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ウナギに関するよくある誤解、そして絶滅危惧種を食べるということ


スーパーに蒲焼きにされた絶滅危惧種が並んでいる。
この光景をおかしいとも思えなくなったのはいつからだろうか。

もう半年近く猛威を振るっているCOVID-19は巣篭もり需要を増やし、小売店はウナギの販売を増やしている。しかしながら、販売を増やすことは廃棄量を増やすことと表裏一体である。
事実、2017年に行われたグリーンピースの調査によれば、2730kg、実に13,650匹分ものウナギの蒲焼きが廃棄されている。(*1)

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(画像は素材のプチッチ(putiya.com)より)

なぜ我々は、「ウナギが絶滅危惧種である」という事実を知りながらも、土用の丑の日に蒲焼きを食べ、あまつさえそれを無駄にしてしまっているのだろうか?

ウナギに関するよくある誤解

ここで、我々が今年も変わらず蒲焼きを買ってしまう原因になっているかもしれない、ウナギに関するよくある誤解を3つ挙げる。


Q. ウナギは養殖法が確立しているというが?

A. 近畿大学が完全養殖を成功させているが、現在のペースは年間数千尾というものであり、生まれた稚魚も産卵できる年齢になるまでは3年、出荷まではさらに1年かかる。(*2)(*3)
また、この技術はコストも高く、いつ商業利用が可能になるかは不明である。
そして、現行の養殖法はウナギの稚魚(シラスウナギと呼ばれる)を生け捕りにし、生簀で数年育ててサイズが一定以上になったら出荷するという方式を取っている。
つまり、完全に天然資源に依存している状態である。


Q. ウナギの資源量は回復したと聞いたが?

A. シラスウナギの漁獲量は確かに前年度と比べ回復しており、国内採捕量は前年度の4.6倍である約17トンに増加している(*4)。しかしながら、後述のグラフが示している通り全体的に見れば資源量は減少傾向にあり、絶滅の危険性が減ったとは言えない状況である。

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(グラフはHakoyama et al. 2016より)


Q. それでも売られているのだからもう手遅れだ、ならば買った方がフードロスを防げてよいのでは?

A. たしかに、買ってしまえば今現在起こるであろうフードロスは防げる。しかしその代わりに、購入した分が店の利益となり、大量生産大量販売大量廃棄というおよそ絶滅危惧種を扱っているとは思えないビジネスモデルを来年以降も続けることへのお墨付きを与えてしまう。
いつもウナギを買っているスーパーの代わりにウナギの絶滅を防ぐ活動をしている店(後述)から購入するだけでもこのデメリットを減らすことはできるが、やはり資源保全のためには需要を減らすこと、つまり購入しないことがベストなのである。

すなわち、ウナギの蒲焼きをこのまま買い続けるということは、絶滅危惧種の保全という観点からすれば望ましくない行為なのだ。


ウナギを食べる、ということ

次に、ウナギとして食べられているいくつかの種の保全状況を記す。
IUCN(国際自然保護連合)によれば、ニホンウナギとその代用品であるアメリカウナギは絶滅危惧ⅠB類(EN=endangered、危急種)に、
また同じく代用品とされており今も密漁が問題になっているヨーロッパウナギは絶滅危惧ⅠA類(CR=critically endangered、近絶滅種)に指定されている(*5)。

どれだけ深刻であるかいまいちピンとこない人のために説明すると、ニホンウナギはトキやジャイアントパンダ(これらの種も絶滅危惧ⅠB類である)と同じくらい絶滅の危機に瀕しており、
ヨーロッパウナギはイリオモテヤマネコやアジアゾウ(これらの種も絶滅危惧ⅠA類である)と同じくらい絶滅の危機に瀕しているということである(*5)。

パンダが密猟されてその手が熊の掌(中華料理では高級食材だそうである)として売られていたというニュースを聞いたことがあるだろうか?
種の保全という観点から見れば、ニホンウナギの乱獲はこれと同程度に悪質な行為と言えてしまうのである。

このままでは、ウナギはリョコウバトと同じ道を辿ってしまうかもしれない。
知らない人のためにも解説しておくと、リョコウバトとは群れを作って生活する体長40cmほどの鳥で、北米大陸に生息していたが20世紀初頭に絶滅してしまった種である。

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(画像はlostzoo.comが撮影したリョコウバトの剥製、パリ自然史博物館所蔵)

この鳥を絶滅させる引き金となったのは
・肉の味がよく、
・当初は50億羽と推定されるほど大量にいて、
・しかしながら繁殖力は弱く、乱獲によって急激に個体数を減らし絶滅した
という要因が主に挙げられるそうである。(*6)

一方ウナギは
・古くは縄文時代から好んで食べられてきており、
・丑の日の伝統が始まった江戸時代にはありふれた魚であり、
・しかしながら我々人間によって資源の回復量を上回って捕獲されている。
これを見ていると、どうもリョコウバトと重なるものがあるように感じられる。

場合によっては、あと一歩進めば取り返しのつかないところまで我々は来てしまっているのかもしれない。


おわりに

これを読んで今年はウナギを食べない/食べる量を減らすと決断してくれた方、本当にありがとうございます。
あなたのその決断がウナギという種のみならず江戸以来の伝統文化を救います。
ウナギの資源量が回復するその日まで、代用ウナギを食べつつ共に待ちましょう。

それでも、ウナギを食べたいという人はいるでしょう。
仕方ないことです。
蒲焼きはおいしいし、行事に参加することは外に安心して出られずすさんだ心のやすらぎになります。
筆者もウナギが絶滅に瀕していないのなら食べたいです。

だから筆者は提案します。
ウナギを買うならせめてウナギ資源の保全に少しでも協力している企業から買ってください。

幸いなことに、ウナギの減少に関心を持ち始めた企業は少なくありません。
たとえばイオンでは独自のウナギ取り扱い方針を定め、稚魚の産地が把握できるウナギの販売やウナギを使用しない代用蒲焼きの販売など、資源保全のための取り組みを進めています(*7)。
その他にも、資源やフードロスの問題を鑑みて蒲焼きを予約販売方式にした企業はいくつもあります。

このような企業から蒲焼きを買う、それだけでもウナギの資源保全に向けての一歩にはなるでしょう。


最後に、当大学はキリスト教を名に冠しているので関連した豆知識をひとつ。

ローマ教皇だったマルティヌス4世は一説にはウナギの食べ過ぎで死んだとされており、かのダンテの『神曲』地獄編では煉獄で暴食の罪を償っているそうです。

人間の尽きない欲求、食欲。そのツケを未来の自分、将来世代、そして地球環境に負わせたくないのなら、できることから、少しずつでよいので行動を始めてみてください。それが筆者の、ひいてはSUSTENAの願いです。

参考資料など

1. グリーンピース調査:絶滅が心配されるニホンウナギ、大手小売業の不透明な調達と大量廃棄の実態が明らかに, グリーンピース・ジャパン, 2018年6月
https://www.greenpeace.org/japan/nature/press-release/2018/06/04/1583/
2. 完全養殖ウナギは4年後に食べられるの? 近大が「ニホンウナギ」の人工ふ化に成功 立役者の田中教授に聞いてみた, ねとらぼ, 2019年11月
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/spv/1911/23/news005.html
3. ウナギをめぐる状況と対策について, 水産庁, 2020年6月
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/attach/pdf/unagi-162.pdf
4. ウナギ稚魚漁を終了 全国、豊漁で漁期途中打ち切り, 静岡新聞, 2020年4月22日
https://www.at-s.com/sp/news/article/economy/shizuoka/759333.html
5. IUCNレッドリスト, IUCN(国際自然保護連合)
https://www.iucnredlist.org
6. その他にも、群れで飛来して農作物を啄む害鳥だったため、駆除が推奨されていたことも挙げられる。
この点はウナギとは違うかもしれないが、ウナギの乱獲が一向に止まらない現状を見ると資源量に与える影響としては似たものがあるようにも思われる。
7. ウナギ取り扱い方針を策定, イオン株式会社, 2018年6月
https://www.aeon.info/news/2018_1/pdf/180618R_1.pdf


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