カーボンリサイクル 炭素資源活用の動き(2020年11月号)

※本記事はIDCJ SDGs室がこれまでのメールマガジンで取り上げた特集です。掲載内容はメールマガジン発行当時の状況に基づきます。

10月26日に召集された第203臨時国会で菅首相が行った「温室効果ガス排出量の実質ゼロを2050年までに実現することで経済成長を目指す」所信表明は温暖化対策を成長の制約と捉えるのではなく、産業構造の変革などで「大きな成長につなげる」バネとする発想の転換はコロナ禍で暗いニュースの多い中、多くの国民の共感を得たと思います。

さて今年7月のメルマガでSDGsゴール7とゴール13に関係の深い石炭火力発電のお話をしました。政府が二酸化炭素(CO2)排出量の多い非効率な石炭火力発電所の9割弱を休廃止の対象とする方針を固め日本国内にある140基の石炭火力発電所のうち114基ある非効率発電所から100基程度を2030年度までに段階的に休廃止する方向であると書きました。これらの石炭火力発電所休廃止の動きはCO2 排出量をその源から抑える緩和策の一つです。

最近、排出を源から抑える動きと並行する他の緩和策の一つとしてCO2を回収し、燃料や化学品に活用する「カーボンリサイクル」技術に世界の注目が集まっています。簡単に言えば廃棄物の3R(reduce, reuse, recycle)と同様にリサイクルにより炭素資源として活用しようというものです。前述の石炭火力発電の休廃止の動きは3Rのリデュース(削減)にあたります。

今年10月に入り「CO2再利用 日米連携」(読売)、「日米 CO2再利用で協力 技術情報共有や専門家派遣」(日経)、「CO2再利用で日米連携 両政府が覚書署名へ」(サンケイ)などと「カーボンリサイクル」技術に関連する報道が相次ぎました。

「カーボンリサイクル」技術は排出されたCO2 を資源として再利用し地球上のCO2量の伸びを抑制するというもので日米を含む22の国と地域が「カーボンリサイクル」技術実用化に向けて各国の政府や企業が連携して技術開発を進めることで一致しています。CO2を炭素資源(カーボン)として回収し、多様な炭素化合物として再利用(リサイクル)することで大気中に放出されるCO2の削減が図れるため、気候変動問題の一つの原因の緩和に貢献し新たな資源の安定的な供給源の確保につなげるというものです。これは環境と成長の好循環の実現に有効なイノベーションとなる可能性の高い技術です。火力発電所などで発生する排ガスからCO2を分離回収しコンクリートに混ぜて硬化させたり、微生物と混合してジェット燃料に転用したりする資源リサイクル技術なども研究されていますが、まだ研究開発段階のものも多く、生産コストが普及の障壁となっているとも言われています。実用化に向けて民間企業の資金力に併せて政府の支援や、コスト削減に向けた各国連携の研究開発が必要とされています。

CO2発生源の削減方法としては政府が主導する石炭火力発電所休廃止の動きなど発生源の経済活動を抑制する動きや、投資家側の化石燃料や石炭関連の事業への投融資から撤退する(ダイベストメント)といった動きがあります。

菅首相の所信表明に示されたピンチをチャンスに変える発想がカーボンリサイクルを加速し、SDGs Goal 7や13の達成に向けた今後の「ESG投資」の動きにもプラスのインパクトを与えていくと思われます。

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