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アメリカにおける離婚後の共同監護の増加

 この記事は、「DEMOGRAPHIC RESEARCH誌」に掲載された、Daniel R. Meyer、 Marcia J. Carlson、Moshi Ul Alam氏の「Increases in shared custody after divorce in the United States」を翻訳したものです。
 論文でに記載された統計手法が私にはレベルが高すぎ、私なりに最善を尽くしましたが、正しく翻訳できていない部分があると思います。その点は、ご容赦下さい。

人口統計学研究
第46巻 第38号 1137~1162ページ
2022年6月22日発行
DOI: 10.4054/DemRes.2022.46.38

研究論文

アメリカにおける離婚後の共同監護の増加

ダニエル・R・マイヤー
マーシャ・J・カールソン
モシ・ウル・アラム医学博士

© 2022 Daniel R. Meyer, Marcia J. Carlson & Md Moshi Ul Alam.

このオープンアクセス作品は、Creative Commons Attribution 3.0 Germany (CC BY 3.0 DE) の条件の下で公開されており、原著者と出典に謝意を表することを条件に、あらゆる媒体での使用、複製、配布を許可しています。
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目次

1  背景                           1138
2  共同監護と先行研究                    1139
2.1 共同身上監護のレベル                    1140
2.2 共同身上監護の予測因子                   1141
3  データ、測定、および方法                 1143
3.1 データ                           1143
3.2 サンプル                          1144
3.3 測定方法                          1146
3.4 分析                            1146
3.5 ロバストネス(頑健性)チェック               1147
4  結果                           1147
5  考察                           1154
6  謝辞                           1157
参考文献                             1158

人口統計学研究:第46巻第38号
研究論文

アメリカにおける離婚後の共同監護の増加
ダニエル・R・マイヤー¹
マーシャ・J・カールソン²
モシ・ウル・アラム医学博士³

概要

背景
 離婚後の共同身上監護が、ウィスコンシン州やヨーロッパの幾つかの国で顕著に増加している一方で、それらと同じ共同監護割合の増加傾向をアメリカの全国データが示していない。
目的
 アメリカにおける離婚後の共同身上監護の時間的傾向について新たな証拠を提供する。
方法
 CPS-CSSからの8つのデータ波を使用して、ロジットモデルを推定し、正式な分解を行う。
結果
 アメリカでは,1985年以前から2010~2014年の間,離婚後に共同身上監護を得る割合が13%から34%へと2倍以上に増加した。非線形確率(ロジット)モデルは,非ヒスパニック系白人やより恵まれた人々が共同身上監護を報告する割合が高いことを示している。逐次多変量モデルとより正式な分解により,この増加は離婚する人の特性の変化では説明できず,寧ろ幾つかの特性が時間の経過とともに共同身上監護とより強く関連するようになることが明らかになった。
結論
 この結果は、アメリカでは全体として共同身上監護が増加していることを示唆しており、この増加は、共同監護を支持する規範や政策の変化を反映しているようである。このような変化するパターンは、子どもの生活環境や、両親の離婚後に子どもが受ける親の投資、更にはここ数十年における家族間の不平等の拡大に対して重要な意味を持っている。
成果
 本論文は、アメリカの1つの州(ウィスコンシン州)の裁判記録データを用いた先行分析を補完し、離婚後の共同身上監護が過去30年間にアメリカ全体で大幅に増加したことを示す。

1.背景

 現在の推定では、結婚して生まれたアメリカの子どもの3分1は、15歳になる前に両親の離婚を経験する(アンダーソン、トムソン、ダンタバ 2017)。離婚は法的なプロセスであるため、離婚が起こると、子どもの世話と責任は、法的な合意によって両方の親の間で分割される。通常、この法的合意には、子どもがどちらの親と一緒に住むか(身上監護権)、主要な決定についてどちらの親が責任を持つか(法的監護権)が明記されている。少なくとも1800年代後半以降、アメリカでは父親よりも母親の方が単独身上監護を持つ傾向が強かったが(ビューラーとジェラルド 1995)、少なくとも一部の地域では、その傾向が変わりつつあるようだ。マイヤー、カンシアン、クック(2017)は、詳細な裁判記録データを用いて、米国のある州(ウィスコンシン州)では、1988年から2010年の間に、離婚後に身上監権を共有する親の割合が劇的に増加し、単独監護権を有する母親の割合が減少(単独監護権を有する父親の割合は変わらず)していることを明らかにした。2010年のウィスコンシン州の離婚では、全体の50%が監護権を共有していた(均等共有35%、不均等共有15%)のに対し、1989年の離婚では12%(均等共有5%、不均等共有7%)にとどまっていたことがわかった。この劇的な増加は、離婚する人の特性の変化によるものではなく、監護権決定をめぐる規範やプロセスの変化によるものであると思われる(カンジアンら 2014)。
 アメリカのこの1つの州(ウィスコンシン州)における離婚後の共同監護の増加は目覚ましいものであり、一部のヨーロッパ諸国でも共同監護の割合が高く、更に上昇している(ジリンシコバ 2021)一方、アメリカの全国データは、共同監護の割合が同程度で記録されていない。これは、国レベルで共同身上監護の分析を促進するデータ資源が限られていることが主な理由である。私たちの知る限り、2年ごとに実施されるCPS-CSSが、この情報を含む唯一の全国代表的なデータセットであり、共同身上監護自体の動向はまだ分析されていなかった。国勢調査局が発表する隔年報告書には、この養育費から得られた主要な知見がまとめられているが(直近ではグラル 2020)、身上監護は法的監護と区別されていない。従って、グラル(2020)は、2001年の23%と比較して、2017年には全監護親の25%が裁判所命令の「身上監護または法的監護」であると報告したことを発見したが、この僅かな増加が法的共同親監護なのか、共同(共有)身上監護なのか、またはその両方であるかは不明であった。共同身上監護の普及が時間とともに増加しているのか、また、それに関連しうる要因を理解するには、CPS-CSSのマイクロデータについて詳細な分析が必要であり、私たちの論文はそのような最初の推定を提供するものであると考えている。
 親の別離や離婚後に共同子育てが充実し、父親の関与が高まると、多くの領域で子どもや青年のアウトカムが向上すると言われているため、子どもが両方の親と暮らす時間を共有する割合が高いかどうかは重要なテーマである(例えば、:アマト 1994;カールソン 2006;ジェイネス 2015;トイベルトとピンカート 2010)。更に、40の研究を基にした最近のメタ分析では、共同監護は、父親との親密な関係は勿論、子どものより良い社会感情的、心理的、身体的ウェルビーイングに関連することが示唆されており(ニールセン 2014)、スウェーデンの最近の研究では、共同監護の取決めで暮らす子どもは体験するストレスレベルが低いことを示唆している(トゥルネン 2017)。本論文では、アメリカの全国データを用いて、ここ数十年の共同監護のパターンと予測因子を調べることにより、離婚後の共同身上監護に関する文献を拡張することを目的とする。

2.共同監護と先行研究

 離婚協定には通常、法的監護権と身上監護権に関する規定を含んでおり、これらは親の一方だけに単独で与えられることもあれば、両方の親に一緒に与えられる(共同または共有)こともある。1988年までにアメリカの4分の3の州で共同法的監護がデフォルトとなり(メイスン、ファイン、カルノチャン 2001)、1990年代後半にはアメリカの離婚の約半数(セルツァー 1998)が、共同監護に関する研究が最も進んだウィスコンシン州では離婚の70%以上(チェン 2015)が共同法的監護を認められた。共同身上監護の取決めの変化は、その後に現れた。歴史的には、アメリカでは父親が法的監護権や身上監護権を持つことが多かったが、ヴィクトリア朝時代には、育児と家事における母親の特別な役割を強調する文化が広まり、母親がデフォルトとなった。1960年代にアメリカの離婚率が急激に上昇し、女性の労働力化が進むと、各州は離婚の際に子どもの共同身上監護を支持する法律を制定した。このような規定を最初に制定した州は1973年のインディアナ州であり、最後に制定したのは2003年のアーカンソー州である(ハラ 2013)⁴。確かに、共同身上監護に関連する法的選択肢が存在することは、その使用と普及に影響を与えると予想される。今日、監護者の決定は、親と子どもの状況を考慮し、子どもの安全とウェルビーイングを優先する「子の最善の利益」に基づいて行われるのが一般的である(児童福祉情報への道 2016)。監護権を設定する際に考慮すべき要素に関する法律は、同棲解消でも離婚と同じだが、アメリカでは、同棲親は関係解消後の法的権利が既婚親よりはるかに少ない(カッツ 2015)。

2.1 共同身上監護のレベル
 共同身上監護の普及に関し私たちが知っていることの多くは、特定の州、特にウィスコンシン州の研究によるものである。ウィスコンシン州では、UWマディソン大学の貧困研究所が離婚に関する詳細な裁判記録データを収集しており、その研究者がこれらのデータの分析に深くかかわっている⁵。1980年代初頭、離婚事例のうち、身上監護が均等に共有されたケースは僅か2%であった(セルツァー 1990)。この数字は、1990年代初頭には6%に増加し(カンシアンとマイヤー 1998)、その後20年の間に、均等な共同監護の割合は2010年には35%にまで劇的に増加した(マイヤー、カンシアン、クック 2017)。
 アメリカの全国データでは、CPS-CSSが公表した値によると、2017年に全監護親の約25%(養育費の取決めをしている監護親の31%)が裁判所命令の法的監護権または身上監護権の共有をしていたとされている(グラル 2020)。しかし、これらの割合は、4つの理由からウィスコンシン州のデータとは比較できない。第一に、上述したように、身上監護の取決めと法的監護の取決めとを分けていない。第二に、これらのデータは、離婚した親だけでなく、全ての監護親を対象としている。第三に、ウィスコンシン州のデータが最近の離婚コホートからの数字であるのに対し、これらのデータは長年にわたって別離した監護親の現在の「ストック」についての情報を提供している点である。最後に、ウィスコンシン州のデータの分析単位は離婚事件である(したがって、両方の親の情報が得られる)のに対し、アメリカ全国のデータの分析単位は監護親である(したがって、もう一方の親の情報は含まれない)。
 海外に目を転じると、先進工業国間で共同身上監護に顕著な差があり、北・中央ヨーロッパ諸国とカナダで普及率が高く、南・東ヨーロッパ諸国ではかなり低い(スタインバッハ、アウグスティヌス、コルカディ 2020;ジリンチコバ 2021)。その上、比較可能なデータは限られている。両親が揃っていない家庭の青少年による報告に基づく最近のある研究では、37カ国の両親が揃っていない家庭で均等共同身上監護を実践している割合は全体平均で6%、最も高いのはスウェーデン(21%)、以降は順番に、ベルギー(14%)、アイスランド(12%)、デンマーク(10%)、カナダ(10%)、一方で5%未満の国は3分の2を超えている(スラインバッハ、アウグスティヌス、コルカディ 2020)。ヨーロッパ9カ国の離婚と同棲解消を分析すると、共同監護の普及率は時代とともに大幅に上昇しているが、既婚と同棲の親に有意差はない(ジリンチコバ 2021)。

2.2 共同身上監護の予測因子
 共同監護に関する研究は、一般的に同棲を解消したカップルより、寧ろ離婚したカップルに焦点を当てている(但し、ジリンチコバ 2021を参照)。このことは、離婚が法的なプロセスであるため、一連の法律が適用されるのに対し、同棲解消は、例え子どもが関与していても、通常、法的措置を必要としないことを反映している面もある。アメリカでは、同棲中の親は既婚の親に比べ法的権利が殆どない(チャーリン 2020;カッツ 2015)。また、同棲解消に関する比較可能な行政記録は存在せず、同棲解消後の共同の取決めや子育てについて尋ねるアメリカの調査も殆ど存在しない。そのため、同棲解消後の正式な身上監護の取決めについては(少なくともアメリカでは)殆ど分かっていない⁶。ヨーロッパの研究では、同棲関係と婚姻関係の両方から離別したカップルを対象とすることもあり、前述のように、ジリンチコバ(2021)によるヨーロッパ9カ国にわたる最近の研究では、共同身上監護権の設定について婚姻カップルと同棲カップルに有意差はないことが判明している。
 離婚後、どの夫婦が共同監護を得るかは、離婚した人の特徴に左右されるかもしれない。結婚-離婚の前に必ず行うイベント-は、時代とともに選択的になり、高学歴者は低学歴者よりも結婚する割合が高くなっていることが分かっている(ベルティエンとハルコネン 2018)。これは、20世紀半ばからアメリカで観察された結婚における負の学歴勾配を逆転させたものである(トール 2011)。離婚はまた、時代とともに選択的になっている。例えば、高学歴の夫婦は一般的に夫婦関係の質が高く、また離婚に対する障壁(例えば、住宅の共有)も高いため、学歴は離婚の割合が低いことと関連している(ベルティエンとハルコネン 2018)。また、離婚は現在、高齢で起こっている(シュバイツァー 2020)。このような離婚をする人の特性の変化は、後述するように、共同監護の割合に影響を与える可能性がある。
 共同身上監護の受入れと選好は、そのような取決めを支援する公共政策と連動して発展してきた(ハラ 2013)。背景因子以上に、離婚後に共同身上監護を判断する割合は、夫婦レベルおよび個人レベルの要因に影響される。経済的な視点は、夫婦内の資源の相対的レベルと絶対的なレベルを強調する。離婚前にそれぞれが市場労働と家事労働とを担当していた夫婦は、離婚後に共同監護にする割合が高い。-これは、仕事の専門性に性差が少ない中で交渉力を反映している(即ち、離婚前に積極的に共同で子育てをしていた男性は、より強く共同監護を主張できる)、または夫婦が単に離婚前と離婚後の両方で共有子育てへの選好を行っている可能がある。また、所有している経済的リソースが全体的に高いほど共同監護の割合が高くなる。何故なら、この取決めでは、両方の親が子どもと暮らすのに十分な広さの家を所有することが必要だからである。高収入は共有監護の一貫した予測因子であることが示されている(カンシアンマイヤー 1998;カンシアンら 2014;ジュビー、ル・ブルデ、マーシル・グラットン 2005;キッターロッドとリングスタッド 2012;マイヤー、カンシアン、クック 2017)。また、高学歴の親ほど、共同子育てを重視し、父親の関与の度合いも高い(ジュビー、ル・ブルデ、マーシル・グラットン 2005)。このように、高学歴者ほど共有監護になる割合が高く、また、最終学歴は時間とともに(一般住民は勿論のこと、離婚する人においても)上昇していることから、共同監護の増加は、親の特性と共同監護の割合の関係の変化より寧ろ、単に離婚する人の特性の変化を反映しているに過ぎない可能性がある。同時に、社会経済的地位による家族経験の格差が拡大していることから、特定の特性(学歴など)が時とともに共有監護と強く結びついていると予想されるかもしれない(ランドバーグ、ポラック、スターンズ 2016;マクラナハン 2004)。
 親の過去の婚姻歴や出産歴も監護権の決定に影響を与える可能性があり、以前に出産を経験した親は共同監護にする割合がより低くなる(カンシアンら 2014;ガルシア・モラン 2018;キッターロッドとリングスタッド 2012)。また、子どもの特性や嗜好も重要かもしれない。年長の子どもや幼少期中期の子どもは、監護の取決めに関する決定に関与したいと思うことが多く、このような結果に影響を与えることが多い(バーマン 2018)。男の子や年長の子どもは父親と過ごす時間をより好むので共同監護になると予測し、子どもの年齢と性別が監護結果に大いに関係があると予想されるかもしれないが、最近の研究によれば、一貫した影響を殆ど与えていない(マイヤー、カンシアン、クック 2017)。
 本論文では,1985年以前から2010年~2014年までの離婚コホートを対象とした,1994年から2014年までの8回分の全国代表データを用いて,アメリカにおける共同身上監護のパターンと予測因子に関する新たな証拠を提供する。私たちは4つの研究課題に取り組んでいる。第一に、過去30年間の共同身上監護の全国的な時間による推移を評価する。第二に、共同監護の割合がより高いことを予測する個人特性を、特に離婚者の特性の変化によって時間的傾向を説明できるかどうかに焦点を当てて探索する。第三に、非線形ワハカ・ブラインダー分解分析を行い、全国的な(推定)共同身上監護の増加が、人口構成の変化によるものか、共同監護を予測する特性(例えば、教育)と共同監護を持つ割合の間の関連性の変化によるものか、より公式に評価する。最後に、アメリカ全国の傾向とウィスコンシン州の傾向が異なるかどうかを評価する。ウィスコンシン州は、共同身上監護の顕著な上昇を記録した研究が最も多い州である。

3.データ、測定、および方法

3.1 データ
 私たちは、1994年から2014年までの「人口動態調査-養育費手当」(CPS-CSS)のデータを使用する。CPS-CSSは、1979年と1982年の4月に実施され、その後は隔年で実施されている調査で、別離家庭の養育費やその他の問題についてのデータ収集に重点を置いている。加入資格は、15歳以上で、一方の親が不在の子ども(21歳未満)と同居している個人である。この情報は、3月に実施された、前年度の収入源に関する情報を提供するCPS-社会経済年次補助で収集されたデータを補完するものである。
 私たちは、8つの調査年に採取されたCPS-CSSのデータを使用している。具体的には、1994年、1996年、1998年、2004年、2006年、2008年、2010年、2014年(データの整合性が取れている年)で、全米経済研究所(NBER)(https://data.nber.org/data/cps_index.htm)で入手可能な公用ファイルに基づいている⁷。各調査では、調査以前に発生した離婚についても、子どもが当時21歳以下であれば、その情報を含んでいる。私たちは、子どもと同居し、その同居している子どもの中の少なくとも1人が、一方の親は世帯外で生活していると調査に回答した全ての親を調査した。私たちは離婚歴のある監護親だけを対象とした。つまり、この中には、現在離婚している人、離婚後に再婚した人も含まれる⁸。このうち、身上監護権を共有していると回答した親の割合を算出し、それが離婚年や他の特性によって異なるかどうかを調べた。データは離婚年別に分類した。但し、各州のCPSの1年間の離婚件数が比較的少ないことから、離婚年を5年ごとに区切っている⁹。

3.2 サンプル
 
私たちの主要なサンプルには、私たちが調査した全ての調査年にわたって未成年の子どもを持つ離婚歴のある監護親が含まれています。表1は、サンプル全体と離婚年別の情報を示している。サンプル全体(右から1列目)では、離婚経験のある監護親は18,757人であった。この監護親の大半(79%)は母親(対父親)であった¹⁰。離婚時の年齢は、29歳以下が37%、30~39歳が44%、40歳以上が19%であった。サンプルの大多数(76%)は白人非ヒスパニック、10%が黒人非ヒスパニック、5%がその他の非ヒスパニック、10%がヒスパニックであり、8%は外国生まれであった。学歴は、バラツキが顕著である。具体的には、高校未満9%、高校卒業34%、大学卒業36%、学士号以上21%であった。調査時の婚姻状況に関しては、回答の大多数(70%)が「現在離婚している」を占め、30%が「現在(再)結婚している」だった。子どもの数は平均1.61人で、子どもの性別構成は「男女混合」「全員女性」「全員男性」が割と均等に分かれている。全体では、全サンプルの22%が共同身上監護権を得たと回答している。
 また、表1では、1985年以前の離婚から、1985-1989、1990―1994、1995―1999、2000-2004、2005―2009、2010―2014の5年ごとの離婚年別にサンプルを分類している。離婚年によって個人特性がどのように異なるかを評価すると、監護親の性別構成は変わらず、離婚時の年齢は高くなり、人種や民族的背景は非ヒスパニック系白人がやや少なくなり、ヒスパニック系が多くなり、外国生まれの回答者が多くなり、学歴は高くなり、現在の婚姻状況は再婚よりも離婚が多く、平均子ども数は上昇し、子どもの性別構成は男女混合が多くなっていることがわかった。一部の分析では、1989年以前を「初期の」離婚、2005年以降を「後期の」離婚と定義して区別している。

3.3 測定方法
 私たちの主な関心事は、「裁判所または裁判官は、あなたと[もう一方の親]に共同[共有]身上監護権を与えたことはありますか?」という質問に対する監護親の回答である。主な注目点は時系列傾向である。各個人は直近の離婚または別離の年を記入しており、これを基に、離婚時年齢の定義は勿論のこと、離婚年齢層も定義した。身上監護を予測する多変量解析では、性別、離婚時年齢、現在の教育、人種や民族、出生、子どもの人数と性別、現在の婚姻状況など、先行文献から得られた変数を用いている。残念ながら、CPSでは、離婚時の収入や子どもの年齢は勿論のこと、結婚歴や出産歴を入手できない。州固有の差異を統制するために、各州の指標変数を含めている(ただし、表示しない)。もう一方の親に関する情報がないため、夫婦を対象とした先行研究で検討された幾つかの変数(例えば、夫婦の総収入、父親と比較した母親の収入、離婚時にどちらかの親が法定代理人を持っていたか)を含んでいない。

3.4 分析
 私たちは、関心のある質問を探究するために、多変量非線形確率(ロジット)モデルを用いている。共同監護に関連する要因を評価するために、時系列の傾向に着目してロジスティック回帰を推定している。モデル1では、州に関する指標変数と離婚年グループの変数のみを含む逐次モデリング戦略を採用している。これにより、共同監護の割合が時間の経過とともに高まっているのかどうかを評価することができる。モデル2では、また、人口統計学的特性を統制した後もなお、共同監護の割合が時間の経過とともに増加するかどうかを確認するため、個人と家族に関する様々な変数を含めている。
先に述べたように、離婚した監護親の中には、時間とともに変化する特性もあり、共同監護が増加する理由は、単に共同監護に関連する特性が、このような離婚する人の母集団の中で増加しているだけの可能性もある。この問題を探るため、まず、初期の離婚年グループと後期の離婚年グループとに別々に分けて、共同監護に関する非線形確率(ロジット)モデルを推定し、全ての統制変数に対する限界効果が期間の間で異なるかどうかを検討した。次に分解分析を行い、時間の経過とともに観察される変化が、2つの期間にわたる母集団の特性の変化(「資質?endowments」と呼ばれる)によるものか、含まれる特性と共同監護の割合との関係の変化(「格差」または「係数」と呼ばれる)によるものかを評価した。また、バイナリー結果変数を用いているため、バイナリー結果用に変形したブランダー・ワハカ分解モデルを用いている。
 最後に、私たちの研究課題は、アメリカとウィスコンシン州の共同監護のレベルを比較することである。ここでも逐次モデリング戦略と非線形確率モデルを用いる。最初のモデルは,ウィスコンシン州の指標変数のみを含む単純なもので,ウィスコンシン州における共同監護が他の地域よりも全体的に多いかどうかを示している。次に、離婚年グループを追加し、更に人口統計学的特徴を追加している。私たちの興味は、これらの追加によってウィスコンシン州の指標変数の係数が変化するかどうかである。もしそうであれば、ウィスコンシン州とその他の地域の違いは、離婚する人の特性に関連していることを意味する。

3.5 ロバストネス(頑健性)チェック
 私たちは4つのロバストネスチェックを行っている。第一に、複数回離婚している人は、誤った離婚年を割り当てている可能性があるため、複数回離婚している人(n=17,413)を除外して結果を検討している。第二に、国勢調査局は、欠損データのある者に値を割り当てるために、代入法を使用している。ここでは、離婚年および共同監護のデータが未入力のサンプルに限定して、結果の頑健性をチェックしている(n=11,920)。第三に、離婚した夫婦の中には、両方の親が自分こそ監護親であると主張している(そのため二重にカウントされている)共同監護の夫婦がいる可能性があるので、父親を除外して結果の頑健性をチェックしている(n=14,724)。第四に、バイナリー結果の分解に関する懸念が知られているため(フェアリー 2005)、線形ブランダー・ワハカ分解も行って、非線形分解の選択の頑健性をチェックしている。

4.結果

 第一に、1985年以前とその後30年間の離婚事件に占める共同身上監護の全国的な時間推移を評価した。図1より、アメリカでは、1985年以前の離婚の13%から、1985-1990年の離婚の16%、1990-1994年の離婚の19%、1995-1999年の離婚の24%、2000-2004年の離婚の26%、2005―2009年の離婚の29%、2010-2014年の離婚の34%と時間の経過とともに着実に、共同身上監護の占める割合が増えていることがわかる。このように、ほぼ直線的に着実に増加する傾向にあるようである。

 第二に、共同身上監護を予測する個人特性について検討した。表2に示したように、モデル1は、全サンプルにおいて、州による違いを統制してさえも、離婚年別に共同身上監護の割合が有意に、かつ着実に上昇していることを示している。共同監護の割合は、その後の離婚年のグループごとに約3%ずつ上昇している。例を挙げれば、1985年-1989年に発生した離婚は、1985年以前に発生した離婚に比べ、共同身上監護の占める割合が3.9%高いことがわかる。2010年から2014年の離婚は、1985年以前の離婚よりも共同監護が占める割合は20.2%高く、この数字は年を追うごとに着実に上昇している従って、州固有の違いを一定にすれば、図1と同じような時系列の傾向を見ることができる。
 モデル2に示すように、多くの個人特性が全サンプルのフルモデルにおいて、共有監護となる割合の高低と関連していることが示された。女性は男性に比べ、共同身上監護を報告する割合が低かった。離婚時の年齢が高いほど、共同監護の可能性が高かった。教育水準は共同監護の可能性の高さと強く関連していた。例を挙げれば、高卒以上の親は、高卒未満の親に比べ、共同監護を持つ可能性が大幅に高く、学士号取得者は、高卒未満の親と比較して、共同身上監護を有する割合が14.3%高かった。人種や民族も共有監護の可能性と関連していた。白人に比べ、その他の非ヒスパニック系は共同監護取決めの報告がかなり少なかった。例を挙げれば、黒人の非ヒスパニック系は9.8%低く、その他の非ヒスパニック系は4.4%低く、ヒスパニック系は3.9%低かった。また、外国生まれの親は、自国生まれの親よりも共同監護を報告する割合が3.6%低かった。養育している子どもの総数による差異や、全員男児か、全員女児かという子どもの性別構成による差異(対男女混合)はないようである。調査時の婚姻関係が離婚であった親は、その時点で再婚していた親に比べて共同監護を報告した割合が2.7%低かった。以上を纏めると、私たちの分析は、共有監護は一般的に白人で社会経済的に恵まれた親に多いことを示していた。

 表3は、1989年以前(「初期」)と2005年以降(「後期」)に離婚した親を対象にしたもので、従来水準で統計的に有意な推定値ばかりではないが、全サンプルと概ね同様のパターンが見られた。初期の離婚と後期の離婚の両方とも、女性は一貫して共同監護を報告する割合は少なく、より最近のコホートで男女差はさらに大きくなった(係数の差の検定結果を最後の列に示す)。後期の離婚では、高齢の親は共同監護を報告する傾向が強かった。学歴は、初期の離婚と後期の離婚の両方で、共同監護の割合の高さと関連しており、特に学士号以上を持っている親と関連しており、後期には学歴はより重要な予測因子となった。黒人の非ヒスパニック系回答者は、非ヒスパニック系白人よりも、初期の離婚、後期の離婚ともに共同監護を報告する割合が著しく低く、この負の相関は、離婚した年が2014年に近いグループほど大きくなった。その他の非ヒスパニック系回答者とヒスパニック系回答者は共同監護を報告する割合は低かったが、これは後期の離婚の場合だけであった。即ち、負の相関は、離婚した年が2014年に近いほど大きかった。外国生まれの回答者と自国生まれの回答者の共同監護の割合は、いずれの時期でも差はなかった。全サンプルと同様に、養育している子どもの総数や子どもの性別構成による違いは、いずれの時期にも見られなかった。初期には、調査時に離婚していた回答者は、再婚した回答者に比べて共同監護の報告割合が少なかった。後期ではその差はなかった。全体として、離婚年の初期と後期の推定値を比較すると、経過とともに幾つかの個人特性が重要性を増していることがわかった。特に、共同監護は、高齢、社会経済的優位性(学歴)、非ヒスパニック系白人の人種的背景とより強く結びつくようになった。

 第三に、私たちは共同監護の増加が主に経時的な母集団の構成変化に起因するのか、それとも個人特性の共同監護との関わり方の変化に起因するのかを評価するために、非線形ワハカ・ブラインダー分解を用いた。ここでは,私たちが分析した30年間のうち、「初期の」離婚(1989年以前)と「後期の」離婚(2005年以降)の2つの期間を再び検討した。表4に示すように、観察された2つの期間での共同監護の変化は、母集団の構成変化(「資質?」)ではなく、寧ろ人口動態特性と共同監護の割合との関連(「格差」)に起因すると思われることが分かった。共同監護の水準における期間の差異15.4%(初期の離婚コホート14.9%に対する後期の離婚コホート30.3%)のうち、11.5%(あるいは差異の75%)は格差が変化することによって説明された(p<0.01)。一方、「資質?」に関する推定値は非常に小さかった(-0.002)。つまり、共同監護の普及をもたらした2つの期間の大きな違いは、母集団の構成それ自体ではなく、母集団内の特性が共同監護を予測する方法であった。この結果は,「ある程度の大学教育」と「白人非ヒスパニック」の正の推定値と,「40歳以上」の推定値によってもたらされているようである。他の推定係数のいずれも、共同監護との関連の明確な証拠を示していなかった。

 4つ目の研究課題は、アメリカ全体の傾向が、多くの先行研究の対象であったウィスコンシン州の傾向とどの程度一致しているかを理解することに焦点を当てていた。これらのデータは、ウィスコンシン州の共同監護の割合が米国の他の州よりも高く、22%に対して33%であることを示している。ウィスコンシン州で共同監護の割合が高いことを個人特性によって「説明できる」のかどうかを理解するために、ウィスコンシン州に関してダミー変数を1つ含む共有監護を予測する非線形確率回帰モデルを推定した。表5で、モデル1は、全期間を通して、ウィスコンシン州の離婚は、他の州に比べて共同監護が認められる割合が9.4%高いことを示している。モデル2に離婚年のグループを表す変数を含めると、ウィスコンシンの係数は僅かに(8.5%まで)減少した。モデル3では、データセットで測定できた個人特性が追加され、ウィスコンシン係数が僅かに(7.5%まで)低下したことがわかった。従って、ウィスコンシン州と全国的な(ウィスコンシン州を除く全州に関する)水準あるいは全国的な傾向との差は、ウィスコンシン州で離婚した人の特徴では説明できないことがわかった。つまり、性別、年齢、人種、外国生まれ、学歴、現在の婚姻状況は、共同監護にする割合の高低を有意に予測する特性であるが、これらの特性を全て一定にしても、この結果におけるウィスコンシン州と他のすべての州の有意差は解消されないのである。

 4つのロバストネスチェックを行ったが、結果は示していない(著者から入手可能)。3つのロバストネスチェックは、分析サンプルを限定したものである。第一に、複数回結婚している監護親1,334人を除外した。第二に、離婚年や監護権が帰属している監護親6,387人を除外した。第三に、男性の監護親4,033人を除外した。このように分析サンプルを限定しても、主要な結果に変化はなかった。共同監護の割合は時間の経過とともに増加し、離婚する人の特性の変化では説明できず、また、ウィスコンシン州は、他の全ての条件が同じであっても、依然として共有監護の水準が高かった。最後に、主要な結果は、非線形ロジットモデルより寧ろ、線形確率モデルを用いて分解を行ったかどうかにも頑健性があった。

5.考察

 これまで、アメリカにおける共同身上監護権の程度に関するデータは、ウィスコンシン州を中心とした単一州の研究に限られており、比較可能なデータがないため、時系列での傾向の算出には限界があった。本論文では、アメリカ全国のデータを用いて、共同監護の占める割合が、1985年以前の離婚の13%から2010-2014年の離婚の34%へと、全国的に2倍以上に増加していることを示している。このことから、アメリカは、離婚後の共同身上監護の割合が最も高い国の一つだと推定される(スタインバッハ、アウグスティヌス、コーカディ 2020;ジリンチコバ 2021)。この劇的な増加は注目に値し、別離後の家族のあり方が大きく変化していることを示している。
 本研究では夫婦より寧ろ監護親に焦点を当てているが、共同監護に関連することが判明した特性は、州別の小規模な研究による先行文献を概ね踏襲している。例えば、高学歴の監護親は共同身上監護である割合が高く、これまでの知見(例えば、カンシアンら 2014;ジュビー、ル・ブルデ、とマーシル・グラットン 2005;ジリンチコバ 2021)と同様である。これは、教育と収入(私たちが持っていない変数)の関係を反映している可能性がある。というのは、共同監護には両方の親の住居が実質的な子どもの一晩の滞在に十分な広さを必要とするため、単独監護よりも多くの収入を必要とするからである。
 今回の分解結果は、離婚する人の人口統計学的特性の変化は共同監護の着実な増加を説明するものではなく、寧ろ、この変化はある人口統計学的特性と共同監護の可能性との関連に起因するものであったことを示唆している。これは、ある程度の大学教育を受けていること、非ヒスパニック系白人であること、即ち、以前のコホートよりも最近のコホートにおいて共同監護により強く結びついているこの2つの特性が推進していると思われる。監護に関する手続きや法律の変化を評価することはできなかったが、監護に関する規範も時代とともに変化し、共同監護がより受け入れられやすくなり、多くのケースで、共同監護が好まれるようになったと思われる。規範の変化を反映してか(あるいは規範の変化を導いてか)、政策環境も変化し、共同監護が潜在的な成果としてより明確に認識され、場合によっては共同監護が優先されるようになった。例えば、ウィスコンシン州は2000年に監護に関する法令を変更し(§767.24⑷⒝)、次のように述べている。「一方の親と身体的に一緒に過ごすこと、子どもは身体的、精神的、感情的健康を害すると裁判所が審問後に判断しない限り、子どもは両方の親と身体的に一緒に過ごす期間(監護)を受ける権利を有する」。現在のウィスコンシン州法(§767.24⑸)は更に進んで、「裁判所は、監護者の性別または人種を理由として、一方の監護者候補を他方より優先してはならない」と明示的に述べている。ウィスコンシン州の法令における共同監護の優先が、ウィスコンシン州の共同監護の割合が高い理由かもしれないが、共同監護の法的環境について各州を格付けする機関は、ウィスコンシン州の法令に最高点を与えず、「B-」を与えている(全アメリカ親機構2019)。各州の監護政策をまとめたレポートは幾つか存在するが(例えば、Custody x Change 2018、ハラ 2013、全アメリカ親機構 2019)、これらは監護権を規定する法律の変化の歴史を示すものではなく、各年度の各州の政策を把握しようと試みるのは本誌の範囲外である11。このように、時間の経過とともに共同監護の割合が大幅に増加していることが観察されたことは、離婚する人の特性の変化というよりも寧ろ、規範や法律(また、特定のサブグループが共同監護を得やすいこと)が関係していると思われるが、更なる研究が有用であると私たちは結論付けている。加えて、法改正の影響は勿論のこと、父権団体の役割(例えば、アルシェヒとサイニ 2019;ハリスショート 2010参照)を含む、法改正の背後にある理由を検証する更なる研究が有用であろう。
 最近の離婚年のグループでは、より多くの個人特性が共同監護と関連しており、高学歴者は共同監護にする割合が高まっていることがわかった。これは、マイヤー、カンシアン、クック(2017)の結果とやや対照的である。彼らは異なるデータと分析で、ウィスコンシン州では高所得者の夫婦は勿論のこと、低所得者夫婦においても共同監護が増加していることを示している(彼らは教育に関するデータを持っていない)。しかし、彼らの図3cを詳しく見ると、ウィスコンシン州では低所得者夫婦と高所得者夫婦の両方で共同監護の割合が増加しているが、高所得者夫婦の方が割合の上昇が速く、格差が拡大していることがわかる。そうしてみると、今回の結果(格差が強調されている)も同様である。共同監護は、より恵まれた夫婦の間でますます一般的になっているが、あらゆるタイプの離婚事例で増加している。
 本論文で使用したデータには、幾つかの限界がある。監護権の有無に関する 自己申告は裁判記録と一致しないことがあり、行動が法的取り決めに従わないことがある。ウィスコンシン州における自己報告と裁判記録とを比較すると、離婚判決で均等な共同監護の取決めが下された人の約70%が、数年後に実際の生活の取決めがほぼ均等であることが示唆されている(バートフェルド、チャンダ、バーガー 2021;バーガーら 2008)。初期の幾つかの研究では、共同監護の取決めは不安定で、離婚後時間が経つほど子どもは母親と過ごす時間が長くなる(「マターナル・ドリフト」)ことが示唆されたが、最新の研究の大部分が、共同監護の取決めは子どもが主に母親と暮らす取決めと同様に安定している(時にはより安定している)ことが示唆されている(バートフェルド、チャンダ、バーガー 2021;バーガーら 2008)。
第二に、監護の取決めと両方の親の特性を結びつけることは、これらのデータでは不可能である。また、監護親が子ども毎に異なる取決めをしている場合もあるが(特に複数のパートナーとの子どもがいる場合)、これらのデータでは監護が子どもより寧ろ監護親にリンクしていることも制限のひとつである。複数回離婚した人の場合、非監護親の離婚年を正しく特定できていない可能性があるが、前述のように、複数回結婚した人を除外するロバストネスチェックを行った。最後に、監護に関係すると思われる変数として、特定の州における離婚時の政策、それぞれの親の収入、組合、出産歴、離婚時の親の法的代理人、子どもの年齢や好みなどが利用できなかった。
 このような限界があるとしても、本論文は家族政策にいくつかの示唆を与えている。まず、全国的に共同監護が2倍以上になっているという結果は、政策立案者が共同監護の状況下で様々な政府プログラムがどのように対応すべきかを検討する必要があることを意味していると考えている。例えば、共同監護の場合、どちらの親が子どもをSNAP(フードスタンプ)世帯に「カウント」できるようにすべきか?両方がカウントすべきなのか、資源の少ない方だけがカウントすべきなのか、先に申請した方だけがカウントすべきなのか、それとも別のルールにすべきなのか。こうした問題は提起されているが(例えば、マイヤーとカールソン 2014)、政策立案者がそうした問題を慎重かつ体系的に検討してきたかどうかは明らかでない。第二に、共同監護率の上昇は、養育費制度に影響を与える。共同監護の場合、どんな状況でも養育費命令は適切ではないのか、一方の親がもう一方の親よりも実質的に多くの資産を持っている場合だけが適切なのか、殆どの共有監護の場合で適切なのか。これは難しい問題である。このようなケースの度数を示すこの研究は、共同監護が子どもの生活の取決めとウェルビーイングにとって結果的に重要であることを示唆している。最後に、共同監護が子どもにとって有益であるならば、ウィスコンシン州が他の州よりも高い割合を達成した方法をより体系的に検討することは、他州の政策立案者にとって有益である可能性がある。
 また、私たちの調査結果は、過去半世紀にわたって米国で観察されてきた社会経済的地位による家族経験の不平等の拡大を理解する上でも意味がある(マクラナハン 2004;ランドバーグ、ポラック、およびスターンズ 2016)。大卒や高収入の親を持つ子どもは、安定した二人家族の中で育つ可能性が高く、こうした恵まれた親は通常、子どもの発達とウェルビーイングを高めるために時間と資源をより多く投じている(カリルとライアン 2020)。先述したように、先行研究は共同監護が親による子どもへのより大きな投資と子どものより良い結果との関連性を示唆している(ニールセン 2014;トイベルトとピンカート 2010)。従って、共同監護が社会経済的な優位性(および白人)と時とともに密接に関連するようになったという私たちの発見は、共同監護(およびそれがもたらす可能性のあるより大きな投資)が、子どものウェルビーイングと社会的流動性に関して階層化の新たな軸として機能する可能性を示唆するものである。
 本論文は、研究への示唆も含んでいる。調査の目的によっては、誰がその世帯にいるかということだけでなく、その世帯にいる頻度についての質問を含む必要があるかもしれない。共同監護がより一般化した現在、共同監護が子どもに与える影響に関する先行研究は、共同監護が規範化した地域で再評価される必要があるかもしれない。時間的なパターン、親が養育計画に沿っているかどうか、親が頻繁に場所を移動することをどのように管理しているか、などの研究は全て有用であろう。
 本論文では、アメリカで全国的に共同身上監護権がどの程度増加しているのか、また共同身上監護に関連する要因について新たな情報を提供した。親の別居や離婚が多い中、共有監護のパターンと決定要因をよりよく理解することは重要であり、それは長期にわたって実親が子どもの生活に関与することを促進するための重要なメカニズムとなり得るものである。

6.謝辞

 この研究は、ウィスコンシン州子ども家庭局とウィスコンシン大学マディソン校貧困研究所との間の児童扶養政策研究協定の支援を受けて実施された。カールソンは、ユニス・ケネディ・シュライバー国立小児保健・人間開発研究所(P2C HD047873)からの基盤助成を受け、ウィスコンシン大学人口学・生態学センターのリソースを利用した。本論文で述べられている見解は、著者の見解であり、必ずしもスポンサー機関の見解というわけではない。表作成に協力いただいたドーン・デューレン氏、データのコーディングと分析に初期から協力していただいたローラ・クエスタ氏、論文を補強するコメントをいただいた匿名の査読者の方々に感謝する。

[訳者註]CPS Current Population Survey
国勢調査局(センサス局)が実施している人口動態調査。国勢調査局は、データ収集のために毎月調査を実施している。実際の調査は、主にコンピュータ支援個人調査(Computer Assisted Personal Interviewing: CAPI)という抽出手法により実施されている。調査で得られた情報は、コンピュータ支援電話調査(Computer Assisted Telephone Interviewing: CATI)を担当する部門へ送られる。国勢調査局は、毎月19日の週に、前週の内容についての質問調査を行い、サンプル世帯の14歳以上の構成員から情報を得ると同時に、その集積合計から組織に属する人を除外している。国勢調査局は、回答者から人口統計データ(住居と居住者、家族構成、教育レベル、兵役の情報)を収集する。CPSでは、併せて雇用(有給・無給)、営業利益、退職状況、障害、就業意欲、常習欠勤、求職活動、労働等の情報も収集されている。

内閣府HP

[訳者註]CPS-CSS Current Population Survey Child Support Supplement
人口動態調査-養育費手当。アメリカ国勢調査局(センサス局)が実施するCPS-CSSは、必要な支払いと実際に受け取った金額の両方を含む、養育費の合意と裁定に関する詳細な情報、および監護親とその家族の社会経済的特徴に関するデータを収集する。

[訳者註]ロジットモデル logit model
複数の選択肢から1つを選ぶ離散選択モデルの1つ。

[訳者註]児童福祉情報への道 Child Welfare Information Gateway promotes
米国保健社会福祉省児童家庭局のサービスで、家族と共有できるリソースも含め、児童福祉の実践向上のための印刷・電子出版、ウェブサイト、データベース、オンライン学習ツールへのアクセスを提供する。その目的は、児童福祉、養子縁組、および関連する専門家だけでなく、一般の人々を、児童福祉、児童虐待とネグレクト、家庭外養護、養子縁組などの話題を扱う情報、リソース、ツールにつなぐことによって、子ども、若者、家族の安全、永続、および幸福を促進することである。

[訳者註]ウィスコンシン大学マディソン校 University of Wisconsin-Madison 【略】UW-Madison
ウィスコンシン州マディソンに本部を置くアメリカ合衆国の州立大学。1849年創立、1849年大学設置。米国屈指の名門大学であり、ウィスコンシン州では最も知名度が高く、最もレベルの高い大規模州立大学である。

[訳者註]ワハカ・ブラインダー分解分析 Oaxaca-Blinder decomposition analysis
ワハカとブラインダーが開発した、2つのグループ間の従属変数の平均値の差を、グループ内の独立変数の平均値の差によるギャップをその部分に分解することによって説明する統計的手法。男女間や人種間の賃金格差などを差別要因とそれ以外の要因へと分解するのに用いられる。

[訳者註]社会経済年次補助 Annual Social and Economic Supplement 【略】ASEC
国勢調査局が実施している。調査期間は、2月から4月までの3か月間であり、CAPIとCATIによる抽出手法を使用している。国勢調査局は、ここでもまたサンプル世帯の14歳以上の構成員で、組織に属する人を除いた対象者から情報を得ている。一方、この調査では、世帯の中で兵役に属する人に加え、一般の大人を最低1人含めている。国勢調査局は、ASECをCPSのために実施したCAPIとCATIの調査データを共に管理している。ASECには、前年度の所得情報、世帯と家族の特徴、結婚状況、地理的移動、海外出生人口、貧困、就職状況と職業、健康保険加入状況、プログラム参加状況、学歴という調査項目が加わっている。

内閣府HP

[訳者註]全米経済研究所 National Bureau of Economic Research 【略】NBER
アメリカの景気動向をはじめとして、世界的な金融、経済の動向や現状の分析を行う民間団体。その調査内容は世界の経済から国際政治なども視野に入れた広汎なもの。調査報告がなされるワーキンペーパーには注目が集まり、株式市場や為替市場の判断材料となることもある。1920年設立。本部はマサチューセッツ州ケンブリッジ。

デジタル大辞泉

[訳者註]多変量解析 multivariate analysis
複数のデータ(変数・変量)の関連性を、回帰分析やクラスター分析などの様々な統計的手法を用いて分析する手法の総称。

[訳者註]ロジスティック回帰 logistic regression
2群で分けられた目的変数(従属変数)に対する,1つ以上の説明変数(独立変数)の影響を調べる統計解析の手法。例えば,歩行可能群と不可能群(2群で分けられた目的変数(従属変数))に対して,年齢,性別,握力,ADL評価得点など(4つの説明変数(独立変数))のうち,どの組み合わせが有意に影響するかを知ることができる.この手法の利点は,データの尺度や分布は,どのようなものであっても問わないという点で,欠点は,目的変数(従属変数)が2群で分けられた場合しか解析できないという点である.

StatsGuildのHPより抜粋

[訳者註]限界効果 marginal effects
非線形モデルのアウトプットが有用であるためには、それを限界効果に変換する必要がある。限界効果(marginal effects)とは、非線形モデルの示唆する、条件付き期待値関数(Conditional Expectation Function;CEF)の平均的な変化である。
簡単に言えば、独立変数(説明変数)が1単位増加したとき、従属変数(目的変数、被説名変数)に与える影響のこと。

[訳者註]分解分析 decomposition analysis
シミュレーションと実験から得た広範囲にわたる値の最小二乗差を最小化することで解決する反復曲線あてはめ(カーブフィッティング)のこと。

[訳者註]指標変数 indicator variable
ダミー変数(dummy variable)とも呼ばれる。0か1の値をとる変数。性別などの定性的なデータ(名義尺度)を説明変数に含めた回帰分析を行う場合、それを「女性=0、男性=1」などの数値に置き換えることがあるが、この置き換えた数値を指す。

[訳者註]ロバストネス(頑健性) robustness
ある統計的手法が、必要としている条件または仮定を少々満たしていないようなデータにおいてもほぼ妥当な結果を与えるとき、この統計的手法は頑健性があると言う。

[訳者註]代入法 imputation
データが欠測している場合、利用可能なデータサイズが縮小し、効率性が低下する。更に、観測値と欠測値との間に体系的な差異が存在する場合、統計分析の結果に偏りが発生するおそれがある。実データには、必ずと言ってよいほど欠測が発生するため、欠測データを代入値で置き換え、上述したの課題を解決するのが代入法である。

[訳者註]バイナリー結果(アウトカム) binary outcome
統計量の結果(アウトカム)には、バイナリー(2値,二値)と連続の2種類が存在する。バイナリー結果は、0か1のどちらかの回答(死亡または生存、心筋梗塞ありまたは心筋梗塞なし、など)であるが、連続結果は、連続した回答(血統濃度、体重など)である。
※統計学における「連続」という用語は、通常、ある特定の範囲内でどんな値でもとりうるデータのことを指している。

[訳者註]全アメリカ親機構 National Parents Organization
別居または離婚後、全ての子どもが両親の愛とケアを受ける権利を保護することにより、子どもの生活を改善し、社会を強化することを使命とするアメリカのNPO団体。包括目標は、親、離婚の専門家、国会議員を教育し、全州の家庭裁判所と法律を改革することによって、共同養育(shared parenting)を促進すること。2014年に共同養育を促進する州の法規定の評価を初めて実施し、2019年は2回目。結果はAが2州、Bが7州、Cが25州、Dが15州、Fが2州で、Aランクはケンタッキー州が「A」、アリゾナ州が「A-」であった。

[訳者註]Custody x Change
2003年に創立された子育てに関するソフトウェア(養育計画書、養育スケジュール)を開発する会社である。

[訳者註]フードスタンプ Food Stamp
フードスタンプとは、アメリカ合衆国で低所得者向けに行われている食料費補助対策。公的扶助の1つ。現在の正式名称は「補助的栄養支援プログラム」(Supplemental Nutrition Assistance Program, SNAP)。形態は、通貨と同様に使用できるバウチャー、金券の一種。一般のスーパーマーケットでも使用できる。対象は食料品であり、タバコやビールなどの嗜好品は対象外となる。

[訳者註]社会的流動性 social mobility
そのまま、ソーシャルモビリティと呼んだり、社会的移動性、社会移動と訳されることもある。人びとが社会における地位をどの程度自由に改善することができるかを示す尺度であり、移動の仕方は水平移動と垂直移動に分けられる。前者は同一水準にある社会的位置間の移動で,同一家格間の婚姻や職業の世襲など。後者は上下関係にある社会階層間の移動で,人の地位の上昇・下降など。社会移動を確保することは、倫理的に要求されるだけでなく、経済的な観点からも重要である。子供の貧困に関しては、特に世代間での不利な条件の移動、すなわち貧困の連鎖を断ち切るために、社会移動性の確保が重要とされる。

[訳者註]交互作用 interaction
交互作用は2つの因子が組み合わさることで初めて現れる相乗効果のこと。また、交互作用による効果のことを「交互作用効果」という。
統計では、3つ以上の変数間の関係を考慮するときに交互作用が発生する可能性があり、結果に対する1つの因果変数の影響が2番目の因果変数の状態に依存する状況を表す。因果関係の観点から一般的に考えられているが、相互作用の概念は、非因果関係を説明することもできる。

[訳者註]ロバスト標準誤差 robust standard error
t分布を用いる回帰分析には、平均値の差の検定における「等分散性の仮定」と同様の「均一分散の仮定」が存在する。残差が不均一な分散を持つ場合,回帰分析で計算される標準誤差は不正確になり、検定結果も不正確となる。この不均一分散の問題は影響が大きく、検定結果に重大なバイアスが生じる恐れがあるため、ロバスト標準誤差を使用して検定を行う。

(了)

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