ソニー株主総会:最高益と失われた20年の重み

 今年もソニーの株主総会に出席した。もう15回以上、海外在住だった時期を除いて、ほぼ毎年出席しているが、今年ほど無風な総会はあまり記憶にない。それもそのはず、今年は昨年度は20年ぶりに過去最高の営業利益を上げているのだから。

前回も書いたが、私は株主総会に経営監視の多くを期待していない。参照記事にあるように、今年も株主からの質問は差し障りのないものが多かった。それでは、何故毎年総会に行くのかといえば、会社の経営者の考え方や質疑応答に見られる人柄に触れる数少ない機会だからである。その企業の経営者の周囲に漂う、今の空気感のようなものに触れたいからだ。(勿論私自身が、長年のソニーファンであるということもある。)

経営の専門家でもない私がコメントするのは僭越ではあるが、同社はやっと失われた20年に決別し、新たなスタートラインに立ったように感じる。そもそもソニーの迷走は、インターネットバブルの頃に始まったように思う。私が最初に株主総会に出席した際、当時の出井社長の発言からは、インターネット革命という言葉に酔い、従来のハードウェア企業としてのソニーを捨てんかの勢いが感じられた。一方で、自社規格によるネット配信のプラットフォームの独占を企図し、他社ネットワークへの自社コンテンツの提供には消極的だった。この辺りが、ソニーの「失われた20年」の始まりだったように思える。そのような過去から見ると、今年の総会で説明された新(第3次)中期経営計画には、隔世の感がある。たとえば、音楽コンテンツは定額配信サービスに配信して稼ぐ(自社の配信サービスではない)という方針が、明確に示されていた。

一方で、同社の将来を見た場合、決して楽観はできない。「失われた20年」は、重くのしかかっている。当時のライバルは遠ざかり、新たな強力なライバルも登場し前を走っている。今年の総会の質疑応答で、一抹の不安を感じたのは、なぜか新社長の堅実で温厚な質問への回答ぶりであった。過去3代の社長は、良くも悪くも強烈な個性を持ったカリスマ的人物だった。現社長は、CFO出身のいわば「番頭さん」である。彼が番頭として、現在の同社の復活に貢献したのは間違いない事実。しかしながら、それは他社との競争ができるスタート地点に同社を引き戻したに過ぎず、これから競争に勝ち残っていくのは、また別の難題であろう。世界を見渡すと、ライバル企業のトップたちは、個性派揃いである。参照記事の株主意見にあるとおり、「まじめ(すぎる?)社長」が、これからどのようにリーダーシップを発揮していくのか、これからも一株主として注目していきたい。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31879460X10C18A6000000/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?