淺倉 繕

創作文の置き場所

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  • つつんで結んだ対等のしるし【SSまとめ】

    誕生日に渡された赤いマフラーが、人の心を駆け巡りながら落ち着くまでの話。 1日1投稿で書き綴っていた短編をまとめました。

  • ▷section 1 まとめ 【ロクでなシータ!】

    noteで毎日投稿のチャレンジをしています。 今回は、1日目~4日目の短編をまとめてみました。

最近の記事

コーラとこたつ

君の飲みかけのコーラをじぃ、と。コタツの中から見ている。  バイト仲間との飲み会は初めてだったのにも関わらず、予想以上に盛り上がってしまった。  終電を逃した数名が一人暮らしをする人の家に泊まることとなり、結局四次会……もとい宅飲みに発展してしまったわけだ。  カーテンの隙間の小さな闇は晴れることはなく、わたしは息苦しさを感じていた。1LKの狭い部屋で起きているのはわたしだけ。何度か友人たちの名前を呼ぶ。声はかえって来ない。君の名前は呼ばなかった。  四次会メンバーの宅

    • 夜の禊

      電車を降りて徒歩七分、最寄りのコンビニの敷地内に入り雪をはらう。水の染みきった吸水マットで恐る恐る足の雪を落として中へ入った。 さて、今日は何にしよう。 いつもより早く会社から逃げてきたのである。出勤直後から鳴り止まない電話を前に、帰ったら飲むぞと決めていた。社会の歯車の私たちには正月休みなんて毒でしかなくて。 一刻も早くアルコールで流し込まなければ。 立ち読みをしている客の後ろを通って、真っ先に飲み物が敷き詰められた冷蔵庫の前に立ちはだかる。種類は多くはないけれど、近

      • 割れない心

        「へたくそ」 ポケットの中に手を突っ込んだ山代が、意地の悪い笑みを浮かべながら私の方に歩いてくる。 手に持った斧をスっと奴に向ければ、「あぶねっ」と情けなく後退をした。わたしはちょっとだけ浮き立った気分を抑えようと、自分の下唇を噛み締める。 土の香りが充満していた。服が汚れることはこの際気にはしないけど、空きっ腹に流れ込んでくる自然の香りは辛かった。とはいえ、こいつが迎えに来たということは食事の支度が整ったんだろう。 山代は私がバカみたいに時間をかけて割った薪たちを幾

        • 本日投稿分になりますが、リンク先で書かせていただいたのでお時間あれば。(3500字くらい) https://maho.jp/works/15591074771454492161

        コーラとこたつ

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        • つつんで結んだ対等のしるし【SSまとめ】
          11本
        • ▷section 1 まとめ 【ロクでなシータ!】
          4本

        記事

          あたためましょうか

          「これ、賞味期限切れちゃってるんですけど」 バイト終わり五分前に滑り込んできた客がハズレだったので、僕は顔をしかめてしまった。 「あ……」 八時間労働一歩手前で心も顔も完全に疲弊している。余程酷い顔だったのだろう。目の前のニット帽を被った女は、帽子を深くかぶりなおしてひとつ咳払いをした。 「大変申し訳ございませんでした」 マニュアル通りの薄っぺらい台詞を吐いて、記されたままの機械通りの業務に移行する。女は店の外をよく気にしていた。部屋着を着た男が喫煙所傍の窓に寄りか

          あたためましょうか

          箱の中の異質

          透明なペンケースの中に、鉛筆につける緑のキャップがひとつ。 白と黒が基調になった筆入れに、明らかに異質なキャップが入っていることに気付いたのは三学期のはじめだった。 残すところ三ヶ月で進級を迎えることになった今、クラスで唯一会話しなかった女子と隣になった。 "木村みのり"は群れを作る女子の中では珍しい一匹狼の基質を持っている。 かといってクラスの輪から外れているかといえばそうではなくて、適度な距離を保っている。とどのつまり、女子との接点がないから話しかけづらかったってだ

          箱の中の異質

          廊下のあしあと

          てかてかと光る学校の廊下に、白いもやのような足跡がひとつ。 目にした途端に蒸発して消えていく。熱を持った人間のあしあとだった。手にしていた地理の教材を持ち直して視線を前方へむけると、渡り廊下へ向かう曲がり角へと消えているようだ。 こんな寒い時期に素足で歩いてる奴がいるのか? 想像するだけで身震いしてしまう。ただでさえブレザーを教室に忘れて寒いのに、と溜息が出た。 自分の息で霞んだ視界がクリアになると、曲がり角の足跡は消えていた。足の大きさからするに女子生徒のものだろう

          廊下のあしあと

          天から糸を

          木曽川の目線はいつも斜め前へ向いている。 窓から二列目、前から三番目の席を陣取っている木曽川洋子は真面目に授業を受けている、ようにみえる。 ただし、彼女の斜め後ろの席の僕だけは気がついてしまったわけだ。黒板前の教師がどれだけ左右に移動したってあいつの頭は微動だにしない。顔の向きは固定されたままだ。 教壇の真ん前に陣取った平山は、今日も背筋を真っ直ぐと伸ばしていた。 平山が自分の短い髪を掻いてみたり、お腹を押さえたりする度に、木曽川の身体が小さく揺れる。笑っているんだろう

          天から糸を

          【ショートショート】微熱ごっこ

          なんだか熱がある気がする。 火照った額に右手を当てて、うーんと首を傾げる。暖房付けて寝てたからかな、と地に足を付けたけど頭は重い。 正月早々天気は良いようだ。雪に反射した光がやたらと眩しくてカーテンは五秒で閉めた。 息を吸おうとしたけれど。 鼻が詰まっている感覚がしたのだ。右の鼻の奥が苦しい。私は足元の洋服たちを蹴飛ばしながら、ショッキングピンクのティッシュケースを探す。いや、その前に体温測らないとダメか。いやいや、頭が暑いからまずは冷却シートで冷やしてから…… 引き

          【ショートショート】微熱ごっこ

          【ショートショート】ゆめ

          ずっと、ずっと先に見える水平線が白く濁っているようでした。 わたしは重力のない温度の中に身を潜めておりまして。いえ、息を潜めることは未だ出来なくて、臆病者のわたしは顔だけを水面から出していました。体育座りをしても溺れることのない浅瀬です。 海の中の砂浜に投げ出した足に、砂のざらざらとした感触とともにぬるりとした粘膜のようなものが這っていました。 このまま海の温度に溶けて消えてしまえたのなら、どれだけ楽になれるんだろうかと。わたしはまだ迷っていました。思い立って知らない街

          【ショートショート】ゆめ

          2020の振り返りと自己紹介

          はじめまして。とうとう2020年の崖っぷちに立たされてしまったため自己紹介をしておこうと思います。もう30回以上投稿していて今更感が拭えないのですが。 私、淺倉 繕(あさくら ぜん)と申します。 名前の由来は「いちにちいちぜん」という座右の銘より(一日一善と、毎日一膳はご飯を食べよう!という意味を持たせております)。朝ごはんは断然米派。 普段はTwitterにて固定の創作キャラクターの絵を描いたり、文章を書いたり、語ったりしています。 今はちょっとだけお休み中。 初

          2020の振り返りと自己紹介

          【ショートショート】浮気の話

          若干の罪悪感を感じながらリビングの戸を後ろ手に閉じると、柊(しゅう)は1人がけのソファに埋もれていた。 「……ただいま」 「おかえり」 テレビの画面には若手お笑い芸人が映し出されているものの、声一つ上げない彼女の様子を見ると役目を成して居ないらしい。右上の時刻表示は二十二時の手前を指していた。 「ごめんね、遅くなって」 「…………ご飯作る前に連絡くれたから、いいけど」 言葉数が少なくなる彼女を横目に上着をハンガーにかける。はやく抱きしめてあげたいものの、証拠を消す

          【ショートショート】浮気の話

          【ショートショート】弾けて、消えた

          「冬にシャボン玉すると凍るっていうじゃん」 「………………」 幼なじみの鹿沼篤人が目を輝かせながらこちらを見ている。 幾度も鳴らされたチャイム音にうんざりして、憂鬱な気持ちで玄関の戸を開けた途端にこれだ。今年で十九歳になるこの大きな子供は、年の暮れだというのに掃除もせずに家を飛びだして来たらしい。長靴を履いている。 「初耳なんだけど」 「澪は嘘つくときに鼻の穴が膨れるよね」 華の女子高生、十六歳にも容赦はしない。篤人はへへっ、と鼻の頭を掻いている。ひとりでとても楽しそ

          【ショートショート】弾けて、消えた

          【ショートショート】絞った果実の残りかす

          廊下から真っ暗な部屋に入ってきた私は、キッチンの簡易照明だけを灯した。 少しだけ肌寒さを感じていたが、暖房は付けなくていいだろう。今から火を使うし。 袋から取りだした果実を枝からもぎ取り、水を溜めた銀色のボウルの中に落とし込む。落ちた衝撃で底に一度だけ沈んだ其れは、すぐに水面にプカプカと浮かぶ。わたしは指でゆっくりと一つの果実を水の中に押し込んでみる。 緩やかな球体の表面に指はつるりと滑って、また上に上がっていく。 「セリ、また採ってきたの?」 居間の奥から掠れた声が聞

          【ショートショート】絞った果実の残りかす

          【ショートショート】夢悔いの碧色

          いちばんはじめに鼻がつぅんと痺れた。 続けて真っ白な天井が見えてくる。眼鏡を付ける時みたいに、もやのかかった視界の中から突如現れた白。 仰向けに寝転んでいるようだった。手を動かそうとして、まずは羽根のように軽い自分の腕に驚く。 指を一本ずつ折り曲げて力を込めてみる。動かした気がしない。具体的に言えば指の付け根の筋肉が動作していないような。それなのに爪を突き立てた手のひらは痛んだ。 意識を失っていたはずなのに頭も重くはない。と、自分の見ている光景に何処か違和感を感じて飛び起

          【ショートショート】夢悔いの碧色

          二学期のおわりの日

          ここ数日の暖気で溶けてしまった雪は、今朝起きると再び灰色のコンクリートに寄り添っていた。日中に消えてしまいそうな量だけれど、ホワイトクリスマスの体面は守られたようだ。玄関先でいってきます、と呟いて白い息が漏れる。 結局最後の登校日もマフラーを忘れて来てしまった。冷気が直接当たる首元に、なんとなく自分の長い髪を巻き付ける。髪の毛も冷たくって自爆。 長かった二学期がおわる。今振り返れば椎太くんに振り回された日々が続いていた。 出会ったのは一学期が終わる少し前だ。牧くんとこん

          二学期のおわりの日