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この世界のさらにいくつもの片隅に(2019)

 いま戦争へと向かってゆく日本において、観るべき作品のひとつ。
 特別に豊かではなくとも、平和な毎日を過ごしていた主人公たちが、戦争が始まるとともに、少しずつ苦境に立たされてゆく。
 物価が上がり、食品が減り、やがて人が徴用され、住んでいる場所に戦火が及び、あげくのはてには自分の身体まで引き裂かれる。その様子を観ていると、今の日本も正にその入り口に立っているのかもしれないと思われてならない。
 と同時に、物語は戦時の苦しい生活にあっても、なんとかして生き延びようと努める人たちを描く。この人たちは反戦運動などしない。政治的な主張などせず、ただ一心不乱に世情に合わせて、真面目にお上の言うことを素直に聞きながら、日々を生きるのみだ。
 それだけにこの人たちの生き様は、悲しい。
 悲しいながらも、この人たちの生き様は美しい。そして繊細で切なく、また微笑ましい。人間の優しさが、観る者の心を温めてくれる。戦争の無惨と人間への愛おしさが凝縮された、濃密な物語である。
 アニメーションの絵も、細部まで丁寧に作り込まれ、さまざまなタッチの絵が登場し、この映画の世界に魅了される。「絵」がこのストーリーの大切なキーになっているだけに、「絵」を大切にした作品だ。
 もう一度観てみたいと思う映画です。

(2023年8月20日、Amazonプライム・ビデオで鑑賞)

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