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Joint CustodyとShared Custodyとは何が違うのか

 「custody」を「親権」と訳すべきか、「監護権」と訳すべきか、悩ましいところですが、現在、自動翻訳で真っ先に出てくるのは「親権」です。国連が日本に対する勧告の中で使用した「shared custody」を、河野外務大臣(当時)が「共同親権」と訳していたことからも分かるように、おかしな翻訳ではありません。
 しかし、「親権」を「監護権」と「監護以外の権利」とに厳密に分け、後者を「親権」と呼んで細工をする事態が近年生じていることから、私は「custody」を「監護(権)」と訳しています。
 ところで、「共同親権」に該当する英語にも、先述の「shared custody」の他に、「joint custody」という用語があります。私の翻訳では、両者とも「共同監護」としておりますが、厳密には違いがあります。
 そこで、両者はどう違うのか、アメリカの弁護士事務所のサイト等の記事を抜粋、翻訳してみました。
 なお、混乱を避けるため、この記事では両者を区別して、「shared custody」を「共有監護」、「joint custody」を「共同監護」と使い分けて記載します。

1.ノースカロライナ州の弁護士事務所の記事

以下は、「Myers Law Firm」というノースカロライナ州の弁護士事務所のHPの「What’s the Difference Between Joint Custody and Shared Custody?」から抜粋したものです。

 人は「shared custody共有監護」と言うとき、通常、「joint physical custody共同身上監護」について話しています。「joint physical custody共同身上監護」の取決めでは、両方の親が子どもと一緒に時間を過ごします。この監護パターンの代替が、「sole physical custody単独身上監護」で、子どもは一方の親とほぼ全ての時間を一緒に過ごし、もう一方の親が子どもとほんの僅かな時間を過ごします。一方の親が単独監護権を持っている場合、もう一方の親は、養育費を支払わねばなりません。
 殆どの人は、均等の監護時間または平等に近いものとして「joint physical custody共同身上監護」を考えますが、そうでなければいけない訳ではありません。
 多くの場合、子どもは殆ど一方の親と一緒に暮らし(「custodial parent監護親」)、もう一方の親は訪問権を持っています。しかし、裁判所が、子どもが両方の親と均等に暮らす、真の「”shared” custody共有監護」の取決めを定めることが一般的になってきています。
 「joint physical custody共同身上監護」の取決めでは、子どものニーズや子どもが通う学校の場所は勿論のこと、自分の家や仕事に基づいて監護スケジュールを組む必要があります。「joint physical custody共同身上監護」では、両方の親が移動やコミュニケーションに多くの時間を割く必要があるので、このタイプの監護は、両方の親が同じ地域に住み、働いている場合に最も機能します。
 「legal custody法的監護」と「physical custody身上監護」は別の問題なので、一方の親だけが「legal custody法的監護権」を持っていても、両方の親が、「physical custody身上監護」を共有することができます。一方の親が子どもの「sole legal custody単独法的監護」を持っている場合、その親が教育、医療、および学校外の活動についての最終的な決定を下すことになります。

2.フロリダ州の弁護士事務所の記事

 「Parker & Dufresne」というフロリダ州の弁護士事務所HPブログから抜粋したものです。

「shared custody共有監護」と「joint custody共同監護」の違いは何ですか?
 離婚の際に取決めることができる子どもの監護には幾つかの種類があります。両方の親が子供の人生に積極的に関与したい場合は、「shared custody共有監護」と「joint custody共同監護」を検討します。2つは同じことのように聞こえるかもしれませんが、注意すべき幾つかの重要な違いがあります。(あなたとあなたの子どもための最善の取決めを決定するために、ジャクソンビルの経験豊富な離婚弁護士と連携するようにしてください)

「shared custody共有監護」とは何ですか?
shared custody共有監護」では、両方の親が子どもに対する法的身体的権利を共有しています。両方の親が、別々の家でほぼ均等な時間、子どもの世話をします。一般的に、両方の親が設定されたスケジュールに同意する場合、一般的に、この監護が最善の結果を生み出します。合意が成立しない場合、裁判官が主たる監護親を決定します。また、裁判官は訪問のスケジュールを設定することができます。法的な親の権利parental rightsは、このタイプの監護取決めでは共有されない場合があります。その権利が共有されていない場合、子どもの医療、教育および/または宗教に関する重要な決定は、両親のいずれか一人に任されている場合があります。その権利が共有されている場合、両方の親は子の最善の利益のために協力する必要があります。(「shared custody共有監護」を考慮する特定の詳細事項については、ジャクソンビルの経験豊富な離婚弁護士と話してみてください)
shared custody共有監護」は、以下の場合に適切かもしれません。
・両親のいずれか一方が頻繁に移動する。
・両親のいずれか一方が財政的に不安定である。
・両親のいずれか一方が、病気負傷している、または子どもの世話を適切に行えない他の事情がある。

「joint custody共同監護」とは何ですか?
joint custody共同監護」では、身体的な権利を両親が共有し、かなり平等になります。両方の親は、子どもと一緒に自分の家で均等な時間を過ごします。ローテーションのスケジュールは、通常、両方の親の間で遣り取りして作成し、合意します。スケジュールに同意することができない場合は、裁判官が、それぞれの親が子どもと過ごす時間を決定します。
joint custody共同監護」では、両方の親がかなり関与し、責任を均等に共有します。このため、両親は子どもの養育に関する決定に同意するために協働できねばなりません。これには、子どもの健康管理、教育、および宗教に関し共同決定を行うことが含まれます。両親は、最初に子の最善の利益を置くために協力が必要です。
joint custody共同監護」は、以下の場合に適切かもしれません。
 ・両方の親が同じ地域で暮らし、働いている。
 ・両親は友好的であり、一緒に働くことができる。
 ・子どもが学齢期またはそれ以上である。

3.アメリカ全土をカバーする弁護士紹介サイトの記事

アメリカ国内をカバーする弁護士紹介サイト「Legal Match」(本社はカリフォルニア州)のHPからの抜粋です。

「joint custody共同監護」とは何ですか?

 「joint custody共同監護」とは何かという問いに対し、多くの人がその答えをよくわかっていません。「joint custody共同監護」の定義は、それぞれの親が監護の権利を持っている、子どもの監護権の取決めです。(デュアル監護とスプリット監護は、それぞれの親が幾つかの監護の権利を持っている取決めを参照してください)
 「joint custody共同監護」が50%/50%ベースの場合、その取決めはしばしば「等分監護の取決め」と呼ばれます。親は同等の監護の権利を持っています。
 「joint custody共同監護」の取決めは、両方の親が子どもの代わりに法的な意思決定を行うことを共有することができます。「joint custody共同監護」の取決めはまた、子どもが両方の親の家で時間を過ごすことができます。この取決めは、子どもが両方の親と定期的に接触することができるという点で有益です。しかし、この取決めは、子どもにとってストレスになることがあります。一方の親の家で過ごす日と、もう一方の親の家で過ごす日があることで、安定を求める子どもの気持ちが乱れる可能性があります。

「shared custody共有監護」と「joint custody共同監護」の違いは何ですか?
 多くの人々はしばしば、この2つが同じことを意味するかのように用語「shared custody共有監護」と「joint custody共同監護」を適用します。しかし、それぞれの用語は、監護の別々のタイプを指します。混乱理由の一つに、幾つかの州が2つの用語を互換的に使用していることも挙げられます。厳密な意味では、本当のところは監護の取決めの2つの異なる形式であることを心に留めておくことが重要です。
 一般的に、「joint custody共同監護」の主なポイントは、子どもの養育に関する意思決定について、両方の親が同等のコントロールを提供し、子どもがそれぞれの親と一緒に暮らして過ごす時間を分割することです。
 一方、「shared custody共有監護」は、子どもがそれぞれの親とどの程度接触しているかに焦点を当てています。基本的に、「shared custody共有監護」は、子どもがそれぞれの親と物理的に一緒に暮らす時間を、可能な限り50/50に近付けて分割する機会を親に与えることを目指しています。
 これらの定義はまだかなり似て聞こえるなら、それは、「shared custody共有監護」が「joint custody共同監護」の非常に特異なサブタイプであるためです。従って、両者の違いを忘れないためには、主なものは、「shared custody共有監護」は、両親が自分の子どもとどの程度の時間を過ごすかに関心を寄せているのに対し、「joint custody共同監護」は、子どもに関する法的決定に、より関心を寄せていることを覚えておくことが重要です。

なぜ「joint custody共同監護」したいのか?
 上述したように、「joint custody共同監護」は、両方の親に子どもと一緒に時間を過ごす機会と子どもを育てるのを助ける機会を与えてくれます。どの親も通常、自分の子どもと一緒に暮らすことを望んでいますが、離婚や別離のためにそうすることができず、多くの場合、監護の取決めを決定するのが困難になります。
 「joint custody共同監護」は、親が意思決定権を分割し(即ち、「joint legal custody共同法的監護」)、子どもと均等あるいは均等に近い時間を過ごせるようにする(即ち、「joint physical custody共同身上監護」)ことで、この問題の解決策を提供します。
更に、「joint custody共同監護」は、当事者に一定の親の権利parental rightsを与えます。但し、それぞれの親に付与される親の権利parental rightsの種類は、「joint custody共同監護」がどのように付与されるかによって異なります。
 例えば、両親が「joint legal custody共同法的監護」および「joint physical custody共同身上監護」にすることに同意し、裁判所が両親の決定を承認した場合、親の権利parental rightsは均等に分配されます。それに対して、一方の親だけが全ての「physical custody身上監護権」を持っていて、両方の親が均等な「joint legal custody共同法的監護権」を維持する場合は、そうはなりません。
 以下のリストは、「joint custody共同監護」の各カテゴリに応じた親の権利parental rightsの幾つかの例です。
  ・「Joint Legal Custody共同法的監護権」:「joint legal custody共同法的監護権」を持つ親は、子どもの教育、宗教的な指導、法的地位、そして子どもが受ける治療の種類等の、子どもの養育に関する意思決定を行う権利を保持します。
  ・「Joint Physical Custody共同身上監護権」:一方、「joint physical custody共同身上監護権」は、子どもが暮らす場所と子どもが親と過ごす時間に関する権利を指します。殆どの場合、「joint physical custody共同身上監護」は、両親が子どもと一緒に暮らすことができる最大限の時間を分割することを意味します。両親はまた、別の生活の取決めをすることを選択することもできます(例えば、子どもが学期中は一方の親と一緒に暮らし、夏の間はもう一方の親と一緒に暮らす)。
 繰り返しになりますが、「joint legal custody共同法的監護」および「joint physical custody共同身上監護」の両方を持つ親は、状況の変化が発生しない限り、上記の全ての権利を行使することができます。

なぜ「shared custody共有監護」をしたいのか?
 その名前のように、「shared custody共有監護」は、両方の親が自分の子どもの「physical custody身上監護権」を、均等あるいはほぼ均等に共有することができます。相応の時間を子どもがそれぞれの親と一緒に暮らすため、法律で両方の親の家を子どもの合法的な家と定めています。
なお、両親は、「legal custody法的監護権」を共有することを決定することもできますが、これは「shared custody共有監護」の主な目的ではありません。
 「joint custody共同監護」と同様に、「shared custody共有監護」が当事者に与える親の権利parental rightsの種類は、状況と各州の特定の法律によって異なります。ここで重要なことは、両親には子どもと一緒に暮らし、子どもと接触する権利があるということです。
 「legal custody法的監護権」を持っている親に与えられる権利については、上記の「joint custody共同監護」のセクションで議論したものと同じです。繰り返しになりますが、「shared custody共有監護」との違いは、監護の取決めのこのタイプは、それが「legal custody法的監護」のための親の権利parental rightsとされているよりも、「physical custody身上監護」の権利を確保することにより関心を寄せていることです。
 「shared custody共有監護」について言及する価値のある最後のポイントは、どちらかの当事者が子どもの養育に関して法的決定を下さなければならないという責任を負うことができない、または負いたくない場合に、通常最も効果的であるということです。50/50のタイムシェアは、「legal custody法的監護権」を放棄するときに一方の親が失う可能性のある権利のバランスをとるのに役立ちます。

おまけ Custodyを「親権」と訳すのは間違いか

「custody」を「親権」と訳すか、「監護権」と訳すか難しいところですが、山口亮子教授の「日米親権法の比較研究」(日本加除出版,2020)の序文p2に“アメリカ法にいう監護権が、日本の親権に近いように思われる”とあるほか、小川富之教授の「親権・監護権に関するワシントン州(米)法令の調査報告書」(外務省委託調査,2020/3/13提出)のp2に“アメリカ合衆国の多くの州では、日本における父母の子に対する「親権」に近い概念に関しては、監護権(custody)という文言が用いられることが多い”とあることから、「親権」と訳すのは間違いではありません。

(了)



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