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鳳凰落とし #21

 己の中に湧いた大鳥に関する仮説を検証する為、嶋野は衣服を改めてハットを被り、ガバメントを押し入れに隠して襖を閉めた。先程まで着ていた服のポケットから車の鍵を取り出し、ジャケットを羽織って部屋を出た。
 クラウンで再び経堂のホームセンターへ赴いた嶋野は、工具のコーナーでチェーンカッターを見つけて手に取り、小さめのダンボール箱とガムテープ、梱包用の緩衝材と一緒に購入して店を出た。
 等々力駅付近のコインパーキングにクラウンを停めると、近くのコンビニエンスストアに入って雑誌を適当に二、三冊抜き出し、夕食用の弁当と一緒に買い物カゴに入れ、会計時に宅配便の送り状を一通貰って自宅に戻った。早速購入したダンボール箱を組んで底をガムテープで止め、中に雑誌を放り込んで周囲を緩衝材で埋めて蓋をし、記憶していた早月の住所を送り状に書きつけ、夜間に時間指定して貼り付けた。差出人は菅原の名前を借用し、住所はデタラメに書いた。チェーンカッターは一旦押し入れにしまい、箱を抱えて再び部屋を出た。
 先程利用した店とは別のコンビニエンスストアに入り、発送手続きを済ませて自宅に戻ると、床に座り込んで弁当を掻き込んだ。押し入れからブランデーの瓶を取り出してラッパ飲みし、胃の腑が満たされた所で煙草を一本吸い、そのまま横になると被っていたハットを顔の上に乗せて眠りに就いた。

 目を覚ました嶋野が時間を確認すると、既に午後一時近かった。鼻を鳴らした嶋野は、押し入れから数枚の一万円札を掴み出してジャケットの内ポケットにねじ込み、ズボンを下ろして左の内股に特殊ナイフをテープで固定して再びズボンを履き、腰にサイレンサー付きのガバメントを挟むとチェーンカッターを取って襖を閉めた。ハットを被り直して煙草に火を点け、主流煙を吐き散らしながら部屋を出た。
 クラウンをコインパーキングから出した嶋野は、まず車首を『鳳凰教』本部に向けた。念の為に回り道をして反対車線に路上駐車し、一旦車を降りて近くのコンビニエンスストアでパンと缶コーヒーを購入して車に戻った。本部の出入口を観察しながらパンを齧り、コーヒーで胃に流し込む。
 午後三時を過ぎて、講堂の方から大勢の信者が出て来た。出入口前に横付けされたマイクロバスに乗り込む者も居れば、そのまま徒歩で正門を出る者も居た。恐らく大鳥の講話が終わったのであろう。嶋野は煙草を吸いながら観察を続けた。

 嶋野が十本以上の煙草を灰にした頃、正門から黒塗りのメルセデスが三台連なって出て来た。嶋野はエンジンをかけ、メルセデス一個小隊が横を通り過ぎるのを待ってからゆっくりとアクセルを踏んだ。
 メルセデスがお馴染みのルートで大鳥の邸宅に差し掛かった所で嶋野はクラウンを停め、ハザードランプを点灯させてハンドルに添えた手の甲に顎を乗せた。煙草に手を伸ばしたが、生憎箱の中は空だった。煙草を補充したい衝動を堪えて、嶋野はひたすら待った。
 十数分経って、やっと早月が姿を現した。嶋野はハザードランプを消して車を出し、俯き加減で歩く早月を追い越した。腕時計は午後五時三十分を示していた。

《続く》



 

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