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父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について【オセアニア】

 この記事は法務省HPに掲載されている「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について」の【オセアニア】をnoteに転載したものです。

オーストラリア²⁷

1 離婚後の親権行使の態様

 裁判所による命令がない限り,離婚後も,両親が子に対して親権を有する (家族法第61C条。なお,オーストラリアでは,「親権」ではなく,「親責任(parental responsibility)」という用語が採用されている。親責任とは,親が子に対して有する全ての義務,責任及び権限であるが(同法第61B 条),本報告書においては,以下においても,「親権」と記載する)。特に, 裁判所による養育命令(parenting order)により,両親の均等な親権が定められた場合には,両親は子の重要な長期的事項(どの学校に進むべきか, 医療上の決定等)について,協議の上,共同で決定をしなければならない(同法第65DAC条)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  •  両親が子の養育について合意をすることができない場合には,裁判所は,子の最善の利益に基づいて,養育命令を発することができる(家族法第60CA条)。裁判所は,子の最善の利益を考えるに当たって,①子を肉体的及び精神的害悪から保護する必要性及び②両親双方と有意義な関係を有することによる利益という二つの要素について優先的に考慮する(同 法第60CC条第2項)。

  •  裁判所は,原則として,両親が均等に親権を有することが子の最善の利益であるとの推定に基づかなければならないが(同法第61DA条),親による家庭内暴力や子に対する虐待があると信じるについて相当の理由がある場合は,この限りではない。

  •  裁判所は,子にとって最も適切な判断をするために,子及び家族についての専門性及び経験を有するソーシャルワーカーや心理学者を,家族コンサルタントとして指名することができる。家族コンサルタントの中心的な仕事は,裁判所に対して報告書を提出することである。その他,家族コンサルタントは,当事者や裁判所に対して援助・助言を行ったり,裁判所に証拠を提供したりすることができる。

  •  裁判所は,子の専属弁護士(Independent Children’s Lawyer)を指名することもできる。子の専属弁護士は,子の法的な代理人ではないから, 子の指示に従う必要はなく,子から独立して,子の最善の利益のために行動をする。裁判所は,子の専属弁護士の見解を重視するという。

3 共同親権行使における困難事項

 両親間で子の養育について合意に至ることが一般的であり,ごく僅かな複雑で高葛藤の事例が家庭裁判所によって扱われる。多くは,家庭内暴力や虐待が関連するものである。具体的な紛争内容は,子の転居のほか,親権の行使態様,親と子が共に過ごす時間(面会交流も含む)についての定めが該当する。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

 子の有無にかかわらず,当事者の合意のみで行われる協議離婚は認められず,裁判所による命令が必要である。ただし,夫婦が共同して離婚を申し立てるのであれば,夫婦がいずれも裁判所に出頭しなくても,裁判所は,離婚の命令を下すことができる。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め

  •  面会交流(contact)という概念ではなく,「子と時間を共に過ごす (spend time with)」という概念により,親と子の交流が規定されている。これは親の権利ではなく義務であり,子の最善の利益のために認められているものである。

  •  裁判所は,均等な時間配分が子の最善の利益にかなうか,又は十分かつ重要な時間を共に過ごすことが子の最善の利益にかない,かつ,実現可能²⁸であるかを検討しなければならない。

  •  両親は,離婚時に,子の養育,福利及び成長について合意をしなければならず,子と共に過ごす時間も合意すべき事項に含まれる。

⑵ 面会交流の支援制度
 政府の補助金により,裁判所を用いることなく両親が合意に達することができるようにするためのサービスが提供されている。具体的には,カウンセリングや,助言,調停,面会交流サービスである。面会交流サービスにおいては,子にとって安全な面会交流の実現を目指し,監督付きの面会交流を行ったり,面会交流の実現について葛藤を有する両親の援助を 行ったりする。

6 居所指定

 家族法には,子の居所の変更について特別の規定は設けられていない。両親間で子の居所の変更が問題になる場合は,子の最善の利益を第一に考慮して判断される。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 両親は,離婚時に,子の養育,福利及び成長について合意しなければならず,養育費もその合意の対象に含まれている。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 裁判所は,子の養育に関する命令を発することができる。しかしながら, 実際には,裁判所の命令よりも,1989年から施行されている「子の養育費に関する枠組み(the Chilid Support Scheme)」²⁹の方が大きな役割を果たしている。この枠組みは,養育費の査定及び徴収を行っている。

8 嫡出でない子の親権

 婚姻関係の有無にかかわらず,別段の定めがない限り,全ての親は子に対して親権を有する。

²⁷ 小川富之・宍戸育世「オーストラリア」各国の離婚後の親権制度に関する調査研究業務 報告書129頁以下も参照。
²⁸ 実現可能性の判断においては,両親がどの程度離れて暮らしているか,現在及び将来において両親が連絡を取る可能性,両親が困難な事項について解決することができる可能性等が考慮要素となる(家族法第65DDA条第5項)。
²⁹ 子どもの養育費の登録及び徴収に関する法律及び子どもの養育費算定に関する法律。こ れら制度の詳細については,前掲注27)145頁以下に記載されている。

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