見出し画像

この国はもう滅びるしかないのか!? 第7章 食の安全保障を完全無視の日本は「真っ先に飢える」 鈴木亘弘  『自民党という絶望』所収

先日、北海道酪農家の絶望的な声を投稿したが、先月、出版された『自民党という絶望』(宝島新書)の中に食料安全保障に関する鈴木亘弘氏のインタビューがあったので数回に分けて紹介する。

「食料自給率4割」というのは全くのウソだ!!


 食料自給率38%。日本の食の安全保障の脆弱さは、今までもたびたび指摘されてきた。中でも大豆や小麦などの自給率の低さはよく知られているが、野菜はまだまだ国産が多いようだし、コメに至ってはつい数年前まで減反して生産調整していたくらいだから、自給率も高いに違いない   そのように思い込んでいないだろうか。農産物を育てるには、当然ながら、種や肥料が必要になる。畜産物にはヒナや飼料などが必要だ。そして、日本は野菜の種の9割、養鶏において、飼料のとうもろこしは100%、ヒナもほぼ100%近くを海外からの輸入に依存している。コメも、肥料や農薬を勘案すれば自給率はぐっと低くなる。そう考えると、日本の食料自給率は37%どころではないだろう。
 そんな疑念を確信に変えるような試算が2022年8月に英国の科学誌『ネイチャー・フード』で発表された。米国ラトガース大学などの研究チームが試算したもので、それによると、核戦争が勃発して、世界に「核の冬」が訪れて食料生産が減少し、物流も停止した場合、日本は人口の6割(約7200万人)が餓死、それは実に全世界の餓死者の3割を占めるというのだ。
 なぜ、日本の食料戦略はかくも悲惨な状況に至ってしまったのか。農林水産省の元官僚で、東京大学大学院晨学生命科学研究科教授の鈴木宣弘氏に聞いた。(取材日 2022年12月13日)

   物流が途絶えた場合に、日本の人口の半分以上が餓死のリスクに晒されるという指摘は衝撃でした。日本の食料政策はどこで道を誤ったのでしょうか。

鈴木 日本の食の安全保障の崩壊は、戦後にアメリカの占領政策を受け入れざるを得なかったという流れから始まっています。何よりも、アメリカが戦後抱えていた余剰生産物の最終処分場として、日本を最大のターゲットに定めたことが大きいでしょう。敗戦国の日本に、それに逆らうという選択肢はありませんでした。アメリカが余剰生産物として大量に抱えていた小麦、大豆、とうもろこしについて実質的に関税を撤廃させられたことで、日本において、この3品目の伝統的生産はほぼ壊減に追い込まれました。

製造業の利益アップのため、農業を"生贄″〝に

   戦後の一定期間は敗戦国として受け入れるのはやむを得なかったとして、のちにその流れを押し戻していくことはできなかったのでしょうか。

鈴木  日本側では、自動車産業などを中心とした製造業でいかに利益を上げていくか、という政策が、当時の通産省(現在の経産省)を中心に進められていきました。言い換えれば、車などの輸出をできる限り推し進めていくために、貿易自由化によって日本の農業を″生贄″として差し出す、つまり関税を撤廃して米国からの余剰農産物をどんどん輸入することで、貿易相手国であるアメリカを喜ばせようとしました。そして、製造業で利益を上げることに邁進し、食料安全保障については「カネを出して輸入すればいい」という考
え方が定着してしまったのです。

 これはアメリヵの思惑と完全に一致しました。っまり、アメリヵの農産物に依存する国として日本が位置付けられ、アメリカは日本の胃袋をつかむことに成功します。日本の政権側も自らそれを推進していくことで、輸入依存がますます高まり、農業はどんどん苦しくなり、自給率はみるみるうちに低下していつたというのが大まかな流れです。

   そこは、アメリカの外交上の戦略だったということですか。

鈴木  アメリカは、食料を「武器より安い武器」と位置付けています。食料で世界をコントロールするのだ、という戦略に基づいて、徹底的に農業政策に予算を注ぎ込んでいます。
 つまり、日本や途上国にアメリカの食料を広めるために、アメリカ国内の生産者には値段を下げて売ってもらう。その代わり、農家が安心して生産を続けられるように売値とかかったコストとの差額は何兆円かかっても必ず政府が補填をしています。
 たとえば、アメリカではコメー俵を4000円くらいの低価格で売るように農家に求めますが、生産するためのコスト1万2000円との差額は全額国が補填するよ、ということを明確に打ち出しているわけです。農業政策には莫大な予算をつけて、ひたすら増産を図る。そして100%を超える自給率を維持して、世界の胃袋をつかんでいます。
 かつて、キューバの革命家、ホセ・マルティは「食料を自給できない人たちは奴隷である」と述べました。詩人で彫刻家の高村光太郎も「食うものだけは自給したい。個人でも、国家でも、これなくして真の独立はない」と言っています。
 まさに今の日本が置かれている状況ではないでしょうかっ農産物の輸入自由化の流れは加速し、自給率は低下し、いざという時に国民の命が守れないような状況になっています。
 今、安保政策を大転換するのだ、敵基地攻撃能力を保有するぞ、防衛力を強化するぞといった勇ましい話になっていますが、もしも経済制裁などに踏み切った場合、逆に日本が経済制裁を受けてあっという間に兵糧攻めに遭います。そうなれば、日本人は戦う前に飢え死にするしかありません。
 冷静に考えてみてください。日本は世界でも類を見ない、エネルギーも食料もほとんど自給できていない国です。諸外国はどこも食料や資源エネルギーを自国内で確保したうえで経済制裁に踏み切るのです。そうした冷静な判断ができない国ほど、恐ろしいものはありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?