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ミッドサマー(アメリカ+スウェーデン:2019) #居石信吾の映画実況雑記

 ここ最近ホラー映画を頑張って観ていたのはこの映画に行くためだった。TLの皆様からご教授頂いたホラーのお勧めはまだ消化しきっていないが、公開初日に観てきてしまったので感想を書く。本当はヘレディタリーの記事を書く予定だったが同じようなもんやしええやろ……。



注意!

以下の文章にはネタバレしかありません。ストーリーを最初から最後まで語っています。未視聴者は注意な。

なお、これは昨日観てきた映画を記憶で書いているので不正確なところがあったり時系列が正しくなかったりします。ご了承ください。


ここからネタバレ

 開幕、ヒロインのダニーの家族がいきなり全滅する。精神を病んでいた妹による無理心中だ。ダニーも抗鬱剤を服用し彼氏のクリスチャンに鬼電するような子で、クリスチャンはもうだいぶうんざりしており、友達たちからの助言もあって別れたがっていたが流石にこのタイミングで振る程鬼畜ではなかったのでずるずると交際を続ける運びとなった。ちなみにダニー、発作なのか感情が極まると物凄い声を上げて啼く。叫び声でヒロイン決定オーディションやったんじゃねえかってくらいの声量。全編通してこのヒロインの感情がめちゃくちゃ不安定なため見ているこっちもぐらぐらしてしまう。多分視点キャラがダニーではなければここまでの怪作には仕上がらなかったと思う。
 彼氏は大学で人類文化学を専攻しているが卒論テーマが決まっていなくて悩んでいる。友人の黒人(ジョッシュ)・チャラ男(マーク)・主食が野菜スティックっぽい奴(ペレ)たちとスウェーデンのコミューン、ホルガに旅行に行くことをダニーに内緒で決めてしまう。黒人が卒論を書くための取材旅行だ。「私は怒ってないの。ただどうして話してくれなかったのか聞きたいだけ」という100000%怒ってるやつの台詞を吐きながら責めるダニーに彼氏も屈服し旅行へ連れて行くことを了承してしまうのだった。

祝祭が始まる

 ホルガはペレの故郷であり、今年は90年に一度の夏至祭が執り行われる。観光に来たバカップルとかペレの妹の目がギョロっとしてるけど可愛い子とかと出会うが、とりあえずドラッグを吸う一行。ちなみにこの映画は食事のシーンより薬物を摂取するシーンの方が多いです。全員仲良くバッドトリップするシーンがこの映画最後の青春ぽい場面だった。
 ホルガへ入るとそこには白夜の明るい空の下、村人たちが白い衣装を着て音楽を鳴らして舞い踊り、花は咲き乱れるエルフの里みたいな風景が広がっていた。里の至る所にルーン文字が彫られていたり宗教的な不気味な絵があったりと不穏さが見え隠れするがこの時点ではまだ平和。何故か熊もいる。
 ミッドサマーの特徴なのだが、平和なシーンほどおどろおどろしいBGMが鳴る。そして凄惨なシーンは平和なBGMが鳴る。結果視聴者の精神はバグる。
 主人公たちが宿泊する施設も中にびっしりとルーンと絵があり、ここは若者しか寝ないのだという。ホルガの宗教観では人生は四季に例えられ、18年周期で春夏秋冬を巡るのだ。
 初日は祭りだけというミネラルウォーターがないと生きていけないようなやつ(ペレ)の言葉通り一日目は割と何事もなく終了。ペレはすっかり故郷に馴染み文明人の殻をドンドン脱ぎ去っていくので要注目だ。
 二日目、黄色いピラミッド型神殿から出てきて昼食のお誕生日席に座るのは青い服を着た老いた男女。この映画の食事シーンは美味そうとか不味そうとかを通り越して砂を噛む感じがする。ちなみにドラッグは皆イキイキとキメます。
 食事が終わると神輿で運ばれる老人たち。ノコノコついていく主人公たちはそこでホルガの儀式のヤバさを目撃する。老人たちは崖の上に降ろされると、手を切って血をルーンの刻まれた岩に擦り付けた後アイキャンフラーイするのであった。婆ちゃんは顔からいったので寄生獣がパファした時みたいな見た目になり即死で済んだが、爺ちゃんは脚から落ちたので生き残ってしまいストゥ(制裁棒)で頭をぶん殴られてカイシャクされる。グロさで言えばここがピークだから安心して欲しい。
 バカップルが発狂するが、18年周期の春夏秋冬を過ぎた72歳の老人はこうやって死に、名を新たな赤ん坊に継がせることでライフサイクルを全うするのだという。円環の理……。それはとても名誉なことであり、本人たちも受け入れているのだ。バカップルの男のほうが気が狂っている! とか頭おかしい! と叫んでいたが、俺は割とその説明に納得してしまいあまり登場人物達と感情をシンクロさせることができなかった。確かに文明から見たら何言ってんだこいつと感じるだろうが、「老いて精神が堕落する前に自ら最期を選び取り、次世代に託す」というのは合理性もあるし、歴史ある文化としてそれは受け継がれてきたのだ。まあ若干、いやかなりカルトじみてるけど……。キリスト教圏の国だと輪廻転生は天国に行けないから受け入れ難いのだろうか?

ギスギスホルガオフライン

 この事件を切っ掛けに、主にダニーのせいでもともとあまり良くなかった人間関係は悪化の一途を辿る。まずバカップルは帰ることを決めるが男の方が先に姿を消してしまう。訝しがる女に対して村人は先に帰ってしまって駅で待ってるよとか言うが、信じず半狂乱で走り去ってしまう。俺も村人の言葉は信じなかった。信じた奴は死ぬ(ネタバレ:信じなくても死にます)
 次にクリスチャンが黒人のテーマをパクり、ホルガについて卒論を書くとか言い出す。当然黒人はキレるがクリスチャンは狡猾にも先に笑顔でポピー畑の手入れをしてそうなやつ(ペレ)に話を通しており、結局は長老の許可を得るために共同で論文を書くはめになるのだった。
 黒人は長老からルーン文字の書かれた聖なる書物を見せてもらう。その書物はノートルダムのせむし男みたいな見た目の、計画的インブリードにより産まれた「賢者」によって書かれたものとかいう闇の深い情報もさらっと語られる。黒人は書の写真を撮っていいかと尋ねるが当然強く拒絶されてしまうのであった。
 一方チャラ男はあまり空気が読めておらず一人はしゃいでいたが、コミューンで大切にされているアンセスターの木(遺灰をそこに撒く)に立ちションをしてしまい村人の激昂を買う。その後ずっとキレてる村人達から見つめられ続けて流石にまいるが、えっちな雰囲気の女の子に誘われて消息を絶つのであった。だがあまり心配されない辺りがチャラ男。
 黒人は夜こっそり聖なる書物の収められている建物に忍び込み、スマホでパシャパシャ撮影するが、背後からチャラ男の生皮を被った何者かに気づいて狼狽えてる間に後ろからストゥ(制裁棒。濫用は許されない)で殴られてオタッシャするのであった。スマホで撮っただけなのに(スマホを落としただけなのににかけた超高度なギャグ)。ちなみに頭を強打された黒人がんごおんごおとイビキみたいな声を出すのはリアルすぎた。

筋肉の女王

 翌日、聖なる書物が盗まれたと告げられ、立て続けに消えた仲間達のせいで疑われるダニーたち。いや盗まれる前に殺したやんけ……笑顔で嘘つく人たち恐い。
 結果クリスチャンは仲間の捜索に出かけダニーと引き離される。その隙にダニーは踊り続けて最後まで立っていた者が女王になるとかいう筋肉でも信仰しているのかと問いたくなるイベントに参加する。イベ参加条件は薬物摂取。ええ……。なんか途中薬物とランナーズハイの結果なのか、あるいは筋肉で語り合っているのか喋れないはずのスウェーデン語で意思疎通するダニー。そして優勝して女王になってしまうダニー。多分叫びまくってるから肺活量鍛えられてたんだと思う。花冠を被せられ、村人から盛大に祝福される。それを呆気にとられて見つめるクリスチャン。ダニーはこの時村人たちと同じ白い衣装を着ている。文明的Tシャツとジーンズのクリスチャンとここで決定的かつ象徴的な別離が描かれる。
 女王様は家畜や作物の豊作を願う祝福の儀式をしなければならないと、なんかディズニー映画に出てきそうな力車に乗せられて運ばれていくダニー。そして一人残されたクリスチャンは村の偉い人からスナッフビデオを休日に鑑賞するのが趣味みたいなやつ(ペレ)の妹とセックスしろとか言われる。閉鎖的な村はこうやって外の血を取り入れている……なんかキノの旅で読んだことあるわこれ。ちなみに妹の方はやる気満々であり寝ている隙に恋情のルーンをベッドの下に仕掛けたりクリスチャンの食事に自分の陰毛を混ぜたり(どうやら恋愛成就のおまじないらしい)していた。ちなみにそのおまじないは自分の尿を相手に飲ませる必要もあり、そういえば食事の時クリスチャンの飲み物だけなんか色濃かったですね……。
 薬物を吸わされていざ事に臨むクリスチャン。ここからは映画史上最も奇妙な濡れ場が描かれる。この映画最大の山場であることは間違いない。

ここから前後(セックス)解説

 ガンギマリになったクリスチャンが入った部屋には裸で股を開く妹ちゃんが待っていた。これはまだいい。問題はその背後に十人くらいの全裸のおばさんたちが歌を歌いながら手を繋いで立っていることである。こんな状況でやれってか。やるんですよこれが。
 若さなのか薬物の影響なのかとにかくインサートするクリスチャン。喘ぐ妹。すると喘ぎ声に合わせて後ろの全裸おばちゃんたちもオオウオオウと声を張り上げるのだ。いったい俺は何を見せられているんだ。ちなみに全裸おばちゃんたちの中には妹ちゃんの母親もいて、行為の最中娘の手を握っててあげる。優しさ……?
 その激しい喘ぎ声は当然外まで漏れており、帰ってきたダニーが建物の中を覗いてしまう。ショックで発作を起こすダニー。例のバルカン砲のような慟哭を上げるが、それを一緒についてきた女の子たちが真似して一緒に絶叫する。叫びたいのはこっちなんだよなあ。喘ぎ声と慟哭が同調する様はまさにアビ・インフェルノ・ジゴク。
 濡れ場って普通気まずい雰囲気が劇場内に漂うじゃないですか。客入りはそこそこだったんですが観客全員地蔵になってましたね。俺も妹ちゃんのおっぱいに集中してやり過ごそうとしたが無理でした。
 彼女に見られたことなど気づきもせずに、おばあちゃんが金玉揉んでくれる等のサービスのかいあって達するクリスチャン。中出しされた妹ちゃんはいわゆるまんぐり返しの体勢になって「赤ちゃんを感じるわ!」とか言ってる。セリフと姿勢だけ見たらエロ漫画なんだけど、笑顔の全裸のおばちゃんたちがエロい雰囲気に死んでもさせてくれない。かといって怖いわけでもなくなんというかひたすら困惑と半笑いの中間みたいな表情で画面を観ていた。監督は何か吸ったのかな?
 一発出して賢者モードになった彼はようやく異様さに気付いて全裸のまま外に飛び出すのであった。

古い因習が文明を滅ぼした

 畑に黒人の死体が埋められているのを目撃したクリスチャンが逃げこんだ鶏小屋には、愉快な見た目になったバカップルの彼氏の死体。呆然としていると長老たちにまた薬物を吸わされて昏倒するのであった。薬物ってコワイなあ。
 クリスチャンが目を覚ますと全く動けない状態で車椅子に座っていた。壇上には花塗れでもこもこになったダニーが。このダニー正直とてもファンシーで可愛いんですよ。しかめ面ですけど。
 ホルガは奪い、与える。新しい血とホルガから合わせて九人の命を捧げると祭司は宣言する。ヤッター人身御供!
 新しい血はバカップル、黒人、チャラ男が既に命を捧げている。ホルガからは笑いながら人を地獄に蹴落としたやつ(ペレ)の親族や長老が選ばれる。九人目はくじ引きで決められた村人かクリスチャンかをダニーが選ぶ必要があると言われ、ダニーはあまり躊躇せずに彼氏を選ぶのであった。へレディタリーの祖母みたいな精神性のやつ(ペレ)はなんか新しい女王とか生贄を連れてきた功績を褒められているがどうでもいい。
 クリスチャンは魔獣役として冒頭のほうに出てきた熊ちゃんの皮に包まれてピラミッド型神殿に安置される。周りには仲間の生皮や首を使って造られた素敵なお人形さんと生贄の村人。不気味なフルメンポ(訳註:面頬のことか)をつけた祭司が祝詞を唱えると、神殿に火を付ける。村人たちは泣き女的に苦しむ演技をしたり嘆いたりしている。それを最初は顰め面で見つめるダニーだったが、全てが炎に還る時、ついに満面の笑顔を見せるのだった。
 ヒロインが笑顔を取り戻すので圧倒的ハッピーエンド感がある。
 エンディングロールではミッドサマーのうたが流れます。必聴ですが歌詞に字幕がないので内容までは分からなかったのが残念。




ネタバレ踏みたくない人はここだけ読んで:ヒロインは素敵な人力車にも乗るしやはりディズニープリンセス

 ヘレディタリーを予習しておいてよかった。あの映画のラスト20分の怒涛の展開が2時間ずっと続くような映画だった。
 幽霊も怪物も出てこず、びっくりカメラワークもないのでホラー映画っぽさがほとんどない。俺が苦手なのはびっくりさせられることだと分かった。
 背景に意味ありげに置かれている小道具・絵画・ルーン文字は実際全てに某かの意味があるようですが、俺には全て分かりませんでした。それでも雰囲気だけでもなんか北欧神話や魔術のヤバイ部分がビンビンに伝わってきてよろしかった。
 最初から最後まで主人公にしてヒロインのダニーに感情を乗せることが出来なかったのだが、家族とか恋人関係の悩みがある人が下手にシンクロしちゃったらやべえだろうなとはかなり思いました。
「明るいことが恐ろしい」というキャッチコピーですがでもやっぱりヤバイことが起こるのは大体薄暗い夜だったり、明かりのない室内なのですよ。明るい日の下で起こる地獄の部分はなんか奇妙に漂白されてて綺麗。白昼夢的というかなんというか。BGMや、村人がよく口から出す「ほぅ」という音が一番不気味。
 怖いのが苦手な、精神の健全な方にオススメです。ミッドサマーはただ今全国のTOHOシネマズ等で絶賛公開中。ヒロインがドレスとお花で着飾って、歌と踊りで女王様になるので実質ディズニー映画。観よう!

ミッドサマー公式HP
https://www.phantom-film.com/midsommar/

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