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イノベーションは優秀な人材や大企業だけのものでない――IAMAS「岐阜イノベーション工房」から考える、地域のデジタルシフトとは

労働集約や下請け、過度な助成金依存——デジタルの力を味方に、旧来の地方型ビジネスモデルからの“脱却”を推し進める時代が到来している。

UNLEASHを運営するinquireと、名古屋を起点にあらゆる領域においてデジタルマーケティング支援を行うIDENTITY。パートナー企業の両社が、合同企画として「地域にデジタルシフトを。」を始めた。

今回紹介するのは、岐阜県大垣市にある情報科学芸術大学院大学[IAMAS]の小林茂教授だ。

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労働集約や下請け、過度な助成金依存——デジタルの力を味方に、旧来の地方型ビジネスモデルからの“脱却”を推し進める時代が到来している。

UNLEASHを運営するinquireと、名古屋を起点にあらゆる領域において企業デジタルマーケティング支援を行うIDENTITY。パートナー企業の両社が、合同企画として「地域にデジタルシフトを。」を始めた。

今回紹介するのは、岐阜県大垣市にある情報科学芸術大学院大学[IAMAS]の小林茂教授だ。「地域だからこそイノベーションを生み出しやすい」と語る小林さん。地域で挑戦したいと考えるプレイヤーと既存事業を組み合わせて新規事業を生み出すなど、まだ出会っていないものを掛け合わせて新たな価値を生み出すイノベーションに注目している。

では、なぜ小林さんは地域でイノベーションを生み出しやすいと考えたのか、イノベーションには何が必要なのか。

小林さん主導で2018年度から開講した「岐阜イノベーション工房」に、そのヒントが詰まっている。AIやIoTなどのテクノロジーに関する基礎を学び、フィールドワークなどの実習も通じてIAMASが確立してきたデザイン思考とシステム思考を集中的に伝えることで、岐阜県内の企業で製品やサービスの開発に役立ててもらう取り組みだ。

今回は岐阜イノベーション工房におけるイノベーションの考え方をひもとくことで、地域にとってのデジタルシフトを掘り下げていきたい。

課題解決の手法を提供することで、地域との関わりが広がった

科学的知性と芸術的感性の融合を建学の理念とし、新しい社会を切り拓く表現者を養成する「情報科学芸術大学院大学」、通称「IAMAS(イアマス)」。人口約16万人(2019年時点)が暮らす製造業の盛んな岐阜県大垣市に、1996年に開校した。

小林さんはもともと電子楽器メーカーでデザイナーやエンジニアをしていた経歴を持ち、2004年からIAMASでイノベーションマネジメントを研究している。

小林さん「IAMASを巣立って岐阜県内で就職した卒業生とのつながりをきっかけに、世界で戦える技術と地域に対する思いを持っている岐阜の人たちと出会いました。

地域を足場にしている彼らは、『現状に満足できない、新しいチャレンジをしたい』と思いながら、どう動けばいいのかわからなかった。そういう課題に対して、IAMASが研究を通じて培ってきた技術やイノベーション創出の手法を使えば解決できるかもしれない、と気づいたんです」

地域新興に貢献できる道筋を見出した小林さんは、IAMASで研究してきたイノベーションの創出方法を学外に広めるべく、岐阜イノベーション工房を開始。1社あたり3人の参加を条件に募集したところ、2018年の初回から募集枠に対して2倍以上の応募があったという。

集まった19人の参加者たちは、前半で10回の演習を受講した後、後半は実習に取り組む。演習プログラムでIoTやデジタル設計、AIなどテクノロジーに関するトピックを学び、フィールドワークを経てアイデアを見つけ、プロトタイプをつくっていくカリキュラムだ。

2018年度のフィールドワークはクリエイティブな観点から地域で新たな仕事を生み出している「GIDS(GIFU INDIE DESIGN SESSIONS)」と連携して、デザイナーや建築士、アーティストが活動する岐阜県本巣市根尾樽見で実施された。

小林さん「イノベーションを生み出していくには、これまでの発想であればくっつかなさそうなAとBをくっつけるために、視野を広げる必要があります。会議室にこもっていても、なかなか視点を増やせない。

フィールドワークであれば、自分では思いつかなかった新しい視点に気づけますよね。その発見がすぐにはイノベーションに結びつかなくても、何ヶ月後、何年後に『あのときフィールドワークで気づいたことって、今のこれと結びつけられる』と発想につながる。その先のイノベーションにつながっていくと思うんです」

2019年3月に報告会を迎えた岐阜イノベーション工房2018。プログラム終了後も、参加した企業のうち数社が継続して新規事業や製品開発に取り組んでいるという。

地域こそイノベーションを生み出しやすい条件がそろっている

小林さんは岐阜イノベーション工房を通して、優秀な人材や大企業だけがイノベーションを生み出せるのではなく、どんな人でも生み出す力や種を持っていることを伝えている。

特に地域では、高齢化や人口減少などの容易には解決できない課題が多いからこそ、未来を考えるアイデアの種が豊富にあり、新たな人とのつながりや小さな取り組みから劇的な変化を起こせる可能性があるという。そして地域だからこそ、イノベーションを生み出せる未知の組み合わせは、両者が出会うきっかけがないだけで案外近くに存在している。

小林さん「イノベーションといえば、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズがいまだに引き合いに出されます。でも30年に一度の技術革新ではなくて、ちょっとしたことで自分たちの生活が大幅によくなることもイノベーションですよね。

岐阜イノベーション工房で講義の資料を『Dropbox Paper』で共有したら、『使ったことがない』って声もたくさんありました。でも使ってみたら『こういうやり方のほうが進めやすい』と気づいて、自社に導入したケースもあったんです。

そういう些細なきっかけから新しいツールへの抵抗がなくなったり、今まで難しいと思っていた課題を解決する糸口を発見したりする。岐阜イノベーション工房での気づきをそれぞれの現場に持ち帰ったときに、既存の現場と発見が掛け合わされてイノベーションに結びつくんじゃないかと思っています」

さらに、地域にはイノベーションを生み出しやすい条件がそろっている、と小林さんは指摘する。東京と比べて競争相手が少なく、地方自治体やメディアに応援される可能性も高い。拠点やチームを構えるコストも抑えられるのだ。

小林さん「東京であれば1年で芽が出なくて埋もれてしまう企画も、地域にいたら3年持ちこたえられるから、3年目でようやく芽が伸び始める可能性が十分あると思っています。しかも、企画に対して地域で暮らす人からフィードバックをもらいながらイノベーションの種を育てていける。地域から世界に出て行くこともできるかもしれませんよね」

地域でイノベーションを生み出すために必要な「仲間」

イノベーションを生み出しやすい条件がそろっている地域で、その創出を促進する要素とは何だろうか。岐阜イノベーション工房の事例が示すのは、「仲間」の存在だ。

小林さん「岐阜イノベーション工房の募集単位を1社あたり3人にしたのは、新規事業を推進する上で1人では辛いから。アイデアを出しても社内から反対されて消えてしまう企画も多い。そうならないためには、やっぱり身内に仲間を増やしていくことが大切です。

次のステップとしては、参加者のコミュニティをつくりたいですね。過去に参加した人たちにも今後のワークショップに来てもらって、参加者の輪を広げていきたいです」

岐阜イノベーション工房はIAMASがあったから実現できたのではないか。そんな声に対して、小林さんは学術機関に頼らない地域の「デジタルシフト」の方法を提案する。これも「仲間」がいれば、気軽に実現できる方法だ。

小林さん「岐阜イノベーション工房では、演習プログラムで使うツールのリサーチに時間をかけて何種類か試しています。こうやってリサーチしてよかったものを周りに共有する動きを、地域でもっと活発化できるのではないかなと。

個人だと時間をかけなければやれないことを『こうするといいよ』とシェアしたほうが、結果的に地域全体がよくなります。地域でイノベーションの種を共有する動きを推進する役割は、IAMASのような学術機関に限らず地域の企業が担えると思うんです」

現状維持に対して危機感を抱いている地域のプレイヤーが手を取り合って、ツールやノウハウを共有し、実際に手を動かしてみる。そういう人たちが活躍しやすい土壌づくりが、イノベーションにつながっていくという。

ロールモデルと若い世代をつなげることが、IAMASの役割

2018年度に初回の岐阜イノベーション工房を終えたIAMAS。地域でのイノベーションに貢献しうる手応えをつかんだ今、どのような役割を果たしたいと考えているのだろうか。

小林さん「『自分たちでもイノベーションを生み出せる』と思える瞬間を増やすために、新しい技術をテレビやインターネットで見るだけでなく、実際に使っている人を地域に増やすことが重要です。

2010年に東京以外で初めてローカル版Maker Faire『Ogaki Mini Maker Faire』を開催して以来、隔年で継続しています。毎回何千人もの方が集まり、VRやAIなどの技術を『テレビで見たことがある』だけでなく体験してもらったり、それらを扱っている人たちと話せたりする場です。

何の意味があるのだろうと疑問を抱きたくなる分野に情熱を傾けて生きている人たちと出会うことで、最先端の技術と地域におけるロールモデルとの接点を生み出せますよね。

そうやって『こういう生き方もありなんだな』と知れることは、長期的に見ると地域における重要なセーフティーネットになると思っています。IAMASを地域に解放していくことの意義は、ここに見出だせるのではないかと」

また、すでに地域に存在しているイノベーションの種と若い世代をつなぐパイプの役割を果たすべく、2018年から小林さんは中学生から大学生を対象としたモノづくりのワークショップ「岐阜クリエーション工房」を始めている。

小林さん「普通科の高校、特に進学校は地域とのつながりが非常に薄いと知りました。高校は次の大学に行くまでの中継地点でしかなくて、高校のコミュニティとその周辺地域は断絶されている。どんな企業が岐阜県内にあるのか、どんな人がいるのかを知らないまま県外に出ていくので、地元に帰ってこなくなります。

地元で就職しようとしなかろうと、すぐ近くにあるイノベーションの種と出合えないことは若い世代にとって機会損失です。地域で暮らす若い世代が、すぐ身近にいるおもしろい人々や活動、考え方と出会える機会を増やしていく。これが地域においてIAMASが果たせる役割だと考えています」

イノベーションを生み出せる材料は、地域にそろっている。その起爆剤となるのは、同じ地域で常に近くに存在していながら交わっていない要素をまずは出会わせる「きっかけ」だ。

既存のルールや固定観念が力を持つ地域で、IAMASは地域外からの視点や先進的な研究などを持ち込むことで、出会っていなかった要素どうしの出会いを実現する強力な「きっかけ」をもたらしてきた。いわば媒介者のような存在だ。

IAMASなき地域でたった一人で小林さんと同じ役割を担うことが難しくても、アイデアを交換できる仲間やすでにイノベーションをおこしているロールモデルと手を取り合えば、イノベーションの素となる新たな組み合わせを出会わせることは不可能ではない。このことを、岐阜イノベーション工房が教えてくれている。

「ただの打ち上げ花火で終わらせず、継続的にイノベーションを生み出せる文化や風土を醸成することが、僕の究極の目標」と語る小林さん。岐阜イノベーション工房によって着火されたイノベーションのともしびは、少しずつ育っていく――。

本記事は「Always be full of curiosity」をコンセプトとするメディアプロジェクト『UNLEASH』にて、2019年12月9日に公開された記事を転載したものです。(転載元の記事

小林さんは、ご自身のnoteでも新規事業創出を中心とするイノベーション、およびそのためのマネジメントに関する情報を発信されています。


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