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単身の母及び父の子の扶養を養育費立替又は養育費不足給付によって確保する法律(養育費立替法)

 この記事は国立国会図書館の許諾の下に、「ドイツにおける非同居親の扶養義務と養育費立替法―ひとり親家庭への養育手当支給制度―(執筆者:泉眞樹子)」『外国の立法』284号, 2020.6, pp.81-106. https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11499060_po_02840004.pdf?contentNo=1を転載したものです。
 上記の後半97頁~106頁の条文翻訳部分となります。前半81頁~96頁のドイツ養育費立替法に関する概説部については「ドイツにおける非同居親の扶養義務と養育費立替法」をご覧下さい。

単身の母及び父の子の扶養を養育費立替又は養育費不足給付によって
確保する法律(養育費立替法)


Gesetz zur Sicherung des Unterhalts von Kindern alleinstehender Mütter und Väter durch Unterhaltsvorschüsse oder -ausfalleistungen (Unterhaltsvorschussgesetz) in der Fassung der Bekanntmachung vom 17. Juli 2007 (BGBl. I S. 1446)

国立国会図書館 調査及び立法考査局       
専門調査員 海外立法情報調査室主任 泉 眞樹子訳

* この翻訳は、Gesetz zur Sicherung des Unterhalts von Kindern alleinstehender Mütter und Väter durch Unterhaltsvorschüsse oder -ausfalleistungen (Unterhaltsvorschussgesetz) in der Fassung der Bekanntmachung vom 17. Juli 2007 (BGBl. I S. 1446), das zuletzt durch Artikel 38 des Gesetzes vom 12. Dezember 2019 (BGBl. I S. 2451) geändert worden ist を訳出したものである。訳文中[ ]は、訳者が原語又は訳文を補記したものである。本稿におけるインターネット情報の最終アクセス日は、2020年4月9日である。

【目次】
第 1 条 権利者
第 2 条 養育手当の額
第 3 条 (削除)
第 4 条 遡及性の制限
第 5 条 賠償及び弁済の義務
第 6 条 情報提供及び通知の義務
第 7 条 権利者の請求権の移転
第 7a 条 支払不能の場合における権利者の移転された請求権
第 8 条 資金調達
第 9 条 手続及び支給方法
第 10 条 過料規定
第 11 条 経過規定
第 11a 条 適用規定
第 12 条 報告
第 12a 条 (削除)
第 13 条 (削除)

第 1 条 権利者

(1) この法律に定める養育費立替[Unterhaltsvorschuss]又は養育費不足手当 [Unterhaltsausfallleistung](以下「養育手当[Unterhaltsleistung]」という。)に対する請求権は、 次に掲げる要件全てを満た者が有する。
 1. 12歳未満であること。
 2. この法律の適用範囲において、未婚の、死別の若しくは離別した片親又は配偶者若しくは 生活パートナーと恒常的に別居している片親と暮らしていること。
 3. 次に掲げるいずれかを、少なくとも第2条第1項及び第2項に記される額で受けず、又は定期的に受けていない者であること。
  a)他方の片親からの養育費
  b)この者[他方の片親]又は義理の片親が死亡した場合の遺児給付⁽¹⁾
(1a) 第1項第1号の規定に加えて、次に掲げるいずれかの場合には、子が18歳に達するまで、引き続き養育手当の請求権が存在する。
 1. 子が社会法典第2編⁽²⁾に定める給付⁽³⁾を受給していない場合又は養育手当によって社会法典第2編第9条に定める子の要扶助状態⁽⁴⁾を回避することができる場合
 2. 第1項第2号に規定する片親が、児童手当⁽⁵⁾を除き、社会法典第2編第11条第1項第1文⁽⁶⁾にいう所得として、社会法典第2編第11b条⁽⁷⁾に定める額を控除しないで、600ユー ロ⁽⁸⁾以上の額を有する場合
  要扶助状態の回避及び第1文に規定する所得額の確認については、満12歳になった月、後に申請した場合にはその月及び審査が後日行われた場合にはその月について、ジョブセン ター⁽⁹⁾が行った最新の決定通知に根拠を置かなければならない。その時々の確認は、その月から次の審査の月までの期間、有効である。
(2) 子が同居している片親は、配偶者若しくは生活パートナーと民法典第 1567 条⁽¹⁰⁾にいう別居生活にある場合、又は、配偶者若しくは生活パートナーが病気若しくは障害のため若しくは裁判所命令に基づき6月以上施設に入所する見込みである場合、第1項第2号にいう恒常的な別居状態にあるとみなされる。
(2a) 自由移動権がない外国人は、当該外国人又は第1項第2号に規定するその片親が次に掲げる条件のいずれかを満たす場合にのみ、第1項又は第1a項に規定する請求権を有する。
 1. 定住許可⁽¹¹⁾又はEU継続滞在許可⁽¹²⁾を保有する場合
 2. 6月以上の期間の就業の権利を認め若しくは認めた又はこれらを許可するEUブルーカー ド⁽¹³⁾、ICTカード⁽¹⁴⁾、モバイルICTカード⁽¹⁵⁾又は滞在許可⁽¹⁶⁾を保有する場合であって、ただし、当該滞在許可が次に掲げるいずれかのときを除く。
  a)滞在法⁽¹⁷⁾第16e条の教育目的の規定により、滞在法第19c条第1項のオペア⁽¹⁸⁾としての雇用目的若しくは季節雇用目的の規定により、滞在法第19e条の欧州ボランティア サービス⁽¹⁹⁾への参加目的の規定により又は滞在法第20条第1項及び第2項の[専門職の]求職の規定により、認められたものであるとき。
  b)滞在法第16b条の研究目的の規定により、滞在法第16d条の外国の職業資格の認定措置の規定により、又は、滞在法第20条第3項の[専門職の]求職の規定により認められたものであって、かつ、その者が就業せず、又は連邦親手当及び親時間法⁽²⁰⁾第15条の規定による親時間若しくは社会法典第3 編に定める継続的な現金給付⁽²¹⁾を請求していない とき。
  c)その者の故国における戦争を理由とした滞在法第23条第1項の規定⁽²²⁾により、又は、滞在法第23a条、第24条若しくは第25条第3項から第5項までの規定⁽²³⁾により、認められたものであるとき。
 3. 第2号cにいう滞在許可を保有している場合であって、連邦領域において許可を得て就業しているとき、又は連邦親手当及び親時間法第15条の規定による親時間若しくは社会法典第3編に定める継続的な現金給付を請求しているとき。
 4. 第2号cにいう滞在許可を保有している場合であって、15月以上連邦領域に滞在することを許可され、認容され、又は猶予⁽²⁴⁾されているとき。  5. 滞在法第60a条第2項第3文と関連した第60d条に規定する雇用猶予⁽²⁵⁾を保有する場合
  第1文第3号の最初の選択肢[就業要件]にかかわらず、自由移動権がない未成年の外国人は、就業に関わりなく請求権が認められる。
(3) この法律に定める養育手当の請求権は、第1項第2号に記す片親が他方の片親と同居する場合、この法律の実施に必要とされる情報の提出を拒否する場合、又は父子関係の確定若しくは他方の片親の滞在の確認のための協力を拒否する場合、存在しない。
(4) この法律に定める養育手当の請求権は、他方の片親が、自らの扶養義務を権利者に対して前払⁽²⁶⁾によって果たしている月に対しては、存在しない。社会法典第8編⁽²⁷⁾に定める給付によって子の需要が満たされている限りにおいて、この法律に定める養育手当の請求権は存在しない。

(1) 遺児給付類(Waisenbezüge)とは、法定傷害保険や法定年金保険等によるもの。
(2) 社会法典第 2 編(求職者のための基礎保障)Sozialgesetzbuch (SGB) Zweites Buch (II): Grundsicherung für Arbeitsuchende
(3) 社会法典第2編を根拠法とする求職者基礎保障制度は、自身の財産をわずかしか又は全く持たない者であって就労が可能なもの(就労可能な要扶助者(erwerbsfähige hilfebedürftige Personen))に対して、最低生活水準を保障するために必要な給付(失業給付Ⅱ)を、税財源で行う制度である。厚生労働省「第2節ドイツ連邦共和国⑴労働施策」『海外情勢報告 2018 年』2019, pp.106-108. 制度設立の経緯については、次を参照。戸田典子「失業保険と生活保護の間―ドイツの求職者のための基礎保障―」『レファ レンス』709 号, 2010.2, pp.7-31.
(4) 「要扶助状態(hilfebedürftig)」とは、自身の生計を、適切な仕事に就くことや資産等の活用によっても、十分に確保できない状態をいう(社会法典第2編第7条及び第9条)。
(5) 児童手当(Kindergeld)は、ドイツに在住する児童に対する現金給付。後掲注(30), (31), (33)を参照。
(6) 社会法典第2編第11条「顧慮されるべき所得」第1項第1文は、第11b条に規定する控除額(所得税、社会保険料等)を控除し、第11a条にいう収入(各種社会給付等)を除外した就労・ボランティア活動等による現金収入 を所得として顧慮すると規定する。
(7) 社会法典第2編第11b条「控除額」は、所得から控除できるものとして、所得税、社会保険料等を列挙する。
(8) 1ユーロは、約118.8円(令和2年5月分報告省令レート)である。
(9) ジョブセンター(Jobcenter)は、求職者基礎保障(失業手当Ⅱ)の受給者を対象とした機関で、連邦雇用エージェンシー(Bundesagentur für Arbeit: BA)と都市等の地方自治体の共同施設である。失業手当Ⅱによる求職者の 経済的保障、失業手当Ⅱ受給者の雇用主への紹介、職業訓練等の促進を業務とするほか、依存症サポート、借金相談、心理・社会的支援などの特別な課題にも対応する。„Jobcenter.“ Bundesagentur für Arbeit website
(10) 民法典第1567条は、配偶者の一方が婚姻による共同生活を拒否し、夫婦が同一世帯で生活せず、それを実現する意思がないことが明らかな場合を別居生活と規定する。なお、婚姻による同一世帯であっても別々に生活している夫婦には、同一世帯での生活は存在しないことも規定する。
(11) 定住許可(Niederlassungserlaubnis)は、無期限の滞在許可。滞在法(後掲注(17))第9条で規定される。
(12) EU継続滞在許可(Erlaubnis zum Daueraufenthalt-EU)は、長期滞在の権利を保障されたEU域外(第三国)国籍保有者の法的地位に関するEU指令(2003/109/EC)の第2条bを根拠とする無期限の滞在許可。滞在法第9a条で規定される。
(13) EUブルーカード(Blaue Karte EU)は、第三国国籍保有者を対象としたEU域内共通の滞在・就労許可で、高度な職業資格を有し、一定の要件を満たす労働者に付与される。滞在法第18b条第2項で規定される。
(14) ICTカード(ICT-Karte)は、第三国に拠点を置く企業・企業グループのEU域内事業所間での転勤(IntraCorporate Transfer)による第三国国籍保有者のドイツ滞在及び就労を認める資格。滞在法第19条で規定される。
(15) モバイルICTカード(Mobiler-ICT-Karte)は、他のEU加盟国での滞在資格を有する第三国国籍保有者が、第三国に拠点を置く企業内異動によってドイツに滞在し、就労するための資格。滞在法第19b条で規定される。
(16) 滞在許可(Aufenthaltserlaubnis)は、特定の目的によるドイツ国内での滞在を、期限を定めて許可するもの。滞在法第7条で規定される。
(17) Gesetz über den Aufenthalt, die Erwerbstätigkeit und die Integration von Ausländern im Bundesgebiet (Aufenthaltsgesetz - AufenthG) in der Fassung der Bekanntmachung vom 25. Februar 2008 (BGBl. I S. 162)
(18) オペア(Au-Pair)とは、語学習得を目的として家庭に住み込み、子どもの世話を中心とした家事の手伝いをする者。食費、住居費は無料である。
(19) 欧州ボランティアサービス(Europäischen Freiwilligendienst; European Voluntary Service)は、他国でのボランティア活動に参加する17~30歳の若者を対象に、渡航費や期間中の生活費等を支援するEUのプログラム。 „Europäischer Freiwilligendienst.“ European Union website
(20) 被用者の「親時間(Elternzeit)」(育児のための休業又は労働時間短縮)とその際の所得補償「親手当(Elterngeld)」を規定する法律。Gesetz zum Elterngeld und zur Elternzeit (Bundeselterngeld- und Elternzeitgesetz - BEEG) in der Fassung der Bekanntmachung vom 27. Januar 2015 (BGBl. I S. 33) ; 齋藤純子「ドイツの連邦親手当・親時間法―所得比例方式の育児手当制度への転換―」『外国の立法』No.232, 2007.6, pp.51-76.
(21) 社会法典第3編(就労促進)(Sozialgesetzbuch (SGB) Drittes Buch (III): Arbeitsförderung)における「継続的な現金給付(laufende Geldleistungen)」とは、「職業教育補助(Berufsausbildungsbeihilfe)」、「教育手当(Ausbildungsgeld)」、「失業手当(Arbeitslosengeld)」、「移行手当 (Übergangsgeld)」を指す。(SGB (III) 第 313 条「副収入証明書(Nebeneinkommensbescheinigung)」参照。)
(22) 滞在法第23条「州の最高官庁による滞在の保障、特別な政治的利益が存在する場合の受入れ、保護を求める者の再移住」は、国際法・人道上の理由やドイツの政治的利益の保護のために、州の最高官庁は、特定国・特定集 団の外国人に滞在許可を付与することができる旨、規定している。連邦の統一性を保持するために、連邦内務省との合意も必要とされる。
(23) 滞在法第23a条「過酷な場合の滞在保障」、第24条「一時的保護のための滞在保障」、第25条「人道上の理由 に基づく滞在」。
(24) 滞在法第60a条「国外退去強制の一時的停止(猶予)」に規定される。
(25) 滞在法第60a条「国外退去強制の一時的停止(猶予)」第2項第3文は、「緊急の人道上の理由若しくは個人的理由又は重大な公共の利益のために連邦領域における外国人の一時的な滞在が更に必要な場合には、当該外国人に猶予を付与することができる。」と規定し、第60d条「雇用猶予(Beschäftigungsduldung)」は、雇用に関連して猶予の期間を30か月延長することを規定する。第60d条は、「教育訓練及び雇用における猶予に関する法律」(Gesetz über Duldung bei Ausbildung und Beschäftigung vom 8 Juli 2019 (BGBl. I S. 1021))による滞在法の改正によって新設された条文であり、2020年1月1日に施行された。
(26) 養育費の前払については、民法典BGB第1614条「扶養請求の放棄、前払」が規定する。
(27) 社会法典第8編(児童及び青少年支援)(Sozialgesetzbuch (SGB) Achtes Buch (VIII): Kinder- und Jugendhilfe )

第 2 条 養育手当の額

(1) 養育手当は、民法典第1612a条第1項第3文第1号、第2号又は第3号の規定から導き出される月額最低扶養料⁽²⁸⁾の額が、毎月支給される。民法典第1612a条第2項第2文⁽²⁹⁾が、準用される。第1条の要件が、月の一部にのみ存在する場合、養育手当は、その期間に比例して支給される。
(2) 権利者と同居している片親が、当該権利者のために、所得税法⁽³⁰⁾若しくは連邦児童手当法⁽³¹⁾の最新の条文に定める満額の児童手当又は所得税法第 65条第1項若しくは連邦児童手当法第4条第1項に記す給付⁽³²⁾の請求権を有する場合、養育手当は、所得税法第66条又は連邦児童手当法第6条に規定する第1子に支払われる児童手当の額⁽³³⁾が減ぜられる。他方の片親を除く第三者が、当該請求権を有する場合も同様である。
(3) 第1項及び第2項の規定から導き出される養育手当には、同一月に権利者が得た次に掲げる収入を算入[し、その額を減額]する。
 1. 権利者と同居していない片親の養育費支払
 2. 第1号に記した片親又は義理の片親の死亡を理由として支払われた、相応の損害賠償給付を含む遺児給付類
(4) 一般教育の学校⁽³⁴⁾にもはや通っていない権利者に対しては、第1項から第3項までの規定により導き出された養育手当は、その月に得た資産からの収益及び自らの適切な労働からの収入が生計維持に足りる場合に限り、減額される。標準月について雇用主が発出した賃金及び給与証明[の額]から被用者概算額⁽³⁵⁾の12分の1を控除した額に相当する現金収入が、非自営就労による権利者の適切な労働からの収入に当たるとされ、さらに、研修生の場合には、教育訓練に必要な支出として100ユーロが概算控除されなければならない。第1文及び第2文に規定する収入及び収益は、その半額のみが顧慮されなければならない。

(28) 民法典第1612a条「未成年子の最低扶養料、命令授権」第1項は、非同居親に対して未成年子が請求できる最低扶養料(Mindestunterhalt)の額は、所得税法上、非課税とされる物質的最低生活費(Existenzminim)、すなわち児童控除(Kinderfreibetrag)の額を基準とし、その額に年齢に応じた百分率を乗じて算出すると規定する。年齢別の百分率は、6歳未満(第1年齢層)は87%(同項第1号)、6 歳以上12歳未満(第2年齢層)は100%(同項第2号)、12歳以上18歳未満(第3年齢層)は117%(同項第3号)である。最低生活費については、次を参照。齋藤純子「最低生活水準とは何か―ドイツの場合―」『レファレンス』728 号, 2011.9, pp.125-126.
(29) 民法典第1612a条第2項第2文は、算出後の数値はユーロ単位に切り上げる旨を規定する。
(30) Einkommensteuergesetz (EStG) in der Fassung der Bekanntmachung vom 8. Oktober 2009 (BGBl. I S. 3366, 3862)
(31) Bundeskindergeldgesetz (BKGG) in der Fassung der Bekanntmachung vom 28. Januar 2009 (BGBl. I S. 142, 3177)
(32) 所得税法第65条第1項及び連邦児童手当法第4条第1項は、児童手当受給よりも優先される児童のための他の手当(法定傷害保険の児童加給、法定年金保険の児童加給、外国における児童手当と同等の給付等)について規定する。
(33) 所得税法第66条又は連邦児童手当法第6条に規定する第1子の児童手当の額は、204ユーロであり、第2子は第1子同様204ユーロ、第3子は 210ユーロ、第4子以降はそれぞれ235ユーロである(2019年7月1日以降)。
(34) 一般学校教育(allgemeine Schulausbildung)は、判例によれば、中等教育段階の基幹学校・実科学校・ギムナジウムまでを指し、職業学校、職業専門学校、大学は含まれないとされる。野沢紀雅「ドイツ民法における未成年子の「最低扶養料(Mindestunterhalt)」について―扶養法と租税法及び社会法の調和の試み―」『中央ロー・ジャーナル』7(4), 2011.3, pp.92-93 等。
(35) 被用者概算額(Arbeitnehmer-Pauschbetrags)について、所得税法第9a条「必要経費の概算額」(Pauschbeträge für Werbungskosten)の第1文第1号は、自営業ではない労働による収入に対して控除できる額を1,000ユーロと規定する。

第 3 条(削除)⁽³⁶⁾

(36) 第3条「養育手当支給期間」は、「2020年以降の財政調整制度再編及び財政法規定改正に関する法律」(Gesetz zur Neuregelung des bundesstaatlichen Finanzausgleichssystems ab dem Jahr 2020 und zur Änderung haushaltsrechtlicher Vorschriftenvom 14. August 2017 (BGBl. I S. 3122))の第23条(Artikel)による改正(2017年改正)により、削除さ れた。

第 4 条 遡及性の制限

 養育手当は、遅くともこれに関する申請が所管機関又は社会法典第1編第16条第2項第1文⁽³⁷⁾に記す諸機関に対して提出された月の前月に遡って支給され、ただし、第1条第1項第3号に記す片親に養育費支払をさせるための権利者の妥当な努力が欠けていた場合には、その限りではない。

(37) 社会法典第1編(総則)第16条「申請提出」第2項第1文は、所管ではない社会給付制度運営者や地方自治体等へ提出された申請は、直ちに所管機関へ転送しなければならない旨、規定する。Sozialgesetzbuch (SGB) Erstes Buch (I): Allgemeiner Teil

第 5 条 賠償及び弁済の義務

(1) 養育手当の支給要件が、次に掲げるいずれかにより支給が行われた暦月において存在せず、 又は継続的には存在しなかった場合、権利者と同居している片親又は当該権利者の法定代理人は、その限りにおいて、支給された額を賠償しなければならない。
 1. その者が故意若しくは過失により虚偽若しくは不完全な情報を提供し、又は第6条に規定する通知を怠ったことによって、養育手当支給が行われるに至ったとき。
 2. 養育手当支給の要件を満たしていないことを知っていた、又は過失の結果として知らな かったとき。
(2) 権利者が、第2条第3項にいう所得又は第2条第4項にいう収入及び収益であって、養育手当の認定に際して顧慮されなかったものを、養育手当の申請を行った後に得たため、養育手当の支給要件が支給が行われた暦月に存在しなくなっていた場合には、その限りにおいて権利者は支給された額を弁済しなければならない。

第 6 条 情報提供及び通知の義務

(1) 権利者と同居していない片親は、要請に応じて、この法律の実施に必要である情報を所管 機関に提供する義務を負う。当該片親は、特に、権利者が未成年であることに基づき重くなっ ている自らの支給義務を完全に履行すると表明しなければならない⁽³⁸⁾。
(2) 第1項に記す片親の雇用主は、要請に応じて、この法律の実施に必要である限りにおいて、第1項に記す片親の雇用の種類及び期間、職場並びに勤労報酬に関する情報を、所管機関に提供する義務を負う。保険会社は、要請に応じて、この法律の実施に必要である限りにおいて、第1項に記す片親の住所及び収入の額に関する情報を所管諸機関に提供する義務を負う。
(3) 第1項及び第2項に規定する情報提供の義務を負う者は、自ら又は民事訴訟法第383条第1項第1号から第3号までに記す親族等⁽³⁹⁾のいずれかを、刑事訴追又は秩序違反法⁽⁴⁰⁾による手続の危険にさらすかもしれない回答を求められる質問に対しては、情報提供を拒絶することができる。
(4) 権利者と同居している片親及び権利者の法定代理人は、給付に大きく影響する状況の変化又は給付と関連して意思表示を行った状況の変化を、所管機関に遅滞なく報告する義務を負う。
(5) 社会法典第10編第69条⁽⁴¹⁾の規定により情報提供に関する権限を有する社会給付制度運営者及びその他の機関並びに税務署は、要請に応じて、この法律の実施に必要である限りにおいて、第1項に記す片親の住所、雇用主及び収入の額に関する情報を、所管機関に提供する義務を有する。
(6) 所管諸機関は、公課法第93b条第1項⁽⁴²⁾に記すデータを信用機関から取得することを、これが第7条の実施のために必要であり、かつ、第1項に記す片親に対するこれまでの情報請求が目的を達成せず、又は、成果をもたらしていない限りにおいて、連邦中央税務庁に要求してもよい(公課法第93条第8項第2文⁽⁴³⁾)。
(7) 所管機関は、権利者と同居している片親の申請に応じて、社会法典第10編第74条第1項第1文第2号aに規定する基準⁽⁴⁴⁾に従い、その者に第1項、第2項及び第6項にいう情報を送信する義務を負う。

(38) 2017年改正で第2文が追加され、非同居親の未成年子に対する養育費支払義務が明文化された。この養育費支払義務は、これまで判例に基づき引き上げられてきた。Deutscher Bundestag, Drucksache, 18/12589 (Beschlussempfehlung und Bericht), 31.05.2017, S.157.
(39) 民事訴訟法第383条「人的理由に基づく証言拒絶」第1項第1号から第3号までは、証言を拒むことができる者として、当事者の婚約者、配偶者、生活パートナー、直系血族・姻族、傍系三親等以内の血族・姻族及びこれら の関係にあった者と規定する。Zivilprozessordnung in der Fassung der Bekanntmachung vom 5. Dezember 2005 (BGBl. I S. 3202; 2006 I S. 431; 2007 I S. 1781) ; 法務省大臣官房司法法制部「ドイツ 民事訴訟法典―2011年12月22日現在―」『法務資料』462 号, 2012.3, p.131.
(40) Gesetz über Ordnungswidrigkeiten in der Fassung der Bekanntmachung vom 19. Februar 1987 (BGBl. I S. 602)
(41) 社会法典第10編(社会給付制度行政手続及び社会データ保護)第69条「社会給付の任務遂行のための送信」は社会データ(社会給付関連の個人情報データ)の送信が認められる目的について規定する。Sozialgesetzbuch (SGB) Zehntes Buch (X): Sozialverwaltungsverfahren und Sozialdatenschutz
(42) 公課法第93b条「口座情報の自動取得」第1項は、金融法第24c条「口座情報の自動取得」第1項に規定するデータシステムに関して、公課法第93条「関係者及び他の者の情報提供義務」第7項及び第8項に規定するデータ取得にも関連して運用する旨、規定する。公課法第93条第7項は、第93b条の口座情報の自動取得についてその要件を規定し、第8項は、連邦中央税務庁(Bundeszentralamt für Steuern)が第93b条第1項で規定するデータの情報を提供する目的、用途について規定する。Abgabenordnung (AO) in der Fassung der Bekanntmachung vom 1. Oktober 2002 (BGBl. I S. 3866; 2003 I S. 61) ; Gesetz über das Kreditwesen (Kreditwesengesetz - KWG) in der Fassung der Bekanntmachung vom 9. September 1998 (BGBl. I S. 2776)
(43) 公課法第93条第8項第2文は、行政執行の権限を有する官庁が、第93b条第1項に基づき、必要な情報を信用機関から取得するよう連邦中央税務庁に要求することができる旨、規定する。
(44) 社会法典第10編第74条「扶養義務の不履行の場合及び給付補償の場合の送信」第1項第1文第2号aは、民法典第1605条「情報提供義務」又は第1605条と関連する第1361条「別居生活における扶養」、第1580条「情報提供義務」、第1615l条「出生を起因とする母及び父による扶養請求」等により情報提供義務を課されている場合を、社会データの送信許可の要件の一つとして規定する。

第 7 条 権利者の請求権の移転

(1) 権利者が、この法律の規定により当該権利者に養育手当が支払われる期間について、同居していない片親に対する扶養請求権、又は、適時に支給された場合には第2条第3項の規定により所得として算入されることとなるその他の給付に対する請求権を有している場合には、これらの請求権は、この法律に定める養育手当の額まで、扶養法上の情報請求権とともに、州に移転する。第1文は、社会法典第10編第102条から第105条までの規定⁽⁴⁵⁾による 還付請求権が存在する限りにおいて、適用されない。
(2) 過去[の期間]に対しては、次に掲げるいずれかの時点からのみ、第1項に記す片親に請求することができる。
 1. 民法典第1613条⁽⁴⁶⁾の要件が存在していた時点
 2. 第1項に記す片親が、養育手当の申請を知らされ、かつ、この法律の規定により支給された養育費[の費用]を当該片親に請求することができることについて教えられた時点
(3) 第1項の規定による請求権は、財政法上の規定に従い、適時かつ完全に実施されなければならない。被扶養権者が、この法律の規定による養育手当を受けなかった又は受けない、より後の期間に対して扶養義務者に養育費[支払]を要求する限りにおいて、当該被扶養権者の不利益となるように扶養請求権の移転を主張することはできない。
(4) 州は、養育手当をより長期にわたり支給しなければならないと見込まれる場合には、認定された養育手当の額で、将来に対する扶養請求権も裁判で主張することができる。養育費は、民法典第1612a条第1項第1文⁽⁴⁷⁾に応じて変動する最低扶養料[の額]で、請求することができる。州は、養育手当受給者との合意を得て、自らに移転された扶養請求権を裁判で主張するためにこの者に再移転し、主張された扶養請求権を自らに移譲させることができる。養育手当受給者がそれによって自ら担うことになる費用は、引き受けなければならない。
(5) 州が執行決定により強制執行を実施する場合、第1項の規定により移転された扶養請求権の証明として、第9条第2項による決定通知を、執行申請に添付しなければならない。

(45) 社会法典第10編第102条「暫定的に給付を行った給付制度運営者の請求権」、第103条「給付義務が事後に停止された給付制度運営者の請求権」、第104条「次位の給付義務を負う給付制度運営者の請求権」、第105条「所管 していない給付制度運営者の請求権」。
(46) 民法典第1613条「過去に対する扶養」は、被扶養権者が、扶養義務者に対して、過去の扶養義務の履行等を求 める場合の要件を規定する。
(47) 民法典第1612a条「未成年子の最低扶養料、命令授権」第1項第1文は、「(1)未成年子は、同一世帯で暮らしていない片親に対し、その時点の最低扶養料に百分率を乗じた額で扶養を求めることができる。」と規定する。

第 7a 条 支払不能の場合における権利者の移転された請求権

 権利者と同居していない片親が、社会法典第2編に定める給付を受給し、かつ、社会法典第2編第11条第1項第1文⁽⁴⁸⁾にいう自身の所得がない期間に限り、第7条の規定により移転された扶養請求権は、追及されない。

(48) 前掲注(6)参照。

第 8 条 資金調達

(1) この法律の規定により支給しなければならない現金給付は、40%を連邦が、その残りを州が負担する。連邦によって支払われない現金給付の州及び地方自治体への適切な負担配分は、州の権限によって行われる。
(2) 第7条の規定により徴収された額については、州は、その40%を連邦に引き渡す。

第 9 条 手続及び支給方法

(1) 養育手当の支給は、権利者と同居している片親又は権利者の法定代理人の書面による申請に応じて、決定される。当該申請は、権利者の住所がある地区の、州法によって定められる 機関に提出されるものとする。
(2) 決定は、申請者に書面にて又は電子的に通知されなければならない。決定通知には、第2条第2項から第4項までの規定に従って算定した額を記載しなければならない。
(3) 養育手当は、毎月、前払いされなければならない。支給額は、ユーロ単位に切り上げなければならない。5ユーロ未満の額は、支給されない。

第 10 条 過料規定

(1) 故意又は過失によって次に掲げる行為のいずれかを行う者は、秩序違反⁽⁴⁹⁾とする。
 1. 第6条第1項又は第2項の規定に違反して、要請に応じた情報提供を行わず、正しく行わず、完全には行わず、又は、所管機関が定めた期限内に行わないこと。
 2. 第6条第4項の規定に違反して、同項に記す状況の変化を、正しく報告せず、完全には報告せず、又は、遅滞なく報告しないこと。
(2) 秩序違反は、過料に処することができる。
(3) 秩序違反法第36条第1項第1号⁽⁵⁰⁾にいう行政官庁は、州法によって定められる機関であ る。

(49) 秩序違反法(前掲注(40))により、秩序違反(Ordnungswidrigkeit)は過料(Geldbuße)が科される違法行為であると規定され(第1条)、明示的に過失行為に過料を科さない限り、故意による行為のみが処罰の対象となり得ると規定される(第10条)。
(50) 秩序違反法第36条第1項第1号は、各過料を所管する行政官庁を法律によって規定する旨を定めている。

第 11 条 経過規定

(1) 2006年12月19日に効力を有していた条文における第1条第2a項⁽⁵¹⁾は、1994年1月1日から2006年12月18日までの期間における月額の養育費立替請求に関する決定が未だ確定力を得ていない場合において、これ[当該条文の適用]が申請者に有利なものであるときには、適用されなければならない。この場合において、外国人法⁽⁵²⁾の規定による滞在許可証は、滞在法第101条⁽⁵³⁾の効力継続規定に適合した、滞在法に定める滞在権限⁽⁵⁴⁾と同等に扱われる。
(2) 2019年12月12日の法律(連邦法律公報第Ⅰ部2451頁)第38条[Artikel]の条文における第1条第2a項第1文第1号から第4号までは、2020年2月29日より後に始まる期間 [2020年3月1日以降]に関する決定に適用される。2019年12月12日の法律(連邦法律公報第Ⅰ部2451頁)第38条の条文における第1条第2a項第1文第5号は、2019年12月31日より後に始まる期間[2020年1月1日以降]に関する決定に適用される。

(51) 2006年12月19日に公布された改正とは、Gesetz zur Anspruchsberechtigung von Ausländern wegen Kindergeld, Erziehungsgeld und Unterhaltsvorschuss vom 13. Dezember 2006 (BGBl. I S. 2915)の第4条(Artikel)によるもので、第1条第2a項と第11条が改正され、2007年1月1日に施行された。
(52) 外国人法(Ausländergesetz vom 9. Juli 1990 (BGBl. I S. 1354,1356))は、Gesetz zur Steuerung und Begrenzung der Zuwanderung und zur Regelungdes Aufenthalts und der Integration von Unionsbürgern und Ausländern (Zuwanderungsgesetz) vom 30. Juli 2004 (BGBl. I S.1950)の第15条(Artikel)第3項第1号により、2005年1月1日に廃止された。外国人法に基づくドイツにおける外国人の滞在許可証(Aufenthaltsgenehmigung)の区分は、①期間の定めのある滞在許可(befristete Aufenthaltserlaubnis)、②期間の定めのない滞在許可(unbefristete Aufenthaltserlaubnis)、③滞在権(Aufenthaltsberechtigung)、④滞在認可(Aufenthaltsbewilligung)⑤特別滞在権 (Aufenthaltsbefugnis)であった(戸田典子「ドイツの滞在法―「外国人法」からEU「移民法」へ―」『外国の立法』 No.234, 2007.7, p.6. )。現在、外国人の滞在を規定するのは、「連邦領域における外国人の滞在、職業活動及び統合に関する法律(滞在法)」(前掲注 (17))である。
(53) 滞在法第101条「従前の滞在の権利の効力の継続」は、「2005年1月1日より前に付与された滞在権 (Aufenthaltsberechtigung)又は期間の定めのない滞在許可(unbefristete Aufenthaltserlaubnis)は、付与の理由となった滞在目的及び事実関係に従って、定住許可として引き続き効力を有する。1980年7月22日の人道的援助活動の枠内で受け入れた難民のための措置に関する法律(連邦法律公報第Ⅰ部1057頁)第1条第3項の規定により又は同法の準用により付与された期間の定めのない滞在許可及びこれに続けて付与された滞在権は、第23条第2項に規定する定住許可として引き続き効力を有する。」等を規定する。
(54) 滞在法に定める滞在権限(Aufenthaltstitel)としては、ビザ(Visum. 同法第6条に規定)、滞在許可(前掲注(16))、EUブルーカード(前掲注(13))、ICTカード(前掲注(14))、モバイルICTカード(前掲注(15))、定住許可(前掲注 (11))、EU継続滞在許可(前掲注(12))がある。„Einreise nach und Aufenthalt in Deutschland.“ Bundesministerium des Innern, für Bau und Heimat website

第 11a 条 適用規定

 この法律において、2015年1月1日から2015年6月30日までの期間に対して、第2条第1項第1文の規定による養育手当は、6歳未満の児童については月額317ユーロ、12歳未満の児童については月額364ユーロの額とする。2015年7月1日から2015年12月31日までの期間に対して、第2条第1項第1文の規定による養育手当は、6歳未満の児童については月額328ユーロ、12歳未満の児童については月額376ユーロの額とする。2015年12月31日まで、第2条第2項第1文にいう第 1子に支払われる児童手当は、月額184ユーロの額とする。

第 12 条 報告

 連邦政府は、2017年7月1日に施行された制度改革の効果について、2018年7月31日までにドイツ連邦議会に報告書を提出するものとする。報告書には、個人情報を記載してはならない。

第 12a 条(削除)

第 13 条(削除)


(いずみ まきこ)

(了)


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