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「その男、ジョーカー」EPISODE1「卒業」#6
同僚のウェイトレスによれば、MOMOちゃんはここ一ヶ月程の間、いたずら電話やつきまとい等の被害に遭っているとこぼしていたらしい。一度事務所に相談するとも言っていた様だが、あのジャーマネからはそんな事はひと言も聞いていない。相談してないのか、はたまた面倒を嫌ったのか、そもそも相談してないのか?
考えを巡らせながら、ワタシは美味くないコーヒーを飲んで更に質問した。
「ここに来てた客で、桃子ちゃんを贔屓にしてた人とか居た?」
「そりゃ居ましたよ、でもお客様の事いちいち詮索しちゃマズいでしょ」
彼女の答に頷いたワタシは、礼を述べてからコーヒーを飲み干し、勘定を頼んだ。
ワタシは、妙な敗北感と共に『Cafe Peaberry』を後にした。クソ、生意気にテーブルチャージ料取りやがって。よくメニューを見なかったワタシのミスだが。
コインパーキングで駐車料金を支払ってバンデン・プラに乗り込んだワタシは、腹いせとばかりにコンビニで買ったポテトチップスを開けて三、四枚程まとめて頬張り、派手な音を立てて咀嚼しながらエンジンをかけた。次の目的地は、駅に近いショッピングモール内に入る若い女性向けのアパレルショップだ。
駅に近づくと、なかなかコインパーキングが見つからないものだ。ワタシは苛立ちを抑えながら車を進め、運良く空いていたパーキングメーターを利用した。そこからショッピングモールは徒歩二分くらいの距離である。運転席から出ると、先程とは比べ物にならない程人口密度が上がった。逆に平均年齢はえらく下がったが、生憎ワタシの守備範囲ではない。良かったなワタシ。
目当てのモールの出入口に差し掛かる頃には、男女比が一対九くらいになった。凄まじきお呼びでない感を全身に浴びながら、ワタシは女の波に逆らってモール内へ突撃した。エスカレーター脇のフロアガイドで店の場所を確認し、三階へ上がった。その間、行き交うティーンエイジャー達からの好奇の目に散々晒されたが、そんな事でやられる程ワタシのメンタルはヤワではない、多分。挫けるなワタシ。
漸く辿り着いた店『Rainbow Pink』の店構えを目の当たりにした時、ワタシは店名からある程度予想はしていたんだが、その予想をいとも簡単に上回られて度肝を抜かれてしまった。
ピンク。
何処を見てもピンク。
若干の濃淡の差はあれど、店の壁も調度品も、陳列された商品も悉くピンクに染め尽くされていた。つい数分前まで居たカフェよりも、ピンクだった。それはもう、かけているサングラスのブラックスモークを無力化するくらいに。MOMOちゃんよ、そんなにピンクが好きか?
ワタシは脳味噌までピンク色に染められそうな錯覚に陥りながら、MOMOちゃんの写真を手に店へ歩を進めた。すると、恐らく店の商品と思われるピンクのワンピースを身に纏った女性店員が寄って来た。但し、髪だけ金色だった。そこはピンクじゃないのかよ。
「いらっしゃいませ〜」
イマイチやる気を感じない挨拶をする店員に、ワタシはMOMOちゃんの写真を示しながら尋ねた。
「あのねぇ、この娘最近来たかな?」
途端に店員の顔が険しくなった。
「あんた何なん?」
言葉遣いの無礼さは大目に見る事として、ワタシは身分証を見せながら告げた。
「ワタシ、探偵のジョー。仕事でこの娘探してんの」
「へぇ〜、探偵って本当に居るんだ、コナン君や金田一とは全然違うじゃん」
そりゃそうだ、漫画と一緒にするな。
ワタシは咳払いをひとつ入れてから、改めて質問した。
「で、どうなの?」
「あ〜、そう言えばここんとこ来てないかも。来れば必ず何かしら買ってくれるから、良いお客さんなのよね〜」
やはり、筋金入りのピンク好きらしいな、MOMOちゃん。
「この娘、来る時はひとり? それとも誰か連れが居たりした?」
ワタシが更に質問すると、店員は少し考えてから答えた。
「えっと、ひとりが多かったと思うけど、たま〜にムサいオッサンが後ろにくっついてたっけ」
ムサいオッサンか、多分あのジャーマネだろう。
ワタシは店員に礼を述べると、足早に下りエスカレーターへ向かった。正直、ピンク色を浴び過ぎて軽く目眩がしていた。
《続く》
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