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【“再エネ100%”への挑戦vol.3】ローカルから目指すグローバルな課題解決―自然電力の地域での挑戦

同じ想いを持つパートナーたちと地域の新たな価値創造に取り組む
「青い地球を未来につなぐ」を掲げ、世界中で再生可能エネルギー事業を展開する自然電力。日本では農業活性化や災害に強いコミュニティづくりなど地域共生を目指した再エネ事業に力を入れている。地域開発グループリーダーの井手脩治さんに聞いた。


自然電力(株)事業企画部地域開発グループ グループリーダー
井手 脩治氏 
大学院時代に自然電力でインターンを経験し、2015年に自然電力に入社。陸上風力事業開発業務に従事後、洋上風力事業の地域担当を経て、2023年より現職。


創業から続く〝1% for Community〟

 自然電力は、地域に根ざした再生可能エネルギー事業を開発することを2011年の創業時から大切にしてきた。
 「〝1% for Community〟と題し、発電所から生まれる収益の1%を地域に還元し、地域の課題解決や町づくりを支援してきました」と事業企画部地域開発グループのリーダーの井手脩治さんは言う。井手さん自身、学生の頃から地元・九州が高齢化や過疎化によって疲弊していく姿を見て地域再生について学び、大学院時代に同社の「合志農業活力プロジェクト」を知ったことが入社のきっかけになった。
 それは熊本県合志市で同社が事業開発した太陽光発電所の収益の一部を使い、同市の基幹産業である農業を長期的・多角的に振興していくものだ。
 「自然電力は、発電所の開発を通してローカルコミュニティが持つ産業の振興や創出・チャレンジの後押しを進めてきました。世界中の地域とどのように共生していくかを第一に考えています。本社機能を東京から福岡に移し、ビジネスで地方創生をしようという覚悟と責任ある姿勢に感銘を受けました」

風力発電から農業の将来を考える

 そんな井手さんが最初に担当したのが、同社で初めての風力発電案件で井手さんの出身地である佐賀県の「唐津市湊風力発電所プロジェクト」。市内の農地に約2メガワットの風力発電機を建設し地域活性化につなげている。
 「発電所地域に関わる人全てと向き合う」という井手さん。特に地域のステークホルダーとのコミュニケーションに配慮した。地元住民への事業説明に始まり、設置後の農作物への影響や工期が田植えに与える影響を不安視する農家、騒音や景観を気にする人々への対応、そして農業支援の在り方をヒアリングするためにプロジェクト地域に足しげく通った。
 そのかいあって発電所は当初計画どおり2018年に商業運転を開始した。地元に還元された売電収益は、台風被害を受けた農産物直売所の補修などに一部拠出されたが、多くは積み立てられている。後継者を育てながら水田や畑を維持し農業を続けていく原資にしようと将来に向けた協議が続いている。

唐津市湊風力発電所

地域ニーズにソリューションと人で応える

 唐津市湊風力発電プロジェクトで行っているような支援だけでは、地域農業を現状維持することに手一杯で、根本的なソリューションの創出にはまだまだ時間がかかる。
 そこで同社は今年5月、農業教育や農業技術開発を行う( 株) マイファームと資本業務提携を締結。日本で少しずつ普及してきた営農型太陽光の導入によって、農作物の収量とは関係なく、毎月安定した売電収益や経済的メリットを得る仕組みをつくりたいと考えている。宮城県東松島市では自然電力自ら垂直型ソーラー間での米の栽培実験を行った。
 それは農業だけにとどまらない。
 西日本鉄道( 株) との合弁事業では、再エネによる電源開発にエネルギー管理システムや蓄電池などのデジタル技術の組み合わせで九州の脱炭素化や地域の防災機能の強化に取り組んでいる。
 新潟国際情報大学との包括連携では地域社会に向けた寄付講座を開催し、新潟の発展に貢献するローカルリーダーの育成を図っている。
 「自然電力がこれから入る地域は農業や漁業の一次産業や伝統産業、そこに不可欠なモビリティを変革するための新たな実証の場になり、協働する企業や大学などとアイデアを生むプラットフォームも形成できる。当社が地域の資源と人をつなぎ、ノウハウを提供することで地域に新しい価値を創造する。各地にそうしたモデルをどんどん作り、新たな資本循環の仕組みを構築したい」

東松島市にある垂直型ソーラ実験場での米栽培実験

想いを共有する仲間を増やす

 事業企画部の社員は福岡・東京の他、北海道、宮城、新潟、長野、香川などに住み、よろず相談のような形で地域のニーズを聞きながらプロジェクトの芽を育てている。「地元に貢献したい」「大好きになった地域を盛り上げたい」という想いがモチベーションだ。
 ただ、同社の考えるスピードに対し、人材はまだ足りない。そのためビジネススクール「Green Business Producers」を2022年に開校し、地域で環境問題を解決する新事業創出を担う人材を育成している。
 井手さんは同社が大切にする価値観のうち特に「信頼(良い仕事が仲間を増やす)」というフレーズを日ごろから実感していると話す。「信頼の絆を広げ、ローカルモデルを同時多発させてグローバルな問題解決につなげたい」と、地域の未来を共に創る自然電力の*クルーを求めている。

事業企画部集合写真

*自然電力グループでは社員のことを同じ船に乗る仲間として、クルーと呼んでいる。


掲載誌のご案内

本記事は国際開発ジャーナル2023年12月号に掲載されています
(電子版はこちらから)

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