えているとした社は85%の34社に上り、うち「積極的に」の割合は45%(18社)と前
回調査時(2020年6月)の26.1%(12社)を大きく上回っている。JICAとの合意形成に関しても「十分に合意に至っている(至った)」とする回答は52.5%(21社)とやはり前回の19.6%(9社)を大幅に上回っており、「M/M増の査定が非常に厳しい」といった声が依然聞かれるものの、業務内容によって国内対応を強め、事業の進捗を図ろうという姿勢はJICA、コンサルタント双方で強まっていると言えるだろう。

『国際開発ジャーナル』2021年5月号掲載記事

調査報告書の詳細はこちらをご覧ください。


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