ISO26000について(2)

 ISO 26000は、2010年に国際標準化機構(ISO)により作成された、組織の社会的責任に関する手引書です。全部で七つの章(原文では箇条)と附属書から構成されています。前回の投稿「ISO26000について(1)」ではその意義、内容、構成について解説しました。今回はその骨幹である「6. 社会的責任の中核主題に関する手引き」の構成と内容についてご紹介します。

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 社会的責任の中核主題として提示されているのは、「組織統治」、「人権」、「労働慣行」、「環境」、「公正な事業慣行」、「消費者課題」、「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」の七つです。第一の組織統治を除いて、他の主題には複数の「課題」が添付されており、各主題が示す内容を理解するのに役立ちます。中核主題ごとに、その範囲、社会的責任との関係、原則及び考慮点、行動と期待について説明されています。

<組織統治>
 組織統治(organizational governance)とは、組織が目的を追求する上で、決定を下し、実施するときに従うシステムであると示されます。組織の内部で社会的責任に関する行動を推進し、組織の事業やビジネス関係に統合するためには、組織統治は最も決定的な要素となります。これに関連する行動や期待には、例えば以下が提示されています。

 ・社会的責任への自らのコミットメントを表す戦略、目的及び目標を作り上げる。
 ・リーダーシップのコミットメント及び説明責任を表明する。
 ・社会的責任に関するパフォーマンスに対して、金銭的及び非金銭的なインセンティブのシステムを創設する。
 ・組織の社会的責任に関する活動に、あらゆるレベルの従業員の効果的な参加を奨励する。

<人権>
 人権とは全ての人に与えられた基本的権利であり、市民的・政治的権利に関するものと、経済的・社会的・文化的権利に関するものの二つに分かれます。国家には人権を尊重し、保護し、満たす義務と権利がありますが、組織も自らの影響する範囲内で人権を尊重する責任を負う必要があります。中核主題としての人権には、以下の八つの課題が提示されています。

 それらは
「1.デューディリジェンス」、「2.人権に関する危機的状況」、
「3.加担(complicity)の回避」、「4.苦情解決」、
「5.差別及び社会的弱者」、「6.市民的及び政治的権利」、
「7.経済的、社会的及び文化的権利」、
「8.労働における基本的原則及び権利」
の八つです。

 この中で「1.デューディリジェンス」は、組織が人権尊重の責任を果たすために必要なものであり、組織の活動が人権にどのように影響するかを評価するための手段、さらに長期にわたりパフォーマンスを追跡するための手段等が求められます。
 
 「3.加担の回避」とは、事業のパートナーに違法行為があると把握された場合に、これを黙認することなく、当該行為を停止するよう対処することを指します。具体的には、こうしたパートナーに対して、物品やサービスを提供しない、あるいは契約関係を取り結ばないといった対応が含まれます。

 「4.苦情解決」とは、人権が侵害されたと考える人々が、これを組織に知らせ救済措置を求めるための仕組みを確立することです。こうした仕組みは、合法的で、利用しやすく、手続き等が予測可能であり、公平で、明確かつ透明である必要があります。

<労働慣行>
 
労働慣行には労働に関連するすべての方針や慣行が含まれます。例えば、労働者の採用及び昇進、懲戒及び苦情対応制度、配置転換、訓練、労働安全衛生、団体交渉などが該当します。これには以下の五つの課題が示されています。

 それらは
「1.雇用及び雇用関係」、「2.労働条件及び社会的保護」、「3.社会対話」、「4.労働における安全衛生」、「5.職場における人材育成及び訓練」
の五つです。

 この中で「2.労働条件及び社会的保護」に関して、組織は全ての労働者に仕事と生活とのバランスがとれる労働条件を与える必要があります。また、同一価値の労働に対して同一の賃金を支払うことも求められます。

 「3.社会対話」とは雇用者と労働者代表者との間の団体交渉などを含むものであり、参加する労働者の権利が尊重されなければなりません。

<環境>
 組織が行う決定や活動が、天然資源の枯渇、汚染、気候変動、生息地の破壊、種の減少、生態系全体の崩壊、人間居住の悪化などの面で、環境に影響を与えることがあります。組織には、こうした環境への影響を軽減するための統合的な取り組みが求められます。環境に関しては、以下の四つの課題が設定されています。

 それらは
「1.汚染の予防」、「2.持続可能な資源の利用」、
「3.気候変動の緩和及び気候変動への適応」、
「4.環境保護,生物多様性,及び自然生息地の回復」
の四つです。

 この中で「3.気候変動の緩和及び気候変動への適応」に関しては、気候変動の緩和に資する行動と、気候変動への適応に向けての行動の二つが示されます。前者では、GHGの排出源の特定やその削減が求められます。一方、後者には、気候変動に関する損害の回避や脆弱性の低下につながる行動が含まれます。

<公正な事業慣行>
 組織が他の組織と取引を行う上での倫理的な行動に関する事項が含まれます。組織が合法的かつ生産的な関係を維持するためには、倫理的に正しく行動することが不可欠です。以下の五つの課題が設定されています。

 それらは
「1.汚職防止」、「2.責任ある政治的関与」、「3.公正な競争」、
「4.バリューチェーンにおける社会的責任の推進」、「5.財産権の尊重」
の五つです。

 この中で「2.責任ある政治的関与」では、ロビー活動や政治献金等を通じて、政治プロセスに関与する場合の在り方が示されています。

 「4.バリューチェーンにおける社会的責任の推進」では、自らの調達方針や慣行に倫理的、社会的、環境的基準などを含めることなどが求められます。

<消費者課題>
 製品及びサービスを顧客に提供する場合の組織の責任について論じられます。消費者への情報提供、公正なマーケティング、顧客情報の保護など様々な側面から、組織と消費者との関係のあるべき姿が示されます。具体的には、以下の七つの課題が設定されています。

 それらは
「1.公正なマーケティング,事実に即した偏りのない情報,及び公正な契約慣行」、「2.消費者の安全衛生の保護」、「3.持続可能な消費」、
「4.消費者に対するサービス,支援,並びに苦情及び紛争の解決」、
「5.消費者データ保護及びプライバシー」、
「6.必要不可欠なサービスへのアクセス」、「7.教育及び意識向上」
の七つです。

 この中で、「3.持続可能な消費」はSDGsのゴール12に関わるものです。現在の消費速度は持続不可能な状況であり、環境破壊及び資源枯渇を助長しています。組織は消費者に社会的、環境的に有益な製品やサービスを提供し、持続可能な開発に貢献することが求められます。

<コミュニティへの参画及びコミュニティの発展>
 コミュニティとは、組織の所在地に近接する住民集落等を指します。組織がコミュニティに参画すること、その発展に資することは、持続可能な発展の実現に不可欠な要素になります。具体的な課題として以下の七つが設定されています。

 それらは
「1.コミュニティへの参画」、「2.教育及び文化」、
「3.雇用創出及び技能開発」、「4.技術の開発及び技術へのアクセス」、
「5.富及び所得の創出」、「6.健康」、「7.社会的投資」
の七つです。

 この中で、「1.コミュニティへの参画」では、地域でのステークホルダーとの協調関係を強化するためにも、地域コミュニティに率先して働きかけを行うことが求められます。

 「5.富及び所得の創出」は、組織の活動の地域経済への貢献に関する課題であり、可能な限り地元の業者を優先すること、地元の業者の育成に貢献することが期待されます。

 「7.社会的投資」とは、コミュニティの生活を改善するための投資を指します。慈善活動を排除するものではありませんが、長期的に持続可能となるような設計が求められます。

 ISO26000に示されるステップに従うと、これらの七つの中核主題ごとに原則を理解し、課題を特定し、実践すべき行動を確認した後は、「7.組織全体に社会的責任を統合するための手引き」を参照して、組織の活動への社会的責任の統合が目指されます。そして、こうした組織の社会的責任への取組を内外のステークホルダー向けにコミュニケーションします。その結果、持続可能な発展への組織の貢献が最大化されることになります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9月は全2回に渡り、「ISO26000ついて」をお届けしました。

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