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東京23区の物語り。〜杉並区の女性、焚き火を囲んで〜

2000年の春、雨上がりの心地良い夜明け前、僕は控えめな住宅街のコンビニにいた。

街の夜明けは、集中すれば子供達の寝息さえも聞こえそうな静寂に包まれていた。

当時、学生だった僕はマンションにいても特にやることもないのでコンビニに出かけ、とりわけ興味もない雑誌の立ち読みをしていた。

数分たった後に2人組が入ってきた。多分始発で帰ってきたのだろう。

確か、男性はキャメル色のスーツと桜色のシャツを着ていていて紺と白のストライプのネクタイが良く似合う40代前半で、女性は黒のジャケットに感じの良いアッシュグレイのタイトなスカートを身にまとい、ときおり靴の裏のワイン色が見えた。多分30代半ばだった。

女性が歩く度にその靴から喜びに満ちてそれでいて艶めかしい音がコンビニに響き、これから始まる素敵なストーリーを予感させたいた。

男性はお菓子の棚で甘いものを探し、女性はずっとファッション雑誌を読んでいる。

男性が雑誌コーナーに戻って来ると女性は雑誌に載っていた質問をする。

「かけても良いけど、わっては駄目なものってなんだと思う?」

女性は雑誌から目を離さずに質問をする。

男性は少しだけ考え、少し時間が経った後に自分の頬を触りながら「数字の0だと思うよ」と答えた。

その答えで少しだけコンビニの空気が重たくなったように感じた。

女性は納得いかない顔をしながら
「私は眼鏡だと思う」

僕はその答えから二人の生い立ちを想像した。

男性は優秀なのだろう。
社会人になって数十年たっているのに義務教育の中で多くの人は忘れている原理を覚えている。
それが彼の自信がある佇まいの理由なのかもしれない。


女性は少し悲しい話なのかもしれない、彼女は良くものを落とす癖があり、なかなか素敵な男性と付き合っていたけど何回も彼の眼鏡を落として割ってしまった。
その事が直接の原因でないけど素敵な恋は終わってしまった。

2人は自分の思い出がある分、自分の答えを変えない。お互い説明をすれば良いする程空気が重たくなる。

そしてさらに悪いことに、救いの回答は次回の雑誌に載るらしい。

その話を聞いているとき、ふと僕が読んでいた雑誌の一文を見ると、そこには「昔から様々な部族が焚き火を囲んで、武勇伝の話してきた。それが神話や映画のもとになった」と書かれていた。

もう20年前の話だ。

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