児童保護法制における親権の規律に関する海外制度調査報告書(ドイツ)
この記事は、法務省HPの「法務省の概要>組織案内>内部部局>民事局>民事に関する法令の立案関係>児童虐待防止のための親権制度研究会報告書の公表について」にアップされていた「海外制度調査報告書(ドイツ)」を転記したものです。
海外制度調査方向所(ドイツ)
海外調査(ドイツ)報告
ケルン大学特別研究員
西谷祐子
<目次>
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.調査対象
1.総説
2.基本概念
⑴ 保護の対象となる子
⑵ 「親権」概念
⑶ 行政による保護措置と司法の関与
Ⅲ.ドイツにおける近時の法改正
Ⅳ.ドイツ民法上の制度の概要
1.親権の帰属と変更
⑴ 親権の帰属
⑵ 親権の行使
⑶ 別居又は離婚後の親権
⑷ 親権の停止・終了
2.親権の内容
⑴ 総説
⑵ 身上監護権とその行使
3.親権行使の支援
⑴ 家庭裁判所による支援措置
⑵ 少年局による補助
4.第三者による親権の代行
⑴ 親の同意
⑵ 養育人又は施設への託置
5.子の保護措置と親権の取り上げ
⑴ 総説
⑵ 家庭裁判所が介入するための要件
⑶ 家庭裁判所の保護措置と「相当性の原則」
⑷ 家庭裁判所の保護措置の効果
6.後見及び保佐
⑴ 後見
⑵ 保佐
Ⅴ.児童虐待への対応のメカニズム
1.少年局による社会福祉法上の養育援助
2.少年局による一時保護
⑴ 総説
⑵ 少年局による措置
⑶ 親権との調整
⑷ 統計
3.行政による児童虐待への対応
4.家庭裁判所による保護措置
⑴ 子の保護措置に関する手続
⑵ 保護措置の見直しと変更
5.司法介入の利点
6.制度上又は運用上の問題点
Ⅰ.はじめに
本報告書は,「児童虐待の防止等を図り,児童の権利利益を擁護する観点から親権に係る制度の見直しについて検討を行い,その結果に基づいて必要な措置を講ずる」(児虐法附則2条)際の参考資料とするため,ドイツの法制を紹介するものである。
ドイツにおいても,日本と同じく児童虐待が大きな社会問題となっており,それに対応するため,この数年間で次々と法改正が行われてきた。そのため,ドイツの動向は,日本での立法作業においても参考になる点が少なくないと思われる。以下では,本報告書の調査対象を明確にし(Ⅱ),ドイツにおける近時の法改正(Ⅲ)を概観したうえで,民法上の親権に関する制度(親権の帰属と変更,親権の内容,親権行使の支援,第三者による親権の代行),そして親権の取り上げを含む家庭裁判所の保護措置及びその効果(後見人・保佐人の選任を含む)について紹介する(Ⅳ)。ついで,ドイツにおける児童虐待に対応するためのメカニズムとして,少年局による養育援助措置及び初動措置としての一時保護から,家庭裁判所による保護措置の手続を経て,子が養育人又は施設に託置されるまでの一連の流れについて,実務上の観点を含めて検討する(Ⅴ)。
本報告書を作成するにあたって,ドイツにおける親権及び児童虐待の取扱いに関する基本文献を参照したほか,複数の州において研究者及び実務家に聞き取り調査を行った(参考文献及び調査対象者は末尾に掲げた)。ドイツにおいては,州又は都市ごとに特色のある対応方法をとっていることがあるため,以下では必要に応じてその旨を明記する。
Ⅱ.調査対象
1.総説
本報告書の直接の調査対象は,児童虐待との関係で問題となる親権の規律である。もっとも,ドイツにおいては,フランス及びイギリスと同様に,児童虐待の場合に限定して適用される親権法のルールは存在しないため¹,以下では,親権法全般を対象に含めて検討する。
2.基本概念
⑴ 保護の対象となる子
ドイツにおける成人年齢は18歳(BGB 2条)²であり,基本的には18 歳未満の者すべてが保護の対象となる。ただし,ドイツ社会福祉法第8編(SGB Ⅷ)「児童及び青少年援助(Kinder- und Jugendhilfe)」³においては,14歳未満の者を「児童」(Kind),14歳以上18歳未満の者を「青少年」(Jugendliche)としており(SGB Ⅷ7条1項1・2号),少年局の養育援助措置によっては,両者を区別している事項もある。それに対して,ドイツ民法(BGB)は,未成年者すべてを指すものとして,「子」 (Kind)という概念を用いている。以下では,特に14歳未満の者と14歳以上18歳未満の者を区別する場合には,各々「児童」又は「青少年」と明記し,それ以外の文脈では,未成年者全般を指して「子」と称するのを原則とする(ただし,後者の意味で「児童」ということもある)。
⑵ 「親権」概念
ドイツ民法は,「親権」(elterliche Sorge)⁴を,「未成年者の世話をするという親の義務であり,権利である」と定義している(BGB 1626 条1項1文)。親権は,子に対する身上監護(Personensorge) と財産管理(Vermögenssorge)の双方を含む(同項2文)。
ドイツ法上,親権は,基本法(憲法)⁵によって保障された権利である。基本法(GG)6条2項1文は,「子の監護養育は親の自然の権利であり,何よりも親に課された義務である」と定めている。親は,優先的にかつ独立して,自らの責任において子の監護養育を行う基本的権利をもつが,これは, 子の福祉を最もよく実現できるのは,まさにその親であるという発想による⁶ 。それゆえ,親権は自由権の一つであり,親権者は,国家による監督(同項2文)以外の介入を拒否でき⁷,親責任をどのように果たすかを自由に決定する権利をもつ⁸。その意味では,GG6条2項は,国家に一定の行動の指針を与えるものでもある⁹。もっとも,GG6条2項に基づく親,子,国家という三者の相互関係のあり方は,固定的ではなく,数次の法改正を経て発展してきた。
歴史的には,親権の概念は,「父の権利」から「父母の権利」へと発展してきたが,さらに1979年7月18日「親権の新しい規律に関する法律」¹⁰は,親権の規律における子の人格及び権利を中心に据え,親の義務としての側面を重視するに至っている。それに伴い,従来の「親の権力(elterliche Gewalt)」という名称は,「親権(elterliche Sorge)」¹¹に変更された。また,子の共同決定権が一定範囲で保証されたほか,国家による要保護児童のための介入措置が拡充されている。そして,1997年12月16日「親子法の改正に関する法律」¹²によって,嫡出子と非嫡出子の区別が撤廃され,親権についても規定が統一された。また同法は,親子の面接交流が子の権利であることを初めて明文化している (BGB 1684 条1項)。
⑶ 行政による保護措置と司法の関与
ドイツにおいては,親が親権者としての責任を果たさず,児童が保護を必要としている場合に,国家が監督者(staatliches Wächteramt)として介入する。そして,行政機関である少年局は,緊急の場合には,司法の関与なしに児童を保護することができる(SGB Ⅷ 42 条)。しかし,このような緊急の暫定的な措置がとられる場合を除けば,行政単独での児童の保護は,親権者との合意に基づいて行われるのが原則であり,この合意が成り立たないときに,司法の関与が必要となる(SGB Ⅷ 8a 条3項,42 条3項2文)。つまり,子の福祉のための親権への介入は,必ず司法が民法上の規定に基づいて行わなければならない¹³。日本との比較法という観点からは,ドイツ法上,親権者の同意が得られず,司法が関与する場合の保護措置のあり方が重要であるため,以下では,この点を特に詳しく論ずることとする。なお,ドイツにおいて子の保護措置に関する事物管轄をもつ司法機関は,「家庭裁判所」(Familiengericht)であるが¹⁴,日本のような独立の裁判組織ではなく,区裁判所(Amtsgericht)の家庭部であって,それを一般に家庭裁判所と称しているに過ぎない。
Ⅲ.ドイツにおける近時の法改正
ドイツにおいては,近年,児童虐待への対応策が盛んに議論されており,少年局の役割,そして家庭裁判所による保護措置及びその手続について複数の重要な法改正がなされている。
公法及び社会保障法上は,1991年までは,少年局が――後見裁判所による保護措置と並行して ――行政機関として養育補助人を選任・監督すること(JWG 55~61 条),そして保護養育措置をとること(Fürsorgeerziehung: JWG 62~77 条)が認められていた¹⁵。しかし,1991年に社会福祉法第8編 「児童及び青少年援助」が制定されてからは,親権への介入は後見裁判所(1997年親子法改正後は家庭裁判所)の専権事項とされ,少年局の役割は,子の一時保護(SGB Ⅷ 42 条)を除いて,家族への助言と援助に限定された(SGB Ⅷ 27 条以下)。つまり,少年局は子の養育援助のための公的給付を行うもので,親はその公的給付を求める権利をもつと整理された¹⁶。
もっとも,この法改正によって,少年局は単なるサービス機関であるとの誤解が生じたほか,実務上も,児童虐待のケースで少年局があらゆる手段を尽くしても奏功せず,最後の手段として親権の取り上げだけが残された段階で初めて,家庭裁判所に保護措置の申立てがなされるようになった。そこで,改めて2005年の社会福祉法第8編「児童及び青少年援助」の改正によって¹⁷,少年局は,国家による児童及び青少年保護のための介入権限をもつこと(SGB Ⅷ 1条3項3文),そして児童虐待の予防措置を責務とし,子の福祉への危険性があるだけで介入しうることが明記された。特に SGB Ⅷ 8a 条3項は,少年局は,監護権者等が非協力的であるときには,直ちに家庭裁判所に保護措置を申し立てうること(同1文),また急迫の危険があり,家庭裁判所の決定を待つ時間的余裕がないときには,子を保護する義務を負うこと(同2文)を定めている¹⁸。
ついで,家庭裁判所による保護措置を充実させるため,2008年7月4日には「子の福祉の危殆化における家庭裁判所の措置の容易化のための法律」¹⁹が制定された。同法は,非訟事件手続法(FGG)50e 条(子の居所,面接交流,返還に関する手続及び子の保護手続の優先的かつ迅速な処理;FamFG 155 条1~3項に移行)及び 50f 条(BGB 1666 条及び 1666a 条の措置をとるための親及び子との討議; FamFG 157 条1項に移行)の導入に加えて,民法(BGB)に 1631b 条,1666 条1・3項,1696 条3項を付加した。これらの規定は,2005年の社会福祉法第8編「児童及び青少年援助」の改正と相まって,家庭裁判所が少年局と緊密に協力して親を援助し,早期に介入できるように,保護措置をとる際のハードルを下げている(niedrigschwelligere Maßnahmen)。
とりわけ BGB 新 1666 条1項によれば,家庭裁判所は,親の不適切な行為又は養育の失敗等を要件とすることなく,子の福祉が危険にさらされている又はそのおそれがあるだけで,必要な保護措置をとることができる。また BGB 新 1666 条3項は,家庭裁判所への指針として,選択肢となりうる保護措置を例示列挙している。ただし,従前どおり「相当性の原則」(Verhältnismäßigkeitsprinzip)が妥当するため,家庭裁判所は,より介入度の低い適切な措置をとりえない場合にのみ,子を親の家庭から引き離し(BGB 1631b 条,1666a 条1項),あるいは親権を部分的又は全面的に取り上げることができる(BGB 1666a 条2項)。さらに,家庭裁判所が一旦,BGB 1666~1667 条に定める措置をとった又は差し控えた場合であっても,事後的な子の情況の変化に対応するため,一定期間を置いてその見直しをすることとされている(BGB 新 1696 条3項;FamFG 166 条2・3項に移行)²⁰。
2008年12月17日には,「家事事件及び非訟事件の手続に関する法律」(FamFG)(2009年9月1日施行)²¹が制定された。同法は,家事事件及び非訟事件の手続に関する規定を整備し,体系化することを目的とし,非訟事件手続法(FGG)及び民事訴訟法(ZPO)の関連規定を改正している。特に重要な改正点(又は改正 FGG からの移行)として,①当事者が処分権をもつ事項に関する裁判上の和解の導入(FamFG 36 条),②裁判上及び裁判外での調停の促進(FamFG 135 条,156 条1項),③子の居所,面接交流,返還に関する手続及び子の保護手続の優先的かつ迅速な処理(FamFG 155 条1~3項[FGG 50e 条1~3項]),④BGB 1666 条及び 1666a 条の措置をとるための親及び子との討議 (FamFG 157 条1項[FGG 50f 条1・2項]),⑤手続補佐人による子の地位の向上(FamFG 158 条),⑥面接権の行使及び子の返還命令に関する執行方法の強化(FamFG 88 条以下),そして⑦仮処分の改善 (FamFG 49 条以下)が挙げられる。
さらに,行政による児童虐待への対応措置を整備するため,2009年1月21日にはドイツ連邦議会の第16会期において,特別法である「児童保護促進法(Gesetz zur Verbesserung des Kinderschutzes)」 の法案が提出された²²。しかし,同法案に関しては,児童虐待の通報義務の対象者が過度に拡大されたこと(学校の教員やベビーシッター等も対象),しかも児童虐待の通報後には少年局が必ず家庭訪問を行うことと明記されたこと(通報者からの聞き取り,学校訪問などの代替措置をとれなくなる)²³などが批判され,最終的に不成立に終わった。もっとも,新聞報道及びサルゴー教授の情報によれば,現在の連邦議会第17会期において,必要な修正を加えたうえで再度法案が提出される予定であるという(2010年1月27日には,新家族相の下で第1回専門家会合が開催される)。
IV. ドイツ民法上の制度の概要
1.親権の帰属と変更
⑴ 親権の帰属
⒜ 婚姻に基づく共同親権
ドイツ民法上,子の出生時点で父母が婚姻していれば,自動的に共同親権となる(BGB 1626a 条1項の反対解釈)(婚姻に基づく共同親権)。婚姻している父母は,特別の意思表示をすることなく, 法律に基づいて共同親権者となり,その法律効果の発生を妨げることはできない。共同親権は,法律上の原因(一方の親の死亡など)又は家庭裁判所の決定によって変更されるまで存続する。父母が別居又は離婚しても,一方の親が家庭裁判所に変更の申立てをしないかぎり共同親権が存続する。
婚姻に基づく共同親権の基準時点は,子の出生時である。子の出生時点で父母がすでに離婚している場合には,母の夫の子であることが争われていなくても,共同親権は成立せず,母の単独親権となる(BGB 1626a 条2項)。また,婚姻に基づく共同親権は,父母と子との間に法的な親子関係が成立していること,特に母の夫と子との父子関係の存在を前提とする。それゆえ,父母が子の出生時点で婚姻していても,家庭裁判所の決定によって父子関係が否認されれば,共同親権は成立しない²⁴。
父母が子の出生時点で未婚であり,「親権宣言」(後述⒝参照)もしていない場合には,母の単独親権となる(BGB 1626a 条2項)。そして,父母が事後的に婚姻すれば,婚姻の時点から法律に基づいて共同親権に切り替えられる(BGB 1626a 条1項2号)。判例上は,母が子の出生時点で未婚であり,親権宣言もしていなかったために単独親権者であったが(BGB 1626a 条 2項),BGB 1666 条に基づいて親権を取り上げられ,父ではなく少年局が後見人として親権を代行していた事案では,父母が事後的に婚姻しても,父は共同親権者にも単独親権者にもならないと判断された。この場合に,父が親権を取得するためには,BGB 1696 条に基づく家庭裁判所の決定の変更が必要になる²⁵。
⒝ 親権宣言に基づく共同親権
父母が子の出生時点において婚姻していなくても,両者が「親権宣言」(Sorgeerklärung)をすれば,共同親権者となる(BGB 1626a 条1項1号)(意思表示に基づく共同親権)。親権宣言は,親の自己決定権の尊重を基礎とするため(Elternautonomie),父母の意思表示だけで成立し,家庭裁判所による審査(親権宣言が子の福祉にかなうか否か)や子の同意は要件とされていない。また,父母の同居も要件ではない²⁶。
親権宣言は,要式行為として公正証書によって行われ(BGB 1626d 条1項),その作成権限は公証人及び少年局(SGB Ⅷ59 条1項8号)がもつ。親権宣言においては,父母は自ら意思表示をしなければならず,代理及び使者は許されない(BGB 1626c 条1項)。行為能力を制限された親も,自ら意思表示をしなければならず,それに加えて法定代理人の同意(ただし家庭裁判所の決定によって代えることができる)も要件とされる(2項)。親が行為無能力者である場合については規定が欠缺しているが,解釈として,親権宣言を行い得ないと解されている。意思表示の瑕疵は問題とされず,詐欺又は錯誤があった場合にも,親権宣言は完全に有効なものとなる²⁷。親権宣言に条件又は期限を付すことは認められていない(BGB 1626b 条1項)。親権宣言は,子の出生前にも行いうるし(BGB 1626b 条2項),子が成人するまでのどの時点で行ってもよい²⁸。
親権宣言によって,母の単独親権(BGB 1626a 条2項)を父の単独親権とすることは認められないが,親権の一部だけを共同親権とできるか否かについては,解釈が分かれている²⁹。親権の帰属について家庭裁判所がすでに決定を下した(BGB 1671 条,1672 条)又は変更した(BGB 1696 条1項)場合には,親権宣言を行うことはできない(BGB 1626b 条3項)。
親権宣言は,父母の契約ではなく,「並行する意思表示」である。両者が現在して,一緒に親権宣言を行う必要はなく,別の機会に別の公証人のもとで行ってもよい。ただし,親権宣言は,父母双方の宣言が行われて初めて効力をもつ。親権宣言が一旦なされると,将来に向けて拘束力をもち,父母の合意によって変更することはできず,父母の別居後の家庭裁判所の決定(BGB 1671 条),あるいは特別の法律上の事由(BGB 1678 条1項,1680 条1・3項)によってのみ変更されうる³⁰。
⒞ 非婚母の単独親権
父母が婚姻をしておらず,親権宣言も行っていない場合には,母の単独親権となる(BGB 1626a 条2項)(母子関係に基づく単独親権)。非婚父が法律に基づいて自動的に親権を取得することはない。 母が出産中に死亡した場合であっても,父は家庭裁判所の決定を得て初めて,親権を取得することができる(BGB 1680 条2項2文類推適用)。
この非婚母の単独親権の原則は(BGB 1626a 条),非婚の父母から出生した子について,法律上分娩の事実によって成立するのは母子関係だけであること(BGB 1591 条),そして子は出生の時点から親権者をもつべきであることを理由とする³¹。しかし,実際には,父は,母の同意がなければ子を認知できず(BGB 1595 条1項),親権宣言をして共同親権を取得することもできない(そもそも親権宣言によって父が単独親権を取得することはない)(BGB 1626a 条 1項1号)。また,父は,母と継続して別居するに至った場合にも,母の同意に基づいて家庭裁判所に親権の全部又は一部移転の申立てをし,それが子の福祉にかなうと判断されて初めて,共同親権又は単独親権を取得する(BGB 1672 条1項)。つまり,母の同意がなければ,父は,別居又は離婚後も親権を取得することはない。これは,事実上,母が「拒否権(Vetorecht)」をもつことを意味する。
さらに,単独親権をもつ母が死亡したとき,あるいは母の親権が取り上げられた(BGB 1666 条) 又は停止した(BGB 1674 条1項)ときにも,父が自動的に親権を取得することはなく,家庭裁判所に申立てをし,父による親権行使が子の福祉にかなうと判断されて初めて,親権を取得することができる(BGB 1678 条2項,1680 条2・3項)。また,単独親権をもつ母が別の男性と婚姻したときには, 継父が子の日常生活に関する事項について共同決定権をもつのに対して(BGB 1687b 条1項),実父には面接権が認められるに過ぎない(BGB 1684 条)。その一方で,母は通常,子を現実に監護するこ とで扶養義務を履行しうるのに対して(BGB 1606 条3項2文),父は,子に対して扶養料を支払う義務を負っており(BGB 1601 条),「支払いのための父」(Zahlungsväter)であるとも指摘されている。
連邦憲法裁判所は,2003年1月29日の決定で³²,非婚父が裁判所に対して母との共同親権を求めた事件において(母は親権宣言を拒否していた),BGB 1626a 条の規定自体は,非婚父の家庭生活の尊重に対する権利を侵害するものではなく,合憲であると判断した(GG 3条2項,6条2項)³³。しかし,他のヨーロッパ諸国の多くは,両性平等に配慮して,母の意思とは無関係に,あるいは少なくとも裁判所の決定によって,非婚父が親権を取得する可能性を開いており,母の拒否権を認めていない。ドイツの学説も,現行親子法は母の同意を基準とした非整合的なもので,非婚母の権利を強化する一方で子の福祉を十分に尊重しておらず,比較法的な動向にも反するとして,連邦憲法裁判所の決定を批判していた³⁴。そして,同事件について父から申立てを受けた欧州人権裁判所は,2009年12月3日判決において³⁵,ドイツの裁判所がBGB 1626a 条に基づいて非婚父の共同親権を否定したのは,非婚父を非婚母及び既婚父と比べて差別するもので,欧州人権条約(EMRK)14条「平等権」違反があったとした³⁶。
欧州人権裁判所の判決は,締約国であるドイツに対して直接の拘束力をもたないため,BGB 1626a 条の規定は,――連邦憲法裁判所による違憲判決の場合と異なって――自動的に失効するわけではない。しかし,ドイツは,欧州人権条約の遵守義務を負っており(欧州人権条約1条),敗訴締約国として,判決内容を実現するのに必要な措置をとらなければならない(欧州人権条約46条1項)。それゆえ,ドイツの立法者は,まもなく BGB 1626a 条及び関連規定の改正作業に着手するものと予想される。
⒟ その他
親権者としての資格をもつのは,実親だけではなく,養親も対象となる。夫婦による共同養子縁組又は配偶者の子との養子縁組においては共同親権が成立し,それ以外の単独養子縁組においては単独親権が成立する(BGB 1754 条3項)。
⑵ 親権の行使
単独親権者である親は,子の身上監護及び財産管理に関する事項について単独で決定する。他方の親は,たとえ子との面接権をもっていたとしても,親権に関する事項には干渉できない。それに対して,父母が共同親権を行使する場合には,両者が同等の権利義務をもち,自己の(ただし共通の)責任において,相互の合意を基礎として子の福祉のために親権を行使する(BGB 1627 条1文)。親権行使について父母の意見が相違する場合には,まず合意に達する努力をする(BGB 1627 条2文)。それでも父母が合意に達しないとき,いずれの親も優先権をもたず,将来にわたって優先権を取り決めることもできない。そこで,父母は,家庭裁判所に対して,重要な個別事項又は特定種類の事項に関する決定権を付与するよう求めることができる(BGB 1628 条)。 父母が BGB 1628 条に基づく決定権の付与を申立てた場合には,家庭裁判所は,遅滞なく,子の福祉に鑑みてより実質的な根拠のある立場を主張している親に決定権を与える(BGB 1697a 条)。たとえば,父母が子に高等教育を受けさせるべきか否か争っているとき,家庭裁判所は,子の才能と関心,そして家庭の経済状況を勘案したうえで,具体的な状況においてより根拠のある立場に立っている親に決定権をゆだねる。その際には,家庭裁判所は,どの具体的な事項について又はどの種類の事項について一方の親が優先権をもつかを正確に定める。その親は,単独で代理権を行使するため,第三者との関係でも対象事項を明確にしておく必要がある³⁷。なお,共同親権者は,緊急の場合には各々単独で代理権を行使することができる(BGB 1629 条 1項4文)。
⑶ 別居又は離婚後の親権
⒜ 共同親権の継続
(aa) 基本原則
共同親権を行使していた父母が別居又は離婚するに至った場合には,家庭裁判所に単独親権への変更又は親権の一部移転を請求することができる(BGB 1671 条1項)。他方の親権者が申立てに同意した場合(BGB 1671 条2項1号),あるいは家庭裁判所が共同親権の終了及び申立人への親権の移 転が子の福祉に最もかなうと判断した場合には(BGB 1671 条2項2号),申立てが認容される。ただし,前者の場合に14歳以上の子が反対しているときは,この限りでない(BGB 1671 条2項1号)。
これは,換言すれば,父母の別居又は離婚後であっても,単独親権への変更又は親権の一部移転の申立てがなされないかぎり,共同親権が継続することを意味する(BGB 1671 条1~3項)。つまり,法律上の効果として,別居又は離婚後も共同親権が継続することが前提とされている³⁸。手続法上も,1977年離婚法改正後は,離婚手続において,必ず離婚後の親権の帰属が附帯的に決定されていたが(必要的併合手続:Zwangsverbund),1997年親子法制定後は,父母の一方が第一審の口頭弁論終結時までに申立てをしなければ,併合手続は行われない(FamFG 137 条3項)³⁹。
ところが,共同親権は,父母がそれが変更可能であることを知らず,変更の申立てをしなかったために継続することもある。また,一方の親が単独親権への変更を求めたが,他方の親が同意せず,申立てが棄却されたために,共同親権が継続することもある。父母双方が家庭裁判所に単独親権への変更を申立てたが,いずれも自己の単独親権が子の福祉に最もかなうことを証明できないときにも (ノン・リケット)(同条2項2号),共同親権が継続しうる。そして,家庭裁判所が事後的に共同親権を単独親権に変更するためには,子の福祉にとって重大な事由のあることが要件となるため(BGB 1696 条1項),ごく例外的にしか認められない。そもそも共同親権の行使において,少なくとも重要事項に関しては父母の合意が必要とされる(BGB 1687 条1項1文)。しかし,係争中の父母が合意することは稀であり,その都度,家庭裁判所に一方の親への決定権の付与を求めざるを得ず(BGB 1628 条),時間とコストがかかるうえ,当事者にとっても心理的な負担となる。それゆえ,特に1997年の親子法制定時には,父母の別居又は離婚後も原則として共同親権が継続する扱いとなっている点は問題が多いこと,むしろ比較法的な動向にも鑑みて,父母が積極的に共同親権を選択したときにだけ共同親権が継続するルールを採用すべきであったことを指摘する見解が多く見られた⁴⁰。
もっとも,1997年親子法の運用状況をみるかぎり,現実には,家庭裁判所は,父母が別居又は離婚後に協力して監護養育に当たる意思又は能力がないと判断すれば(子の学校教育の内容や留年の必要性について合意できない場合など),直ちに共同親権を単独親権に切り替え,母を単独親権者とする事案が多いと指摘されている。したがって,学者が危惧していたよりも,現実に共同親権の継続が問題となるケースは少ないと評価してよいであろう⁴¹。
(bb) 別居又は離婚後の共同親権の行使
父母が継続して別居するに至ったときには,共同親権が継続する場合にも,親権行使のあり方は変容する⁴²。立法者は,父母の別居又は離婚後には,子が一方の親と同居することが多いことに鑑みて,BGB 1687 条1項の規定を置いた。これは,引き取り型(Residenzmodel)を前提とするもので,実際にも父母の離婚後,約85%の子が母のもとで生活しているとされる⁴³。
BGB 1687 条1項によれば,父母が継続して別居するに至ったときには,父母の合意は,「子にとって重要な意味をもつ事項」についてのみ必要とされる(BGB 1687 条1項1文)。それ以外の「日常生活に関する事項」については,他方の親の同意又は家庭裁判所の決定に基づいて子と同居している親が,単独で決定する権限をもつ(BGB 1687 条1項2文)。この原則は,父母の別居又は離婚後の共同親権を「分割」したうえで,重要事項については父母が共同で決定し,日常生活に関する事項については子と共に生活している親が単独で決定することを意味する。重要事項について父母が合意できなければ,家庭裁判所に申し立て,父母の一方に決定権を付与してもらう(BGB 1628 条)⁴⁴。
BGB 1687 条1項1文にいう重要事項とは,現実の身上監護に関する基本的な決定,子の居所指定,通学,宗教教育及び職業教育,医療行為への同意,そして財産管理に関する重要事項などを指す⁴⁵。それに対して,BGB 1687 条1項2文にいう日常生活に関する事項とは,通常,頻繁に発生し,子 の成長に大きな変化をもたらさない事項を指す(同3文)。具体的には,通常の医療行為において生ずる個別の問題,選択された学校教育又は職業教育の枠内での決定,聞き分けのない子のしつけの仕方,重要度の低い財産管理の方法(小遣いの額など)などを指す。他方,子の健康を脅かすような遠方への旅行,関係者による面接交流,裁判所の許可を要する財産処分(BGB 1643 条)などは,父母の合意が必要とされる重要事項(BGB 1687 条1項1文)に当たる⁴⁶。
このような共同親権の分割は,別居が一時的ではなく継続しているときにだけ認められる(BGB 1567 条1・2項参照)。別居していた父母が再び同居を開始した場合には,直ちに完全な共同親権が復活する。また,日常生活に関する事項について単独の決定権をもつのは,子を合法的に――他方親権者の同意又は家庭裁判所の決定に基づいて(BGB 1628 条,1666 条など)――監護している親である(BGB 1687 条1項2文)。それゆえ,子を違法に奪取して同居を開始した親などは対象外であり, 共同親権の分割はなされず,完全な共同親権が妥当する⁴⁷。
家庭裁判所は,子の福祉に鑑みて必要があれば,日常生活事項に関する単独の決定権(BGB 1687 条1項2文)を変更又は排除することができる(同条2項)。家庭裁判所の決定によって,日常生活事項の範囲を拡大することはできないが,BGB 1671 条1項に基づいて一方の親に特定事項に関する単独親権を付与すれば,同じ効果が得られる。また,共同親権者は,緊急の場合には各々単独で代理権を行使できるほか(BGB 1687 条1項5文;1629 条 1項4文準用),相互に復代理権を付与することもできる(ただし常に撤回権は留保される)⁴⁸。
そのほか,子が他方の親の同意又は家庭裁判所の裁判に基づいて,一方の親のもとに一時的に――面接権の行使(BGB 1684 条)等のために――滞在している場合にも,その親は,子の事実上の世話について単独で決定する権限をもつ(BGB 1687 条1項4文)。ここでの決定権の対象は,事実上の世話に限られ,法律行為を含まない。ただし,緊急時には,その親も単独で代理権を行使することができる(BGB 1687 条1項5文;1629 条1項 4文準用)。
⒝ 単独親権
父母が婚姻も親権宣言もしておらず,母が母子関係に基づいて単独親権者となっており(BGB 1626a 条2項),父母が継続して別居するに至ったときには,父は,母の同意に基づいて家庭裁判所に親権の全部又は一部移転の申立てをし,それが子の福祉にかなうと判断されれば,共同親権又は単独親権を取得する(BGB 1672 条1項)。現行法上,父が単独で家庭裁判所に申立てをすることはできず, 常に母の同意が要件とされていることの問題点は,上述のとおりである(上述Ⅳ-1-⑴参照)。
⑷ 親権の停止及び終了
⒜ 親権の停止及び親権行使の障碍
親が行為無能力であれば,親権は停止する(BGB 1673 条1項)。親が制限行為能力者であるときも親権は停止し(BGB 1673 条2項1文),親は子の法定代理人とともに身上監護権をもつが,代理権はもたない(同2文)。子の法定代理人である後見人又は保佐人と,未成年である親の意見が相違する場合には,親の意見が優先する(BGB 1628 条も適用されうる)。これらの法律上の障碍のほか,親が事実上,相当期間にわたって親権を行使できないときにも,家庭裁判所は親権を停止することができる(BGB 1674 条1項)。ただし,事実上の障碍が消滅すれば,家庭裁判所は親権停止を解除する (BGB 1674 条2項)。
共同親権者の一方が,事実上の障碍によって親権を行使できない又は親権が停止している場合に, 他方の親が親権を行使できるときには,その親が単独で行使する(BGB 1678 条1項)。父母がいずれも事実上又は法律上,親権を行使することができない場合には,家庭裁判所が子の利益のために必要な措置をとる(BGB 1693 条)。家庭裁判所による措置としては,特定事務のための保佐人の選任(BGB 1909 条1項),子の養育人(Pflegeperson:里親)への託置,権利喪失のリスクがある緊急時(上訴期間の渡過など)の子の代理などがある。親権を行使する者がいないとき,あるいは父母双方が身上監護及び財産管理の双方について子を代理する権限をもたないときには,後見人が選任される(BGB 1773 条1項)⁴⁹(後述Ⅳ-6 参照)。
⒝ 死亡,死亡宣告,親権の取り上げ
親権者の死亡については,①共同親権者の一人が死亡すれば,他方の親が単独親権者となる (BGB 1680 条1項)。他方,単独親権者が死亡した場合には,家庭裁判所の決定によって他方の親に親権が移転されうるが,その要件については場合分けがなされる。すなわち,②父母の別居又は離婚後,家庭裁判所の決定によって単独親権者とされていた親(BGB 1671 条又は 1672 条1項)が死亡した場合には,他方の親への親権の移転が子の福祉に反しないことで足りる(BGB 1680 条2項1文)。この場合には,他方の親が過去において一旦は親権者であったため,親権移転の要件が緩和されている。それに対して,③BGB 1626a 条によって単独親権者であった母が死亡した場合には,父への親権の移転は,それが積極的に子の福祉に資するときにだけ認められる(BGB 1680 条2項2文)⁵⁰。
共同親権者の一人又は単独親権者が死亡宣告を受けた場合にも,これらの原則①~③(BGB 1680 条1・2項)が準用される(BGB 1681 条1項)。
BGB 1666 条に基づく子の保護措置として,①共同親権者の一方から親権が取り上げられた場合には,他方の親が親権を行使するのが原則である(BGB 1680 条3項;同条1項準用)。③BGB 1626a 条に基づいて単独親権者であった母から親権が取り上げられた場合には,父への親権の移転が子の福祉に資するときに,父が単独親権者となる(BGB 1680 条3項;同条2項2文準用)。ただし,④父母の別居又は離婚後,家庭裁判所の決定によって単独親権者とされていた親(BGB 1671 条又は 1672 条1項)から親権が取り上げられた場合には,上記②の原則は妥当しない。この場合には,家庭裁判所の決定の事後的変更として,子の福祉に関わる重大な事由に従い必要とされるかぎり(BGB 1696 条1項),他方の親に親権が移転されうる⁵¹(後述 Ⅳ-5-⑷参照)。
2.親権の内容
⑴ 総説
親権は,身上監護(Personensorge)と財産管理(Vermögenssorge)からなる(BGB 1626 条1項)。
身上監護は,特に子の世話をし,子を教育し,子を監督し,子の居所を決定する義務と権利を包括する(BGB 1631 条1項)。子の世話とは,子の身体の健康及び健全な成長に対する配慮を指す。 子は,非暴力の監護養育を受ける権利をもち,体罰,心罰等は許されない(BGB 1631 条2項)。子の教育とは,子の精神的,情緒的,社会的な成長に対する配慮を指し,学校教育及び職業教育,そして 宗教教育の選択及び支援がその対象となる。親は,特に子の教育及び職業選択に当たっては,子の適性と希望を考慮する(BGB 1631a 条)⁵²。身上監護からは,子を監督する義務と権利も導かれ,親は,子が違法な行為によって第三者に与えた損害を賠償する責任を負う(監督義務違反の推定:BGB 832 条1項)⁵³。他方,親の子に対する損害賠償責任については,自己の事務に関する注意(BGB 277 条) と同じ注意を払っていれば免責される(BGB 1664 条)⁵⁴。身上監護は,子の氏名及び身分に関する事 項も対象とする。それゆえ,身上監護権をもつ親は,子の名を決定し,(選択が認められる限りにお いて)子の氏も決定する⁵⁵。
財産管理(BGB 1626 条1項2文)の目的は,第一義的には,子の利益のために財産を維持し, 増加させ,処分することにある。原則として,子の財産全体が親権者によって管理され,処分される。 ただし,子が相続又は贈与によって取得した財産であって,被相続人又は贈与者が終意処分又は贈与に際して親による管理処分を禁止した場合には,対象外となる(BGB 1638 条1項)。親権者が,子に不利益を及ぼす管理処分,リスクのある管理処分,あるいは特に重要な管理処分を行うには,家庭裁判所の許可を得なければならない(BGB 1643 条;1821 条,1822 条1,3,5,8ないし11号)。親権者が子の財産を適切に管理せず,財産が危殆化している場合には,家庭裁判所は,BGB 1666 条1項 に基づいて親権を全面的又は部分的に取り上げることができる。
児童虐待との関係では,もっぱら身上監護が問題となり,財産管理は間接的にしか問題とならないため,以下では身上監護を中心に論ずることとする。
⑵ 身上監護権とその行使
身上監護は,事実行為及び法律行為によって行われる。子の監護養育は,日々の世話と親子の交流によって実現されるため,事実行為によることが多い。他方,親には,身上監護のための様々な 法的権限が与えられ,法定代理権,子の居所指定権,子の引渡請求権,そして面接交流の決定権を包括する。ただし,婚姻している又は婚姻していた子の身上監護は,法定代理権に限定される(BGB 1633 条)。
⒜ 法定代理権
父母は,共同親権の場合には共同して,単独親権の場合には単独で,法的行為(法律行為に限定されない)を行うために代理権を行使する(BGB 1629 条1項2・3文)。父母は,子の名において法律行為を行い,また行為能力を制限された未成年者の法律行為に同意を与える(BGB 107 条)。共同親権の場合,父母は共同して意思表示をし,子の名における契約書には父母双方が署名する。ただし,一方の親は,他方の親に復代理権を授与することで,特定の法律行為を委任することができる⁵⁶。
父母が共同親権をもつ場合であっても,以下の場合には,一方の親が単独で代理権を行使しうる。①子に対する意思表示は,一方の親に対して行えば足りる(BGB 1629 条1項2文)。②別居中の父母が重要事項について合意に達しない場合には,家庭裁判所によって決定権を与えられた一方の親が単独で代理権を行使する(BGB 1628 条1文;1629 条1項3文)。③父母が別居中の場合,日常生活事項については,子を現実に監護している親が単独で代理権を行使できる(BGB 1687条1項2文)。 ④一方の親が特定事項について単独親権をもつ場合にも(BGB 1666 条に基づいて他方の親の健康管理権が取り上げられている場合など),当該事項について単独で代理権を行使する(BGB 1680 条3項及び1項)。⑤緊急の場合には,一方の親が単独で,子の福祉のために必要な法的行為を行うことができる。他方の親には,遅滞なくその旨を通知する(BGB 1629 条1項4文)。⑥子を現実に監護している親は,子の名において,他方の親に対して扶養請求権を行使することができる(BGB 1629 条2項2文)⁵⁷。
BGB 1629 条に定める法定代理権は,親権行使の範囲内での法律行為のほか,法律行為に準ずる行為,医療行為への同意,法的係争などを対象とする⁵⁸。特に医療行為については,親は,法定代理人として,子の名において医師又は病院等と診療契約を締結しうるが,現実には,親の名において診療契約を締結し,親が対価を支払う義務を負うことが多い(いずれの類型であるかは,意思解釈の問題となりうる)⁵⁹。親は,法定代理人として,子の身体への侵襲行為に同意を与えるだけのこともある⁶⁰。他方,子が精神的に成熟しており,十分な判断能力をもつ場合には,子の自己決定権を尊重しなければならない(BGB 1626 条2項)。判例は,医療行為は原則として親の同意だけで行われるが, 当該医療行為が必須ではなく,子の将来の人生設計に甚大な影響がある場合には,子に拒否権が認められるとしている⁶¹。妊娠した子が自ら中絶への同意を与えうるか否かについては,見解が分かれている⁶²。なお,子の生殖機能の除去(Sterilisation)については,親子いずれも同意を与えることができない(BGB 1631c 条)。
⒝ 居所指定権
身上監護権には,子の居所指定権が含まれる(BGB 1631 条1項)。居所指定とは,子が長期的又は一時的に滞在する場所及び住居を選択・指定することを指す。子に対する居所指定は,法的な行為ではないが,第三者との関係では法的拘束力をもつ。それゆえ,親が居所として指定した場所以外のところで第三者が子を拘束することは,絶対権の侵害(BGB 823 条1項)に当たる。
居所指定権は,親が子の世話,教育及び監督を行うのに不可欠な権利である。親は,子の居所指定権に基づき,子を入院させ,子を寄宿舎付きの学校に入れ,あるいは学校教育又は職業教育等のために子を別の住居に住まわせることができる。病院や学校等との契約は,親が自己の名において締結するのが通常であるが,子には保護効が及び,第三者による契約上の義務違反があっても子は保護される(BGB 328 条:第三者のためにする契約)⁶³。
親が子の自由を剥奪する居所指定(限られた空間で,常に監視され,施設外の人間と自由に接触できない状態に置かれること)をするには,家庭裁判所の許可が必要とされる(BGB 1631b 条1文)⁶⁴。自由剥奪を伴う施設への託置は,子の福祉に資するとき,特に重大な自己又は他者への危険を回避するのに必要であって,他の手段では(特に公的援助など)その危険を回避できないときだけ許される(BGB 1631b 条2文)。これは,立法者が BGB 1666 条及び 1666a 条に基づく保護措置のほかに, 監禁による子の福祉の危殆化に対応するため,親が子を施設に託置する際,家庭裁判所に通知させる 仕組みを作ったものである⁶⁵。
⒞ 子の引渡請求権
親権者は,子の居所指定権の一内容として,特に子の引渡請求権をもつ(BGB 1632 条1・2項)。 子が第三者又は一方の親によって違法に留置され,双方又は他方の親が居所指定権を行使できないときに,子の引渡請求が認められる(BGB 1632 条1項)。違法な「留置」に該当するのは,14歳未満程度の子が親の同意なしに引き留められている場合,あるいは成熟した青少年が心理的又は身体的な 強制によって引き留められている場合である⁶⁶。留置が違法であるか否かは,親権者の同意の有無によって決まる。ただし,違法な留置があったときに,子の引渡請求が常に認められるわけではなく, 引渡しが子の福祉を危険にさらす場合(BGB 1666 条),あるいは権利濫用に当たる場合等には否定される⁶⁷。
父母が共同親権をもつ場合,第三者に対する子の引渡請求は,父母双方が,あるいは他方の同意を得た一方の親が家庭裁判所に申し立てることでなされる(BGB 1632 条3項)。両親が合意に達しない場合には,家庭裁判所に申し立て,一方の親に決定権を付与してもらう(BGB 1628 条)。
父母の間での子の引渡しは,通常,両者が別居している場合に問題となる。身上監護権をもつ親,あるいは少なくとも居所指定権を単独で行使している親は,他方の親に対して子の引渡しを請求することができる。父母のいずれが親権又は居所指定権をもつか決まっていない段階では,子の引渡請求権(BGB 1632 条)を行使できず,家庭裁判所に一方の親に対する決定権の付与を求めるか(BGB 1628 条),あるいは単独親権への変更又は親権の部分的移転を求める(BGB 1671 条)ことになる⁶⁸。 子が相当期間,養育人のもとで生活しており,親権者が養育人に子の引渡しを請求しているとき,家庭裁判所は,引渡しによって子の福祉が危険にさらされる場合には,居留命令(Bleibeanordnung) を出し,子が養育人のもとにとどまるよう命ずることができる(BGB 1632 条4項)。それによって, 親による子の引渡請求権が制限され,養育人のもとでの子の安定的な養育環境が守られる(後述Ⅳ-4- ⑵参照)。
子が相当期間,一方の親及びその配偶者(継親),同性パートナー又は面接権をもつ成年者 (BGB 1685 条 1 項)と生活しており,他方の親が単独の居所指定権に基づいて子の引渡しを求める 場合にも,家庭裁判所は同様に,子の居留命令を出すことができる(BGB 1682 条1・2文)。
⒟ 面接交流の決定権
身上監護権は,子の第三者との面接交流の可否について決定する権利も含む(BGB 1632 条2項)。 ただし,親権者による面接交流の決定権は,子が父母と面接する権利(BGB 1684 条1項前段)⁶⁹,そして父母及び特定の第三者が子と面接する権利(BGB 1684 条,1685 条)によって制限される。子と面接交流をする権利をもつのは,親のほか(BGB 1684 条1項後段),祖父母,兄弟姉妹(BGB 1685 条1項),そして子のために事実上の責任を負う関係者――現在又は過去の継親,親のパートナー, 養育人,法的な父子関係のない血縁上の父,養子縁組によって断絶した実方の親族など,子と社会家族的な関係をもつ者――である(BGB 1685 条2項1文)。親以外の者は,子の福祉に資するかぎりで, 面接権を行使することができる(BGB 1626 条3項参照)。 親権者は,他方の親又は第三者がその面接交流に関する決定に違反したときには,家庭裁判所に面接交流の許可又は禁止を求めることができる(BGB 1632 条3項)。父母が共同親権をもつ場合には,父母双方が,あるいは他方の同意を得た一方の親が家庭裁判所に申立てをする。子が16歳以上程度の成熟した青少年であるとき,親は子の自己決定を尊重すべき立場にあることから(BGB 1626 条2項),十分な理由がないかぎり,子の意思に反してその友人,婚約者又は親しい知人等との交流を禁止することはできない⁷⁰。
3.親権行使の支援
⑴ 家庭裁判所による支援措置
家庭裁判所は,父母による親権行使をサポートするため,必要に応じて支援措置をとる(BGB 1631 条3項)。その要件は,親権者からの申立てがあること,そして求められた措置が子の福祉にかなうことである。つまり,親権者が同意していることが前提となる。たとえ強制力を伴う措置であっ ても,それが子の福祉にかなうもので子の成熟度に適しており,しかも他の緩やかな支援措置が失敗した又は成功する見込みがないときには認められる。家庭裁判所による支援措置として,①子に対する訓戒や呼出し,②説得力をもって親の決定が正しいと確認すること,③第三者による子との面接交流の禁止(BGB 1632 条3項参照),④家出した子の親への返還,⑤子を寄宿舎付きの学校に入れること,⑥子の返還のための強制執行の援助(FamFG 90 条2項),などが挙げられる⁷¹。
それに対して,家庭裁判所が親権者の同意なしにとりうる措置は,次の二つに限られる。すな わち,①親権者から養育人又は継親等に対する子の引渡請求について,子の福祉に鑑みて居留命令を出すこと(BGB 1632 条4項,1682 条1・2文),そして②子の福祉が危殆化しているとき,親権の取り上げを含む子の保護措置をとること(BGB 1666 条)である(①については,後述Ⅳ-4-⑵,②については,後述Ⅳ-5 参照)。
⑵ 少年局による補助
少年局は,社会福祉法上の児童及び少年援助(Kinder- und Jugendhilfe)を行うほか(後述Ⅴ-1 参照),民法上も,単独で親権を行使している又は子を監護している親に対して,必要な補助(Beistandschaft)を与える(BGB 1712 条以下)。民法上,少年局による補助が認められる事項は,①父子関係 の確定(強制認知)(BGB 1712 条1項1号),そして②扶養請求権の行使(同2号1文)である。第三者が有償で子を世話している場合には,少年局は,扶養義務者が支払った扶養料からその対価を支 払うことができる(同2号2文)。
申立権者は,補助事項について単独親権をもつ親,共同親権の場合に子を単独で監護している親(BGB 1713 条1項1~3文),そして後見人(BGB 1776 条;1713 条1項3文)である。保佐人も,当該事項について決定権をもつかぎりは,申立権者になると解される(後見に関する規定の準用:BGB 1915 条1項1文)。親が単独で一部の親権だけを行使している場合には,申立人が補助事項について単独の決定権をもつ必要がある。申立権者(親権宣言をしていない非婚母など)は,子の出生前であっても,少年局に補助を求めることができる(BGB 1713 条1項1文)⁷²。
補助の申立てが受理されれば,少年局は,申立ての範囲内で,法律上直ちに子の補助者となる (BGB 1714 条1文)。つまり,家庭裁判所が少年局による補助を決定する必要はない⁷³。少年局は,申立事項について保佐人の法的地位を取得し(BGB 1716 条2文),法定代理権を取得する(BGB 1915 条 1項;1793 条)。ただし,その法定代理権は,――通常の保佐人とは異なって――申立てをした親権者の親権を制限しないため(BGB 1716条1文),親権者も当該事項について法定代理権を維持する。 子の出生前に申立てがなされた場合にも,申立時点から効果が発生するため,少年局は直ちに補助を開始することができる(BGB 1714 条2文)。
少年局による補助は,随時,終了の申立てが受理された時点で直ちに終了する(BGB 1715 条1項;1714 条)。また,申立人が申立権を失った場合(BGB 1715 条2項),あるいは当該補助事項が完了した場合にも(父子関係が法律上有効に確定された場合など),同じく終了する(BGB 1716 条2文; 1918 条3項)。
4.第三者による親権の代行
親権は,親の一身専属的な権利と義務であり,第三者への譲渡は許されず,相続もされない⁷⁴。しかし,親権の行使は,父母の同意に基づいて,第三者にゆだねることができる。
⑴ 親の同意
親は,撤回権を留保したうえで,第三者に親権者としての個別の義務の履行をゆだねることができる。たとえば,隣人に子の面倒を見てもらうこと,家事手伝い人に日常の世話を一部ゆだねること,子を寄宿舎付きの学校に入れることなどがその例である。この場合に,第三者による親権の行使は,親の同意によって正当化される。第三者が子の名において法律行為を行うには,別途授権行為(法定代理権の復代理権の授与)が必要となる。父母の共同親権の場合,第三者に親権行使をゆだねるには,原則として父母双方の同意が必要である。ただし,父母が別居しており,子を現実に監護している親が日常生活事項について第三者に親権の行使をゆだねるときは,他方の親の同意は不要である (BGB 1687 条1項2文)⁷⁵。
⑵ 養育人又は施設への託置
さらに,親が未成年者である又は病気である等の理由で,子を自ら養育できない場合には,子を相当期間,養育人又は施設に託し,その養育を委託することができる(任意の託置)。子を養育人又は施設に託置することは,社会福祉法上の措置としても認められている(SGB Ⅷ 33~35a 条)。 このような相当期間に及ぶ親権の代行の場合,子にとっては,養育人の家庭又は施設において安定した関係を築くことが重要である。そして,父母が親権をもつことを理由に,いつでも介入し,居所指定権に基づいて子の引渡しを要求できるとなると,子に不利益が及ぶ。そこで,立法者は,1997年の親子法改正において,父母の親権を一定範囲で制限し,養育人が子を養育する際の権限を明確化かつ強化した⁷⁶。
現行法上,子が相当期間,養育人又は施設の世話人(以下,本節では「養育人等」という)のもとで生活しているとき,養育人等は,日常生活に関する事項について単独で決定し,親権者を代理する権限をもつ(BGB 1688 条1項1文,同条2項)。この日常生活に関する事項とは,基本的には, 別居中の共同親権者のうち,現実に子を監護する親がもつ単独決定権に関する BGB 1687 条と同じ意味で解釈されている(上述Ⅳ-1-⑶参照)⁷⁷。また,養育人等は,子の勤労収入を管理し,子の扶養料, 保険金,年金その他の社会保障給付を子のために請求して管理する権限をもつ(BGB 1688 条1項2文)。さらに,緊急の場合には,養育人等は,子の福祉のために必要な法的行為(特に医療行為への同意など)を行うことができる(BGB 1688 条1項3文;1629 条1項4文準用)⁷⁸。もっとも,親権者は,別段の意思表示をすることで,養育人等のこれらの権限を排除することができる(BGB 1688 条3項1文)。また,家庭裁判所も,子の福祉のために必要があれば,養育人等のこれらの権限を制限又は排除することができる(同2文)。この BGB 1688 条の規定が,養育人等の法定代理権を根拠付けるのか,あるいは法律上推定された親権者の同意に基づく養育人等の権限を定めるに過ぎないのかについては,争いがある⁷⁹。また,同条が親族又は祖父母による事実上の養育関係にも適用されるか否かについても,見解が分かれている⁸⁰。
親が養育人等に対して子の引渡しを求めるとき,家庭裁判所は,引渡しによって子の福祉が危険にさらされるかぎり,職権で又は養育人等の申立てに基づいて,子が養育人のもとにとどまるよう 命ずることができる(BGB 1632 条4項)。子に対する居留命令(Bleibeanordnung)は,親の権利を実質的に制限するため,子の福祉に基づく明白な根拠付けが必要とされる。その際には,①父母が自ら子の養育を再開するか,あるいは②他の養育人等に子を託置するかによって評価基準が異なり,②のほうが厳格である。すなわち,②においては,相当の確実性をもって,子の身体,精神又は情緒の福祉が害される危険性がないといえるときにだけ,子の引渡しが認められる⁸¹。もっとも,①において父母が自ら子を引き取るときにも,特に子が幼少時から又は長期間にわたって,養育人に監護され,事実上の親子関係が形成されていたような場合には,家庭裁判所は,子が養育人との離別を精神的に克服できるか否かを慎重に審査すべきであるとされている⁸²。
他方,父母の同意があれば,養育人には BGB 1688 条が定める以上の権限が与えられうる。つまり,子が相当期間,養育人の家庭又は施設で生活しているとき,家庭裁判所は,父母又は養育人等の申立てに基づいて,親権の行使(たとえば居所指定,健康管理,学校教育及び高等教育に関する事項,あるいは身上監護全般)を養育人にゆだねることができる(BGB 1630 条3項)。それによって,養育人は,親権行使が委託された範囲で,保佐人(Pfleger)の法的地位を取得し(BGB 1630 条3項3文; 同 1909 条1項),法定代理権を含む父母の権限を排除する形で,親権を代行することができる(BGB 1630 条1項)⁸³。このような親権の重大な制限には,父母又は養育人等の申立てがあり,父母の同意があることが要件となる(BGB 1630 条3項1・2文)⁸⁴。ただし,この養育人等の権限を強化するための制度は,現実にはあまり利用されておらず,年間100件余りにとどまっているという⁸⁵。
BGB 1688 条は,スイス民法 300 条1項をモデルとした規定である。しかし,スイス法が養育人 の権限について子の滞在期間及び目的に応じた柔軟なルールを置いているのに対して⁸⁶,ドイツ法は柔軟性に欠け,養育人等の権限を制限的にしか認めていないと批判されている(子の強制的な託置における養育人等の権限については,後述Ⅴ-4-⑴参照)⁸⁷。
5.子の保護措置と親権の取り上げ
⑴ 総説
親権が本来の機能を果たしておらず,子の福祉が危険にさらされている場合には,国家は子を保 護しなければならない。その場合に家庭裁判所は,少年局と協力して調査をし,親権の全面的又は部分的な取り上げを含む子の保護措置をとることができる(BGB 1666~1667 条)。緊急の必要があれば, 家庭裁判所は,仮処分を命ずることもできる。ドイツ全体で,2007年に親権が全面的又は部分的に取り上げられた件数は 10,769 件であり,2008年には,12,244 件に増えている⁸⁸。
最も重要な根拠規定である BGB 1666 条は,児童虐待に対応するため,2008年に改正された(上述Ⅲ参照)。もっとも,この改正は,親による親権行使と国家による介入の境界線を変更するものではなく,従来の実務上の問題を解決し,具体的な保護措置の指針を家庭裁判所に示すこと,そして家庭裁判所が早い段階で介入できるようにすることを目的としている⁸⁹。
BGB 新 1666 条1項によれば,家庭裁判所は,⒜子の身体,精神又は情緒の福祉が危険にさらされており,⒝親にその危険を阻止する意思又は能力がないという二つの要件が満たされれば,必要な保護措置をとることができる。改正前の BGB 1666 条によれば,さらに第三の要件として,子の福祉への危険が特定の行動,すなわち親権の濫用,子のニグレクト,親の責めに帰すことのできない養育の失敗,あるいは第三者の行為によって惹起されたことが必要とされていた。これは,親の帰責性又は義務違反を問うものではなく,むしろ立法者が,国家による過度の介入によって親権行使が妨害されるのを警戒して,明確な介入要件を示したものである⁹⁰。しかし,実際には,親の誤った行動や養育の失敗を証明することは難しく,子の福祉が危険にさらされている理由が不明であることも少なくない。被虐待児を救うためには,むしろ個別の理由を問うことなく,迅速に危険を排除し,救済を与えることこそが肝要である。このような理由から,2008年改正によって第三の要件は削除された⁹¹。
⑵ 家庭裁判所が介入するための要件
現行法上,児童虐待のケースで家庭裁判所が介入するための要件は,⒜子の身体,精神,情緒 の福祉が危険にさらされていること,そして⒝親がその危険を阻止する意思又は能力をもたないことである(BGB 新 1666 条1項)。
⒜ 子の福祉の危殆化
子の福祉の危殆化(子の福祉が危険にさらされていること)(Gefährdung des Kindeswohls)とは, 「子の完全性の利益」(Integritätsinteresse)及び「子の発展の利益」(Entfaltungsinteresse)の重大な侵害を意味する。
子の完全性の利益とは,身体的,精神的及び情緒的な健康の維持,衣食住の世話,そして子が最低限の愛情を受ける利益を指す。これらの事項において子の福祉が危険にさらされている場合には,国家が迅速にかつ一貫して介入しなければならない。それに対して,子の発展の利益とは,養育,適切な社会的接触,学校教育及び職業教育,知的・文化的な興味などを通じた子の発展の利益を指す。年齢に応じて,子の自己決定の尊重もその対象となる。これらの事項においては,何が「最もよい教育か」について見解が分かれうるため,国家の介入も慎重に行われなければならず,特に重大な教育目的の誤りがある場合にのみ国家の介入が正当化されるという⁹²。
子の福祉の危殆化とは,現実の,あるいは間近に迫っている子の福祉への危険を指す。危険が持続し,重大なものであるときに初めて,国家による親権への介入が正当化される。子がすでに被害を受けた場合は当然対象になるほか,現実の危険が存在しており,家庭裁判所が介入しなければ,相当の確実性をもって子が重大な被害を受けると予測できる場合にも,子の福祉の危殆化に当たる。また,子の福祉の危殆化は,子の年齢,子の置かれた状況,態度,生活環境等を勘案して,具体的な事案ごとに判断される⁹³。基本的には,これまで児童虐待として整理されてきた事項が包括される⁹⁴。
具体的には,以下のような場合が子の福祉の危殆化に当たる。すなわち,①非暴力の養育を受ける権利の重大な侵害(BGB 1631 条2項),②子に対する身体的及び精神的な虐待(BGB 1631 条2項)(暴力,性的虐待など)⁹⁵,③子に精神的な苦痛を与えること(親の別居や離婚による精神的な重圧 を含む),④親が子を畏縮させること,⑤子に対する愛情の欠如,⑥子にとって必要な医療行為への同意の拒否(伝染病蔓延国への旅行のための予防接種の拒否,手術又は輸血の拒否,医師が指定した薬餌療法の拒否,精神病治療のための入院の拒否など)⁹⁶,⑦子の養育の拒否又は懈怠(ニグレクト),⑧子に基本的な生活必需品を十分に与えないこと,⑨非衛生的な環境での養育又は栄養失調による子の健康障害,⑩子が慣れ親しんだ生活環境の不必要な(頻繁な)変更又は準備不足のままの変更⁹⁷,⑪子にとって有害な面接交流の強制,あるいは面接交流の不当な妨害,⑫義務教育を受けるべき子の通学禁止⁹⁸,⑬学校教育及び職業教育における子の適性及び希望の度外視(BGB 1631a 条),⑭子に対する犯罪又は売春の教唆,⑮子の面前での性行為,⑯(特にイスラム教徒による)娘に対する折檻・隔離又は婚姻の強制,⑰(特にアフリカ諸国の風習に基づく)女子割礼,⑱妊娠した娘の意思に反し て中絶させること又は中絶への同意を拒否すること,⑲少年局による養育援助の拒否などである⁹⁹。
それに対して,①不健康な食生活,②親の喫煙,③子が幼い時の住居変更,④親による特定宗教の信仰,⑤子の整形手術への同意の拒否,⑥単独親権者である母が父子の接触(父に関する情報提供)を拒否すること,⑦職業をもつ母が仕事中の子の世話を他の女性に委託すること,⑧ドイツよりも生 活水準の低い国への家族の帰還などの事情だけでは,通常は子の福祉が危殆化しているとはいえない¹⁰⁰。もっとも,①②において,子がアレルギーやぜんそくをもつ場合,あるいは④において,親の信仰のために子の人格の発展が妨げられる場合,子への輸血が禁止される場合,親が宣教のために子を夜中まで連れ回す場合などには,子の福祉の危殆化に当たることがある。また,⑤においても,医学上問題なく除去できる部位であって,放置すれば子が精神的に多大な負荷を負うことが明らかな場合には,子の福祉の危殆化に当たる¹⁰¹。⑥においても,具体的な事案によっては(特に子の意思及び当事者の関係など),母の父に対する認知請求の拒否又は嫡出否認請求の遅滞などによって,子の福祉が危殆化することがある¹⁰²。
子について,以下の行動や症状が見られるときには,子の福祉が危険にさらされている可能性が高い。すなわち,ⓐ言語障害(どもりなど)や発達障害,ⓑ非行や暴力,ⓒ情緒不安定,ⓓ特異な行動,ⓔ社会的適応力の欠如,ⓕ集中力の欠如,ⓖ長年にわたる精神的外傷(PTSD)による学校教育の放棄,ⓗ母の死後,父との接触を頑なに拒絶していることなどがメルクマールとなる¹⁰³。
上述のように,現行民法上,家庭裁判所は,子の福祉の危殆化が確認されただけで端的に介入し,その原因を突き止めることは要求されていない(BGB 1666 条1項)。これは,家庭裁判所が養育の失敗に関する親権者の帰責性及び義務違反を審査する必要がないだけではなく,審査してはならないことを意味する¹⁰⁴。BGB 1666 条の制度趣旨は,親に対する制裁ではなく,あくまで子の福祉を実現するために,家族全員を支援することにある¹⁰⁵。
⒝ 親による危険阻止の意思又は能力の欠如
家庭裁判所による介入は,親が子の福祉の危殆化を阻止する意思又は能力をもっていないことを要件とする。この要件は,基本法上親が優先的な養育の権利義務をもつこと(GG 6条2項),つまり子の福祉への危険は,第一義的には親が排除すべきであることを反映している。ここでも親の帰責性は問題とならない。親が危険を阻止する意思をもっていない場合には,家庭裁判所は,まず親を説得し,子の福祉にかなう行動をとるよう促すのが原則であるが,重大な危険が存する場合(親が精神病を患っており,子を全く養育できない場合など)には,直ちに介入できる¹⁰⁶。
⑶ 家庭裁判所の保護措置と「相当性の原則」
⒜ 総説
従来,子の福祉の危殆化に際して家庭裁判所が取りうる措置は,法律上明確に定められておらず,裁判所の評価にゆだねられていた。そのため,裁判所による様々な介入手段は,必ずしも適切に利用されてこなかった¹⁰⁷。そこで,2008年改正後の BGB 1666 条3項は,子の保護を目的とした措置について詳細なリストを掲げている。ただし,このリストは例示列挙であり,家庭裁判所は,具体的な事案に応じて,それ以外の必要かつ最低限の措置(できる限り親の権利に介入しない措置)をとることができる¹⁰⁸。
BGB 1666 条3項は,家庭裁判所がとりうる措置として,以下のものを列挙している。すなわち,①児童及び青少年援助(Kinder- und Jugendhilfe)や医療福祉等の公的援助を受けるよう親に求めること(1号),②子に義務教育を受けさせるよう親に求めること(2号),③一時的又は一定期間内の家族又は他者の住居使用の禁止,住居周辺の一定範囲内への接近の禁止,あるいは子の居住場所の探索の禁止(3号),④子との接触又は面会申入れの禁止(4号),⑤親権者に代わる同意(5号),そして⑥親権の部分的又は全面的な取り上げ(6号)である。以上の措置のほか,家庭裁判所は,特定の行動をとることの命令又は禁止,子を施設又は養育人に託すことの命令などの措置をとることもできる。
これらの措置の名宛人は,第一義的には親であり,第三者でもよい(BGB 1666 条4項)。さらに,2008年の改正時には,家庭裁判所が子に対して直接,一定の行動を命令又は禁止できるようにすべきか否かも議論されたが,結局採用されなかった¹⁰⁹。
⒝ 相当性の原則
家庭裁判所は,子の福祉への危険を除去するのに適しており,かつ必要な措置だけをとることとされている(BGB 1666a 条1・2項)。この「相当性の原則」によれば,介入の程度(重大さ)は,介入の目的と適切な相関関係になければならない¹¹⁰。また,特に強制力の強い措置については,明文規定があり,子を親から引き離す措置,あるいは親権の部分的又は全面的な取り上げは,公的援助を含むその他の手段では子の福祉への危険を阻止できない場合にのみ許される(BGB 1666a 条1項及び GG 6条3項)。つまり,「相当性の原則」によれば,家庭裁判所は,できる限り介入度の低い措置をとることを要請され,具体的な措置の内容のみならず,その継続期間についても子の福祉への危険が存する間に限定される¹¹¹。そして,親権の全面的な取り上げは,他の措置が失敗に終わった又は危険の阻止には不十分であると予想される場合にだけ許される(BGB 1666a 条2項)¹¹²。ただし,家庭裁判所は,常に介入度の低い措置から順に試すことを要請されるわけではなく,子の福祉の危殆化の程度に応じて,選択しうる実効的な措置の中から最も介入度の低い措置を選択すれば足りる¹¹³。
特に,一方の親のために子の福祉が危険にさらされており,他方の親の申立てに基づいて,共同親権を単独親権に変更する又は単独親権を移転すれば足りる場合には(BGB 1671 条,1672 条,1696 条参照),「相当性の原則」に従い,BGB 1666 条の措置はとられない¹¹⁴。同様に,単独親権を共同親権に切り替えることで子が十分に保護される場合には,一方の親の親権を取り上げることなく,他方の親を共同親権者とする¹¹⁵。事実上の障碍による親権停止の場合にも(BGB 1674 条1項:一方の親が服役中であるなど),1678 条1項に基づいて他方の親が親権を行使すれば足りる¹¹⁶。また,子が相当期間,一緒に生活している養育人又は継親等に対して,親権者が子の引渡しを要求しており,子の福祉が危殆化しているとき,家庭裁判所が養育人又は継親等のために子の居留命令を出すことで対応できる場合には(BGB 1632 条 4 項,1682 条 1・2 文),BGB 1666 条の措置はとられない¹¹⁷。さらに,親権者による面接交流の強制又は拒否によって子の福祉が危殆化しているときにも,第一義的には BGB 1684 条3・4項及び 1685 条3項に基づく措置がとられ,それでも不十分な場合にのみ,補充的 に BGB 1666 条に基づく保護措置がとられる¹¹⁸。
BGB 1666a 条に定める「相当性の原則」は,一般に実務上も尊重されている。家庭裁判所は,子の福祉への急迫の危険があること,少年局の養育援助措置がすでに失敗したこと等の事情がないかぎり,一般にまず親への訓戒(Gebote)を行い,少年局による養育援助を受けること,適切な養育を行うこと,子を通学させること,子を定期健診に連れていくこと等を求める(BGB 1666 条3項1・2号)¹¹⁹。また,子に暴力を振るう親には,まず(一時的な)住居の使用を禁止する(“go-order”:BGB 1666 条3項3号)¹²⁰。そして,家庭裁判所は,これらの措置が不十分である場合,あるいは親が裁判所の命令に従わず,代替措置がなくなった段階で初めて,親権を取り上げる。その場合にも,事案ごとに親権の必要部分を必要な期間だけ取り上げる扱いとなっている(BGB 1666 条3項6号)¹²¹。単独親権者から身上監護権を全面的に取り上げるときにも,子を養育人又は施設に託置するよりも他方の親を単独親権者とする方が介入度が低いため,それが子の福祉にかなうかぎり優先される¹²²。また,子を親から引き離すときにも,より介入度の低い措置として,兄弟姉妹が一緒に生活できるよう配慮されている¹²³。
⒞ 親権の取り上げ
「相当性の原則」に従い,家庭裁判所の保護措置として親権の部分的な取り上げがなされるのは,次のような場合である(家庭裁判所が親の代わりに同意を与える場合を含む)(BGB 1666 条3項5・6号)¹²⁴。①親権を全面的に取り上げると親権を行使する者がいなくなるとき,法定代理権を部分的にだけ取り上げる¹²⁵。②親が子の通学を禁止しているとき,親の居所指定権及び教育に関する決定権を取り上げる¹²⁶。③親が子の学校教育又は職業教育等の選択を妨害しているとき,入学又は転校申込み,労働契約の締結等に関する親の法定代理権を取り上げる¹²⁷。④子と親権者が全く接触をもっていないとき,家庭裁判所が代わりに同意を与えて子を養育人に託置する¹²⁸。⑤面接交流については,特に単独親権者である母が父子の面接交流を頑なに拒否しているとき,家庭裁判所は訓戒として,父子の面接交流を認めるよう母に求める。母がそれでも拒否すれば,実務上は,補充保佐人が選任され(面接保佐[Umgangspfleger]),その補充保佐人が面接交流のために子の引渡しを求め,面接時の子の所在地を決定することが多い(BGB 1684 条3項)¹²⁹。⑥一般に,面接交流の実現のために親の居所指定権を取り上げるのは行き過ぎであって,「相当性の原則」に反すると解されている¹³⁰。⑦他方,母が子にとって有害な祖父母との面接を命じているときには,母の面接交流の決定権を取り上げる¹³¹。
⑧児童虐待のケースで,子を養育人又は施設に託置するときには,親の居所指定権を取り上げる。⑨同じく児童虐待のケースで,少年局が親の申立て又は同意なしに社会福祉法上の養育援助措置をとる必要があるときには(SGB Ⅷ 27 条以下。デイ・ケア[32 条]など),親の居所指定権のほか,少年局に対する養育援助措置の申立権を取り上げる。⑩親が子に予防接種を受けさせないときには,伝染病が蔓延している外国に子を連れていくことを禁止する¹³²。⑪親が「エホバの証人」であり,子が手術のための輸血を受けられず生命の危険がある場合には,家庭裁判所が親の代わりに医療行為への同 意を与えるのが確立した実務となっている(BGB 1666 条3項5号:保佐人の選任は不要である)¹³³。これは,「エホバの証人」幹部との申し合わせに基づいており,緊急時には,家庭裁判所が親を審問せず,仮処分によって同意を与えることも了承されている(FamFG 49 条以下,246 条2項参照)¹³⁴。⑫他の医療ニグレクトの場合にも,家庭裁判所が親の代わりに医療行為への同意を与えること,また子に病院で診察を受けさせるために,合わせて一時的に居所指定権を取り上げることが考えられる。
児童虐待のケースにおいて,子を親から引き離す場合には,親権のうち,特にⓐ居所指定権,ⓑ少年局の養育援助措置の申立権,そしてⓒ医療行為への同意権又は教育に関する決定権の取り上げが重要になる。これらの権限は,保佐人及び養育人等が親権者に妨げられることなく子の監護養育を行い,また少年局が適切な養育援助措置をとるのに必要となるからである。ちなみに,ドイツ全体で2008年に親権が全面的又は部分的に取り上げられた件数は,12,244 件であり,そのうち居所指定権だけが取り上げられたのは,2,352 件(約19%)である¹³⁵。
それに対して,身上監護権が全面的に取り上げられるのは,他の措置が失敗に終わった,あるいは部分的な親権の取り上げでは危険を阻止できないと予想される場合に限られる(BGB 1666a条2項)。たとえば,①親権者が身上監護に関する事項について常に介入し,養育人に託置された子の健全な成長を妨げるときには,身上監護権が全面的に取り上げられる¹³⁶。②子の養子縁組が予定されており,子が実親のもとに戻ると子の福祉への重大な危険が存するときにも,身上監護権が全面的に取り上げられる¹³⁷。③親による過剰な折檻から子を保護するためには,通常は,親の居所指定権の取り上げと子の施設への託置で足りるが,それ以上の危険がある場合には,身上監護権の全面的な取り上げが必要とされる¹³⁸。
さらに,身上監護権のみならず,財産管理権も含めた親権全般が取り上げられるのは,ごく例外的な場合に限られる。親の身上監護権を取り上げても,財産管理権を残しうる場合は少なくないため, 親権の全面的な取り上げには,個別の事案ごとに慎重な判断が必要とされる¹³⁹。具体的には,①父が子らの面前で母を殺した事件では,父の親権が全面的に取り上げられた¹⁴⁰。②父が唯一の教育手段として,常に15歳の娘を殴っていた事件でも,父の親権が全面的に取り上げられた¹⁴¹。また,ミュンヘンのシュミット裁判官によれば,③親が子に対して全く関心を示さず,養育する意思が欠如している場合,④親がアルコール/薬物依存症である又は精神病を患っているため,子の養育が全く期待できない場合などにも,親権を全面的に取り上げているという。そのほか,⑤父母が身上監護権を全面的に取り上げられた後,子に全く関心を示さず,子の財産を一切管理しないような場合には,事後的に財産管理権も全面的に取り上げられうるであろう。
⑷ 家庭裁判所の保護措置の効果
⒜ 他方の親による親権行使
共同親権者である父母について,一方の親からだけ親権が全面的又は部分的に取り上げられた場合には,他方の親が全面的に又は親権が取り上げられた部分について,単独で親権を行使するのが原則である(BGB 1680 条3項;同条1項準用)。ただし,そのためには,その親が親権を行使する意思 と能力,そして適性をもつことが前提となる。家庭裁判所は,個別の事案ごとに,他方の親が単独で親権を行使しえない又は他者(パートナーなど)の干渉を阻止できない等の事情のために,その親の親権も取り上げる必要がないか否かを慎重に審査する必要がある¹⁴²。
単独親権者から親権が全面的又は部分的に取り上げられる場合として,次の二つが区別される。①BGB 1626a 条に基づく単独親権者である母の親権が全面的又は部分的に取り上げられた場合には, 父が家庭裁判所に申立てをし,父への親権の移転が子の福祉に資すると判断されれば,父が単独親権者となる(BGB 1680 条3項;同条2項2文準用)。それに対して,②別居又は離婚後,家庭裁判所の決定によって単独親権者とされていた一方の親(BGB 1671 条,1672 条)から親権が全面的又は部分的に取り上げられた場合には,家庭裁判所の決定の事後的変更として,子の福祉に関わる重大な事由によって必要とされるかぎり(BGB 1696 条1項),他方の親に親権が移転される(上述Ⅳ-1-⑷参照)¹⁴³。
⒝ 後見人又は保佐人の選任
BGB 1666 条に基づいて父母双方から親権が取り上げられた場合,あるいは父母の一方から親権が取り上げられ,他方の親による親権行使(BGB 1680 条3項;同条1項準用)又は他方の親への親権の移転(BGB 1680 条3項;同条2項2文準用,1696 条)がなされない場合には,保佐人又は後見人が選任される。すなわち,親権が部分的に取り上げられたときには,補充保佐人(Ergänzungspfleger) が選任され,親権の該当部分を代行する(BGB 1909 条1項)。他方,親権が全面的に取り上げられたときには,後見人が選任され,親権に関する全権限を代行する(BGB 1773 条以下)。父母の身上監護権が全面的に取り上げられても,財産管理権が残されていれば,親権の部分的な取り上げに該当し, 補充保佐人が選任されるにとどまる¹⁴⁴。
実務上は,家庭裁判所が少年局を保佐人又は後見人に選任することが多い(職務保佐又は職務後見:後述Ⅴ-4-⑴参照)。その場合に、子を現実に監護するのは少年局ではなく、少年局が選択した養育人又は施設の世話人である。養育人又は施設の世話人は,BGB 1688 条に基づいて日常生活に関する事項について決定し,保佐人又は後見人を代理する権限をもつほか,一定範囲で子の財産を管理する(BGB 1688 条1項1・2文,同条2項)。他方,重要事項については,親権を代行する保佐人又は後見人が決定する。この点は,親の同意に基づく任意託置の場合と同じルールによる(上述Ⅳ-4-⑵参照。後見及び保佐については,後述Ⅳ-6 参照)¹⁴⁵。
⒞ 親権を喪失した親の権限
親は,親権喪失後も子に対して扶養義務を負う。ただし,親権を喪失した親は,他方の親に対して子の扶養請求権を行使することはできない(BGB 1629 条2項2文)¹⁴⁶。親の子に対する扶養請求権も原則として存続するが,扶養権利者の扶養義務者に対する非違行為を理由に,制限又は排除されうると解される(BGB 1611 条1項)。また,親は,第二順位の法定相続人として相続権(BGB 1925 条)を保持する¹⁴⁷。
親は,親権喪失後も,子の養子縁組への同意権(BGB 1747 条)をもつ。親の意思に反して養子縁組を認めることは,ある意味では,親権の取り上げ(BGB 1666 条)よりも重大な効果を及ぼす。そのため,養子縁組への同意権の剥奪(BGB 1748 条)には,厳格な要件が課されており¹⁴⁸,その審査は,BGB 1666 条に基づく親権の取り上げとは独立に行われる¹⁴⁹。
未成年者の婚姻について,法定代理人又は監護権者が反対の意思表示をしたとき¹⁵⁰,家庭裁判所は,その反対に十分な理由がなければ,BGB 1303 条3項に基づいて年齢要件を免除し,婚姻を許可する。それゆえ,家庭裁判所が BGB 1303 条3項に基づいて婚姻許可を決定すれば,BGB 1666 条に基づく保護措置は不要となる¹⁵¹。反対に,BGB 1666 条によって親権を喪失した親は,もはや法定代理人でも監護権者でもないため,BGB 1303 条3項に基づいて婚姻に反対の意思表示をする権限を失うと解される。
親権を喪失した親は,身上監護に関する家庭裁判所の決定に対しては,異議申立てできないのが原則である。ただし,特に重大な影響のある事項――子の宗教,国籍,氏名の変更など――¹⁵²,あるいは選任された保佐人又は後見人の適格性が問題となるかぎりは¹⁵³,異議申立てが可能であると解されている(後述Ⅴー4-⑵参照)。
子の自由を剥奪して施設に預けるには,親権者が家庭裁判所に申立てをし,許可を得る必要がある(BGB 1631b 条)。ミュンヘン家庭裁判所のシュミット裁判官によれば,母の親権が全面的に取り上げられた後,少年局が後見人に選任され,子を施設に託置するために家庭裁判所の許可を求めたところ,母が異議を申し立てた事件があった。この場合に,母が異議申立権をもつか,その同意は要件とされるか,あるいは少なくとも母の意見聴取をすべきか等,法律上何ら定められておらず,今後検討すべき問題であるという。
特に重要なのは,面接交流である。親と子の面接交流は,第一義的に子の権利であり(BGB 1684 条1項),親の義務及び権利でもある(BGB 1626 条 3項)。特に親権が取り上げられ,子が養育人又は施設に託置された場合には,親と子の面接交流は,子が親との関係を保持しながら健全に成長するための唯一の手段である。それゆえ,親権を喪失した親も,子との面接権を維持するのが原則であり, 面接交流の制限又は排除は,BGB 1684 条3・4項のみに基づいて決定されるのが原則である¹⁵⁴。
実務上も,面接交流の実現は重視されている。ケルン家庭裁判所のベルクマン裁判官によれば,母が未成年であって子を養育できないため,子が養育人に託置されているケースでは,少なくとも毎月1回,母が子と面接交流する扱いになっている。ただし,子が親から性的虐待を受けたなど,面接交流によって子の福祉が害される蓋然性が高いときには,親の面接交流を5年間停止するなどの措置がとられるという。
また,バイロイト家庭裁判所のキルヒマイアー裁判官によれば,親権が全面的又は部分的に取り上げられても面接交流は通常認められるが,その場合には,2~4週間に1回程度,付添付きの面接交流を行うことが多いという。付添付きの面接交流は,少年局による養育援助措置の一つであり,子が施設に託置されている場合には施設で行われ,少年局や幼稚園で行われることもある。それに対して,子が養育人に託置されている場合には,実親との関係が複雑化するため,養育人宅では面接交流を行えないことが多い。そこで,たとえば親が外国人で,子を外国に連れ去るおそれのあったニュールンベルクの事件では,親に子の住所を知らせず,高層ビルの最上階にある児童福祉施設に直接来させて付添付きの面接交流を行い,子は養育人宅から別ルートでタクシーを使って往復させた例があるという。これだけのコストと時間をかけても,親子の面接交流は実現されているとのことであった。そして,ごく例外的に面接交流が明らかに子の福祉に反するとき(たとえば,親が施設で子を訪問する都度,「1ヶ月後には必ず迎えに来るから,一緒に家に帰ろう」と話し,子を混乱させた場合など)にだけ,面接交流が否定されるという。
このように,ドイツの実務は,できる限り面接交流を実現する方向で運用されている。しかし,興味深いことに,学界の重鎮であるレーゲンスブルク大学シュヴァープ教授及びフランクフルト大学サルゴー教授は,いずれもこの点を強く批判していた。両教授によれば,ドイツ家族法においては権利中心主義的な発想が強く,親の権利としての面接権の行使が重視されており,それが本当に子の福祉にかなうか否かは十分に考慮されていない。その背景には,特に父親団体(Väteraufbruch für Kinder など)による積極的なロビー活動もある。しかし,親が親権を取り上げられたような場合には,親との面接交流が(たとえ付添付きであっても)子にとって害になることも多いはずである。子は,面接交流を拒否できない受動的立場にあり,それが子の成長に与える影響は甚大であるため,もっと子の利益を中心に据えた面接交流のあり方を検討すべきであるという。このように,ドイツを代表する家族法学者が面接交流に慎重な態度をとっていることは,注目されてよいであろう。
6.後見及び保佐
⑴ 後見
後見(Vormundschaft)とは,本人が未成年であるため自己に関する事務を処理できず,その親が法定代理人としての責任を果たしていない場合に,法的に付与される包括的権限を指す。ドイツ法上は,1992年に世話法が制定され,禁治産制度が廃止されたことで,後見制度は未成年後見に限定されており,成年者には世話制度だけが妥当している。
⒜ 後見の開始
後見は,通常,家庭裁判所が職権で開始を決定する(BGB 1774 条1文;FamFG 151 条4号)。 ただし,後見を必要とする非婚子が出生したとき(BGB 1791c 条1項),あるいは父母が子の養子縁 組に同意したときには(BGB 1751 条1項2文),法律上後見が開始し,少年局が後見人となる。
後見が開始するのは,①子が親権に服していないとき(父は死亡し,母の親権は BGB 1666 条によって取り上げられた場合など)(BGB 1773 条1項),②父母双方が身上監護及び財産管理について子を代理する権限をもたないとき(BGB 1773 条1項),あるいは③子の家族関係が不明であるとき(棄児の場合)(BGB 1773 条2項)である。後見は,子の出生前でも開始する(BGB 1774 条2文)。
⒝ 後見人の選任
家庭裁判所は,後見人を一人選任するのが原則である(BGB 1775 条2文)。複数の後見人が選任され,共同して又は個々の事項について独立に事務を行うこともある(BGB 1797 条)。後見監督人が選任されると(BGB 1792 条;ただし少年局が後見人である場合は対象外である),後見人の事務を監督し,後見人の事務に同意を与える(BGB 1809 条,1810 条,1812 条)。本来は,父母の友人,親 類等が後見人となることが想定されていたが(個人後見[Einzelvormundschaft]),現実には適任者がいないことも多い。それゆえ,現行法上は,少年局(BGB 1791b 条1項:職務後見[Amtsvormundschaft]) 及び法人格をもつ団体にも,後見人となる資格が与えられている(BGB 1791a 条1項:団体後見 [Vereinsvormundschaft])¹⁵⁵。
後見人として選任されるのは,第一義的には被後見人の父母によって指定された者である(BGB 1776 条)。ただし,その者が後見人となることが被後見人の福祉に反する場合(1778 条1項4号),あるいは14歳以上の被後見人が反対した場合(同5号)等は,その限りでない。父母の指定がなければ,家庭裁判所は,少年局の意見を聴取したうえで,適任者を選任する(BGB 1779 条1項)。その際には,父母の推定的意思,被後見人の個人的つながり,親族又は姻族関係,そして被後見人の信仰を考慮する(BGB 1779 条 2項)。個人後見は,職務後見及び団体後見に優先し(BGB 1791a 条1項 2文;1791b 条1項1文),団体後見は職務後見に優先する¹⁵⁶。行為無能力者,未成年者及び被世話人は, 後見人となる資格をもたない(BGB 1780 条,1781 条)。
⒞ 後見人の権利義務
後見は,完全な身上監護権及び財産管理権を包括し(BGB 1793 条1項1文),後見人の権利義務の範囲は,親権に関するルールに従う(BGB 1800 条;1631~1633 条準用)。ただし,後見人が常に親権に関する全権限をもつわけではなく,未成年である母が後見人と共に身上監護権をもつ場合 (BGB 1673 条2項2文)には一部制限される。また,特定事項について保佐人が選任されている場合(BGB 1794 条),複数の後見人が共同して又は個々の事項について独立に事務を行う場合(BGB 1797 条1・2項),そして後見監督人が選任されている場合にも,後見人の権限は制限される。
⒟ 家庭裁判所による監督
家庭裁判所は,後見人による身上監護権及び財産管理権の行使を援助し,後見事務の内容を説明するとともに(BGB 1837 条1項)¹⁵⁷,少年局の援助のもとに後見事務を監督する(同条2~4項)。
後見人及び後見監督人は,いつでも家庭裁判所の求めに応じて,後見事務の遂行及び被後見人との関係について説明する義務を負う(BGB 1839 条)。後見人又は後見監督人に義務違反があれば, 家庭裁判所は,特定の行為を命令又は禁止することができる(BGB 1837 条2項1文)。個人後見人は, 強制金の支払いを命じられることもある(BGB 1837 条3項1文)。後見人の非違行為によって子の福祉が危険にさらされるときには,家庭裁判所は,BGB 1666 条及び 1666a 条,そして 1696 条の準用に よって(BGB 1837 条4項),後見人の権限を全面的又は部分的に取り上げる。さらに,個人後見人に義務違反があり,後見事務の継続によって被後見人の利益が害されるおそれがあるときは,家庭裁判所はその者を解任する(BGB 1886 条)¹⁵⁸。
⒠ 後見人と被後見人の関係
後見人と被後見人との間には,法律に基づく特殊な無償事務委託(unentgeltliche Geschäftsbesorgung)の要素をもつ継続的債務関係が成立する。後見事務の遂行は,被後見人の費用でなされる¹⁵⁹。
後見事務は,原則として無償で行われる(BGB 1836 条1項1文)。ただし,適任者を探すのは困難であるため,例外的に家庭裁判所の許可を得れば,有償の後見も認められる。特に家庭裁判所は,①職業上の後見人のほか(BGB 1836 条1項2文),②職業上の後見人でなくとも,後見事務の範囲及び難易度を考慮して適切であると判断すれば(BGB 1836 条2項),対価の支払いを認める。ただし,②については,被後見人が無資力であれば認められない。それに対して,職務後見及び団体後見には,有償の後見は認められず(BGB 1836 条3項),費用の償還も,被後見人の収入及び財産に余裕がある範囲でしか認められない(BGB 1835 条5項1文)。
後見人及び後見監督人は,故意又は過失による義務違反のために被後見人に生じた損害を完全に賠償する責任を負う(BGB 1833 条1項)。つまり,父母の子に対する損害賠償責任の制限(BGB 1664 条)は,後見人には妥当しない。複数の後見人,あるいは後見人と後見監督人は,連帯債務者として 責任を負う(BGB 1833 条2項1文;求償については同2文に特則あり)。少年局に義務違反があった場合には,その少年局を設置した自治体が責任を負う(GG 34 条;BGB 1833 条)¹⁶⁰。
⒡ 後見の終了
後見は,後見開始事由(BGB 1773 条)が消滅したときに,法律上終了する(BGB 1882 条)。たとえば,未成年者について親権を行う者がいないために後見が開始したときは(BGB 1773 条1項), 被後見人が成人するか,あるいは親権者が親権を取得すれば,後見は終了する。被後見人が死亡した 場合も同様である(BGB 1884 条)。
⑵ 保佐
⒜ 総説
後見が親権に関する権限全般を対象とするのに対して,保佐(Pflegschaft)は,親権のうち一定事項に関する権限だけを対象とする。民法上,保佐には後見に関する規定の多くが準用される(BGB 1915 条1項1文)。特に,後見人に BGB 1666 条,1666a 条及び 1696 条が準用され(BGB 1837 条4項),保佐にも準用されるため,保佐人の非違行為によって子の福祉が危険にさらされるときには,家庭裁判所は,保佐人の権限を全面的又は部分的に取り上げる。他方,保佐に固有のルールとして,①保佐監督人の選任は不要であること(BGB 1915 条2項),②補充保佐人の選任に関する特則(BGB 1916 条,1917 条),そして③保佐の終了事由(BGB 1918 条,1919 条,1921 条)が定められている。
なお,保佐は,後見とは異なって,未成年者のみならず,成年者(BGB 1911 条,1913 条),胎児(BGB 1912 条,1913 条),さらには集合財産(BGB 1914 条)のためにも選任されうる。
⒝ 補充保佐
補充保佐(Ergänzungspflegschaft)は,父母又は後見人が子のための特定の事務を行い得ないときに,親権又は後見を補充するために開始される(BGB 1901 条1項)。保佐人の選任には,後見に関する規定が準用されないため(BGB 1916 条),家庭裁判所は,父母の指定に拘束されずに保佐人を選任することができる。適切な個人保佐人が見つからない場合には,少年局を保佐人に指定できる¹⁶¹。
補充保佐は,親権又は後見の終了(BGB 1918 条1項),あるいは保佐開始事由の消滅(BGB 1919 条)によって終了する。また,個別事項だけを対象とした保佐は,その事務の遂行によって終了する (BGB 1918 条3項)。
⒞ 代替保佐
後見の開始事由があるが,まだ後見人が選任されていないときにも,保佐が開始する(BGB 1909 条3項)。これを代替保佐(Ersatzpflegschaft)と呼ぶ。代替保佐人の選任によって,後見人が選任されるまでの期間中,急を要する事務が遂行される¹⁶²。
Ⅴ.児童虐待への対応のメカニズム
1.少年局による社会福祉法上の養育援助
少年局は,民法上一定の養育補助を行うほか(上述Ⅳ-3-⑵参照),社会福祉法上も,児童及び少年援助(Kinder- und Jugendhilfe)のために子の養育援助を行う。ドイツにおいては,歴史的な事情から,少年局による公的な児童及び少年援助には「補充性の原則」が妥当し,民間の社会福祉施設¹⁶³ によって必要なサービスが提供されるかぎり,少年局は関与しない(SGB Ⅷ 4条2項)¹⁶⁴。しかし, 他方で,少年局は,国家機関として必要な介入権限を常に留保しており,特に緊急時の子の一時保護 (SGB Ⅷ 42 条)は,必ず少年局が行うこととされている¹⁶⁵。
親権者は,児童又は青少年の福祉にかなう養育が保証されておらず,少年局による援助が子の成長にとって適当かつ必要である場合には,少年局に養育援助を求めることができる(SGB Ⅷ 27 条1項)。この援助措置の内容は,SGB Ⅷ 28 条から 35a 条に列挙されており,①養育のための助言 (28 条),②児童及び青少年による集団での社会奉仕活動(29 条),③親に対する養育補助及び監護支援(30 条),④社会教育学的な家族支援(31 条),⑤児童及び青少年のデイ・ケア(32 条),⑥他の家庭への児童及び青少年の託置(33 条),⑦児童及び青少年の施設での養育(34 条),⑧青少年に対する集中的な社会教育学的援助(35 条),そして⑨精神障害をもつ児童及び青少年の社会統合への支援(35a 条)を包括する。もとより具体的な援助措置の内容及びその範囲は,個別の事案に応じて決定される(SGB Ⅷ 27 条2項)。社会福祉法は,子が家庭にとどまる形での養育援助を原則としているが(SGB Ⅷ 28~31 条),子を養育人(同 33 条)又は施設(同 34 条)に託置する形での養育援助も予定されている¹⁶⁶。
以上の少年局による養育援助は,親の申立て又は同意に基づいており,親の親権行使を妨げるものではない¹⁶⁷。そして,親の意思に反する子の保護措置は,(一時保護の場合を除いて)必ず BGB 1666 条に従い家庭裁判所が命じなければならない。しかし,それによって少年局による養育援助(SGB Ⅷ 27 条以下)が意味を失うわけではなく,むしろ家庭裁判所は,BGB 1666 条に基づく子の保護措置として,父母に対して少年局による養育援助を受けるよう命ずることができる。また,BGB 1666a 条は,「相当性の原則」に従い,家庭裁判所が子を親から引き離す措置をとる前に,少年局による養育援助(公的援助)を優先的に試みるべきことを明文で定めている¹⁶⁸。
2.少年局による一時保護
⑴ 総説
少年局は,児童及び青少年の福祉が急迫の危険にさらされていれば,親の同意又は家庭裁判所の関与がなくても,行政行為の一つとして,子を緊急かつ一時的に保護することができる(SGB Ⅷ 8a 条3項,42 条1項1文)¹⁶⁹。この初動措置(erster Zugriff)としての一時保護においては,少年局は, ――通常の養育援助措置の場合と異なって――子の居所を指定し,必要な養育等を行う権限をもつ。 これは,行政による親権への介入を意味し,基本法上,親が優先的な養育の権利義務をもつこと(GG 6条2項)の重大な例外となる。それゆえ,少年局の一時保護措置は,親の同意,あるいは司法機関 である家庭裁判所の決定(BGB 1666 条)によって正当化される必要がある¹⁷⁰。そこで,少年局は, 一時保護について遅滞なく親権者に通知しなければならず(SGB Ⅷ 42 条3項1文),親権者が子の保護措置に異議を述べたときには,直ちに子を返還するか,あるいは家庭裁判所に保護措置(BGB 1666 条)を申し立てなければならない(SGB Ⅷ 42 条3項2文)。
少年局による一時保護は,あくまで暫定的なものであり,数日~2週間程度継続することはありうるが(一般には2週間が限度であるとされる),数ヶ月継続する場合には違法とされる¹⁷¹。
⑵ 少年局による措置
⒜ 一時保護の要件
少年局による一時保護が認められるのは,次の①~③の場合である。すなわち,①児童又は青少年が自ら保護を求めた場合(SGB Ⅷ 42 条1項1文1号),②児童又は青少年の福祉に対する急迫の危険のために,子の保護が必要とされており,しかも⒜監護権者が異議を唱えていない場合又は⒝家庭裁判所の決定を適時に得ることができない場合(同2号),あるいは③外国人である児童又は青少年が単独でドイツに来ており,ドイツ国内に監護権者も養育権者も存在しない場合(同3号)である。特に重要であるのは,①と②である。
①は,問題を抱えている児童又は青少年をできるだけ効率的かつ迅速に保護することを目的としている。そのため,児童又は青少年が主観的に保護を必要としているだけで要件が満たされ,少年局は,その理由及び根拠の有無を問うことなく,保護を与える義務を負う。つまり,児童又は青少年の危険が法律上推定され,子は保護を請求する権利をもつ。子が両親宅に戻ることを拒否している場合のほか,親が子の引き取りを拒否している場合にも,一時保護の対象となる。反対に,親が援助を求めているだけでは一時保護の対象とはならず,少年局は,SGB Ⅷ 8a 条に基づく危険性の審査を行い,養育援助計画を立てるか,あるいは急を要する場合には,SGB Ⅷ 27 条に基づく仮養育援助措 置をとるにとどまる¹⁷²。
②は,①とは異なって,第三者(警察,教員,親族,隣人など)が少年局に児童又は青少年を引き渡す(通報する)ことが前提となる。一時保護の対象となるのは,必要な保護を受けていない子,危険な状況に置かれた子(売春や麻薬など),そして面倒をみる者がいない子(両親の交通事故の後など)である。子の少年局への引渡しが公権力(警察など)によって行われる場合には,そのための法的根拠が必要である¹⁷³。②にいう「急迫の危険」とは,そのまま放置すれば相当の確実性をもって子の福祉が危険にさらされることを意味し,子への危害が間近に迫っている必要はない。②においては,家庭裁判所の介入が前提とされるため,急迫の危険の有無は,BGB 1666 条の基準に従って判断される¹⁷⁴。特に新生児の取り上げは,親権への甚大な介入を意味するため,重大な事由がある場合にのみ認められる¹⁷⁵。少年局は,子の取り上げに際して直接強制(住居への強制立入り,妨害者の取押えなど)を行うことはできないが,必要があれば警察の援助を求めることができる(同 42 条6項)¹⁷⁶。
②における少年局の権限には,児童又は青少年の福祉に対する急迫の危険があるときに,親,養育人,施設などから子を取り上げる権限も含まれる(SGB Ⅷ 42 条1項2文後段)。1991年に制定された当時の SGB Ⅷ 旧 43 条によれば,少年局は,親権者の同意によって子が託置されていた養育人又は施設から子を取り上げる権限をもっていたに過ぎず,親権者自身から子を取り上げる権限をもたなかった。しかし,子の実効的な保護のためには不十分であることが認識され,2005年改正後の SGB Ⅷ 42 条1項2文においては,少年局が親権者からも子を取り上げうることが明記された¹⁷⁷。
①においては,一時保護措置の「効果」として,少年局は遅滞なく監護権者及び養育権者(本節では,以下「監護権者等」という)に通知を行う(SGB Ⅷ 42 条3項1文)。この場合には,親子の対立が想定され,子が直接,少年局に保護を求める可能性を認めるべきだからである。事後的な通知 は,実務上,親の一時保護への同意を取り付けるのに役立っているという。それに対して,②においては,少年局は一時保護措置の「要件」として,子に現実の危険が及ばないかぎり,監護権者等に事前に通知をし(SGB Ⅷ 8a 条1項2・3文),異議を述べる機会を与えなければならない。そして,少年局は,監護権者等が異議を述べたときには,家庭裁判所の保護措置(BGB 1666 条)の決定を得る努力をすべきであり,その時間的余裕がないときにだけ,一時保護が許される¹⁷⁸。
⒝ 一時保護措置の内容
少年局は,一時保護措置のために,子を適切な人(緊急養育人[Bereitschaftspflegeeltern],隣人, 友人,親権をもたない親など)¹⁷⁹,あるいは社会福祉施設その他の居住施設(少年及び青少年保護施設,女子施設,その他の養育施設)¹⁸⁰に託置する権限をもつ(SGB Ⅷ 42 条1項2文前段)。一時保護施設をもつ少年局では(ヴュルツブルクなど),そこで子を保護することもある。これは,少年局が一時保護に関して,子の居所指定権をもつことを意味する¹⁸¹。
児童及び青少年が一時保護されると,直ちに信頼できる人(親類,友人,隣人,教師,牧師など)に連絡する機会が与えられる(SGB Ⅷ 42 条2項2文)。誰にどのような手段で(電話,Eメールなど)連絡をするかは,子が自ら決定し,それが誰であるかを明らかにしなくてもよい¹⁸²。少年局が相当の確実性をもって児童虐待があったと推定する場合には,国家による介入措置として,親との接触を禁止し,子に他の信頼できる人に連絡する機会を与える義務を負う。ただし,子が連絡をとることで危険な環境に戻されるおそれがあるときには,少年局は利益衡量のうえ,連絡を差し控えさせてもよい¹⁸³。
子の一時保護の間,少年局は,社会教育学的な保護を与える義務を負う。そのため,少年局は,児童又は青少年とともに保護が必要となった事情を明らかにし,援助と支援のあり方を説明する(同2項1文)。また,児童又は青少年の福祉に配慮して必要な扶助を与え,医学上又は心理学上の治療を受けさせる(麻薬依存症の治療,AIDS治療など)(同2項3文)。特に子が自殺する危険性がある場合には,児童心理療法による治療を受けさせる。また,子に青少年労働や社会労働をさせたり,債務者カウンセリングを受けさせることもある¹⁸⁴。さらに,少年局は,監護権者等の推定的意思を考慮したうえで,児童又は青少年の福祉のために必要なすべての法的行為を行う権限をもつ(同2項4文)(後述 Ⅴ-2-⑶参照)。保護された児童又は青少年には,年齢に相応の小遣いが与えられる(SGB Ⅷ 39 条2項2文)¹⁸⁵。なお,実務においては,少年局が直接保護措置をとるのではなく,設備や職員が充 実している民間の社会福祉施設に事務を委託することが少なくないという(公法上の委任関係)¹⁸⁶。
子の一時保護における自由剥奪は(施錠,外出禁止など)¹⁸⁷,子又は第三者の身体・生命への危険を阻止するのに必要な最低限度でのみ許される(SGB Ⅷ 42 条5項1文)。これは,基本法上,自由剥奪(Freiheitsentzug)がごく例外的にしか認められないことに対応する(GG 104 条)。身体・生命への危険とは,自殺又は他殺の危険,重大な傷害又は疾病の危険などを指す。自由剥奪は,これらの 危険を阻止するのに必要な範囲でだけ認められ,医学療法や心理療法等の代替手段がある場合には認 められない。少年局は本来,家庭裁判所の許可を得てから子の自由剥奪を行うべきであり,許可なし に行った場合にも,1~2時間以内には家庭裁判所に許可を申し立てるべきであるとされる。家庭裁判所の関与がない場合には,自由剥奪は,開始後1日が経過するまでの間(最大48時間以内)に終 了しなければならない(SGB Ⅷ 42 条5項2文)¹⁸⁸。
少年局による一時保護は,その制度趣旨に鑑みて,子が監護権者等に返還され,あるいは子が家 庭裁判所の保護措置の決定(BGB 1666 条)に基づいて養育人又は施設等に託置され,実質的な保護を受けられる状態になるまで継続する¹⁸⁹。
⒞ 監護権者等の関与と家庭裁判所の決定
少年局は,上述のように,①子自らの求めによる一時保護の場合には,一時保護開始後に遅滞なく,②子の福祉への急迫の危険による一時保護の場合には(SGB Ⅷ 42 条1項1・2号),できる限り事前に,監護権者等に通知をしなければならない。基本法上,親は子の養育について優先的な権利義務をもつからである(GG 6条2項)。しかし,時期尚早の通知によって子の福祉が危険にさらされることは避けねばならない。そこで,少年局は,まずは子に説明をし,助言を与え,援助に必要な時間をかけることとされ(1~2日は許される),長引くようであれば,警察等を通じて間接的に親に通知することもできる¹⁹⁰。
監護権者等にどの範囲の情報を与えるかは,少年局の判断による。通常は,子の所在地の名称及び住所等が通知される。しかし,特に継続的な児童虐待又は性的虐待のおそれがある場合には,子が一時保護された事実と管轄少年局の担当者の情報のほか,子に危険が及ばない範囲で情報を与えれば足りる。この場合,少年局は,家庭裁判所に対して保護措置(BGB 1666 条)を求める際に,監護権者等に子の所在地を知らせしていない旨も伝える。家庭裁判所が保護措置を決定する際の考慮要素となるからである¹⁹¹。
他方で,少年局は,監護権者等とともに,子の福祉が危険にさらされるリスクについて判断しなければならない(SGB Ⅷ 42 条3項1文)。これは,子の福祉への危険を回避するのに適した,しかも父母の権利と子の要保護性の双方に配慮した相当な措置を見つけるためである¹⁹²。
監護権者等が少年局の一時保護に異議を申し立てないときには,遅滞なく,養育援助計画手続 (Hilfeplanverfahren)が開始される(SGB Ⅷ 42 条3項5文;養育援助計画手続は SGB Ⅷ 36 条に規定)。つまり,少年局の一時保護措置は,緊急時の子の世話のみならず,その後の適切な養育援助措置を明らかにする機能も果たしており,養育援助計画が確定した段階で一時保護措置が終了する。これは,継続的な養育援助を保証するための制度設計である。もっとも,一時保護措置とその後の養育援助計画を結びつけることで,緊急事態の終了後も,事実上一時保護措置が継続しかねないこと,また少年局の管轄の割り振りに反すること(本来,一時保護は子の現実の居住地の少年局が,養育援助は監護権者等の常居所地の少年局が担当する)などの弊害も指摘されている¹⁹³。
監護権者等が少年局の一時保護に異議を申し立て,少年局が子の福祉への危険がない,あるいは監護権者等が子の福祉への危険を阻止する意思と能力をもっていると判断すれば,子を返還する (SGB Ⅷ 42 条3項2文1号)。後者の場合,少年局は,適切な養育援助のあり方について助言をする。一時保護は,子が返還された時点で終了する。少年局は,子を親の居住地まで連れていく義務を負わないが,親が健康上又は職業上等の理由で子を引き取りに来れない場合には,子の付添いをする (費用は,親の負担となる)¹⁹⁴。
それに対して,監護権者等が少年局の一時保護に異議を申し立てたが,少年局が子の保護が必要であると判断するときには,直ちに家庭裁判所に子の保護措置を申し立てなければならない(SGB Ⅷ 42 条3項2文2号及び5項 2文)。一般に少年局は,1日~数日以内にその申立てをすべきであると解されている¹⁹⁵。家庭裁判所の決定は,親権の取り上げを含む保護措置(BGB 1666 条,1666a 条)だけを対象とし,少年局による一時保護措置の適否には立ち入らない。少年局による行政行為としての一時保護措置の適法性は,行政裁判所だけが判断しうるからである¹⁹⁶。少年局の一時保護は,あくまで暫定的であるため,家庭裁判所は遅滞なく決定を下す必要がある(FamFG 155 条;後述Ⅴ-4-⑴参照)。一般に家庭裁判所は,子の保護措置として,親に代わって同意を与えるだけではなく,具体的な保護措置の内容を決定しなければならない。そこで,たとえば家庭裁判所が少年局を保佐人に選任し,少年局に保護措置の決定をすべて白紙委任することは許されない¹⁹⁷。ただし,仮処分による保護措置については例外とされる¹⁹⁸。
家庭裁判所による保護措置の具体的な内容は,すでに詳論したとおりである(Ⅳ-5-⑶;家庭裁判所の手続及び実務上の運用については,後述Ⅴ-4 参照)。少年局は,家庭裁判所の決定が下されるまでの間,一時保護を継続する¹⁹⁹。
少年局は,監護権者等の所在が不明である,あるいは手を尽くしても連絡が取れないときにも同様に,家庭裁判所に保護措置を申し立てる(SGB Ⅷ 42 条3項3文)。親の知れない捨児(匿名によ る乳児箱[Babyklappe]への捨児も含む²⁰⁰)についても,少年局は一時保護を与えたうえで,家庭裁判所に保護措置を申し立てる。ただし,裁判例は,その場合に親権を停止するものと(BGB 1674 条1項),BGB 1666 条によって親権を取り上げたうえで後見を開始するもの(BGB 1773 条2項)に分かれている²⁰¹。
⑶ 親権との調整
子が緊急に一時保護されても,少年局は親権を取り上げることができず,あくまで家庭裁判所の専権事項とされており,家庭裁判所の決定が下されるまでは父母が親権をもつ。しかし,子の一時保護が円滑に行われるためには,少年局による保護措置を親権者が妨げないことが必要である。
上述のとおり,少年局は一時保護の間,児童又は青少年の福祉に配慮して必要な扶助を与え,治療を受けさせ(SGB Ⅷ 42 条2項3文),必要なすべての法的行為を行う権限をもつ(同2項4文)。 つまり,一時保護の間,父母は事実上及び法律上の理由から必要な決定をすることができないため, 少年局は,暫定的に親権を代行するための公法上の緊急権限(Notkompetenz)をもち,身上監護権――特に子の養育及び居所指定を中心とする――を行使する²⁰²。そして,少年局は,子の福祉を実現するのに不可欠な行為を行い,子に対して必要な指示を与えるほか(施設での生活上の注意,通学,特定の行為の命令又は禁止など),法律行為(診療契約の締結など)の代理権ももつ²⁰³。少年局がこれらの措置をとる際には,適切な範囲内で監護権者等の(特に子の託置,宗教教育などに関する)推定的意思も考慮する(SGB Ⅷ 42 条2項4文)²⁰⁴。この表現は曖昧であるが,身上監護権をもつのはあくまで監護権者であるため,その推定的意思は少年局の判断に優先すると解釈されている²⁰⁵。
このようにドイツ法上,少年局が子の一時保護の間,親権に関する権限を行使しうることは明らかであり,親権者が少年局の措置と矛盾する行動をとることは,法律上問題にならないと解される。理論的観点からは,一時保護における少年局の権限と親権との関係は,次のように捉えられている。すなわち,少年局が一時保護措置をとっても,家庭裁判所が BGB 1666 条に基づく親権の取り上げを決定しないかぎり,親から親権は奪われない。むしろ SGB Ⅷ 42 条2項4文は,少年局に対して, 社会教育学的観点から適切な行為を行う権限を与えるものである。そこで,少年局の権限は,基本的には,緊急時に共同親権者の一方が他方の同意なく,子の福祉のために行使しうる代理権(BGB 1629 条1項4文)に相当すると整理されている。もっとも,学説の一つは,少年局の一時保護措置によって親の身上監護権が「停止される」(suspendiert)としているが²⁰⁶,他の学説は,親の親権自体は存続していることに着目して,親の身上監護権は,一時的かつ部分的に少年局の法的権限によって「凌駕される」(überlagert)に過ぎない(「停止」はされない)と解している²⁰⁷。
なお,少年局による権限行使は,義務を伴い,故意又は過失による義務違反は,公務員の職務上の義務違反として不法行為責任を構成する(BGB 839 条;国家賠償責任は GG 34 条を根拠とする)。 ただし,少年局の義務は,必要な注意を払って養育人を選任し監督することにあり,一時保護された児童又は青少年との関係で,養育人を直接監督する義務まで負うわけではない²⁰⁸。
⑷ 統計
2008年に少年局によって一時保護された児童及び青少年の数は,ドイツ全体で 32,253 人である。これは,2007年の 28,192 人から14.4%増加しており,2005年と比べると,26%の増加に相当する。少年局による一時保護の後,家庭裁判所に保護措置の申立てがなされる件数を見ても,大都市であるケルン及びベルリンでは毎月数件,ミュンヘンでは毎月20件程度あり,小都市であるバイロイトでも年間5件程度はある。もっとも,過去の統計をみると,1991年から2001年まで,一時保護件数はおおむね増加傾向にあったが,2002年から2005年までは減少しており(青少年のための施設の充実,少年局による介入の差し控えなどが背景にあるとされる),再び増加に転じたのは2006年以降である²⁰⁹。
仔細にみると,2008年に少年局によって一時保護された子の総数 32,253 人のうち,3歳未満の子は 3,233 人,3歳から6歳未満の子は 2,310 人,6歳から9歳未満の子は 2,152 人,9歳から12歳未満の子は 2,346 人,12歳から14歳未満の子は 3,950 人,そして14歳から16歳未満の子は 9,351 人,16歳から18歳未満の子は 8,911 人である。このように,14歳以上の子の人数が突出しているのが注目される。従来から,少年局が自ら助けを求めて来た青少年を一時保護するケースは多く(2008年には 7,790 人),この傾向は変わっていない。ただし,2008年にはその割合は1/4まで下がっており,むしろ少年局が率先して,あるいは社会福祉施設からの求めや市民の通報に応じて,14歳未満の児童を一時保護する割合が急増している。これは,被虐待児の数が増えているわけではなく,市民が児 童虐待に敏感になったこと,また少年局が積極的に介入するようになったことの証左であるとの興味深い指摘がある²¹⁰。実際に,警察への通報件数をみても,児童又は青少年に対する殺人事件及び傷害事件の数は増えてはいない²¹¹。ミュンヘン家庭裁判所のシュミット裁判官も,実務上,児童虐待のケースは多くはなく,むしろ配偶者に対するドメスティック・ヴァイオレンスのほうが深刻な問題であると指摘している。
2008年における一時保護の理由別でみると,最も多いのは,①親の過重な養育負担(Überforderung)(14,310 件:44,4%)である。ついで,②人間関係の問題(7,140 件:22,1%),③養育放棄(ニグレクト)(4,017 件:12,5%),④子に対する暴行の疑い(3,066 件:9,5%),⑤子が養育人の家庭又は福祉施設になじめないこと(2,194 件:6,8%),⑥子の非行(1,974 件:6,1%),⑦学校教育上の問題(1,520 件:4,7%),⑧子の外国からの単独渡航(1,099 件:3,4%),⑨子の麻薬又はアルコール等の依存症(848 件:2,6%),⑩居住環境の問題(824 件:2,6%),⑪親の別居又は離婚(704 件:2,2%),⑫子に対する性的虐待の疑い(628 件:1,9%)と続いており,⑬その他の理由による一時保護が 9,239 件(28,6%)となっている。このように,統計上も,いわゆる児童虐待(③④⑫)を理由とする一時 保護は,全体の約 24%にとどまっているのが現状である。
少年局による一時保護が行われたきっかけ別にみると,少年局が率先して一時保護を行った件数が 9,634 件(29,9%)で最も多く,ついで子が自ら保護を求めた件数が 7,807 件(24,2%),警察による保護が 7,263 件(22,5%),親自身が保護を求めた件数が 4,136 件(12,8%),教員又は保育者による通報が 825 件(2,6%),隣人による通報が 603 件(1,9%),医師による通報が 561 件(1,7%),その他の事由が 1,424 件(4,4%)となっている。他方,一時保護の期間別にみると,1日で終了した事件が 6,053 件,2日で終了した事件が 3,399 件を占め,全体でも約83%の事件が6日以内に終了している。ドイツにおいては,16の州ごとに一時保護件数の格差がある。2008年における子10万人当たりの一時保護件数でみると,ドイツ全体の平均が 230,9 人であるのに対して,最も多いブレーメン州では 465,8 人,ついでハンブルク州の 454,0 人,メクレンブルク・フォアポンメルン州の 433,3 人,テューリンゲン州の 390,3 人,ブランデンブルク州の 380,3 人,ザクセン州の 365,6 人,ザクセン・アンハ ルト州の 315,2 人と続いている。それに対して,最も少ないのは,バイエルン州の 113,6 人,ついでラインラント・ファルツ州の 126,1 人,バーデン・ヴュルテンベルク州の 138,6 人,ニーダーザクセン州の 199,9 人と続いており,いずれも旧西独の州である。首都のあるベルリン州は,256,0 人,児童虐待への対応が最も進んでいるとされるノルトライン・ヴェストファーレン州は,288,9 人である²¹²。
件数の多い州でみると,ブレーメン州及びハンブルク州は,いずれも都市が独立の州を構成していて面積が小さいため,一般に少年局が目配りをしやすく,効率的に子を一時保護していることが推測される。また,それ以外の一時保護件数の多い州は,いずれも旧東独の貧困層が多い州であり,養育上の問題を抱えた親が比較的多いのではないかと推測される。ただし,これらの旧東独諸州における一時保護の理由の内訳をみると,③養育放棄(ニグレクト)による一時保護の割合は,全体の 11,0 ~15,5%(メクレンブルク・フォアポンメルン州 15,5%,ザクセン・アンハルト州 15,2%,テューリ ンゲン州 14,3%など)となっており,ドイツ全体の平均値 12,5%を若干上回る程度である。また,④子に対する暴行又は⑫性的虐待を理由とする一時保護の割合は,各々④4,7~6,5%及び⑫1,6~2,0%であり,基本的にはドイツ全体の平均値④9,5%及び⑫1,9%を下回っている。したがって,旧東独においては,児童虐待のために一時保護件数が多くなっているとはいえない。バイロイト家庭裁判所のキルヒマイアー裁判官は,州ごとの格差は,政治的な理由で一時保護が行われている証左であるとも指摘しており,統計資料から具体的な結論を導くことは困難であると思われる。
3.行政による児童虐待への対応
特に児童虐待について特色のある対策をとっている都市として,ノルトライン・ヴェストファーレン州のケルンが挙げられる。同市では,家庭裁判所,少年局,社会福祉施設,そして警察の関係者が定期的に会合を開いており,情報交換に努めている²¹³。また,2008年には女性市長の努力によって, ケルン少年局に「児童虐待緊急連絡センター」(Gefährdungsmeldungssofortdienst)が設置された。このセンターは24時間体制で対応しており,隣人などが児童虐待の疑いがある旨を少年局に通報すると,職員が即時に現場に向かう仕組みになっている。ケルン家庭裁判所ベルクマン裁判官及び同少年局フォルメッケ氏によれば,ドイツ全国で初めての試みであり,大変有効であるという。もっとも,少年支援及び家族法研究所マイセン氏は,この「児童虐待緊急連絡センター」の有益性及び実効性に疑問を呈している。特にオーストラリアでも以前,同様の通報センターを設けた例があったが,通報件数が急増し,子1人につき5~6倍のコストがかかったものの,迅速かつ適切に救済された被虐待児の数は増えず,完全に失敗に終わった例があるという。ケルン少年局の児童虐待緊急連絡センターがうまく機能するか否かは,今後の運用状況を見たうえで,慎重に評価する必要があろう²¹⁴。
他方,ノルトライン・ヴェストファーレン州全体では,児童虐待の予防のための措置も取られている。たとえば新しく子が生まれると,少年局職員が病院に赴いて父母を訪問している。そして,「新生児キット」(子供用のカバン,Tシャツ等のほか,少年局の仕事を紹介するパンフレットが入っている)をプレゼントしてお祝いをし,父母が子の養育に行き詰ったときには少年局に連絡をするよう働きかけるなど,きめ細やかな支援を行っている²¹⁵。
さらに,ノルトライン・ヴェストファーレン州を初めとする複数の州では(バイエルン州,ブレーメン州,ヘッセン州,ザクセン州など),社会福祉法上の新生児及び幼児の定期健診制度を利用して(SGB Ⅴ 26 条),小児科医に児童虐待のおそれがないかどうかチェックさせている。そして,医師が児童虐待の可能性を発見したときには,少年局に通報する義務を負っている。この場合には,医師の守秘義務は免除される。子の健康手帳を見れば,親がどの程度,子の健康に配慮して適切な健診を受けさせているかを直ちにチェックできるため,児童虐待に対応する有効な手段であるといえる²¹⁶。 もっとも,子は社会福祉法上,定期健診を受ける権利をもつが(SGB Ⅴ 26 条),実際には,親が子に健診を受けさせなければ医師もチェックできないため,限界があることも確かである。
4.家庭裁判所による保護措置
⑴ 子の保護措置に関する手続
⒜ FamFG に基づく手続
現行法上,BGB 1666 条及び 1666a 条に定める措置について事物管轄権をもつのは,家庭裁判所である(GVG 23a 条1項1号;FamFG 111 条2号,151 条1号)。BGB 1666 条及び 1666a 条に関する手続は,独立の手続として行われるほか,申立てによって離婚訴訟の附帯手続としても行われる (FamFG 137 条3項)。家庭裁判所は,職権で手続を開始するほか,何人もその手続の開始を促すことができる(FamFG 24 条1項)²¹⁷。手続に参加するのは,親及び子のほか(FamFG 7条,8条),養育人(FamFG 161 条1項,7条3項),少年局(FamFG 162 条1・2項),そして子のための手続補佐人(Verfahrensbeistand)である(FamFG 158 条2項2号)。子の身上監護に関する手続には,職権探知主義が妥当する(FamFG 26 条)。
子は可塑性に富み,環境の変化に対応するのも早いため,家庭裁判所が BGB 1666 条及び 1666a 条に基づく保護措置をとるための手続が長引けば,子の現況にそぐわない決定が下され,子の基本権が侵害されるおそれがある。また,親の権利(GG 6条2項)及び家庭生活の尊重に対する権利(GG 6条1項;EMRK 8条)も侵害されうる。それゆえ,FamFG 155 条1項は,子の居所,面接交流,返還に関する手続及び子の福祉の危殆化に関わる手続は,優先的かつ迅速に執り行うべきことを定めている。そして,家庭裁判所は,手続開始後の4週間以内に早期期日を設け,当事者を審問するほか (FamFG 155 条2項2文),BGB 1666 条及び 1666a 条に関する手続においては,直ちに仮処分の要否を審査する(FamFG 157 条3項)。家庭裁判所は,一連の法改正を経て(上述Ⅲ参照),実体法上も手続法上も,従来より早い段階で迅速に介入できるように工夫されている²¹⁸。
他方で,当事者の合意を重視している点も,現行の家事事件及び非訟事件手続法(FamFG)の特徴である。すなわち家庭裁判所は,親子関係事件において子の福祉に反しないかぎり,当事者が合意に達するよう試みることとされている(FamFG 156 条1項1文)。その際に,家庭裁判所は,当事者に対して社会福祉施設による養育援助又は助言を受けられること,また調停その他の裁判外の和解によって紛争を解決できることを示す(FamFG 156 条1項 3文)。
また,家庭裁判所は,BGB 1666 条及び 1666a 条に基づく保護措置を取るときには,緊急の場合を除いて,親とともに――相当な場合には子も含めて――,どうすれば特に公的援助によって子の福祉への危険を阻止できるか,そして必要な公的援助を受けなかったときにどのような結果となるかを討議する(FamFG 157 条1項1文)。そのために家庭裁判所は,期日に少年局を召喚し(FamFG 157 条1項2文),親にも出頭を命ずる(同条2項1文)²¹⁹。単独親権者からの親権の取り上げとともに,他方の親への親権移転(BGB1680 条3項)が問題となりうる場合には,他方の親も出頭させる²²⁰。 この手続は,家庭裁判所が親に対して,少年局の養育援助を受けるよう促す実体法上の措置(BGB 1666 条3項1号)に対応している。これは,家庭裁判所が糾問者として親権に介入する前に,国家機関として予防的な保護措置をとることを可能にするものであり,ある意味では,SGB VIII 8a 条に 基づく少年局の役割に相当する機能を果たすといえる²²¹。
家庭裁判所は,BGB 1666 条及び 1666a 条に基づく保護措置に関する本案手続においては,基本法上の審問請求権を保障するため(GG 103 条1項),必ず親を直接審問しなければならない(FamFG 160 条1項2文)。親権をもたない親も,その対象となる²²²。また,身上監護権の全面的又は部分的な取り上げが問題となる場合には,家庭裁判所は,必ず子のために手続補佐人を任命するほか(FamFG 158 条2項2号)²²³,①子が14歳以上である場合には原則として,②子が14歳未満であるが,子の希望,親との関係又は子の意思が裁判所の決定に重要な意味をもつ場合,その他相当な理由がある場合には,子も直接審問する(FamFG 159 条1・2項;ただし同条3項に例外あり)。さらに,子が相当期間,養育人のもとで生活している場合には,養育人も審問することができる(FamFG 161 条1項)。当事者にとっては,家庭裁判所の敷居は高い。そのため,たとえばケルン家庭裁判所では,裁判官が当事者の近くで話を聞けるように面会室のサイズを小さくしたり,審問室とは別の階に子どもの遊び場を設け,そこで子がリラックスして話ができるように工夫しているという。
子の身上監護に関する手続においては,家庭裁判所は,必ず少年局を召喚しなければならない (FamFG 162 条1項)。少年局は,単なる家庭裁判所の補助機関ではなく,固有の任務を果たすために手続に参加することを予定されており,社会福祉法上も,家庭裁判所を援助し,裁判手続に協力する義務を負っている(SGB Ⅷ 50 条1項1号,52 条)²²⁴。それゆえ,少年局は,申立てによって自ら手続に参加することもできる(FamFG 162 条2項)。FamFG による手続には,職権探知主義が妥当するが(FamFG 26 条),実務上は,少年局が保護措置を申し立てる際に,親権のどの部分を取り上げるべきかを明記して家庭裁判所に示すのが通常である。そして,少年局は,家庭裁判所に自ら作成し た意見書や医師の鑑定書などを提出し,当該措置が必要であることを疎明する225。
興味深いことに,ミュンヘン家庭裁判所のシュミット裁判官は,家事事件及び非訟事件手続法 (FamFG)が施行されてからまだ日が浅いため,同僚裁判官の間でも手続の進め方に違いがあると指摘していた。すなわち,家庭裁判所は,BGB 1666 条及び 1666a 条に関する手続においては,直ちに仮処分の要否を審査するが(FamFG 157 条3項),それによって仮処分で親の親権を全面的又は部分的に取り上げ(FamFG 49 条1項),本案手続を行わないで済ます裁判官もいるという。これは,FamFG によれば,仮処分は本案と独立であり,裁判官が本案手続を行うか否かを選択できること(FamFG 51 条3項),また家庭裁判所が仮処分によって親権を取り上げれば,少年局が必要な措置をとることができ,目的が達せられることを理由とする。一般論として,バイロイト家庭裁判所のキルヒマイアー裁判官も,家庭裁判所による保護措置は,仮処分において事実上内容が確定することが多く,本案手続において,少年局の意見書等を踏まえて判断を覆すことは稀であると指摘していた。
しかし,仮処分における口頭弁論は任意であるため(FamFG 246 条2項),家庭裁判所は,現行法上,親及び子を呼び出すことなく,親権を全面的又は部分的に取り上げることができる²²⁶。もとより親は,このような場合に,家庭裁判所に対して仮処分のための口頭弁論(FamFG 54 条2項),あるいは本案手続の開始(FamFG 52 条1項1文)を求めることができる。しかし,親が積極的に請求しないかぎり,口頭弁論を開かないまま仮処分によって親権を取り上げ,手続を終了させるような扱いは,FamFG 157~160 条の趣旨に反するうえ,基本法上の親の審問請求権の保障(GG 103 条1項)という観点からも問題がある²²⁷。FamFG 156 条3項が,子の居所,面接交流,返還に関する事項について仮処分を認めたうえで(1文),できる限り子を直接審問すべきことを定めている趣旨(3文)にも反するであろう。また,子の養育における継続性の原則に鑑みても,家庭裁判所は,仮処分ではなく本案手続において保護措置を決定し,その確定によって子に安定的な養育環境が与えられる条件を整えるべきであろう。
⒝ 実務における運用
家庭裁判所は,BGB 1666 条に基づいて,親権の部分的又は全面的取り上げを含む保護措置を決定する。その際には,「相当性の原則」に従い,できる限り介入の度合いの低い保護措置をとることを要請されており,親権を取り上げる際にも,その部分的な取り上げにとどめることが多い(上述Ⅳ-5-⑶参照)。親権が取り上げられ,他方親権者によって又は他方の親への親権の移転によって親権が行使されえないかぎり,親権の部分的取り上げの場合には,補充保佐人が,全面的取り上げの場合には,後見人が選任される(上述 Ⅳ-5-⑷及びⅣ-6 参照)。
ただし,実務においては,少年局が子を一時保護した後で,子の福祉に危険がないと判断され,子が親元に戻されるケースのほか,子の養育人又は施設への託置に同意する親も少なくないという。 これは,公的機関の介入には逆らわず,その判断に従う親が多いことを意味する。親の同意があれば, BGB 1666 条に基づく親権の強制的な取り上げは不要となり,任意の子の託置又は親権行使の委託がなされる。その証左として,2008年に少年局によって一時保護された子が 32,253 人であるのに対し て,家庭裁判所への BGB 1666 条に基づく保護措置の申立て件数は 14,906 件,そして親権が全面的又は部分的に取り上げられた件数は 12,244 件にとどまっている²²⁸。
児童虐待のケースで,少年局によって子が一時保護され,親から引き離されると,まず1~2週間程度,緊急養育人(Bereitschaftspflegeeltern),社会福祉施設,少年局の一時保護施設等に託置される²²⁹。そして,親の同意がなく,家庭裁判所によって BGB 1666 条に基づく子の託置が決定されると ――通常は,親の居所指定権の取り上げを伴う――²³⁰,長期養育人(Dauerpflegeeltern)又は施設での長期の託置に切り替えられる。子の健やかな成長のためには,養育人の家庭に預けることが望ましいが,ドイツでは養育人への託置が施設への託置とほぼ同数であり,問題であると指摘されている²³¹。
長期の託置先として,どのような場合に子を養育人に託し,どのような場合に子を施設に託すかは,法律上定められていない。家庭裁判所は,BGB 1666 条の措置をとる際に,養育人への託置か施設への託置かだけは決定すべきであるとされるが²³²,後は補充保佐人又は後見人を選任し(BGB 1901 条1項),その者に適切な養育人又は施設を探させる扱いとなっている。今日では,家庭裁判所が,親と祖父母その他の親族との対立を避けるために,少年局を保佐人又は後見人に選任することが多い。2008年に親権が全面的又は部分的に取り上げられた件数は,12,244 件であり,そのうち少年局による親権代行が命じられた件数は 9,110 件である(2007年には,10,769 件のうち 8,327 件)。つまり, 約75~80%のケースでは,少年局による職務保佐又は職務後見によっており,それ以外の約20~25%のケースでのみ,社会福祉施設や親族等が保佐人又は後見人に選任されている。しかし,たとえばミュンヘンでは,少年局の職員1人当たり70人の子の保佐又は後見を担当しているとされ,マンパワーが十分であるとは言い難い。
少年局による職務保佐又は職務後見の場合には,法的に親権を代行する者と,現実に子を監護する養育人及び施設の世話人(本節では,以下「養育人等」という)が分離する。その場合に,相当期間,子を現実に監護している養育人又は施設の世話人には,任意の親権行使の委託の場合と同様に, BGB 1688 条に基づく権限が与えられる(上述Ⅳ-4-⑵参照)。すなわち,養育人等は,日常生活に関する事項について単独で決定し,親権者を代理する権限をもつ(BGB 1688 条1項1文,同条2項)。 また養育人等は,子の勤労収入を管理し,子の扶養料,保険金,年金その他の社会保障給付を子のために請求して管理する権限をもつ(BGB 1688 条1項2文)。さらに,緊急の場合には,養育人等は, 子の福祉のために必要な法的行為(特に医療行為への同意など)を行うことができる(BGB 1688 条1項3文;1629 条1項4文の準用)。それに対して,重要事項については,あくまで保佐人又は後見人が決定権限をもつため,養育人等はその都度,判断を仰がなければならない²³³。もっとも,少年局は,1年に1回,職務保佐又は職務後見を終了させて個人保佐又は個人後見(あるいは団体保佐又は団体後見)へと切り替えるべきか否かを審査する義務を負っている(SGB Ⅷ 56 条4項)。そして, 実務においては,少年局が一定期間,子の保佐人又は後見人として活動した後,長期養育人による監護が適切に行われている場合には,その者を保佐人又は後見人に変更するよう家庭裁判所に申し立てるケースも増えているという(BGB 1696 条1項1文;FamFG 166 条参照)。
なお,ケルン少年局のフォルメッケ氏によれば,以前には,少年局が親に対して,子と長期養育人との養子縁組に同意するよう説得する傾向があった²³⁴。しかし,これはうまく機能せず,実親が養子縁組を拒否するケースが多いこと,また子の健全な成長にとっては,血のつながりのある実親との親子関係の存続が重要であることが認識され,現在では,子と長期養育人との間で養子縁組が行われるケースは稀であるという。
養育人として子を監護する者は,原則として少年局の許可を得る必要がある(SGB Ⅷ 44 条1項)²³⁵。少年局は,子の保護のため,一定事項について養育人を監督する(同 44 条3項)。養育人には,緊急養育人と長期養育人の別があり,本人がそのいずれかを選択する。ケルン家庭裁判所のベルクマン裁判官によれば,長期養育人は,自ら子を持てなかった親がなることが多く,州からも毎月補助金(700~800ユーロ程度)が支払われるため,比較的希望者が多い。それに対して,緊急養育人の場合には,託置される子が幼いうえに,複雑な事件が多く,しかも約2週間以内には家庭裁判所によって保護措置の有無が決定され,子は親元に戻るか,あるいは長期養育人又は施設への託置に切り替えられる。それゆえ,緊急養育人の心理的な負担は大きく,希望者は少ないという。
⑵ 保護措置の見直しと変更
⒜ 保護措置の見直し
家庭裁判所は,BGB 1666~1667 条に基づいて長期間継続する子の保護措置をとった場合には, 職権で,一定の間隔を置いてその見直しをしなければならない(FamFG 166 条2項)。土地管轄をもつのは,実際に保護措置をとった家庭裁判所ではなく,事後的変更について(潜在的に)管轄をもつ 家庭裁判所である。見直しのための手続は,略式かつ独立の手続であり,保護措置の変更手続が必要ないか否かを審査するのに資するが,その都度,本案について実質的な再審査を行うものではない²³⁶。
家庭裁判所が,見直しのためにどのような措置を取るかは規定されておらず,父母の審問,子の意見聴取,あるいは少年局への調査委託などの方法がありうる。どの程度の時間的間隔で見直しをするかは,家庭裁判所の裁量にゆだねられており,事案ごとの見直しの必要性及び程度に応じて判断される。一般論として,最初の見直しは比較的短期間で行うのが望ましいが,その後は約1~3年間隔で見直しをすれば足りると解されている²³⁷。
この裁判所による保護措置の見直しは,基本的に実務上も行われており,たとえばケルンでは約6ヶ月単位で,ミュンヘンでは1年単位で,ベルリンでは1~2年単位で,バイロイトでは2年単位で見直しをしているという。もっとも,たとえばベルリンでは,事案に応じて,親に3ヶ月後に再度,家庭裁判所に来るよう求める例もあるという。なお,後述のように,家庭裁判所の裁判官には質のばらつき及び地域間格差があるとされ,たとえば少年支援及び家族法研究所マイセン氏は,地域によっては全く見直しが行われていないと指摘していた。
他方,家庭裁判所は,BGB 1666~1667 条に基づく措置をとらなかった場合にも,一度だけ,通常は3ヶ月後に,その判断が妥当であったか否かを見直すべきであるとされている(FamFG 166 条3項)。これは文言上,FamFG 166 条2項とは異なって,家庭裁判所の努力義務を定めているに過ぎない。この規定は,家庭裁判所が公的援助について親と討議する制度が導入されたこと(FamFG 157 条) に対応しており,親が少年局の養育援助を受けて子の養育に努めることを約束したために,家庭裁判所が BGB 1666 条の保護措置を差し控えた場合にも,その相当性を再度チェックできるようにしている。また事実上,家庭裁判所の権威によって,少年局と協力して子の適切な養育を行うよう親に心理的な圧力をかける機能ももつとされる²³⁸。しかし,家庭裁判所が一旦,子の福祉に対する危険がないために保護措置が不要であると判断した場合にまで,国家が再び介入してその判断の妥当性を審査するのは,基本権侵害(家庭生活の尊重:GG 6 条1項)に当たるおそれがある。そこで,学説は,FamFG 1666 条3項を憲法適合的に限定解釈し,家庭裁判所が BGB 1666 条に基づく保護措置の申立てに明ら かに理由がなく,子の福祉への危険がないと判断した場合には,再度の見直しは不要であるとしてい る²³⁹。それに対して,子の福祉への潜在的な危険があっても,家庭裁判所が具体的な保護措置をとらなかったために見直しが一度しか行われないのは(FamFG 166 条3項),保護措置をとった場合の定期的な見直し義務(同条 2項)と比べて,整合性を欠くとも批判されている²⁴⁰。
⒝ 異議申立て
家庭裁判所による BGB 1666 条の保護措置に関する決定は,ラント上級裁判所(Oberlandesgericht [OLG])への異議申立てによって取り消されうる。家庭裁判所の決定が独立の手続において下された場合には,固有の異議申立てにより(FamFG 58 条1項),婚姻事件の附帯手続において下された場合 には,附帯事項に関する異議申立てとして扱われる(FamFG 137 条3項)。異議申立権をもつのは,親(FamFG 59 条1項),14歳以上の子(FamFG 60 条),子のための手続補佐人(FamFG 158 条4項5文),そして少年局(FamFG 162 条3項2文)である。親権を喪失した親は,原則として異議申立権をもたないが,例外も認められている²⁴¹。反対に,養育人は,手続に参加した場合(FamFG 161 条1項)であっても,異議申立権をもたない。また,子の継親及び親族等も,家庭裁判所に BGB 1666 条の保護措置を申し立てた場合であっても,異議申立権をもたない²⁴²。
ラント上級裁判所は,事実審として独自の事実認定を行い,異議申立ての範囲内で自ら判断をする。それゆえ,家庭裁判所の決定を取り消し,それを異議申立人の有利にも不利にも変更できる。ラント上級裁判所は,原則として家庭裁判所と同様に,当事者を審問しなければならないが(FamFG 68 条3項1文,157 条以下),新たな知見を得る可能性がないと判断すれば,口頭弁論を開かなくてもよい(FamFG 68 条3項2文)。ただし,ラント上級裁判所の判断が当事者の個人的印象にかかっており,しかも家庭裁判所とは異なる決定を下す場合には,必ず当事者を審問しなければならない²⁴³。
ラント上級裁判所の決定に対しては,さらに法律審である連邦通常裁判所(Bundesgerichtshof [BGH])に上訴できる(FamFG 70 条1・2項)。連邦通常裁判所は,BGB 1666 条の要件である法律概念の解釈,下級審による職権調査義務及び審問義務の違反,そして事実認定に基づく法的判断の相当性について審査する。BGH において新たな事実を主張することは,原則として認められない(民事 訴訟法[ZPO] 580 条以下の場合には,例外が認められる)²⁴⁴。
⒞ 保護措置の事後的変更
家庭裁判所は,子の福祉に関わる重要かつ十分な根拠のある理由があれば,独立の手続において,親権の全面的又は部分的な取り上げ,面接権,居所指定等に関する決定を事後的に変更することができる(BGB 1696条1項1文;FamFG 166条)。子の養育においては,継続性の原則(Kontinuitätsgrundsatz)が重要な意味をもつため,事後的な変更が認められるためには,そのデメリットを大きく上回るような重大な理由がなければならない²⁴⁵。他方,BGB 1666~1667 条に基づく措置は,子の福祉へ の危険が消滅した場合又はその措置の必要性がなくなった場合には,取り消される(BGB 1696 条2項)。
5.司法介入の利点
上述のごとく,1991年までは,後見裁判所と並んで,少年局が行政機関として公法上,親権行 使に一定範囲で介入することが認められていたが(JWG 55~77 条),1991年の社会福祉法第8編「児童及び青少年援助」の制定後は,親権への介入は,後見裁判所(1997年親子法改正後は家庭裁判所) の専権事項とされている(上述Ⅲ参照)。このように,ドイツが行政による親権への介入を制限してきている背景として,過去にナチスによる独裁政権を経験しており,一般に国家が基本法上保護されている人権を制限することに慎重である点を指摘することができる。
行政機関である少年局だけで児童虐待に対応するのではなく,司法機関としての家庭裁判所が関与し,専権的に親権の全面的又は部分的な取り上げについて判断する利点として,法治国家の基本原則としての権力分立の尊重,そして行政と司法の明確な役割分担が挙げられる。少年局は,親による子の養育に助言を与え,必要な支援を行い,児童虐待の予防に努める責任を負っている。そして,少年局は,早い段階から直接親と接触して養育支援をしているため,客観的かつ中立的な立場で親に対して強制措置を命ずることは難しい。それに対して,家庭裁判所は,「法とは何か」を判断すべき中立的な立場にあり,親及び子の審問請求権を基礎とした公平な裁判を保証している。また,実務上も,家庭裁判所は,少年局が性急に子を保護しようとする際に,歯止めをかける役割も負っている(ただし,ドイツでは少年局が過度に介入するケースは少なく,むしろ予算上の制約もあって,対応の差し控えや遅れが問題となることの方が多い²⁴⁶)。児童虐待のような複雑な問題では,家庭裁判所と少年局が明確に役割分担し,相互に協力することで,適切な保護措置をとることができるといえる。
6.制度上又は運用上の問題点
家庭裁判所が,児童虐待に対応するため,BGB 1666 条及び 1666a 条に基づいてどのような保護措置をとるかを決定するのは容易ではない。裁判官が適切な判断を行うためには,心理学や社会心理学,教育学などの学際的な(interdisziplinär)知識をもつことが望ましいが,そのための再教育システ ムが十分整備されているとはいえない。特に家庭裁判所は,合議制ではなく単審制であるため,個々の裁判官の資質に大きく左右される。従来は,3年以上の実務経験のある裁判官だけが家庭裁判所裁判官となったが,現在では 1年の実務経験で足りる。ドイツでは,日本と比べて裁判官の異動がはるかに少ないため,裁判官が一定期間経験を積むことで,必要な専門知識を習得できることもある(ケルン家庭裁判所では,約30年間継続して親子事件を扱っている裁判官の例もある)。しかし,他方で,家庭裁判所のポストは出世コースから外れており,経験の少ない若い裁判官が(特に地方の小都市に)着任した場合には,数年でいなくなるケースも多い。このように,裁判官の質のばらつき及び地域間格差が隠れた問題としてあるという。
また,児童虐待に的確に対応するためには,少年局と家庭裁判所の協力関係が不可欠であるが,稀に両者の見解が食い違うことがある。特に,少年局が家庭裁判所に対して BGB 1666 条の保護措置をとるよう求めたが,家庭裁判所では,少年局による社会福祉法上の通常の養育援助措置で足りると判断し,申立てを棄却することもある(2008年に家庭裁判所に親権の取り上げが申立てられたのは 14,906 件であり,実際にそれが命じられたのは 12,244 件である)。この場合に,バイロイト家庭裁判所のキルヒマイアー裁判官によれば,家庭裁判所は,少年局に対して養育援助措置をとるよう命ずる権限をもたない。そのため,仮に少年局が養育援助を拒否すれば,子は保護されないおそれがある。 もとより親は,少年局に対して公的給付としての養育援助を請求する権利をもつが,問題を抱えた親が自発的に少年局による養育援助を請求することは考えにくい。そして,親が請求しなければ少年局 の養育援助が行われず,困難な問題が生ずるという²⁴⁷。
そのほか児童虐待への対応における実務上の問題点としては,①具体的な虐待状況(特に性的虐待²⁴⁸)を的確に把握するのが難しいこと,②手続に時間を要すること(家庭裁判所は,FamFG 155 条によれば,親権に関する手続を迅速かつ優先的に処理しなければならないが,基本的な証拠となる少年局の意見書作成には時間がかかること,上訴がなされれば長引くことが問題として挙げられる), ③少年局及び社会福祉施設,そして施設相互間の協力関係を構築するのは容易ではないことが挙げられる。また,④子の健やかな成長のためには,長期養育人のもとで新しい家庭に託置することが望ましいが,ドイツでは長期養育人の数が足りないため,施設への託置が約半数を占めていること,⑤施設の数自体も足りておらず,順番待ちに時間がかかること(ケルンでは,心理療法などの特殊な専門知識を備えた施設に入るのに,数年待たされることもあるという),⑥施設への託置には,非常にコストがかかること(通常の施設への託置でも,子一人につき一日200ユーロ程度,心理療法など特別の専門知識を備えた施設では,子一人につき一日400ユーロ程度かかるという)²⁴⁹,などが指摘され ている。
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*本報告書の作成に当たって,聞き取り調査に応じてくださった専門家は,次の方々である。ここに記して御礼申し上げたい。
ドイツ青少年支援及び家族法研究所250トーマス・マイセン氏(バーデン・ヴュルテンベルク州)
ケルン少年局クラウス=ペーター・フォルメッケ氏(ノルトライン・ヴェストファーレン州)
ケルン区裁判所マルガレーテ・ベルクマン裁判官(ノルトライン・ヴェストファーレン州)
ベルリン・テンペルホーフ=クロイツベルク区裁判所シュテファン・ハンマー裁判官(ベルリン州)
ミュンヘン区裁判所ユルゲン・シュミット裁判官(バイエルン州)
バイロイト区裁判所カール=ハインツ・キルヒマイアー裁判官(バイエルン州)
バイロイト弁護士モニカ・ライブレ氏(バイエルン州)
ボン大学ニーナ・デトロフ教授(ノルトライン・ヴェストファーレン州)
ハンブルク大学ベッティーナ・ハイダーホフ教授(ハンブルク州)
フランクフルト大学ルートヴィッヒ・サルゴー教授(ヘッセン州)
レーゲンスブルク大学ディーター・シュヴァープ教授(バイエルン州)
²⁵⁰ Deutsches Institut für Jugendhilfe und Familienrecht (http://www.dijuf.de/). ドイツ青少年支援及び家族法研究所は,1906年に設立された,全国の少年局を構成員とするドイツで唯一のユニークな民間団体であり,ハイデルベルクに本部を置いている。同研究所は,法律問題に関する意見書の作成,法律相談,論文の公表,少年局員の再教育等を通じて,専門的観点から少年局の活動を支援することを目的としている。特に同研究所は,少年局による児童及び青少年支援のほか,少年局がドイツ在住の未成年者による外国在住の扶養義務者に対する扶養請求権を代わりに行使する際の支援を行っている。活動資金の約半分は少年局が,一部は連邦政府が拠出しており,法学や社会教育学を修めた者のほか,翻訳家,ソーシャル・ワーカーなどが研究員として勤務しているという。
(了)
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