吾輩はワガである(ホラーSFショートショート)
(2年前に書いたショートショート。ワガくんのことを知らないとよくわからないかも。先日、数年ぶりに彼と遊ぶ約束をしたのですが、当日になって急に連絡がつかず、寝ていたとウソをつかれました。誘ったのは彼です。彼、すごい嘘つきなんです。怒ってないですが罰として彼のしらぬところで創作でひどい目にあってもらいます)
(1)
自訓(自衛隊自動車訓練所)に出向中のワガは週末の外出で、路上にキーがさしっぱなしの車🚙があるのを発見した。
教育で身につけたテクニックを試したくて仕方がなくなったワガは勝手に乗り回していたところ、制御不能に陥り車が暴走。交通事故を起こした。ワガは酒気🍺を帯びていた。
「いってーーー」
(2)
気がつくとガードレールにぶつかった車は大破したものの、ワガはエアバッグと助手席のラブドールの弾力で奇跡的に無傷だった。ワガは運転する前にラブドールを膨らませて、彼女とのドライブを演出していたのだった。
パトカー🚔のサイレン🚨が鳴り、あっという間にワガは警官👮に取り囲まれた。
とっさに財布ごと身分証を座席の下に隠したワガだったが、警官の尋問に、
「吾輩はワガである、名前はまだない」
としか答えない。ワガは人名ではなく、生物学的な分類とでも言うつもりだろうか。国籍はロシア人だと言い張っている。
「おれはロシア生まれのワガニコフ」
「お前、酒を飲んでいるだろ」
飲酒運転はしてないとウソをつきその場でストロングゼロをイッキするワガ。アルコール検知をかく乱するつもりである。
(3)
野次馬が集まり騒ぎ始めた。
警官は野次馬が写真🤳を撮りまくってるのを見て、ラブドールは風紀上好ましくないという判断から、空気を抜いた。
プシューーーー「くっ臭い」ーーーーーーーーーーーーーー。
ワガの息で膨らませたラブドールの口からは臭い空気が漏れ出た。アルコールの臭いまでする。
栓をぬいた口からシューシュー空気を出し続けるラブドールにアルコールチェッカーを近づけると、バッチリ基準値を上回るアルコールが検出された。
「なんだお前ウソをついてるじゃないか」
「いえ、膨らましたのは昨日の夜です」
「お前ウソつきか」
「いいえ」
ワガはキョロキョロとあたりを見回した。「あれ?」よく見ると野次馬の格好がおかしい。
(4)
軽い酩酊状態にあるため気がつかなかったが、誰もが見たことのない服を着ている👩🚀。警官の格好も、パトカーも、景色も、すべてがおかしいことに気がついた。
ワガの運転していた車も軽自動車のはずが、赤いスポーツカー🚗だった。これだけが現代的というか、これだってとてもワガが運転できるような代物じゃないはずだけど、それ以外のものすべてが、一言でいうと「未来のもの」だった。
未来のパトカーと未来人。虎🐯や宇宙人までいる👽。未来の建物に、未来の景色。
「アレアレアレアレアレ おれ酔ってる!?」
「それにしてもお前変なカッコしてるな。ロシア人だと?そんな国ないよ」
「すいません。日本人です。名前はワガです。ここに身分証もちゃんとあります!」
ワガは座席の下に隠した身分証を残らず提示した。
「お前、今が西暦何年だかわかっているのか」
「2020年、、、」
「7541年だ。データベースに照会したが、お前のデータは何一つ存在しないそうだ」
「エッエッエッ!?」
ワガは手錠をかけられ空飛ぶパトカーで連行された。
その後、未来の世界に漂着したワガがどうなったかを知るものは誰もいない。
(5)
話を2021年の現在に戻す。陸上自衛隊のワガ陸士長が行方不明になったというニュースが報じられた。黒胡麻駐屯地に教育出向中のワガ士長は週末外出をしたまま帰隊時間を過ぎても帰って来なかった。同僚の証言によると、ワガは前々から自衛隊を辞めたがっていたらしく、よくある隊員の脱走事件と見なされて捜査がすすめられたが、ワガは実家にも帰らず、連絡も一切つかないそうだ。
同日、沈丘市内で路上に無断で駐車された車が、持ち主の目を離したすきに盗難にあい、2㎞先の人気のいない道路のガードレールに衝突して、全損された状態で乗り捨てられているのが見つかった。奇妙なことにこの車は内側から鍵がかけられており、大きな事故のわりには車内に血痕がなく、あたかも車がひとりでにここまで走ってきたか、あるいは、まるで透明人間でも乗っていたかのようであった。幸い怪我人はおらず、事件が大きく取り上げられることはなかったが、地元ではちょっとした怪談騒ぎになった。しかし、ワガ士長の失踪と、この不思議な無人カー🚙の事件を同一に結びつける報道は一つもなかった。
一連の新聞記事を読んだ本田は顔をあげると意味ありげな微笑みを浮かべた。本田はどこで手に入れたのか、赤いスポーツカーのミニカー🚗をもてあそんでいたが、誰も使わないキャビネットケースにミニカーをしまうと南京錠🔒をかけた。南京錠の鍵🔑をやがて本田はなくしてしまったから、キャビネットが開けられることは二度となかった。
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