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火護りの一族

 俺の実家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。
 半年というのは旧人類が用いていた暦上での事で、俺達適合者からしたら凡そ1000年程前の歴史的出来事だ。先祖代々受け継いだ聖火は今でも煌々と燃え盛っている。
 俺はたった今分裂をした俺'に聖火の引き継ぎをする。決して絶やしてはならぬ事。我々の祖先と旧人類が交わした神聖契約により、更に半年間は守り続けなければならない事。炎が消えた時、契約は破られ古き神「ゴーラィン」は死に、俺達適応者──コーヴァイド──の素体となった旧人類の悲願も終わるという事。等々。
「だけどよ、もう存在しない旧人類にそこまで操を立てる必要あるか?」
 俺'から分裂した俺"がそんな疑問を口にする。
「俺達のオリジナルの原初の『俺』は──ゴーラィンの祭典に出場する闘士だったらしい。その恵体故に、半年前に流行していた病が強毒性に変異しても生き延び、適応したのだ」
 俺はすっかり老いさらばえた腕で聖火を指差す。
「祭典の延期が決まった原初の俺は死すら考えた。年齢制限ギリギリだったからだ。だが家に聖火が来たことにより希望を取り戻したのだ。これさえ守り抜けば、きっと──とな」
 萎れていく身体、増えていく俺達を眺め、俺は更に自説を述べる。
「いや、或いはこの炎こそが俺達のこの能力の源泉なのかもしれない」
 だから消して絶やすなよ。俺はそう言い遺して目を閉じた。
 残された俺達は分裂を繰り返しながら、死体となった同胞を次々と聖火に投げ込み火勢を保つ。
 彼らの行動は自動聖火保守システムとそのメンテ要員にウイルスが感染した結果生まれものだったが、最早そのような事情は世界の誰も知らず、決して開催されることのない祭典まで続くだろう。
 半年後、彼らはどうするのだろうか。絶望に嘆き火を消すか。それとも全てを忘れてただ火を守るか。或いは──己達で祭典を開くのか。
 今はまだ、分からない。

これはなんですか?



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