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第4章 親同士の関係を強化し、子のアウトカムを向上させるのに有効な事

この記事は、イギリス労働年金省の委託を受け、EIF(早期介入財団)が実施したレビュー「WHAT WORKS TO ENHANCE INTER-PARENTAL RELATIONSHIPS AND IMPROVE OUTCOMES FOR CHILDREN」の第4章を翻訳したものです。

イギリスのプログラムに関するエビデンスの評価

背景

 本章は、前章のレビューを補完するものです。私たちは、イギリスで現在実施されているサービスやプログラムについてエビデンスを求め、イギリスのプロバイダーや、イギリス国内で実施するのに適切で実用的と思われるプログラムを開発しているプログラム開発者に相談しました。方法論については次セクションで述べますが、本章ではまず、このプロセスへのインプットに感謝することから始めたいと考えます。レビューのペースが速かったおかげで、プロバイダーが関連情報をまとめるのに数週間しか要していませんが、このプロセスに参加してくれたことに大いに感謝しています。私たちは、このレビューの追加的な課題については、考察の中で幾つか取り上げます。

方法

 エビデンス募集は9月21日に開始し、10月12日まで行われました(エビデンス募集本文については付録3を参照)。
 組織に対し、以下の情報を収集するアンケートに記入を求めました。

  • プログラムとそのプログラム実施に関する基本的な詳細

  • プログラムの実施に必要な実践者

  • プログラムを実施するために必要な監督

  • ライセンス、認定、ブースター・トレーニング、プログラム教材、および費用の詳細

  • プログラムの証拠

 エビデンスの募集は次のチャネルを通じて配布されました。

  • EIFウェブサイト

  • EIFニュースレター

  • ツイッター

  • DWPから資金提供を受けている組織に電子メールで送信

  • 他の政府部門から資金提供を受けている組織に電子メールで送信

適格基準

 プログラムとアプローチは、以下の場合にレビューの対象として特定しました。

  1. 少なくとも1組の夫婦や両親の間のアウトカムを改善することを明確に目的としており、これにより子どもや若者のアウトカムも改善する可能性が高い

  2. 虐待かつ/またはネグレクトが明らかな家庭など、ハイリスク家庭向けの活動よりも、寧ろ夫婦向けに対象を絞った活動に焦点を当てている

  3. 再現可能で、明確に定義されたアウトカムと費用を伴う、適切に構造化され、明確に定義された活動のパッケージ、およびマニュアルへの忠実度か他の形式の従業員サポート、モニタリング、 評価のどちらかを通じて必要な品質の介入を提供する潜在的な手段を伴っている

  4. 現在イギリスで実施しているか、イギリス国内での実施に際し適切かつ実用的であると判断されている

  5. 必要に応じて、プログラム、評価、費用などの追加情報を求めるレビューチームの要求に応えることができる

評価プロセス

 次に、サービスとプログラムを、以下の手順を含むパネルレビュープロセスを通じて、EIFのエビデンス基準に照らして評価しました。

  1. 見逃した可能性のある関連したエビデンスを特定するために、2回目のウェブベースの検索を実施しました。

  2. 各プログラムの評価として、その設計の強さの観点からランク付けし、EIFのエビデンス基準に対する初期評価を行いました(下記を参照)。本研究は、EIFエビデンス・チーム内で働く高度な訓練を受けた研究者により評価を終えました。

  3. 各プログラムの初期評価と評価レポートを外部専門家に転送し、各プログラムを裏付けるエビデンスのレビューも行いました。本レビューの特定の焦点における専門知識に基づいて、外部の専門家をパネルに招待しました。各パネルには最低5人の査読者が参加しました。パネルメンバーの詳細については、表3を参照してください。

  4. パネル会議を3回の開催し、エビデンス・チームと外部専門家が一連の介入を裏付けるエビデンスの強さを一緒に議論し、レビューした各プログラムの初期エビデンスの格付けに同意しました。この格付けは主に、介入の最も頑健なエビデンスによって決定しました。

  5. レビュー内で特定された全てのプログラムについて初期の格付けに合意すると、より広範な専門家グループが参加するモデレーション会議を開催し、更に議論が行われ、最終的な評価の格付けに合意しました。モデレーションパネルのメンバーの詳細については、表4を参照してください。

  6. モデレーション会議の前に、プロバイダーに格付けを連絡しました。EIF基準が不正適用されたという合理的な主張ができるようなら異議申立てをしても良いと、プロバイダーに認めました。

  7. 全ての異議が解決し、最終的な格付けを承認しました。

表3 3つのサブパネル会議のパネルメンバー
表4 モデレーション会議のパネルメンバー

⁵ 多くのパネルメンバーも、電子メールを通じてモデレーションプロセスへの意見を提供しました。

EIFのエビデンス基準

 「What Works Centre」として、EIFは介入をその有効性(即ち、変化をもたらすか?)、影響(即ち、どの程度の変化をもたらすか)、および費用の観点から評価を行います。これらの評価は、介入の評価エビデンスを注意深く精査することによって決定されます。これには、評価デザインの質の評価と、調査結果が子どもにとって一貫した有意義な利益をどの程度示唆しているかが含まれます⁶。EIFは、「What Works」ネットワーク全体で広く合意されている、十分に確立された一連の基準に照らして介入のエビデンスを評価することでこれを達成します。これらの基準は、定性的研究や専門家の意見よりも、ランダム化比較試験(RCT)や同様に厳密な準実験計画(QED)の価値を強調しています。これは、定性的デザインや専門家の意見では、介入がどのように、そしてなぜ機能するのかについて貴重な洞察を追加できることが認識されているにも拘らず、影響の因果関係や規模を判断できないためです。
 EIFの基準では、6つの個別の格付けを使用します(表5を参照)。このエビデンスの強さの尺度は、特定の理論や評価エビデンスに基づいていない介入に割当てられる0と、そのアプローチが子どもや家族にとって有害であるか、目に見える利益をもたらさないという強力で一貫したエビデンスがあるプログラムに割り当てられたマイナスの格付けを加えたNESTAのエビデンス基準とほぼ同様です。これらの基準は、プログラム評価と児童発達に関する特別な専門知識を持つ著名な学者で構成されるEIFのエビデンス・パネルとの協議のもとに開発され、承認されました。

表5 早期介入財団(EIF)のエビデンス基準

⁶ このレビューの目的上、夫婦間の関係の質に対する利点も考慮します。

 このレビューでは、個々のプログラムに、0または1の格付けを適用していないことに注意することが重要です。これは、レベル0とレベル1の間の評価の性質は、評価研究のエビデンスの質に関係するレベル2以上の評価よりも判断の問題であるためです。将来的にはレベルを区別できるようにしたいと私たちは考えていますが、当面は概念的な目的のみに留めます。その代わりに、どのプログラムがレベル2に該当しないのかを簡単に説明し、その主な理由を示します。

プログラムの費用の評価

 「What Works Centre」として、EIFはまた、委員がプログラムを利用できるかどうか、また金額に見合った価値をどの程度提供できるかを公正に評価できるように、プログラムの費用に関する情報の提供にも努めています。そこでEIFは、相対コストの尺度でプログラムを格付けできるアプローチを開発しました。
 相対費用の格付けは、各介入の実際の単位費用の推定値ではありません。その代わりに、プログラムを運用する際にどれだけリソースを消費するかという観点から、プログラムを相互に上位あるいは下位に格付けできる尺度です。リソースをあまり消費しないプログラムは低い格付けになりますが、最も消費するプログラムは最も高い格付けになります。
 この枠組みはあらゆるプログラムに一貫して適用でき、あるプログラムが他のプログラムよりリソース消費が多いか少ないかを判断できます。この作業の目的上、リソースは、それを提供するために必要なインプットと活動の観点から介入ごとに定義されます。これらには、トレーニングと実施に必要な時間、実務者の資格要件、内部および外部の監督要件、ライセンス要件、および介入の集中度を反映するその他の特徴の尺度が含まれます。EIFは、これらの種類の情報を各プログラムの単一スコアに結合する手法を開発しました。これは、相対費用を格付けしていることです。私たちはプログラムを1から5の尺度でランク付けしました。1はリソースの消費が最も少ないプログラム、5はリソースの消費が最も多いプログラムを示します。

結果

エビデンスレベル別の15の介入策

 15件のプログラムの更なる詳細については、付録4を参照してください。

子どものアウトカム
 募集プログラムに提出された15件のプログラムのうち14件は、子どものアウトカムについてまだレベル2に達していませんでした。そのうち12件のプログラムについては、子どものアウトカムへの影響がまだ評価されていなかったためです。そのうち2件のプログラムについては、レベル2の基準を満たしていない子どものアウトカムへの影響に関する基本的かつ予備的なエビデンスがあったためです。
 15件のプログラムのうち1件はレベル3の評価を受け、子どものアウトカムの改善に効果的な介入が行われたことを示しています。このプログラムは「学童とその家族」です。

夫婦間や親同士のアウトカム
 13件のプログラムは、夫婦間や親同士のアウトカムに関してまだレベル2に達していませんでした。プログラムのうち4件については、夫婦間アや親同士のアウトカムへの影響がまだ評価されていなかったためです。プログラムのうち9件については、レベル2の基準を満たしていない、夫婦間や親同士のアウトカムへの影響に関する予備的なエビデンスがあったためです。15件のプログラムのうち2件はレベル3の評価を受け、夫婦間や親同士のアウトカムを改善する効果的な介入を示しています。これらのプログラムは、「パートナーとしての親」と「学童とその家族」です。

格付けの根拠となるエビデンスの概要

 格付けを裏付ける評価エビデンスの範囲をよりよく理解するために、表6に15件の介入それぞれを裏付ける評価エビデンスについての研究デザインの内訳を示します。多くの介入には格付けに寄与する複数のエビデンスがあったため、エビデンスの量はプログラムの数を超えています。

表6 プログラムの格付けに寄与した対象となる研究のデザイン

プログラム費用

 図3は、15件の格付けの費用格付けの割合を示しています。要約すると、私たちはプログラムを1から5の尺度で格付けしました。1はリソースの消費が最も少ないプログラム、5はリソースの消費が最も多いプログラムを示します(Uは費用がかかりません)。

図3 費用格付けによる介入の格付けの割合

費用格付けをUにしたプログラム
 15件のプログラムのうち7件は、プロバイダーがレビュー期間内に関連情報を提供できなかったため、「費用が発生しない」になります。

  • レベル1の費用格付けをしたプログラム
    15件のプログラムのうち1件をレベル1に格付けしました。

  • レベル2の費用格付けをしたプログラム
    15件のプログラムのうち3件をレベル2に格付けしました。

  • レベル3の費用格付けをしたプログラム
    15件のプログラムのうち4件をレベル3に格付けしました。

  • レベル4の費用格付けをしたプログラム
    15件のプログラムのうち、レベル4の格付けをしたものはありませんでした。

  • レベル5の費用格付けをしたプログラム
    15件のプログラムのうち、レベル5の格付けをしたものはありませんでした。

論理モデルおよび変化の理論

 既に提示されたエビデンスの格付けに加えて、表7は15件のプログラムの論理モデルおよび変化の理論から実施した評価を示しています。

表7 満足した論理モデルの基準

 パネルプロセスは、介入の3分の1(N=5)がエビデンスに基づく変化理論によって情報を得ていたと結論付けました。これは、介入のデザインと対象集団をサポートし、情報を提供するための科学的研究または厳格な評価からの頑健性のあるエビデンスがあったことを意味します。残りの3分の2の介入(N=10)については、パネルプロセスでは、調査が介入のデザインにどのような影響を与えたかが明確でないなど、変化の理論に関する幾つかの懸念が生じました。介入の大部分(N=11)には、明確に定義された対象集団がありました。明確に仕様化された論理モデルが多数(N=9)ある一方で、より詳細な仕様化が望まれるものもありました。また、興味深いのは、全ての介入が夫婦間や親同士のアウトカムを特定していた一方で、子どものアウトカムを特定していたのはサブセット(N=8)だけだったことです。最後に、一部のプロバイダー(N=6)が初期の青写真を(例えば、マニュアルやその他のサポート資料を通じて)開発していた一方で、多くのプロバイダーはこの時点では未だ青写真を開発していませんでした。

考察

 レビューのこの部では、イギリスで現在実施されている、親同士の関係を強化し、子どものアウトカムを向上させることを目的としたサービスとプログラムの有効性に関する現在のエビデンスを確認することが求められました。EIFのエビデンス基準に対するエビデンスの体系的な調査に基づいて、このセクションでは、前章でレビューした国際文献に照らして、調査結果の意味を考察します。調査結果に基づいて、以下の問題について考察します。

  • エビデンス開示請求についての長所と限界

  • 夫婦間や親同士のアウトカムに関するエビデンスの強さについての考察

  • 子どものアウトカムに関するエビデンスの強さについての考察

  • 将来の研究への影響

  • 政策と実践への影響

エビデンス開示請求の長所と限界

 開示請求は様々な利害関係者に配布され、組織および対応する組織のリストは、この分野における現在のイギリスの慣行を代表するものです。それにも拘らず、レビューのスケジュールが厳しいことを考えると、全ての関連組織が対応できるわけではないため、レビューに含まれるプログラムやサービスがイギリスの現在の慣行を全てカバーしているわけではないことを認識することが重要です。私たちは、スケジュールに間に合わなかった組織、または開発中のプログラムがある組織の記録を保管しており、それらをこの分野での将来の作業に含める機会があるかもしれません。

夫婦間や親同士のアウトカムに関するエビデンスの強さについての考察

 このレビューでは合計15件の介入を特定しました。これらの介入のうち2件はレベル3に格付けし(「パートナーとしての親」および「学童とその家族」)、夫婦間または親同士のアウトカムを改善する効果的な介入を示しました(これらの介入のうち1件は、子どものアウトカムに関してもレベル3を格付けしました-以下を参照)。どちらの場合も、介入はランダム化対照試験によって裏付けられており、この試験では、事前・事後の標準化されたアウトカム測定と並行して、「治療企図」デザインを使用する、状況と対象集団に適した方法を用いて、参加者を治療群と対照群に無作為に割り当てました。家庭生活への父親の心理的および行動的関与の改善、育児ストレスの軽減、夫婦の満足度の向上、夫婦間の葛藤の減少など、様々なアウトカムに改善が見られました。これらのアウトカムは、この研究とは独立して検証された標準化尺度を使用して測定されました。どちらの介入でも長期的なアウトカムに関するエビデンスが幾つか存在し、効果の一部は12か月以上持続しました。これらのRCTは両方とも米国からのものです。しかし、介入の1つは、レベル2の格付け基準を満たすイギリスの事前・事後デザインからの裏付けとなるエビデンスも有していました。
 更に2件の介入は、事前・事後の標準化されたアウトカム測定とサービス利用者との質的インタビューの両方を含むランダム化対照試験によって裏付けられました。1件の介入は、主にサンプルサイズが小さいことへの懸念により、レベル2の要件に達しませんでした。更なる介入は、測定が介入から独立していないこと、治療群と対照群の両方に一貫した同等の測定を欠いていること、および減少が懸念されることから、レベル2の要件に達しませんでした。
 6件のプログラムが標準化されたアウトカム測定による事前・事後デザインによって評価されましたが、15件の介入のうちレベル2の格付けをされたものはありませんでした。介入がレベル2の閾値を満たさなかった理由には、サンプルサイズ、研究サンプルの代表性、調査結果間の一貫性の欠如、肯定的な調査結果の欠如などの問題が含まれていました。
 介入を裏付ける評価の残りでは、標準化されたアウトカム測定と標準化されていないアウトカム測定の両方と定性的手法のみを使用した評価デザインを含む、介入後の測定が使用されました。介入のうち4件はまだ評価を受けていませんでした。

子どものアウトカムに関するエビデンスの強さについての考察

 15件の介入のうち1件はレベル3に格付けされており(「学童とその家族」)、子どものアウトカム改善に効果的な介入があったことを示しています。この介入は、状況と対象集団に適した方法を使用して参加者を治療群と対照群に無作為に割り当て、事前・事後の標準化されたアウトカム測定と並行して「治療企図」デザインを使用するランダム化対照試験によって裏付けられました。学業成績や外在化症状を含め、様々なアウトカムに改善が見られました。この評価はアメリカで実施されました。
 プログラムのうち2件は未だレベル2に達していませんでしたが、評価のエビデンスが幾つかありました。これらのうちの1件は、事前・事後の標準化されたアウトカム測定とサービス利用者との質的インタビューの両方を含むランダム化対照試験によって裏付けられました。しかし、主にサンプルサイズが小さいことへの懸念により、評価はレベル2と3の両方の要件に達することができませんでした。更なるプログラムは、RCT、準実験研究、および事前・事後研究によって裏付けられました。RCTでは、子どものアウトカムへの影響は見つかりませんでした。準実験デザインと事前・事後研究では望ましい影響が見られたため、パネルは、調査結果の性質が混在しているため、プログラムは未だレベル2に達していないと感じました。
 残りの12件のプログラムは、論理モデルの一部として子のアウトカムを特定していないか、まだ評価を受けていません。

将来の研究への影響

 介入科学の多くの分野に共通して、夫婦および親同士の関係の介入を評価するための最も適切な方法について、主要な利害関係者の間で意見の相違があります。これは、サービスの設計と提供には様々なアプローチがあることも反映しています。国際的なエビデンスに基づいた2つの介入が、体系的な方法で実施された、非常に構造化された個別の介入であったのとは対照的に、レビューされた他の多くの介入は、特定の意図された変化のメカニズムに裏付けられたというより寧ろ、例えばセラピストとの信頼関係に基づいて、様々なアプローチを活用するなど、より一般的なアプローチで実施する、よりプロセス指向の傾向がありました。実際、多くのプロバイダーは、厳密に定義された「プログラム」という観点からサービスを概念化することに不快感を抱いていました。介入文献[199, 200]で指摘されているように、この種類のアプローチは伝統的な実験研究デザインの範囲内に簡単には収まりません。EIFのエビデンス基準は、発達の様々な段階での介入について情報を提供し評価するには、一連の研究アプローチが必要であるという考えを前提としています。従って、これらの介入を評価するには、定性的および定量的の両方で様々な方法が必要になります。この結論は、複雑な介入を評価する際に複数の混合方法が必要であるという文献での認識が高まっていることと一致しています[199, 201-203]。
 それにも拘らず、プログラムの有効性を判断するために、EIFのエビデンス基準では、慎重にデザインされたランダム化比較試験と同様に頑健性のある準実験デザインの価値が強調されています。行く行くは、エビデンス開示請求で私たちがレビューした介入が更にこの種の厳格な評価を受けるようにしたいと考えています。しかし、私たちがレビューした介入の殆どは、その点から少し離れたところにあります。介入の大部分が子どものアウトカムと夫婦間や親同士のアウトカムの両方についてレベル2のエビデンスを目指して作用していたことを考えると、標準化された測定と代表的なサンプルを使用した、より多くの頑健性のある事前デザインや事後デザインが明らかに必要です。
 介入の多くは論理モデルと変化の理論を特定しましたが、これらの多くは非常に一般的なレベルで指定されているため、経験的に査定および評価することが困難です。確立されたプログラム変化理論に基づいて、明確に定義された変化理論を使用することは、プログラムの有効性の重要な要素であることが確認されています。
 国際文献のレビューにより、RCTのエビデンスやその他の頑健性のある評価アプローチに裏付けられた多くの関連介入が特定されました。同様に、エビデンスの開示請求では、イギリスで実施されている国際的なエビデンス基盤を使った介入が特定されました。RCT[204, 205]の結果による外部妥当性の問題が十分に文書化されていることを考慮すると、これらの介入を国レベルで規模を拡大する前にイギリスで実施および試行することが重要です。

政策と実践への影響

 レビューの結果を活用すると、政策と実践に多くの示唆が得られます。興味深いことに、介入のわずか半分(N=8)だけが、論理モデルと変化理論の一部として子どものアウトカムをもたらしました。多くのプロバイダーが、自社のサービスやプログラムは主に子どものアウトカムを改善するための設計より寧ろ、主に夫婦の関係をサポートするための設計であり、殆どのプロバイダーが子どもをサービス対象の一部とは見做していないと指摘していることに注意することが重要です。従って、論理モデルに子どものアウトカムが存在しないことが、これらのサービスやプログラムに否定的に反映されると解釈すべきではありません。先の2つの章で提示されたエビデンスの重要性を考慮すると、プロバイダーが子どものアウトカムに対する潜在的な影響を調査するための論理モデルを開発するように支援や奨励をする必要があります。同様に、このレビューの既存の評価が示しているように、親の報告を伴う長所と困難さのアンケートなどの確立された尺度は、例え子どもたちがサービスやプログラムの一部として見做されていないとしても、子どものアウトカムを将来の評価で測定できることを意味します⁷。
 プログラムの実施のレベルと質が広範な促進および予防プログラムで得られるアウトカムに影響を与えるという結論を裏付ける研究が増えてきている[200, 206, 207]ので、将来の評価には実施の忠実度に関する情報を含めるべきです。
 政策立案者は、子どもに直接影響を与える要素であると同時に、父母両方の子育ての質にも影響を及ぼす要素として、両親間の関係の質についての認識を促進する上で重要な役割を果たすことになります。
 このレビューに含まれる最も強力なエビデンスを持つ介入には、ほぼ40年間の研究を通じて構築された確立されたエビデンス基盤があります。このエビデンスのベースは主にアメリカからのもので、レベル3の評価を受けた介入の1つはイギリスで小規模な評価を受けてはいますが、これらの介入をイギリスで大規模に導入する前に、イギリスをベースとする厳格な試験が必要です。
 他のプログラムの多くは、有効性のエビデンスが限定される、開発の初期段階にあります。しかし、有効性のエビデンスがないからといってプログラムが機能しないというわけではなく、故に、これらの介入への投資を中止する十分な理由にはならないことを明確にすることが重要です。代わりに、新たに開発された介入は、大規模な導入をする前に厳密に評価する必要があります。これには、介入の開発、実施、評価により多くの投資が必要となります。

⁷ 私たちは、やがては、より多くの評価が子どものアウトカムについて独立した評価を使用し、それによって、より幸せな親が子どもの行動をより肯定的に認識しているという、親の報告との潜在的な交絡を排除することを望んでいます。

[訳者註]パネル会議 panel meeting
所定の問題の討議にあたって、あらかじめ意見の対立を予測して選ばれた各意見の代表者のグループ(パネル=陪審員)が聴衆の前で意見発表と討論を展開し、その後、司会者の誘導により聴衆も参加して討論を進めるもの。

[訳者註]モデレーション moderation
パネルディスカッションや会議の場で、進行役や議長を任命された人が、質問を募ったり発言者を指名したりしながら場を進行するプロセスにおいて、コンテントと呼ばれる議論の内容に焦点を当てて、論理的な結論を出すことを目的する、具体的には、アジェンダがあって、それがきちんと論理的に議論されているかを調整しながら、その場の結論を出すことを指す。似た言葉に、ファシリテーションがある。こちらは、コンテントだけでなく、参加者間の関係性や文脈、場の質といったグループプロセスにも焦点を当てるため、グループ内の新たな理解、関係性、意図を生み出すことで、「その場の参加者が自分の役割を明確にして、自分のやるべきことにコミットし、それを意欲的にやる」状態を創り出すこともできる。

[訳者註]NESTA National Endowment for Science, Technology and the Arts
「国立科学・技術・芸術基金」とも訳される、イノベーションのサポートを団体のミッションとして掲げる、イングランド・ウェールズ・スコットランドに登録された非営利組織。NESTAでは、エビデンスの基準を設け、エビデンスを以下の5つのレベルに分けている。レベル1:何に取組むか、それがなぜ重要かを論理的に、首尾一貫して、納得いくように示せる、レベル2:ポジティブな変化を示すデータはあるが、その取組みに起因していることを裏付けられない、レベル3:取組みに因果関係があることを、統制や比較群を用いて示せる、レベル4:1つ以上の独立したスケールアウト事例の評価により、取組みの因果関係を確認している、レベル5:マニュアル、システム、手順書により、一貫したスケールアウト方法が確保されている。

[訳者註]質的インタビュー qualitative interview
数値化し難いデータを扱うインタビュー(面接)のこと。質的インタビュー調査(広くは質的研究)では,調査票調査のような標準化された方法が存在しない。人類学や社会学における民族誌的研究やライフヒストリー研究、精神分析や心理療法などの臨床的研究,歴史学におけるオーラル・ヒストリー研究,ビジネス分野のマーケティング・インタビューが該当する。これに対し、量的インタビューは、世論調査やアンケート調査が該当する。なお、インタビューという用語は従来「面接」と表現されていたが、ニュアンスの違いから、「インタビュー」を使用することも多くなっている。

[訳者註]既存対照 historical control
歴史的対照、ヒストリカル・コントロールともいう。治験における比較対照群の1種で、その試験の実施前に治療された患者からなる群のこと。

[訳者註]対人関係 IPR InterPersonal Relationship
社会心理学では、対人関係(または人間関係)とは、2人以上の人間の間の社会的なつながり、結びつき、または同盟を指し、社会科学における分析の基本単位である社会関係の概念と大きく重なる。対人関係は、親密さ、自己開示、期間、互恵性、権力配分の程度によって異なる。対人関係の主なテーマまたは傾向は、家族、親族、友情、愛、結婚、ビジネス、雇用、クラブ、近所、倫理的価値観、支援と連帯である。対人関係は法律、慣習、または相互合意によって規制されており、社会集団や社会の基礎を形成する場合がある。


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