見出し画像

インクルーシブの視点無しに教育を語るな

いや、何もこんな強いタイトルにすることないのですが、強いタイトルにした方が読んでいただけるようなので…。

まだ詳細、明らかにできないのですが、香川大の坂井聡先生とYouTube向けの対談をさせていただきました。テーマは「インクルーシブ教育とデジタル教科書の活用について」。坂井先生は、そもそも私がインクルーシブ教育に取り組むきっかけを作ってくださった方です。(その辺りの顛末は以下の記事に。)

坂井先生には、私個人としてだけでなく小金井小のICT×インクルーシブ教育を進める上で非常にお世話になってきています。そこで、養護教諭の佐藤牧子さんに「今度、東京にいらっしゃる坂井先生と対談しますよ」と伝えたところ、「坂井先生がいらっしゃるならご挨拶させていただきます」ということで、佐藤さんも対談の現場に来ることになりました。

すると(ある程度、そうなるのではないかな、と予想はしていたのですが)佐藤さんの顔を見た坂井先生が「佐藤先生もいらっしゃるなら、ぜひ入ってもらったらいいんじゃないかな?」とおっしゃって、「坂井・鈴木+佐藤」みたいな形になりました。結果、短いプログラムを何本か撮ったのですが、概ねこんな流れでした。

  1. 坂井先生が学習者用デジタル教科書についての質問を鈴木に投げかける。

  2. 鈴木が学習者用デジタル教科書を必要に応じて操作しつつ質問に答える。

  3. 坂井先生が養護教諭の立場からの意見を佐藤に聞く。

  4. 佐藤が保健室で聞く児童の言葉などを元に答える。

  5. 坂井・鈴木でまとめ

この流れで何本か撮っていくうちに、改めて「やっぱりそうだよな」と感じたのが、「インクルーシブの視点無しに教育を語ってはいけない」ということでした。

私は、当然のことながら担任の立場、すなわち授業をする側の立場から坂井先生の質問に答えます。今回のムービーは学校の先生を対象としたものなので、それはそれで必要なことと言うか、軸になるのは間違いありません。

しかし、佐藤さんは養護教諭としての立場、すなわち授業をする側ではなく、授業を受ける(受けた)子どもたちの話を聞く立場から坂井先生の質問に答えます。

すると、別に私と佐藤さんの言っていることがズレているというわけではないのですが、授業をする側の立場からだけでは見落としがちな点がいくつもあがってきます。

例えば「学習者用デジタル教科書の使い方がよくわからず、授業で利用することに不安を感じる先生はどうしたらいいのか」という質問がありました。私は「学習者用デジタル教科書の機能の全てを理解することは不可能だし、その必要もない。児童が自分でどんどん発見していくから、それを教えてもらったり共有していけばいい。」と話しました。

そして、自分も児童から教わった学習者用デジタル教科書の使い方として「発表する時、わざと付箋を一部しか読めないように小さくしておいて、ここぞというところで全体を表示する」というプレゼンテーションツールとして活用する手法の話をしました。

すると、佐藤さんは「児童が自分で見つけたやり方が学びにくさを解消した例」を話してくれました。

「その子は文章の内容を理解するのに苦労していたのですが、学習者用デジタル教科書に入っている思考ツールを使うことを思いついたのですね。『マインドマップにまとめたら理解できたんだよ』と保健室に来た時に教えてくれました。」

本当は担任がそうした児童にもSide by Sideで寄り添えて、そういった声も拾ってあげられれば理想的なのでしょうが、私にはそこまでの資質はないので、こうして佐藤さんにフォローしてもらうことが多々あります。

でも、自己弁護するわけではありませんが、子どもにとっては「担任の先生にわざわざ言うことじゃないのだけれど…」というようなことを安心して話せる場があるのは幸せなことではないかな、と思います。

担任にとっても、自分の立場からだけでは見えてこないことに気づかせてくれるという意味で、養護教諭の存在ってすごく大きいのです。

とは言え、人によっては養護教諭に関わらず他人に何か言われても素直に受け取れないということもあるでしょう。私も別の人に対して「ハァ? 何、言ってるの?」と思うことがないわけではありません。

私が佐藤さんの言うことをスッと受け入れられるのは、やはり「我々が目指しているのはICTを活用してインクルーシブ教育を実現することだ」という目標を明確に共有できているからだと思います。

教室には、それぞれに凸凹を抱えた多様な子どもたちがいる。その一人一人が自分に合った学び方を選択していけるようにするにはどうすればいいだろう。お互いに凸凹があることをプラスに変えて協働していけるためにはどんな工夫が必要だろう。そうしたことのためにICTはどう活用できるだろう。

「ICT×インクルーシブ教育に取り組む」ということは、常にそういった課題を解決するために試行錯誤を重ねるということなのです。(そして、この試行錯誤の基盤を我々に与えてくださったのが2017年の坂井先生の講演だったのです!)

さて。

「教室には、それぞれに凸凹を抱えた多様な子どもたちがいる。」という実態に異を唱える方はおそらくいらっしゃらないと思います。今は、そうした実態の中で「一人一人に応じた学びを実現できる環境をどう整備するか」「多様なバックグラウンドを持つ子どもたちが協働的に学べるためにどのような手立てが必要か」といったことが課題として浮かび上がってきている時代です。この課題を素通りして「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」が成し遂げられるとは、私は思いません。

であるならば、やはり今、教育を語る上でインクルーシブの視点無しに語ることは不可能ではないでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?