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テレビドラマ「君の花になる」感想本 『きみはな本 「8LOOMは僕たちの宝だよ」篇』試し読み 

ここで紹介する『きみはな本 「8LOOMは僕たちの宝だよ」篇』は、《ますく堂なまけもの叢書》発行人が、昨年放送したTBSのテレビドラマ「きみの花になる」が「とにかく好き!」という気持ちだけでつくってしまった同人誌です。
内容は、ドラマ全話の紹介と感想を、ただただ、個人の偏愛だけを頼りに綴ったものでございます。
昨年の大晦日に開催された「大崎コミックシェルター」参戦を機に発行し、「文学フリマ」や、神保町の共同書店「PASSAGE」にて頒布いたしております。
DVD、Blu-rayボックスの発売を記念して、その冒頭部分をここに公開いたします。もしお気に召しましたら、ご購読いただければ幸いです。

第一話 あんたの夢も俺が叶えてやるよ!

 おそらく、一目惚れだったのだと思う。
 彼らを最初に目にしたのは、「マツコの知らない世界」のCM中に流れた新ドラマのアピール映像だった。
 第一話の冒頭で流れる仲町あす花(本田翼・演)のモノローグ、そこで映し出される8LOOM七人の姿だったと思う。
 第一印象として迫ってきたのは、「厚み」だ。
 作中に架空のアーティストを登場させる試みが好きだ。歌やダンスを本業としない俳優が演じるパフォーマンスや、演技のプロではないアーティストが魅せる俳優としての存在感には、「本業」でないが故に生じる、発見と興奮がある。また、言い方は悪いが、一種の「高尚なお遊戯会」を見ているような気持ちになれるのも良い。慣れないことをしている演者たちにエールを送りたくなる気持ち、「参加している感」が得られるのも、愉しい。
 なにより、そうした作品のクライマックスには決して裏切られることはない。
 架空のアーティストが主演級であるならば、そのパフォーマンスがもっとも魅力的に輝く瞬間をドラマは描き出そうとするはずだからだ。たとえ、それまでの展開に難があったとしても、クライマックスのパフォーマンスが相応に「魅せて」くれるのであれば、少なくとも僕は満足できる。
ただ、「君の花になる」への興味はそうした個人的な嗜好とは少し異なるところから生じたように感じている。なんの前情報もなかった。ただ、男の子たちが舞台に上がる姿だけが飛び込んで来た。これがどんなドラマかわからない。どんなストーリーになるのかもわからない。
 それでも、彼らが出るなら、観たい。純粋に、そう思った。
 センターの佐神弾を演じる高橋文哉、最年長の古町有起哉役・綱啓永、最年少・なること成瀬大二郎役の宮世琉弥の顔は覚えていたが、他の子たちはまったくのノーマーク。ただ、彼らにもまた一種の貫禄があった。このステージにあがる資格が自分たちにはあるのだというゆるぎない自信、演技の中、ドラマの中の「架空人物」の枠を超える何かがそこにはあった。緊張感? もちろんそれもある。しかし、それと共に、しかもより強く伝わってきたのは、幸福感だった。彼らには、ただそこにいることが嬉しくてならない、愉しくてならないという情熱があった。彼らの歌も踊りも知らないはずなのに、ただ、その佇まいだけで胸が踊った。
 こうしたワクワクを抱えて観た第一話。主人公・あす花と弾の「教師と生徒」としての出会い。その後、なんらかのトラブルがあって教師をやめたあす花は、姉・優里(木南晴夏・演)の結婚を機に、七人組ボーイズグループ「8LOOM」が暮らす寮の寮母として働きはじめ、センター兼リーダーとなっていた弾と「寮母と寮生」として再会する。期待の新人として売り出されたものの、その後はぱっとせず腐っている8LOOMはついに、事務所から解雇通告を受ける。粛々とそれを受け入れようとしてしまうメンバーを叱咤する、あす花。反発しつつも、もう一度ステージに立ちたいと願う弾はメンバー全員で社長の花巻由紀(夏木マリ・演)に直談判し、ラストステージとして同じ事務所のライバル・CHAYNEYのコンサートで一曲だけ、デビュー曲《Come Again》を歌うことを許される。渾身のステージでCHAYNEYのファンをも魅了する8LOOMたち。社長は、弾がつくる新曲が配信一位を記録することができれば、契約を延長すると約束する。
 この第一話の世評は決して高いものではなかった。少女漫画みたいな展開、非現実的な設定、主演・本田翼の演技の酷さ……ドラマを実際に観ずに、このレポートだけを読んだら、絶対に観る気にはならないであろう批評(?)がネットに踊った。
 こうした世評は、どうしても目にしてしまうもので、なにより「悪口」というのは得てして面白いものだから量産されていってしまう訳だけれど、個人的にまず思ったのは、「ネットライターって、お手軽な仕事だなあ(でも、こんなものだけ書いて暮らすのはこれはこれで辛いだろうなあ)」ということと、「一話じゃまだわかんないでしょ」ということ。テレビドラマの第一話というのはなかなかに難しい。つくる方も観る方も、まだ、その作品が持つカラーを見定められていないのが自然であるし、いわば、その「カラー」をつくっていくのが第一話の仕事だからだ。故に、世界観や登場人物の紹介を兼ねた第一話はどうしても窮屈だったり、ぎくしゃくしたりといった印象を与えることが多い。だから、僕自身は、「見続けたいと思う何かが少しでも見つかればそれでいい」というスタンスで、第一話は寛容に観ることにしている(その分、第一話を観るかどうかのハードルは高いかもしれない)。
 以下、このドラマを観続けたいと思った点をあげてみたい。

■なんといっても「8LOOM」の完成度がエグい

 売れずに腐ってギスギスしているという設定だが、みんながぶっきらぼうな弾の指示には従い続ける。度々突っかかっていく有起哉も、その点は揺るがない。弾は、終始不機嫌で感じが悪いので「なんでこんなやつについていくんだ、みんな」と思いたくなってしまうのだけれど、そう思わせない「根っこのところの仲の良さ」が全シーンに滲みだしている。演技を超えた佇まいの快さが、彼らの一挙手一投足を眺めているだけでも愉しいドラマになるだろうという確信を与えてくれたことがとても嬉しかった。

■夏木マリと内田有紀への信頼感

 事務所社長役の夏木マリ、人気グル―プCHAYNEYのマネージャー・香坂すみれ──いわば悪役ポジションとして登場する内田有紀。この二人がいれば作品の底が抜けることはありえないという絶対的な安定感と信頼感。本田翼とぶつかるシーンも、本田の不安定さ(あくまで役柄上の)とまっすぐさを適切に受け止める演技が絶妙。「安定感、安心感を超える何か」を8LOOMに求めるドラマ展開とリンクするように、本田翼という個性を際立たせるベテランの仕事に感嘆。

■品の良い所作

 登場人物の個性に拠るところが大きいのかもしれないが、このドラマの演技にはそこはかとない「品」がある。
 第一話で感心したのは、社長が突然銭湯に現れる一幕に、綱演じる有起哉がごく自然に、首に巻いていたタオルを外した所作。荒っぽい言動が多い役回りだが、そのちょっとした所作に最年長としての落着きや、育ちの良さが現れているように感じた。こうした品のある演技の「気持ちよさ」は、きっとこの作品の武器になるだろうと思った。

■脚本の繊細さ

 シリーズ全話を手がけた吉田恵里香は、BL作品「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」のテレビドラマ版や、他者に恋愛感情も性的欲求も抱かないアロマンティック・アセクシュアルの登場人物を描いた「恋せぬふたり」など、多様なセクシュアリティを重視した繊細な作風が印象的な作家。その繊細さは、この第一話でも端々に現れている。二点だけ掲げる。
 ICレコーダーを無断で再生したあす花に激昂する高校生時代の弾。しかし、あす花の静止に思わず「すいません」と敬語で謝る。焦っているときにも(むしろ焦っているからこそ)教師への礼儀を忘れない(思い出してしまう)子なのだと、主人公・弾への好感が湧き上がってくる一幕。
 銭湯シーンにおける花巻社長退場時の叫び「トリニティー!」は、「何故に社長がこんなところに?」という疑問の端的な回答になっている。謎の二人の関係性をも予告する、さりげない職人技。

第二話 俺たちは一人じゃない。

「新曲で配信一位をとれば契約続行」という社長との約束から一夜明け、その目標の厳しさに尻込みする8LOOMたち。新曲が書けずに焦る弾はグループ全体のレベルアップを急ぐべく、厳しいトレーニングプランと食事制限を課す。不満を言いながらも弾を信じてついていくメンバーだが、仕事ゼロの状態でのモチベーション維持に苦しむ。
 一方、あす花もまた、社長に「8LOOMの需要」をつくりだしてみせると宣言。商店街のお祭を契機に、8LOOMファン=8LOOMYを増やそうと奮闘する。
 メンバー御用達の銭湯で働く池岡奈緒(志田彩良・演)の助けもあり、お祭でのステージ出演が決まる8LOOM。しかし本番直前、ボーイズグループとしてのステージではなく、「着ぐるみショー」のお手伝いであることが発覚。落ち込むメンバーたちだったが、あす花の地道な活動によって地元商店街が強力な8LOOMY応援団に様変わりしていることを知り、「着ぐるみショー」出演を決意する。
 祭の後、寮の屋上で弱音を吐く弾。「全然あいつらの役に立てていない」と落ち込む弾に、あす花は、「人のことを頼りにできない人を誰も頼りにできない」と諭す。
 その様子を観ていたメンバーたちは口々に弾への感謝を述べ、弾が担っていた役割を分担することに。リーダーを引き継ぐことになった小野寺宝(山下幸輝・演)によって「仲直りのハグ」を命じられた弾と有起哉は熱いハグを交わして仲直り。そこに仲間たちが次々にとびかかり、全員でハグ。綻びかけていた8LOOMの絆があらためて、強く結びなおされるのだった。

■なんといっても、「仲直りのハグ」

 この第二話で僕はすっかりこのドラマのファンになったのだが、その大きな要因が、ラストの「仲直りのハグ」である。
このドラマの冒頭から、弾と有起哉は一触即発の状態にあった。元々は八人ではじまったグループが脱退者を出してしまったのは、弾が厳しく追い詰めたせいだと信じている有起哉は、弾がメンバーの力不足を責める度、不満を爆発させかける(それでも、持ち前の明るさと男気で気持ちを切り替えつつ、ムードメーカとしても機能しているのが有起哉というキャラクターの素晴らしさである)。
 その有起哉が、弾が吐いた弱音に一番強く反応する。「俺はお前がずっと頑張ってること知ってる。自分のせいだなんていい気になるな、バーカ!」と暴走する素直じゃない優しさ。新リーダー・宝の無茶ぶりに、最初に動くのは有起哉だ。ぎくしゃくと抱き合うふたり。硬くなっている弾を強く抱き寄せて、有起哉は囁く。「ごめんな」
 僕は、このシーンがものすごく好きだ。この「ごめんな」の優しい響きに涙腺が決壊した。正直、こうしてこのシーンを振り返っているだけで涙がこみあげてくる。それどころか、普通に道を歩いているときにもふと、このシーンを思い出して涙ぐむことがある。そのくらい、このシーンが大好きだ(ちょっと、自分の情緒が心配にもなるけれど……)。
 古町有起哉を演じる綱啓永のことは「顔だけ先生」というドラマで初めて認識したように思う。加藤晴彦の流れを汲む典型的な「ウェイ系リア充男子」の現在形という印象で、癖の強い演技派や、ゆるふわ、ジェンダーレスなど、「新しき強い個性」が貴ばれる昨今にあって、こういう「クラシカルな元気イケメン」は逆に珍しいな、と勝手に感心していたのだが、「君の花になる」ではとにかく、綱の新たな魅力に驚かされ続けた。その大きなファクターが「声」で、演技ではもちろん、歌声の面でも大変な衝撃を受けた。美しい高音。並外れた歌唱力。8LOOMは大きく、「俳優組」と「パフォーマー組」に別れると思うが、「俳優組」の綱が魅せるハイレベルなパフォーマンスには幾度も度肝を抜かれた。
 この「仲直りのハグ」は、そんな綱啓永のスター性がいかんなく発揮された名シーンであると思う。

■新リーダー・小野寺宝、爆誕

 もうひとつ、注目しておきたいのが小野寺宝役の山下幸輝についてである。先の「組分け」でいえば、山下はおそらく「パフォーマー」に分類されるのではないかと思う。俳優経験もあるが、大きな役はまだついていない。一方で、ダンサーとしては複数の大会で優勝経験を持ち、本人もそれを恃みにしているような印象がある。
 キャラクターの「個性」というところでわかりやすいのはなんといっても関西弁、関西人であるという属性であるが、ここでより重視したいのは、誰かと誰かが争うとき、率先して間に入ろうとするのがタカラであったということだ。また、一話の銭湯のシーンで、あす花が皆に珈琲牛乳を配る下り、蓋が開けられないタカラをあす花が気にかける台詞が何気なく挿みこまれている(アドリブかもしれないが)。あす花は第二話で唐突にタカラのリーダー就任を後押ししたように見えるが、実は、元教師の目でタカラの適性を見極めていたのだろうと思わせる、「しっかり見ていた」ことを示唆する描写と言える。
 こうして追っていくと、話の流れで偶然押し付けられたようにみえるタカラの「リーダー就任」が、実は入念に準備された展開であることがわかる。あの場で誰一人不平を抱かず、ごく自然に新リーダーを受け入れるのには然るべき理由があるわけだが、それがこの第二話までの随所にしっかりと描きこまれている。この丁寧さが、吉田脚本の真骨頂であると僕は思う。
 ちなみに、「仲直りのハグ」と宣言しながら「ひとりハグ」をするタカラに呼応するかの如く、小さくハグしてみせるのが桧山竜星(森愁斗・演)。後に「公式双子」と称される二人の絆がさりげなく描きこまれているのにも是非注目いただきたい。

■高橋文哉の国宝級ツンデレに慄く

 高橋文哉というひとは、本当に真面目な役者だと思う。このドラマで一番の難役は佐神弾という「性格歪みすぎツンデレ男子」だと思うが、それを完璧に演じるにあたり、ほんの小さなしぐさにも、おそらくそのすべてに綿密な「演技プラン」が織り込まれている。高橋文哉の演技には、観る者にそう確信させるだけの「厚み」がある。
 そんな弾の「こじらせぶり」が堂々発揮されている第二話において、一押しのシーンが、メンバーに内緒でクマの着ぐるみを着ていたことを隠したい弾が逃げ出すことに失敗して転び、頭が取れてしまう場面。何をしているのかと聴かれたのに対し、「別に……暇つぶし」──これには、参った!
 こんな謎のツンデレぶりを地上波ドラマで拝見したのは、芸能界を引退し、先日はジャニーズまで退社してしまった滝沢秀明元副社長主演の名作トンデモドラマ「せいせいするほど、愛してる」で、ティファニーの副社長役のタッキーが、ひとりエアギターに熱中しているところを見つかり、なにをしていたのかと問われたときの返答「なにが?」以来である。
 こういうことを真顔で、背中に花を咲かせながら宣えるのは大スターの証。新鋭・高橋文哉の膂力を存分に見せつけられる一幕である。

■「やめないでくださいね、寮母さん」

 あす花に寮母をやめないでくれと頼む、成瀬大二郎の姿が描かれるのも第二話の重要ポイント。これで最後になるとしても、七人になる前の愉しかった日々に戻っていたいと、小さな幸せを口にしていたなる。ここで示される彼の優しい、曇りない思いが、ドラマ後半で暗い華を咲かせることになろうとは、このときには誰も、夢にも思わなかった……

※こんな感じでドラマ全話を好きなように語っているだけの本です。
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