グリーンスワン(2021年7月号)

※本記事はIDCJ SDGs室がこれまでのメールマガジンで取り上げた特集です。掲載内容はメールマガジン発行当時の状況に基づきます。

世の中ではESG投資という言葉がさかんに聞かれるようになりました。
今回は、今年金融機関に入社し投資部門に配属されたAさんとB投資部長のESG投資に関する会話です。

Aさん)最近新聞で、2021年の世界のESG社債発行は2020年1月から6月対比で、3.4倍になったという記事を読みました。

B部長)急速に発行が伸びているね。このような急激な動きをみるとリーマンショックの時を思い出すな。

Aさん)リーマンショックってなんですか?

B部長)あれは2008年ごろの話で、世界中にブラックスワンが出現したんだ。

Aさん)ブラックスワン?黒い白鳥ですか。私はまだ10歳にもなっていない頃の話で、よく知らないので教えてください。

B部長)2008年ごろ、米国の住宅ローンを専門とする銀行が、住宅ローンを担保とする債券を発行したんだ。この金融商品はその格付けに対して比較的金利が高く、サブプライムモーゲージバックドセキュリティ(MBS)と呼ばれた人気の投資商品となり、世界的な大手金融機関を含めた投資家が大量に投資をしたんだ。
 当時、サブプライムMBSという商品が持つ信用リスクを投資家が正確に理解せず、格付を鵜呑みにして購入したんだ。景気が悪くなりMBSの価格が暴落し始めると、バーゼル(Bank for International Settlements(BIS))規制で求められている銀行の自己資本比率が急激に低下し、それにより銀行の貸し渋りが発生、そして世界的な大手金融機関であったリーマンブラザーズが巨額の損失を計上して倒産し、ドミノ倒しのように世界中の景気が悪化したんだ。
 この時生まれた言葉が「ブラックスワン」。これは市場において予測できず、発生した場合の影響が巨大な事象のことを言うんだ。その時から、中央銀行や金融当局は次のブラックスワンの候補を探し、見つけてはつぶすことをやっているんだ。

Aさん)ESG債も、多くの投資家が購入していますよね。なにかあれば、金融市場に与えるリスクが大きいのではないですか?

B部長)そうなんだ。そして、今回のリスクは「グリーンスワン」と言われているよ。

Aさん)え、今度は緑色の白鳥ですか?

B部長)グリーンスワンとはBISが2020年1月に発効したレポートの題名で、気候変動のことを指している。そのレポートでは、徐々気温上昇が発生した場合、異常気象が発生した場合の2つに分け、それぞれについて、需要面(投資、消費、物流)と供給面(労働力、エネルギー・食糧他、社会資本、技術)からその影響を分析しているんだ。
 例えば、異常気象発生時は、需要面では投資は気候変動リスクにより不安定になり、消費は住宅地への洪水リスクが高まることで減少、物流は異常気象で輸入や輸出の流れが分断され流れが詰まると分析している。
 一方、供給面では労働力は自然災害で減少し、その地から避難するため十分な労働力は確保できず食料が不足し、社会資本は非常に大きなダメージを受け、技術はイノベーションに使うことができず、社会資本の再構築や修繕のために使われるようになると分析し、止めることができないシステミックリスクが現れると分析している。
 そして、レポートの中で「central banks alone cannot mitigate climate change.」と気候変動リスクによるシステミックリスクについて、中央銀銀行だけでは無力であると述べているんだ。

Aさん)そうなんですね。みんなで正しいESG投資をして、グリーンスワンが現れない社会を作る必要があるのですね。

B部長)でも注意が必要だよ。仮にESGのために使うといわれた資金がESGのために使われなかったとすると、現れた緑の白鳥はあっという間に黒い白鳥に変わり、世界中に悪影響が伝播していく。そうならないように非財務情報開示のルールを勉強し、サステナビリティレポートを読める知識を身に着け、ESG投資が適切に行われているか自分事として見ていくことが大切だ。

Aさん)非財務情報開示のルールについて、勉強してみます。部長ありがとうございます。

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