ISO26000について(1)

 ISOとはジュネーブに本部を置く国際標準化機構(International Organization for Standardization)の略称です。日本ではISO9001(品質マネジメントシステム)や、ISO14001(環境マネジメントシステム)といったISO規格で知られています。このISOが2010年11月に、企業を含む組織の社会的責任のガイダンス規格であるISO26000を作成しました。その意義、内容、構成、使い方などについて、二回にわけて解説します。

ISOの公用語は英語、フランス語、ロシア語であり、ISO26000も日本語版は作成されていません。しかし、2011年に日本規格協会により日本語訳が刊行されているので、本稿での原文の引用はこの日本語訳での表記に従いました。

『ISO26000:2020 社会的責任に関する手引き』2011年、ISO/SR国内委員会監修、日本規格協会編

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ISO26000の意義>
 SDGs(持続可能な開発目標)の登場をきっかけに、ビジネスの持続性と社会や環境の持続性は強く関連していると理解されるようになりました。社会や環境の持続性に資するビジネスは持続的な成長が期待されますが、社会や環境の持続性に逆行するようなビジネスは持続できず、いずれは排除されていきます。ISO26000は、SDGsが登場する5年前に、ビジネスの持続性と社会的責任との関係に焦点をあてて、企業の行動指針を示したガイダンスです。

 近年になり、ビジネスの持続性に関して新しいフレームワークやガイドライン等が続々と発表され、国際的に注目を集めています。そのためかISO26000が報告書等の中で参照される場面もここ数年で少なくなっているように見えます。ISO26000が発行されたのは10年以上前ですが、そのには、ビジネスと人権、気候変動、持続可能な消費など、今日でも重要課題として認識されているものが含まれています。民間ビジネスの視点で、こうした課題を包括的に整理しているこの手引の役割は大きく、依然として大きな価値があると思われます。

<位置づけ>
 ISO 26000は、社会的責任を⾃⾝の組織⽂化に取り入れるための自主的な手引きという位置づけです。要求事項は含みません。したがって、ISO 26000は、ISO 9001やISO 14001のように認証規格に用いるためのものではありません。

 また、ISO 26000は企業だけに限定されず、あらゆる組織によって使われることが想定されています。そのため「企業の」社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)ではなく、様々な組織にも適用される社会的責任(SR:Social Responsibility)に関する手引書になっています。

<作成された経緯>
 この規格は、2001年のISO理事会において、ISO消費者政策委員会に企業の社会的責任(CSR)規格の開発を要請したことがきっかけです。当時、世界でCSRへの関心が高まり、様々なガイドラインや行動規範、イニシアティブ、ツールなどが国際機関、NGO、経済団体などにより公表されていました。ここでは、人権尊重、労働慣行、ビジネス倫理、汚職撲滅、持続可能な農林水産業、気候変動など様々な分野や課題について、企業の社会的責任が問われていました。

 多くのガイドライン等が並立している状況はわかりにくく、世界の企業に共通の認識を求めることが困難でした。既存のガイドライン等を整理し、国際的な統一基準を作成することが求められました。そこで、ISOが中⼼となり、国連、ILO(国際労働機関)、各国政府、産業界、NGO/NPOなど多様な⽴場の⼈が関わり、ISO26000が開発されました。

<目的と利点>
 
ISO 26000は事業の持続性を確保するための課題を整理し、とるべき行動を具体的に示すことを意図しています。組織にとって持続的な事業とは、社会的に責任のある方法で運営されるものを意味します。顧客、消費者、政府、団体、投資家、金融機関等は、昨今、組織の社会的責任について強く認識するようになっています。ISO26000では、そもそも社会的責任とは何か、社会的に責任のある方法で事業を運営するためには組織は何をすべきかが示されています。

 ISO26000本文の「2.用語及び定義」では社会的責任について次のように定義されています。
 ・健康及び社会の繁栄を含む持続可能な発展に貢献する。
 ・ステークホルダーの期待に配慮する。
 ・関連法令を順守し、国際行動規範と整合している。
 ・その組織全体に統合され、その組織の関係の中で実践される。

 この定義を見ても、組織の社会的責任が、後日SDGsとして整理される持続可能な発展と強く関係していることがわかります。

 組織がISO26000の推奨にしたがって活動を行うメリットは何なのでしょうか。事業の持続性を確保するということが究極的な目的ですが、これに資するものとして、ISO26000の「序文」の中で具体的に次のような利点が示されています。
 ・競争上の優位性
 ・評判
 ・労働者若しくは構成員、顧客、取引先又は使用者を引き付け、とどめておく能力
 ・従業員のモラル,コミットメント及び生産性の維持
 ・投資家、所有者、資金寄与者、スポンサー及び金融界の見解 
 ・会社、政府、メディア、供給業者、同業者、顧客及び組織が活動するコミュニティとの関係

 組織が社会的責任を重視した行動を取れば、こうしたメリットが生まれ、事業の持続性の確保につながるという考え方です。

<構成と内容>
 ISO26000の目次構成は次のとおりです。
  1.適用範囲
  2.用語及び定義
  3.社会的責任の理解
  4.社会的責任の原則
  5.社会的責任の認識及びステークホルダーエンゲージメント
  6.社会的責任の中核主題に関する手引き
  7.組織全体に社会的責任を統合するための手引き
 
 この中で、全体の約半分のページ数を用いて解説しているのが、「6. 社会的責任の中核主題に関する手引き」になります。中核主題として「組織統治」、「人権」、「労働慣行」、「環境」、「公正な事業慣行」、「消費者課題」、「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」の7つを設定し、関連する課題について説明しています。さらに組織が具体的にとるべき行動を示しています。

 ISO26000の実施のステップとしては、まず「3.社会的責任の理解」で、社会的責任の歴史的背景や最近の動向、持続可能な開発との関係について把握します。続いて、「4.社会的責任の原則」で説明している七つの原則(説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重)を確認します。さらに「5.社会的責任の認識及びステークホルダーエンゲージメント」を参照しながら、組織にとってのステークホルダーを特定し、これとのエンゲージメントの意義や形態を理解します。

 ここまでのステップを経た上で「6. 社会的責任の中核主題に関する手引き」に従って、七つの中核主題ごとに原則を理解し、課題を特定し、実践すべき行動を確認します。この作業を経た後は「7.組織全体に社会的責任を統合するための手引き」を参照して、組織の活動への社会的責任の統合を目指します。さらに組織の社会的責任への取組を内外のステークホルダー向けにコミュニケーションすることになります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ISO26000の骨幹は、やはり「6. 社会的責任の中核主題に関する手引き」であり、次回はこの部分について構成と内容を解説します。

**********************************

IDCJ SDGs室では、毎月発行しているメールマガジンにて、SDGsの基礎からトレンドまで最新情報を配信しております。メールマガジン登録ご希望の方は、以下よりご登録ください。購読は無料です。

https://www.idcj.jp/sdgs/mailmagazine/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?