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アルコール依存症で思うこと

アルコール依存症は精神科の病気,あるいは一部の熱心な消化器内科が診る病気と思っている方が多いのではないかと思います。

そもそも「アルコール依存症」という病名自体やや古いということもあまり浸透していないかもしれません。

まして一般の方であれば「アル中(アルコール中毒)」というレッテルを貼るばかりで,依存症と中毒の違いもわからないほどかと思います。

最近話題の某ニュースが,あるワイドショー番組で取り上げられており,そこでCAGE(スクリーニングテスト)が紹介されていました。

<CAGE(ケージ)質問票>
1. あなたは今までに、飲酒を減らさなければいけないと思ったことがありますか?(C:Cut down)
2. あなたは今までに、飲酒を批判されて、腹が立ったり苛立ったことがありますか?(A:Annoyed by criticism)
3. あなたは今までに、飲酒に後ろめたい気持ちや罪悪感を持ったことがありますか?(G:Guilty feeling)
4. あなたは今までに、朝酒や迎え酒を飲んだことがありますか?(E:Eye-opener)

2つ以上「はい」なら陽性。陽性の場合アルコール乱用や依存症の可能性がある。

CAGEは決して感度・特異度ともに優れているわけではありませんが,番組内のMCを除く出演者5人のうち4人が陽性でした(4人とも3つ以上「はい」で1人は4つすべて「はい」でした)。

アルコール使用障害はcommon diseaseです。プライマリケア医がアップデートしておくべき疾患の一つです。

そして,もっとも大事なことは,「個別的」ではあるものの決して「専門的」な病気ではないということです。

近年,アルコール診療界隈では,ハームリダクションアプローチという概念がよく言われるようになっています。

つまり,治療の対象は飲酒そのものではないということです。

初めて聞いたという方は,ぜひ調べてみてください(別のワイドショー番組ですが,専門家ではないコメンテーターが「ハームリダクション」について話していたので,かなり一般的になりつつある概念と思います)。知らなかった方にとっては目からウロコかもしれません。でも,とても大事なアプローチです。

今回のニュースの方も,お酒を飲まなければ…ではなく,お酒を飲んでいたとしてもバイクにさえ乗らなければ…という視点で介入ができていれば(もちろんとっくに介入されていたかもしれませんが),社会復帰への道が閉ざされずに済んだのではないか(まだ決まったわけではありませんが)と思うと残念で仕方ありません。

アルコール問題がコモンディジーズであり,個別性は高いが決して専門性の高い病気ではないということは,アルコール問題が一部の専門家だけの病気ではなく,プライマリケア医こそ取り組むべき病気であるということです。

2018年にはガイドラインも刷新されました。

このガイドラインの賛同団体には精神科・消化器科領域からだけでなく日本プライマリ・ケア連合学会も名を連ねています。

さらに,家庭医のバイブルの一つである「家族志向のプライマリ・ケア」では「第21章 飲酒や薬物が問題の一部分である時:薬物使用・薬物乱用の発見と管理に対する家族アプローチ」として取り上げられています。

自分の診療経験からも,アルコール診療において家族志向型ケアは極めて重要と感じます。

個別性の高さが,まだ理解の及んでいないプライマリケア医にとって忌避的要素となり,専門家(精神科や一部の消化器内科)に送るべきとされてしまっているかもしれないとすると,大きな問題と感じます。これまでのワイドショーの取り上げられ方,まして医療者の理解が不十分なままでは,決して患者は救われないでしょう。

極論をいえば,プライマリケア医であると胸をはって言えるかどうか,アルコール診療が試金石になるかもしれません。

少しでも多くの方の理解が進むことを願って書いてみました。自分も折にふれて勉強を続けようと思います。



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