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【BOOK INFORMATION】面白く読ませる日本外交史

『日本外交の150年 ー幕末・維新から平成までー』


 本書は、幕末・維新から平成までの150年にわたる日本外交について多彩なエピソードを織り込みつつまとめられている。その大きな特徴は、多くを語られることのない、しかし読者の知的好奇心をくすぐるような歴史について取り上げた興味深いコラムにある。例えば、第1章「幕府外交と開国」では、小笠原諸島の領有の経緯が詳しく紹介されている。
 他にも、第2章「『元勲外交』の時代」では明治新政府が推し進める近代化政策の下で活躍した“お雇い外国人”の話が面白い。政府が雇用した外国人は軍事、科学技術、工業、財政経済、外交、教育、芸術など広汎な分野に及び、1868年から99年までに約2,300人が採用された。なかでも大久保利通は内務卿時代、200人を採用した。
 お雇い外国人の中で知られているのは、「シーボルト事件」を起こしたフィリップ・シーボルトの長男、アレキサンダー・シーボルトだろう。大蔵省雇いとなり、その後ドイツ公使館にも努めている。外交分野で初めて雇われた外国人はフランス人のフリュリ=エラールだ。横須賀製鉄所の建設資材や最新兵器の調達のため、パリにある幕府の出先機関に務めた。
 また、第4章「中国の政治変動と日本外交」にある「満蒙特殊権益」について書かれたコラムも興味深い。1912年の第3回秘密日露協約締結を受けて、南満州と東部内蒙古を指す“満蒙”は日本の勢力下に置かれ、満蒙権益という概念が登場したが、東部内蒙古には権益の実態がなかったことをコラムでは明かしている。第7章「満州事変の衝撃」のリットン調査団と満州問題などについて書かれたコラムも一読に値する。
 コラムの他には、朝鮮半島における日本外交に関する記述にも注目したい。現在の緊張高まる日韓関係において、歴史の底流を知る上で参考になる。特に、韓国人の対日感情を知りたければ本書に記載されている「壬午事変」「甲申政変」「山縣有朋と朝鮮中立化構想」などは一読すべきであろう。
 さらに第6章では、国際協調に向けた動きと第1次加藤高明内閣などで外相を務めた幣原喜重郎外交に触れている。第8章「揺らぐ国際協調と日中協力」では、満州事変によって損なわれた対外関係の修復に尽力した広田弘毅外交についても解説している。
 その後、第9章は日華事変の勃発と日米会談の破局へと話が進み、第10章で太平洋戦争に突入。加えて戦時外交を担った東郷茂徳・重光葵の両外相にも触れ、コラムでは避難民へビザを発給し続けた杉原千畝氏やスイスにおける終戦工作の話も紹介している。
 第11章「吉田外交の時代―サンフランシスコ講和体制」では、占領改革、幣原・吉田内閣と戦後改革、講和と安保、領土問題、吉田内閣の退場(コラムの「吉田路線」)が、第12章「『自主外交』と対米協調」では鳩山内閣の自主外交、岸内閣とアジア外交、コラム「岸信介とアジア協力」が興味を引く。ちなみに、現在の日本貿易振興機構アジア経済研究所は、岸信介の政治力で誕生した。
 第13章は池田勇人・佐藤栄作の時代を「経済成長期の外交」として紹介。第14章ではニクソン・ショックと日中国交正常化、先進国間協調の模索、福田ドクトリンなど。第15章は「ポスト冷戦」の近代外交史を語っている。
                     (荒木光弥・本誌編集主幹)


『日本外交の150年 ー幕末・維新から平成までー』
波多野 澄雄 編著
(一社)日本外交協会
本体3,800円+税

・日本外交協会

・Amazon


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本記事は国際開発ジャーナル2019年10月号に掲載されています

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