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鈴木 一功:早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)教授

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鈴木 一功:早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)教授

最近の記事

敵対的部分買付TOB問題再考 ~SBIホールディングス vs. 新生銀行~

 SBIホールディングス及びグループ企業(以下SBI)による新生銀行への株式公開買付(TOB)は、新生銀行が意見表明報告書で反対を表明したことで、銀行業では初めての敵対的TOBと定義づけられることになった。ただし、(1) SBIによる経営に賛同しない株主すべての株式がTOBの対象となるよう、48%とする買い付け上限を撤廃する、(2)TOB価格の引き上げがなされる、という条件が満たされるならば、TOBに賛成する可能性にも言及している。SBI側は、これらの条件に応じる気配はなく、

    • 日本初の「競争的買収」成功:ニトリHDによる島忠への株式公開買付成立の意義

       2020年、コロナ禍に見舞われた一年が、暮れようとしている。振り替えれば、M&A(企業買収)の分野においては、有事における買収防衛策の承認、敵対的TOBの頻発、等、興味深い出来事が多数起こった1年だったように思う。その一年の締めくくりに相応しいのが、ニトリホールディングス(以下、ニトリ)による島忠への株式公開買付(TOB)であろう。買付期間は、文字通り年末の12月28日までであるが、成立はほぼ確実である。既に、最初に買収に名乗りを上げたDCMホールディングス(以下DCM)は

      • 経営者が目指すべきはROICの向上。ROEは、副次的指標

         「今頃になって、掌を返したように…」 最近の日経新聞の論調には、苦笑するしかない。 2014年8月のいわゆる「伊藤レポート」以来、「ROE偏重経営」を絶賛し、達成できない企業を批判してきたこととの整合性はどう考えるのか。パンデミックで世界が変わったのだ、と論ずることは容易い。しかしながら、それは問題の本質を見落としている。  ROEは経営指標として、果してそれほど重要なものなのか。「グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を上回るROEを達成することに各企業

        • 五輪の延期と中止、その価値評価に関するファンナンス理論からの考察

          2月20日~28日に、英国のロンドンに1週間出張しました。当時は、コロナウィルスの感染が拡大していたのは、中国や日本で、欧州は比較的安全と思われていて、正直「これで、異国でウィルスの懸念なしに暫く過ごせる」と思ったものでした。今となっては、笑い話に近いですが、ロンドンの市長選の候補者が、「東京でオリンピックができなかったら、ロンドンが手を挙げるぞ」と息巻いていた頃でもありました。  ところが、滞在中にイタリアの爆発的感染が報道されると、雰囲気は一変。到着直後には、薬局の棚に沢

        敵対的部分買付TOB問題再考 ~SBIホールディングス vs. 新生銀行~

        • 日本初の「競争的買収」成功:ニトリHDによる島忠への株式公開買付成立の意義

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          「物言う株主祭り」の一日を終えて…

           本日(1月21日)の日本経済新聞朝刊、「経済教室」に拙稿が掲載されました。当初は、もう少し早く掲載される予定でしたが、編集の都合で数日遅れました。  早起きして、紙面を開けてビックリ。旧村上ファンド系による東芝機械への敵対的TOB、前田建設 vs. 前田道路のMaexit(前田グループ離脱)案件、おまけに、敵対的買収者の駆け込み寺的存在である三田証券、と、これでもかという程の経営権争奪関連の記事。「物言う株主祭り」と呼ぶに相応しい、紙面内容になっていました。  我々の共

          「物言う株主祭り」の一日を終えて…

          伊藤忠のデサントへの「敵対的TOB」が開けたパンドラの箱 ―ユニゾHDへの事前同意なき「イキナリTOB」に関する考察―

           7月11日不動産事業、ホテル事業を行っているユニゾホールディングス(以下「ユニゾ」)に対して、旅行代理店大手でホテル事業にも力を入れているエイチ・アイ・エス(以下「HIS」)が株式公開買付(TOB)を開始した。事前に買付対象先の合意がないいわゆる「イキナリTOB」は、今年になって伊藤忠の対デサント、南青山不動産(旧村上ファンド系)の対廣済堂に続き、3件目となる。本稿執筆時点(7月12日午前8時)では、ユニゾ側の意見表明報告書が確認できないが、この後仮に「反対」の意見が表明さ

          伊藤忠のデサントへの「敵対的TOB」が開けたパンドラの箱 ―ユニゾHDへの事前同意なき「イキナリTOB」に関する考察―

          廣済堂のMBOと対抗TOBに関する雑感:公開買付代理人が複数存在する悩み

           廣済堂に対するベインキャピタルと提携したマネジメント・バイアウト(MBO)にかかる株式公開買付(TOB)は、対抗的TOBが発表されたことにより、その成否が混沌としてきた。廣済堂によるTOBは、本年1月17日に発表され、直前の株価419円に対して、買付価格が610円と45.6%の一見高水準のプレミアムを付した案件であった。しかしながら、2月18日に、創業家の大株主と監査役1人が、会社の持続的成長につながらない、事前に十分な資料や時間を与えられなかった、などと反対を表明。この間

          廣済堂のMBOと対抗TOBに関する雑感:公開買付代理人が複数存在する悩み

          デサントへの「9%の敵対的TOB」成立の意義

           伊藤忠によるデサントへの株式公開買付(TOB)が、14日に成立した。新聞では、「相手の合意なしで行う敵対的TOBとして日本の主要企業同士で初の成立例」(日本経済新聞朝刊)と評されている。筆者は、今回のTOBが前例のない部分買付(買付株数の上限を定め、それ以上の応募があっても買付を行わない)であったことから、本件をもって敵対的TOBの成功例と大々的に評価することができるとは思わない。むしろ、本稿のタイトルに示したように、「9%の敵対的TOB」という特殊事例と考えるべきであろう

          デサントへの「9%の敵対的TOB」成立の意義

          伊藤忠によるデサントへの敵対的TOBに見る日本のTOB制度の問題点

           伊藤忠によるデサントへの株式公開買付(TOB)は、デサントが意見表明報告で反対方針を表明したことで、敵対的TOBと定義づけられることになった。(1) 直前の株価1871円に対して、買付価格が2800円と高いこと(49.7%のプレミアム)、(2)買付株数が発行済株式の10%程度と低いことを勘案すると、対抗的なTOB(MBOを含む)が経営陣等によって提起されるなどの新たな展開がない限り、TOBの成立自体は間違いない。TOB終了後、伊藤忠はデサントの40%の株式を保有することにな

          伊藤忠によるデサントへの敵対的TOBに見る日本のTOB制度の問題点

          ソニー株主総会:最高益と失われた20年の重み

           今年もソニーの株主総会に出席した。もう15回以上、海外在住だった時期を除いて、ほぼ毎年出席しているが、今年ほど無風な総会はあまり記憶にない。それもそのはず、今年は昨年度は20年ぶりに過去最高の営業利益を上げているのだから。 前回も書いたが、私は株主総会に経営監視の多くを期待していない。参照記事にあるように、今年も株主からの質問は差し障りのないものが多かった。それでは、何故毎年総会に行くのかといえば、会社の経営者の考え方や質疑応答に見られる人柄に触れる数少ない機会だからであ

          ソニー株主総会:最高益と失われた20年の重み

          お土産と株主総会 ~総会は、株主による経営監視に資するか~

           3月決算の株主総会の季節が到来し、招集通知が届き始めた。 私は、15年以上にわたりほぼ毎年ソニーの株主総会に出席している。最初に出席したのは、出井氏がトップの頃。その後ストリンガー氏、平井氏、そして今年は吉田氏である。 総会に出席して思うことは、この場に経営監視機能を期待するのは望み薄、の一言である。「ウォークマンが壊れてサービスセンターに駆け込んだら対応が悪かった。」「最近のCMのクオリティーが気に入らない。」等々の質問、何を聞きたいのかわからず、単に自分の思いを延々

          お土産と株主総会 ~総会は、株主による経営監視に資するか~

          株主総会前哨戦終了、総会ラッシュの6月に向けて引き続き動向を注目!

           3月の株主総会での株主提案に注目していましたが、オーナー持分比率が約4割と高いGMOインターネットにおいて、買収防衛策廃止の株主提案に45%もの賛成票が集まったというのは、驚くべき結果と言えるでしょう。買収防衛策自体が、コーポレートガバナンスコードで厳しく必要性・合理性の説明を求められている項目であることも影響していると思いますが、機関投資家も合理性のある株主提案であれば、賛成票を投じるのが当たり前になりつつあることを示唆しているように思えます。 本記事ではあまり触れられ

          株主総会前哨戦終了、総会ラッシュの6月に向けて引き続き動向を注目!

          株主総会シーズン:対話と対決の境界は…

           今年の総会シーズンは、久々に「対決型」アクティビストの動きから目が離せないものになりそうです。 リーマンショック以前には、村上ファンド、スティール・パートナーズ、TCI(チルドレンズ・インベストメント・ファンド)などの対決型アクティビスト・ファンドがマスメディアを巻き込んで、経営陣に増配や自社株買いといった要求を突きつけました。それから約10年の間に、政府主導でコーポレート・ガバナンスコードやスチュワードシップ・コードが導入され、株主主導のガバナンスの仕組みが強化されまし

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