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映画『夜明けのすべて』

僕は今、ストーリーを紹介することなしに「なぜ、その映画を見るべきか」を訴える文章を書くという困難なことに(生成AIにも頼らないで)取り組もうとしている。そんなことしなくたって誰も困らないのだけれど、でも、あの映画を見ることで心の向きが変わる人は必ずいるだろうから、僕も微力ながら宣伝に協力したい。

「夜明けのすべて」は地味な映画だ。激しいアクションがあるわけでも、燃え盛るラブシーンがあるわけでも、ハラハラドキドキさせる展開があるわけでもない。主演の2人はそれなりにネームバリューがあるけれど、2人がカッコいいとかかわいいとかで見ようという映画なわけでもない。(実際、2人ともずっと地味だし。)でも、僕の目と意識は2時間ずっとスクリーンに釘付けになってしまった。

主役の2人だけでなく、ほとんどの登場人物が何かしらの悩みや傷を抱えている。はっきり傷として描かれてはいなくても「あ、この人も絶対色々あるに違いない」と思わせる人もいる。「幸せの絶頂です」みたいな人は一人も出てこない。

それはやはり我々の社会の縮図なのだろうと思う。傷ついたことがない人なんてこの世にいない。悩みを抱えていない人なんてどこにもいない。普段はそれが目立たないようにしているかもしれないけれど、それは誰にだってあるのだ。あなたにも、僕にも。

でも、映画の中では、この傷を抱えた人たちがとても優しい。金にはならないし、派手さもないし、大きな賞賛を浴びるわけでもないけれど、かけがえのない美しい世界を作り出す。そのプロセスを見るだけで幸せな気持ちになれる。

とは言え、この映画を見れば自分の抱えている悩みや傷がキレイさっぱり消えてハッピーになれるわけではない。傷は消えないし悩みは残ったままだ。でも、少しだけ心の向きは変わるだろう。そして、それはとても素敵な体験だ。映画館に足を運んで、あなたの人生の2時間を割く価値は十分にある。


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