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内緒だよ

ココペリさん町に来る

「はああ。今日もいい天気だなあ。」

歩き疲れて木陰の切り株に座って一休み。ココペリさんがこの町にやってきました。

ちょっと丸まった背中に大きな白い“旅の笛”を背負っています。ここは大きなピーナッツ型のソンソン池がある“モニグル”という町。

ココペリさんはどうやらこの町が気に入った様子。今日はこの町の中心にある少し太めの木の上で、一泊することにしました。

すると、ぼんやり下を向きながら、ぽとぽと歩いてくるひとりの少年が目に入りました。

「やあ、こんにちは。」

「こ、こんにちは。」

ココペリさんは木の上からその少年に声をかけました。不意を突かれ、目をぱちくりする少年。

「元気ないね、どうしたの?」

「うん、この頃楽しいことがなくてさ。」

「そっかあ。ところで君の名前は?」

「ぼく? エール。」

「いい名前じゃないか。じゃあさ、エール、今日はこの町に一泊させてもらう代わりに、君にいいことを教えてあげるよ。」

そう言って、ココペリさんは木からぴょんと下りてきて、エールの耳元でひそひそと何やら囁きました。

「明日、黄色い服を着るとね、いいことがあるんだって。誰かに知られてしまうとそのいいことが消えちゃうから、いいかい?絶対に誰にも内緒だよ。」

エールは先ほどの落ち込みなどすっかり忘れて、

「うううわかった!内緒にする!絶対に内緒にするよ!ありがとうココペリさん!」

そう言うと元気に飛び跳ね、やった!とガッツポーズをしたまま学校へと走り去っていきました。


エールとミール

学校についたエール。

なんだかソワソワウキウキ。まったく落ち着きがありません。その姿をじぃっと見ていたミール。彼女はソワソワしているエールを見て、・・・ははん、これは何か隠してるな・・・と、いきなり後ろから声を掛けてみました。

「何かいいことあったの?」

「え⁉なんでわかったの⁉」

エールは驚きを隠せません。

「だって、顔に書いてあるじゃん。」

「ええっ!じゃあ、明日黄色い服を着てくるといいことがあるってばれちゃったの⁈」

エールはとんでもない早口で秘密にしていた内容をすっかり話してしまいました。

ミールはしめしめと片方の口の端をきゅっと上げて、

「なるほど、そうなんだ。いいこと聞いちゃった。」

と、ニヤリ。エールは慌てて付け加えました。

「あ、あのねミール、もしこのことを誰かに知られるといいことが消えちゃうんだ。だからね、絶対内緒だよ!」

ミールはふふん!と鼻で返事をして、

「私はそんなへまはしないわ。」

と、自信ありげにエールと約束しました。

エールは、さっき学校についたとき、手だけじゃなく、ちゃんと顔も洗っておけばよかったと後悔しました。


ミールとモール

エールからいい話を聞いたミールは、そそくさと自分の席に戻りました。

ミールはにやける顔を咳払いでごまかしつつ、今聞いた内容を忘れないようにと、とっておきの手帳に書き込みました。

「えっと、明日は黄色い服を着るといいことがある、と・・・。」

それを遠くから見ていたモール、やたらと咳払いをしながら手帳に何やら書き込んでいるミールが気になって、音を立てないようにそぉっと近づき、後ろから手帳を覗き込みました。

するとそこには赤いペンで星印をつけて、その上、二重線まで引いてある文章が目に飛び込んできました。

「・・・ふうん、そうなの?」

ビクッと後ろを振り返ると、目を輝かせたモールが手帳に釘付けになっていました。

「な、なによ!勝手に見ないでよ!」

そういったものの、時すでに遅し。

「あ し た は  き い ・・・」

と、言いかけたモールの口を急いで塞ぎ、ミールは「しーっ!」と眉間にしわを寄せて、脅すような低い声でこう言いました。

「あのね、これ、内緒にしなくちゃダメなの!わかった?」

ミールの表情と声に怖気づいたモールは、震えながらほかの人には絶対しゃべらないと約束しました。

ミールはほっとしていつものキュートな表情に戻り、授業中もずっと手帳を薄く開けてはニヤニヤ、開けてはニヤニヤを繰り返していました。

さて、キンコンカーンとチャイムが鳴りました。みんな帰る時間です。

モールはさっきのミールの怖い顔をちょっと思い出しましたが、すぐに忘れて明日の黄色い服のことで、目を輝かせたままおうちへ帰りました。


黄色いTシャツ

お家に着いたエール。

ビーグル犬のポチャピィがしっぽをプロペラのように振り回しながら、玄関先までお出迎えしてくれました。

「ねえねえ、ポチャピィ。明日ね、黄色い服を着るといいことがあるんだって!」

エールはココペリさんとの約束を思い出したけれど、やっぱりしゃべりたくなって愛犬のポチャピィに話してしまいました。

するとポチャピィのご飯を持ってきたママが、

「黄色い服ねぇ、うちにあったかしら?」

と、言いました。

「ええ?もしかしてないの?・・・ないの?・・・ないのぉ⁉」

エールは涙目です。

これは一大事。

するとエールのママは閃きました。


「そうだわ!新しい白いTシャツがあるから、それを花粉団子で黄色に染めたらどうかしら?」

それを聞いたエールは、絶対内緒だったことなどすっかり忘れて大喜び!ママは超特急で、いつもはちみつを分けてもらっているミツバチのブーブル婦人に訳を話して、花粉団子を分けてもらいました。

すると、ブーブル婦人、不思議そうな顔をしてこう言いました。

「さっき、みつばち友達とお茶してたんだけど、ブンブンさんもビビンさんも同じようにハチミツ団子を分けてあげたといっていたわ。」

と。

「あらまあ、子供たちには内緒話はできないわねぇ。」

と、ママたちは笑いました。

ママの大活躍でエールは無事泣かずにすみ、まんまるお月様が小さくなるころ、やっと眠りにつきました。 


どんないいことあるのかな

ついに、みんなが待ちに待った、その「明日」がやってきました。

学校に行くと、みんなそろいもそろって同じ色の服。いったいどんないいことがあるのだろうとウキウキワクワクの笑顔です。

教室の中はハチミツの香りと鮮やかな黄色でまるでお花畑のよう。

ところが、先生だけは大きなため息をついてみんなを見渡していました

なぜって、この町の子供たちは、十二歳になるまでみんなそっくりな顔なのですから。背丈も体つきもそっくり。かろうじて声だけは微妙に違いますが、黙っていたらもう誰が誰なのかわかりません。

そんな中、唯一ピンク色の服を着てきた子がいました。

シュールです!

シュールはこう言いました。

「みんな黄色い服で、みんないいことがあるね!」

そう、もちろん彼も知っていたのです。そしてこう続けました。

「でもぼくは、黄色い服を着なくたっていいんだ。だってぼく、ピンク色の服を着ているといつだっていいことがあるんだもん!」

彼は自信に満ち溢れ、輝く瞳でにんまり微笑みました。彼は誰よりも自分を信じていたのです。

みんな改めて自分を見つめなおしました。

ミールはチューリップの赤が、エールはお空の青が、モールは葉っぱの緑が好きでした。

目からうろこがポロポロ落ちたみんなは、あっ!と振り向き、教室の一番後ろにいたココペリさんに注目しました。

ココペリさんは穏やかに微笑んでいます。

「みんな、自分の本当に好きな色がわかってよかったね。」

そういってウインクすると、大きな白い“旅の笛”を構えて、弾むような笑うような楽しい音色を奏で始めました。

するとどうでしょう?

どこから現れたのか、キラキラ輝く美しい蝶が、ひらひらと教室中を優雅に舞い始めたのです。


「まるでお花になった気分。」

一匹の蝶がミールの胸に止まり、ミールの乙女心をくすぐります。まわりのみんなもそんなミールを見て微笑みました。

心ホカホカ、内緒にする約束は果たせなかったけど、みんながひとつになったように幸せになれました。

「自分の信じていることを大切にすること、それが自信になるんだよ。」

ココペリさんはいつも大切なことを教えてくれます。

曲が終わり、拍手が鳴りやまぬ中、ココペリさんは美しく丁寧にお辞儀をして、

「黄色はお日様の色だからね。みんなが元気になるようにおまじないをかけたのさ。」

そう言い終わると、手を振ってまた次の街へと旅立って行ったのでした。

おしまい。


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