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ideaboard® 開発ストーリー連載 #10_外部パートナー編 | KYOTO Design Lab

この連載では、中西金属工業株式会社(以下、NKC)が、2019年に発売した新しいホワイトボード『ideaboard®(アイデアボード®)』の開発に関わったプロジェクトメンバーから広く話を聞き、ideaboardが世に生み出されるまでのストーリーを記録します。
第1〜8回は開発者であるNKC 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMENの長﨑 陸さんに、第9回以降は外部パートナーのみなさまにインタビューしています。

過去の記事はこちらから

今回は 京都工芸繊維大学 デザイン・建築学課程 准教授の鈴木さんに、イノベーションを生み出すワークショップでの空間やツールについて、今後の展望も含めてお話を伺いました。

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Sushi SUZUKI
京都工芸繊維大学 デザイン・建築学課程 准教授

1. ワークショップのための手づくりボードがideaboardの初期プロトタイプ

ーまずは普段どういうお仕事をされてるのか教えてください。

京都工芸繊維大学 デザイン・建築学課程の准教授という肩書きで、デザインの中でも、商品開発において0から1をどう生み出すかというものを学生たちに教えています。具体的には産学連携でいろんな企業からお題をいただき、学生たちを教えながら新しいものを1年間でつくるというプログラムを主宰しています。(ME310/SUGAR – グローバル イノベーション プログラム

生まれは京都ですが10才からはずっと海外に住んでいました。2015年に長﨑さんから誘われてD-labに来て、20年以上ぶりに日本で生活しています。

ー長﨑さんと鈴木さんがD-labで一緒に働きだした当時、ワークショップで使うボードを手作りしていたそうですね。

その頃はD-labの立ち上げ期で、恐ろしいほどワークショップをまわしていた時代ですね。毎週毎週いろんな場所で実施するので学内を走り回っていました。そのためにワークショップキットやボックスなどの、ツールもいろいろ作りました。ideaboardのプロトタイプとなっているA型のボードも、安いボードをテープでつなげただけでそれなりに使えるものになっていました。
アルミフレームで補強したボードもよく使っていましたが耐久性に難があったのを覚えてます。アルミが外れて角がどんどんやられていく(笑)。でも、軽かったので重宝していました。ゴロゴロ引っ張るタイプのホワイトボードが運びにくい中で、あれは6-7枚まとめて頭に乗せて運べた。振り返ってみると、いろいろよく作っていたなと思いますね。

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2. ideaboardが生まれた背景は日本ならではの文化

ーワークショップを実施する上で、海外と日本で違いを感じることはありますか?

まず、海外では設営や準備物をあまり気にしたこともなかったです。とにかくボードや模造紙、ポストイットやペンなど物品をいっぱい準備しておいて勝手に持って行ってもらう感じ。だから、テーブルに置いて見下ろしてやるチームとか、椅子にテープで固定してしっかり立てようするチームもいたり。日本ではもうちょっとしっかり丁寧に設営する印象ですね。準備物を頼んだら、まずはきっちり数が揃って届いて、さらにチームずつにハサミやポストイットが同じ数量ずつ分けられていたりして。アイデアを出すことにフォーカスするため、日本ではそこまで準備しておいてあげないと、何を使って何をしたらいいのか混乱するのかなとは思います。

学生でも、今この5分を使ってしっかり立たせれば作業やアウトプットを出すことが格段に楽になる、という考えに達する人たちとしない人たちが明確に分かれる。例えばうちのD-lab専用スペースでも、自分たちのためにデザインしようと壁を立てたりDIYを始めるようなチームもいれば、毎回毎回ちょっと何かをよけながらっていうようなチームもいて、それぞれの性格にもよりますね。

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ーワークショップのための空間やツールについてはどうでしょうか?

やっぱりこのデザイン思考の業界っていうのは、そのためのスペースも含めてスタンフォード大学のHasso Plattner Institute of Design※(以下 d.school)をベースに考えられていると思うんです。
※デザイン思考で課題の本質を見出す力を身につけるためのプログラムを多数有する、スタンフォード大学内の機関。鈴木さんは同大学大学院在学時に参加。

2004年にd.schoolが始まった頃、大学で空いていたビルをまるごと、改修が始まるまでの間自由に使えることになったんです。改修前でコンパネとか全部むき出しのままで、もう自由になんでもしていいような感じで。だからあの場所は本当に自由に、引越したり、DIYもしたり、何度もプロトタイプを重ねられたからこその空間になっていると思います。

そもそも住居に関しても、アメリカでは部屋にダメージを与えずに家具を動かすという考え方自体がない。がんがん壊すし穴も開ける。日本では、借りる場所に関して原状復帰が基本だからか、壁に穴をあけない収納や家具が考えられてますよね。例えばつっぱり棒とか、海外では見たことがない。日本はやっぱり、ちゃぶ台を片付けて布団を敷くという文化なんですね。そう考えると、軽くて持ち運べてどこにでも置けるideaboardは、既存スペースの自由度の少ない日本で、建築に依存せず実施するワークショップを背景にしてできたんだろうね。

3.リモート時代でのアイデアの出し方はどう変わるのか

ー最後に、コロナ禍でリモートが当たり前になってきた今、ホワイトボードやideaboard、アイデアの出し方はどんな風に変わっていくとお考えですか?

コロナの影響が大きくなってきた今年3月ごろは、去年のME310/SUGARプログラム参加者のアイデアが大体決まった時期でした。海外へ行く計画も中止、オンラインで最終発表ということになったんです。急遽コーディネーションもオンラインでするし、プロトタイプもバーチャルスペースを利用したり、発表も録画で実施したり。アウトプットがデジタルになっていきました。でも最終的なアウトプット自体は、これまでのアナログなやり方と比べてそこまで違いは見えなかったんです。

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そして、今年のME310/SUGARは10月のキックオフからもうほとんどオンラインで。そうなるとまずオンラインツールのリテラシーが一気に上がるんですね。キックオフでmiro(オンラインホワイトボードサービス)を使ったら、次は学生たちがもう当たり前のように使いこなしてくる。
海外とのコラボレーションの距離もかなり近くなって、6月の最終発表がオフラインで開催できなければ、海外の大学も含めてオンラインで開催する可能性もあります。物理的距離というマイナス面は昨年より一層感じなくなってきました。

一方で、オンラインでこれだけできると分かってきても、学生たちはまだラボに来て作業しているしもちろんホワイトボードも使われています。ただ今後本当に人が集まれないとき、例えばロックダウン最中ではホワイトボードは使えないじゃないですか。オンラインツールリテラシーは確実にあがったけど、それでもやっぱりオフラインなのか、オンラインなのか、やり方にしてもアウトプットにしても先の予兆は見えてないのが正直なところ。まずは今年のプログラムのアウトプットがどうなるか、期待して見たいですね。

次回 ideaboard 開発ストーリー連載_#11へ続く
(取材・文 / (株)NINI 西濱 萌根,  撮影 / 其田 有輝也)

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