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サステナビリティの意味

 今回からサステナビリティ・レポーティングの基礎編をお届けします。第1回は「サステナビリティ」という概念について、あらためてご説明します。

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持続可能な開発目標(SDGs)が2015年に国連総会で合意されてから、持続可能性やサステナビリティいう用語が日常的に使われるようになっています。日本企業の中にも、自社のサステナビリティへの取り組みを、報告書やウェブサイト上で取りまとめる企業が増えています。このサステナビリティという用語で使われるサステナブルという言葉はどういう意味なのでしょうか[注釈1]。持続可能になるとは何を指しているでしょうか。持続可能とかサステナブルとはそもそもどうサステナブルかについて考えてみます。

このサステナブルという言葉が国際社会で初めて注目を集めたのは、40年近く前になります。1984年に国連に「環境と開発に関する世界委員会」[注釈2]が設置され、1987年に同委員会から「Our Common Future(邦題:我ら共有の未来)」[注釈3]という報告書が提出されました。その中で、初めて「持続可能な開発」という概念が紹介されました。その意味は、「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たすこと」と示されています[注釈4]。

ここでのポイントは、「将来世代のニーズ」に焦点が向けられていることです。「現代の世代のニーズ」が充足されるかどうかは問われていません。地球温暖化や環境汚染、食料危機、国際紛争など、現代の我々の生活にも課題が山積しています。どの課題も深刻ですが、我々が生きている数十年の間には、人類の存亡に繋がるような危機的な状況に陥るまでには至らないかもしれません。

しかし、我々に続く将来の世代にとってはどうでしょう。このままですと、異常気象、食料不足、社会格差、暴動、戦乱といった問題が頻発し、将来の世代は厳しい生活を強いられるかもしれません。「将来の世代のニーズ」が損なわれることになりえます。こうした事態を将来にまねかないように、現代の開発を適切な姿に変えようというのが、「持続可能な開発」の意味になります。

将来の持続性への懸念といっても、具体的に何が問題視されているのでしょうか。経済、社会、環境の三分野から整理します。まず経済面では資源の枯渇が危惧されます。世界の人口はここ数十年で急激に増加しています。1950年に25億人だった世界人口は、現在は75億人まで増加しています。2050年には100億人に達すると想定されています。1950年から2050年までの100年間で世界人口が4倍に増えることになります。それだけの多くの人の生活を支えるための資源が地球にあるのでしょうか。大量の資源を消費する形の開発は抑制される必要があります。

次は社会面の懸念です。世界人口の増加とともに、貧富の格差が年々拡大してきています。2000年代に入りアジア、アフリカ、南アメリカの国々の発展は目覚ましく、特にBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)といわれる五か国の成長は注目されています。しかし、こうした国々の内側を見ると、経済成長で大きな富をえた人々と、それから取り残されている人々との格差が広がっています。これは先進国も同様であり、日本における所得格差の拡大、貧困層の増加は大きな問題になっています。格差の拡大を放置すると、社会の不安定化を招くのは必至です。暴動、紛争、戦乱が日常化する社会とならないために、格差と貧困を是正するための行動が必要です。

最後は環境面の懸念です。地球温暖化は既に我々の生活に目に見える影響を及ぼしています。例年のように「気象庁観測史上初の」豪雨、暴風、水害、豪雪が日本を襲うようになりました。温暖化により野菜の生産地が変わった、漁獲量が減ったといった状況も報道されています。さらに海洋汚染の問題も深刻化しています。現在、大量のプラスチックごみが海洋に投棄されており、2050年になると海洋のプラスチックゴミの総重量が、魚の総重量を超えるという試算があります[注釈5]。将来の世代の生活のためにも、こうした環境面の課題に取り組む必要があります。

このように、現在の我々の世界は経済面、社会面、環境面において深刻な課題を抱えています。これらを放置すると将来の世代のニーズを損なうことになってしまいかねません。そうならないように現在の開発を適切な形に変えようというのが持続可能、サステナブルな開発の意味になります。

[注釈1] 英語のsustainableのカタカナ表記はサステナブル、サステイナブル、サスティナブルと様々ですが、本書ではサステナブルに統一します。
[注釈2] 同委員会の委員長である元ノルウェー首相のグロ・ハーレム・ブルントラント氏の名前から「ブルントラント委員会」といわれます。
[注釈3] https://www.env.go.jp/council/21kankyo-k/y210-02/ref_04.pdf
[注釈4] “The development that meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs.”
[注釈5] World Economic Forum (2016), The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics.

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次回は「サステナビリティ・レポートについて」をお届けします。 

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