⑯生きがい
もうひと月以上、仕事もせず引きこもっている。しかし少しだけ前を向くことが出来てきた。家の事も少しはできるようになった。お酒は飲み過ぎて美味しいと思えなくなり飲む量が減った。
仕事も探し始め、具体的に一件調整中である。働く自信はないが、とにかく働かなくては生活ができない。生きる為には、苦しくても辛くても、もう一踏ん張りしなくてはならない。
今までの携帯は放置したままで、家族以外の誰とも連絡を取っていない。
携帯は家に生きているが使っていなかったものが一つあったのでそれを使用している。家族との連絡や日常的な作業に使っている。けれど何だかんだ調べる事ができてしまう。気がつくとSNSで彼の手がかりを調べていた。
彼は、お店の営業と同時に、開催されたら世界的にも取り上げられるであろう大きなイベントの企画を進行している。その関係者や応援者のSNSから今の彼の様子が少しわかった。
まず一つは、企画しているイベントが順調に進んでいる事。そしてもう一つは、自宅に帰る生活をしているのだろうと言う事だ。
おそらく彼は、私が連絡を絶って数日のうちには自宅に帰っただろう。ごく自然で当然の事だ。彼は社会に対しては強いが、実は寂しがり屋で甘えん坊なのだ。それまでの私との生活は彼に無理を強いていた。あの頃の彼は私に気を使い、一切家には帰っていないと、言い張っていた。どう考えても不自然だ。時々〝帰っただろうな?〟と言う女の勘が働く瞬間があった。言い合いになるたびに何度も〝私は本当のことが知りたい〟と言ったが〝俺の言葉を信じろよ〟と、彼は頑なだった。
そして今、彼が家に帰っていると言うことは、私に対しての決別を意味するんだろう。
そのSNSを見て、そろそろ放置しているあの携帯を開いて、この目で現実を見て、改めて覚悟をしなければいけないと思えた。今なら見て受け止めることが出来るかも知れない。そんな気がしてきた。
私にとって、彼は生きがいだった。これからも変わりはない。彼ほど愛した人は他にいないし、彼以上に魅力を感じられる人は絶対にいない。
希望か絶望か、どちらを目の当たりにすることになるのだろうか。私は、どちらでも、受け止めることが出来る心が戻っているだろうか?
未だ希望を捨てきれていない私はどこかで彼を信じているのだ。彼の、私への愛だけは嘘じゃないと信じたいのだった。
✳︎最後まで読んでくださりありがとうございました。
続きはまた次回へ。
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