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理詰めで誰でも面白いストーリーが作れる 9 PiG5で「生身感」アップ!

面白いストーリーを作るための、充分な量と質の理論を提供する連投テキスト。
9回目である今回は、キャラクターの「生身感」をもう一段階上げるために役立つ、PiG5という理論について述べる。


PiG5理論

前回の内容を実践すれば、相当程度に「生身感」の強いキャラクターを生み出すことはできる。
ただし注意が必要なのは、前回の方法で生み出せるのは、【そのキャラ単体として】「生身感」のあるキャラクターでしかないという点だ。

改めて言うまでもなく、キャラクターは単体として存在しているのではない。
現実の人間がそうであるのと同様、物語作品のキャラクターもまた、【他者との関係性】という問題と、全くの無縁ではいられないのだ。

誤解の無いように言っておきたいのだが、今から語ろうとしているのは、いわゆる「キャラ相関図」とは全く異なる。
全ての主要キャラクターをリストアップして、それらのキャラクターが互いにどのような関係にあるのかを図にしたものを作れとか、そういったことを言うつもりは無い。
そうではなく、あくまでその当該キャラクターの、【他者との関わり方】や【関係の結び方】に見られる特徴や癖を、意識化・明確化すべきだと、そういう話をするつもりである。

以下のリンク記事の中の、「キャラクターをタイプ別に分ける」という項をご覧いただきたい。
https://www.scenario.co.jp/online/23302/

ある心理学者が幼稚園児の集団を観察した結果、4つのタイプを見出したという。
脚本家の清水有生氏は、その4タイプを参考にする形で、5つのタイプを考案して、脚本作りに活かしている。
というのが、当該項の内容だ。

私はその話を元にして思索を巡らせ、5つのタイプを自分なりに再定義し、各タイプに名前を付けると共に、その理論自体にも名前を付けた。

まず理論の名はPiG5
PiGは、集団内での立ち位置すなわちPosition in Groupの略であり、5はタイプの数を意味している。

5つのタイプの名前と、集団内での主な・典型的な振る舞いは以下の通りだ。

中心人物
集団の求心力の源
人徳・指導力・行動力等、何らかの資質によって、自覚の有無を問わず集団を維持。

気配り屋
集団の維持や発展に貢献
集団内の問題を予防・解決する能力に長け、常にそれらを優先している。

おまめ
集団の決定に従う
意識は②と同じだが、能力が低いため②のような働きはできない。

自由人
集団の事情よりも自分の気持ちを優先する
集団に迷惑をかけている場合でも、その自覚が無い場合が多い。

天邪鬼
集団内での決定や①②の指示に敢えて逆らう
自己の正当性を強く信じており、必ずしも集団や成員を敵視しているわけではない。

いまいちイメージが湧かないという方のためにも、空気という概念をキーワードにして、補足説明しておこう。
①中心人物は、空気を作り出す存在。
②気配り屋は、空気を読み、空気を浸透させようとする存在。
③おまめは、空気を読み従おうとするだけで必死な存在。
④自由人は、空気を読もうとすらしない存在(空気という概念すら知らないレベル)。
⑤天邪鬼は、空気に公然と異論を唱え、空気を変えようとする存在。

一応概念図も用意したので、ご参考までにご覧いただきたい。

この図では空気ではなく集団の意思という表現を用いたが、言いたいこと、伝えたいイメージは同じである。

その色眼鏡をぶち割るために

PiG5理論を採り入れるに際して、くれぐれも注意してほしいことがある。
それは、この5類型はあくまでも、集団内での他者との関わり方の類型に過ぎないという点だ。
つまり例えば、あなたが手抜きしたい願望に打ち克てず、行動規定因子表を埋める作業を放棄して、PiG5のみでキャラクター作りを完結させようとするなら、私は全力でそれを制止する。

まずは行動規定因子表を埋めるという第一工程によって、全人格的なキャラクター作りを完了させる。
その上で、さらに磨きをかけるための第二工程がPiG5だ。
第一工程を省いて第二工程のみで終わらせようとするのは、基礎固めもせずに建物を建てるようなものだ。
できあがるものが欠陥建築なのは、初めから目に見えている。

もしどうしてもどちらかを省きたいという方がいらっしゃるなら、私は迷わずこの第二工程、PiG5の方を省くように勧める。
と言っても、それはあくまでどうしてもの場合。
余程切実な事情が無い限りは、PiG5の工程も、省かず実行しなければならない。

PiG5の効果として特筆すべきは、ずばりバイアスの除去である。
現実の人間も基本的には、PiG5の5類型のうちのいずれかに属する。
さらに往々にして人は、自分がどの類型に属しているかについて無自覚だ。
しかも問題はそれだけではない。
ある程度コミュニケーション力に長けた方でない限り、自身が無自覚のうちに踏襲している類型的特徴を、他者もまた踏襲していると、無自覚のうちに思い込んでしまっているのだ。

例えば私は根っからの「おまめ」だ。
が、PiG5を知る前は、自分が「おまめ」であることに、全くもって無自覚だった。
さらに、自分以外の人々も、全員が他者に対して「おまめ的な関わり方」をする(またはしようとしている)と、無自覚のうちに思い込んでいた。

しかしこのPiG5を知ってからというもの、「おまめ的な関わり方」をする(しようとする)のは、自分の類型的特性でしかないことを理解し、他者に対しても「この人はあのタイプかな、あの人はそのタイプかな」と、類型的≒客観的に見ることができるようになった。

この違いは、とくに物語作品の作り手にとっては、絶対に無視してはならないほどに大きい。

全ての他者が自分と同じような「関わり方」をすると思い込んでいる人は、同じような「関わり方」をするキャラクターしか作れない。
しかもその不自然さに気付くのは、自力ではまず無理だろう。
これは深刻なバイアスであり、視覚を歪める色眼鏡である。
その色眼鏡をぶち割って、バイアスを徹底的に除去するためにも、PiG5を理解・体得する必要があるのだ。

ここでもやっぱりエピソード

行動規定因子表の項目を埋める際には、単語・短文のみではなく、エピソードも添えるべしというのは、前回述べた通りである。
そして今回のPiG5についても、それと全く同じことが言える。

当該キャラクターがPiG5の5類型のうち、どれに当てはまるかを決めるだけでは、ほとんど何の意味も無い。
どの類型に当てはまるかを決めたら、それにまつわるエピソードを思い浮かべる必要があるのだ。

PiG5は集団内における他者との関わり方の類型であるから、思い浮かべるべきエピソードも当然、集団に関するものとなる。
できれば三人以上(難しければ二人でも可)の集団を思い浮かべて、その中で当該キャラクターがどのように振る舞うかを、具体的にありありとイメージするのだ。

当該キャラクター以外の成員は、同じ物語作品の主要キャラであることが望ましい。
そうすれば、当該キャラクターのみならず、その集団の成員たる主要キャラについても、「生身感」を向上させることができるという、一石二鳥の効果があるからだ。
ただ、諸事情によりそれが困難な場合は、必ずしも主要キャラでなくてもよい。
極端な話、作品には登場しない、チョイ役ですらないキャラクターでも構わない。

最も手堅い手としては、当該キャラクターの家族である。
集団内での他者との関わり方を身に着ける上で、重要な意味を持つのが家族との関わり方だ。
作品には登場の機会は無い家族を、当該キャラクターの「生身感」向上のために用意して、エピソード内で動かしたり喋らせたりする。
それは極めて効果的な手法であるので、ぜひとも試してみてほしい。

なお、5類型のいずれか一つに当てはめるのが難しいキャラクターについては、複数の類型の要素を持つものとして設定するのもよい。
例えば、基本的には「おまめ」だが、空気を読む力が低過ぎて「自由人」的になることもあったり、得意分野では能力を発揮して「気配り屋」的な役割を果たすこともある、といった具合である。
類型はあくまで類型なので、それにとらわれて固定的な思考になるのではなく、臨機応変に活用するよう、心がけた方が得策である。

まとめ

キャラクターは単体として存在しているのではない。
【他者との関わり方】や【関係の結び方】に見られる特徴や癖を、意識化・明確化することが重要である。

PiG5理論は、集団内での他者との関わり方を、5つの類型に分けたものだ。
①中心人物は空気を作り出す存在、
②気配り屋は空気を読み、空気を浸透させようとする存在、
③おまめは空気を読もうとするだけで精一杯な存在、
④自由人は空気を読もうとすらしない存在、
⑤天邪鬼は空気に異を唱え、空気を変えようとする存在である。

PiG5を活用する利点の一つは、集団内での他者との関わり方に関する、作り手個人の無意識的なバイアスを除去できることだ。

PiG5の活用に際しては、単に類型に当てはめるだけでなく、それにまつわるエピソードを思い浮かべる必要がある。

今回のテキストは以上である。
最後まで読んでくださったそこのあなた、本当にありがとうございましたm(__)m

参考文献
○ロバート・マッキー著、越前敏弥訳『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』(フィルムアート社)(2018年)
○沼田やすひろ『超簡単!売れるストーリー&キャラクターの作り方』(講談社)(2011年)
○Webサイト『コトバンク』内「政治体系」の項(https://kotobank.jp/word/政治体系-1178804)
○アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ著、新田享子訳『トラウマ類語辞典』(フィルムアート社)(2018年)
○Webサイト『シナリオ教室 ONLINE』内「キャラクターの作り方が分からない 人必読:脚本家 清水有生さん脚本術」内「キャラクターをタイプ別に分ける」の項(https://www.scenario.co.jp/online/23302/)

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https://x.com/ideology_theory
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