高良くんと天城くんとその他の物語 インフラとしてのジャニーズⅡ(冒頭部公開)
最後の(?)ジャニーズ特集号を
始めるにあたって
益岡和朗(以降、益岡)
皆さまお疲れ様でございます。《ますく堂なまけもの叢書》、久方ぶりのジャニーズ特集へようこそ。
一同 (笑)
益岡
本日の趣向としては、まず、ジャニーズ事務所と大変縁の深いBLドラマ「高良くんと天城くん」を、この会場に午前十時から集まって視聴いたしまして、そのドラマと、ジャニーズ全般について語り合う会を午後から……今、十四時半ですけれども、これから行うという流れでございます。朝からいらしていただいている皆さま、大変お疲れ様です。ますく堂店主も上映会には参加していたのですが、本日、行商がございまして、さきほど、千葉で夕方から開催される一箱古本市へ旅立ってしまいました(笑)
最初に、《ますく堂なまけもの叢書》のジャニーズ特集企画について触れておきますと、二〇二〇年に『インフラとしてのジャニーズ 令和の初めに「少年たち」を語る』という本を刊行しました。座談会自体は、二〇一九年、令和初めの日である五月一日に開催いたしております。
この時のトピックは何だったかというと……「少年たち」という、今、大活躍しているSixTONESやSnow Manが主演格で出演した映画、しかも、ジャニーズとしては「お家芸」と呼ぶべき舞台の映画化という重要作品ですので、これはもちろんメインはメインだったのですが、それよりなにより、タッキーですよね。ジャニーズJr.黄金時代を築き上げた滝沢秀明さんが引退する、と。ジャニーズアイランドという、ジャニーズJr.を統括する会社を作って、そこの社長にタッキーが収まる。それを機に一切の芸能活動から引退するということになった。
二〇一八年の年末においては、この「タッキー卒業」というのが芸能界の一大トピックだったわけです。恒例のジャニーズカウントダウンコンサートでも既に退社していた今井翼くんを招聘して一夜限りでタッキー&翼を復活させるであるとか、そのバックダンサーとして、山下智久、風間俊介、生田斗真、長谷川純のFour Topsを登場させるであるとか……とにかく、タッキーを大々的に送りだした。
それはテレビ界全体の傾向というか、お祭だったと思います。往年のジャニーズJr.・バラエティである「8時だJ」の記念復活や「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」のタッキー出演など、各局がこぞって特番を組みました。その年の某忘年会では、今日もいらしているトットさんと、前号に参加いただいたミズキさんとともに、二時間も三時間も「8時だJ」の話をしていたと記憶しています。そのときの会話がきっかけで、前回の特集号が実現したという流れです。
あれからもう四年……たった四年ともいえるわけですが、この間、ジャニーズを取り巻く状況はあまりにも激しく変わってしまった。この後、色々と語りあっていきたいと思いますが、創業者であるジャニー喜多川氏とメリー喜多川氏が亡くなり、副社長であったタッキーがジャニーズ事務所を退社、自身のアイドル事務所であるTOBEを立ち上げることになります。「なにわ男子」や「Travis Japan」といった若いグループがデビューしていく一方で、それこそタッキーとともにジュニア黄金時代を担った人気者たちが退所していき、そして、今年、ジャニー氏の生前の性加害問題がクローズアップされることになりました。
この企画は、こうした事態になる前から、実はあたためられていたものでした。
テレビドラマ「高良くんと天城くん」(原作:はなげのまい/KADOKAWA)をメインテーマに選んだのは、単純に好きなドラマだったということもあるけれども、「ジャニーズアイドルの現在と未来」をとらえるのに面白い素材だと感じていたというのが大きい。
主演の二人の内、高良瞬役の佐藤新くんはIMPACTorsというジャニーズ事務所副社長時代のタッキーが非常に力を入れていたジュニアのグループ、そのセンターメンバーでした。
一方、天城太一役の織山尚大くんは少年忍者という二十一人のグループの……センターが誰かというと、このグループは難しいんだけれども(笑)人気のあるメンバーということになるのかな、と思います。
この二人は同期入所ということですけれども、あまりみんなには知られていないジャニーズの若い才能が、BLドラマ専門枠として深夜に細々と続けてきたドラマシャワーに殴り込みをかけにきたというか……個人的には「黒船が来た!」というが如きインパクトがありました。
一同 (笑)
益岡
正直、今、ジャニーズの特集号を出すというのは非常に難しいというか、明け透けな言い方をすれば極めて面倒な題材になってしまったという思いもあるのですが、でも、そういう今だからこそやる価値もあるようにも思いますので、ひとつ、頑張ってみようかな、と。
前半は、ドラマ「高良くんと天城くん」の話をしながら、ジャニーズだけにとどまらず、ここ数年でたいへんな盛り上がりを見せているBLドラマについての話もしていきたいと思っています。今の、BLドラマをとりまく状況というのは……個人的にはひとつの到達点を示していると感じています。かつて、BLに大変造詣の深い直木賞作家の三浦しをんさんが、「私が億万長者になったらケーブルテレビのオーナーになって、二十四時間ずっとBLドラマしか流れていない、そういうチャンネルのある世界を作るんだ」というようなことをおっしゃっていたんですね(『よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり』/白泉社文庫)。さすがにそこまではいかないかもしれませんが、でも、ある意味ではそれよりも意義深いと申しますか……地上波の民放においてしかるべきドラマ枠が確保されているというのは大変な「時代の変化」であると思いますので、これは非常に価値のある、話しがいのある話題ではないかと思っております。
このBLドラマというテーマは、一見、ジャニーズ特集にはあまり関係ないように思われるかもしれませんが、実は、「高良くんと天城くん」の前に「消えた初恋」というドラマをジャニーズは手掛けている。Snow Manの目黒連くんとなにわ男子の道枝駿佑くん主演という、これからのジャニーズの2トップというべき二人を起用し、且つ、主題歌はなにわ男子のデビュー曲である「初恋LOVE」という大プロジェクトですから、むしろこちらの方が社会的なインパクトは大きかったかもしれない。
そうした近年の動向を踏まえると、BLドラマについて考えることは、これからのジャニーズについて考えることにもつながるんじゃないかと思っています。
後半は……やはり、ジャニー喜多川氏の性加害問題について語ることは避けられないであろうと考えています。
この事態を受けて、これからジャニーズがどうなっていくのか。前号に、私は「インフラとしてのジャニーズ」というタイトルをつけました。このタイトルは、一般的なタレント活動の枠を超えて、国民的且つ大規模なボランティアプロジェクトや災害支援、国家行事にまで存在感を示す唯一無二のアイドル集団としてのジャニーズ事務所は、もはや「インフラ」として捉えられ得るのではないかとの見解を示したものでした。今日、二〇二三年八月二十六日の時点では、未だ、ジャニーズは「インフラ」だと思うんですね。奇しくも、今日は日本テレビ恒例の「二十四時間テレビ 愛は地球を救う」の放送日となっているのですが、このメインパーソナリティーは、なにわ男子です。この番組はテレビ界最大のボランティアイベントといってよいくらいの存在だと思いますから、極めて「インフラ」的な仕事といえると思いますが、ジャニーズは、そのメインの座をもう何年も独占している。もう十年くらいですか?
萬澄十三(以降、萬澄)
メインパーソナリティーは二〇〇三年からですから、もう二十年ですね。
益岡
つまり、約二十年間、その番組のメインをジャニーズが独占しているわけですよね。もっとも、この仕事についてはノーギャラだというお話ですので、そうした役割に対応できる事務所というのは決して多くはないという事情もあるとは思いますが……ともあれ、今のところは、芸能界におけるインフラ的な存在として未だにジャニーズは機能している。そんなジャニーズが、故人とは言え、創業者であり、絶対的な存在であったジャニー氏の問題でどう変わっていくのか。また、この事態を、ここに集まった皆さんはどのように受け止めておられるのか、話していければと思っております。
平成BL勢、完全敗北
「高良くんと天城くん」の衝撃度
益岡
それでは、最初にひとりずつ、自己紹介がてら……「高良くんと天城くん」の話でも、ジャニーズ全般の話でも結構ですが、軽くお話して頂いてはじめて行きたいと思います。
美夜日
美夜日と申します。益岡さんの大学の後輩で、前のジャニーズ特集号にも参加させてもらっております。「高良くんと天城くん」については、今日の午前中、初めて観まして、観たばっかりという感じなんですが……そうですね。BLとしては、「白髪と黒髪」っていう……まあ、白髪というか金髪ですけど、「金髪と黒髪」で……あと身長差とかも、かなりですね、BLのお約束としては、テンプレートというか、伝統的な造形のカップルであるな、という印象は受けました。とりあえずこんな感じで、さらっと(笑)
益岡
短いねー(笑)
酒井晃(以降、酒井)
では、私もちょっと手短に。酒井と申します。読書会的な集まりには最近久しく顔を出していなかったのですが、益岡さんからお声がかかったので、万難を排して、夏休みをとり、かけつけました。
美夜日
ここにフラグ立ったよ! BLフラグ!
益岡
めんどくさいなー(笑)
酒井
この二人での需要はあるわけ?(笑)
美夜日
ありますよ! BLは懐が深いから(笑)
酒井
……ドラマの感想ですが……こういうドラマを久しく見てなかったのもありますけれど、ちょっと端的に申し上げると、少し辛い時間が……
益岡
辛い時間(笑)
酒井
はい、端的に申し上げると。辛い時間があったというのは……とりあえず出演者は若いし、学園ドラマなので、未熟な感じがするというのは、まあ、いいとしても、原作の一巻だけちょっと読んだんですけど、天城くんが高良くんの一挙手一投足にもやもやして、あたふたした挙句、「結局、仲直りしようか」みたいなシチュエーションの連続なので、ドラマとして観たときに、それが余計に強調されて辛かったかな、と。あとは、風景がきれいだったのは良かったですね。海がきれいだな、とか。そういうところで気持ちを維持しないと眠気がおそってきちゃう場面が……
一同 (笑)
酒井
端的に申し上げると、私としてはそれほど新しいものを感じることはできなくて、学園恋愛ものとしては、まさにテンプレという感じの部分もあったように思えたので……
ただ、このドラマには「令和ならでは」という論点もあるとは思うので、ちょっと今日はアップデートのつもりで、勉強させていただくというスタンスでやってきました。よろしくお願いします。
益岡
一応、私もこの作品についての私見をお話しておきたいと思いますが……BLドラマが市民権を得たのは……「おっさんずラブ」が成功して以降だと思いますので、七・八年……長くとらえても、せいぜい十年程度だと思います。その間、この国でつくられたものには大体目を通していると思うのですが……私はやっぱり、ここまで驚かされたものはないですね。これが最高傑作かと言われると……そこまでは、そこまで無邪気に推す気にはなれないんですけど、ただ、とにかく驚いた。正直、第一話を観たときの感想は、「どいつもこいつもド下手糞だな」と……
一同 (笑)
ヘイデン
二人で盛り上がったよね。めっちゃ盛り上がった(笑)
益岡
ただ、これ、ネットで悪口を言ったら、大変なことになることは分かっているわけだから、一話の感想ツイートについては、「佐藤新くんが非常に個性的な美形だ」ということをただ褒めるという、そういうツイートを確か、したと記憶をしていて……
で、まあはっきりいって舐め切っていて、「もうちょっと上手な子がいるでしょ」とか思っていたらですね、第二話を見たときに、「これはまずいぞ」と。「私が間違ってる」と。
この子たちは演技ができないんじゃなくて、こういう演技をしろって言われてるんだなっていうことに気付いてしまった。それがちゃんとできているのかどうかは置くとしても、少なくとも私の評価軸の中に、このコミュニケーション・ルールというか、こうした雰囲気のコミュニケーションっていうものが、まず、現実にあって、それをドラマとして演じているんだっていう、そういう風に認識をして評価をするという軸が全くなかったので、これは「まいった」と言うか、本当に、「ド下手糞」とか思って申し訳なかったなと、ド下手糞だったのはわたくしだということを、第二話でツイートさせていただいたのが、非常に思い出深い(笑)
だから、僕はこのドラマの中で、第二話はジャニーズにしかできないものすごいものだったと思っているし、第五話が、普通にドラマとして良く出来ているというか……テレビドラマの文法というか、結構としては非常によく出来ている。これは、主人公ふたりが、ある意味、本当の意味で結ばれるという話だから、ロマンスという面でも通常のドラマをやらざるを得なかったんだと思いますけれど、これは非常によく出来ているな、と。後の話は、若干、スピンオフめいた部分もあるので、「二人の物語」としての見方とは別の観点から捉えて行かないと追いかけられないパートなんじゃないかと思っています。
ずみん
ずみんと申します。このドラマについては、常々、益岡さんとヘイデンさんのお二人から、なんか受動喫煙というか……
益岡 (笑)
ずみん
なんかただごとではないらしいということだけは伝わってきて……
美夜日
めっちゃ盛り上がってたよね。
ずみん
今回、初めて観て、「セリフが言えていないんじゃなくて、こういうコミュニケーションスタイルなんだ」と二人が言っていた意味がすごくよく分かったというか、なるほどこういうことかと思いながら観ていたんですけど……もしこれが女の子同士だったら、「漫画タイムきらら」みたいな、ふわふわ四コマみたいな感じの作品になるんだろうなって……特に何が起こるわけでもない感じっていうのが全体に漂っていて……
美夜日
日常系。
ずみん
そう、日常系。あとは、なんか全編通じて、相手の沈黙とかに対して過剰な読み取りをして、なんかすごいブツブツ言ってんのをひたすら映してるなっていう気がして……まあ令和的って言ったら、それはそうなのかな、と……元号を持ち出すのも違うとは思うんですけど……確かに、これが最近のコミュニケーションなんだろうなっていうのは思いながら観ていました。よろしくお願いします。
ヘイデン
はい、ヘイデンです。私は、実写BLがすごく大好きで、日本では飽きたらず、世界各国の実写を観ております。
ただ、私は全然、ジャニーズがわからないので、この二人がジャニーズだというのも、このドラマを見始めて、「なんだこれは?」と思って調べて分かったっていうところです。
私が第一話を見た時の感想が、「高校生まぶしい。どこの誰だか分からないけど、これがジャニーズなのか」って呟いていて、名前も知らない、かわいい男の子たちのドラマが始まったと、ただそれだけの受け止めでしかなかった。
それが、その一ケ月後に、「BLの民みんな、「高良くんと天城くん」見てるかい? すごいよ。ことごとく平成の感覚を裏切ってきて、そうくる? これが令和か!って、関心しかない。原作買いました」というツイートをしてまして。
美夜日
BLの民に呼びかけてるんだ(笑)
益岡
ある意味これは完敗したということなんですよ。
ヘイデン
そうですね。
益岡
平成BL勢がね、完敗した、と。
ヘイデン
先ほど、ずみんさんもおっしゃったんですけど、この作品は、BLとしては別に、男同士の新しい関係を描いたわけではなくて、この「空気を読まないと社会に馴染めない」という、いわゆる今の子たちの、空気の読み加減と、スクールカーストの話だと思って、このドラマを観ていました。これはクラスの中の一軍と二軍の子の恋愛の物語で、そこをどのようにして、いかに対等な関係にしていくかというところがすごく細かく描かれていて、それがセリフ回しだったりとか、わけのわからない沈黙を読み取るスーパー能力みたいなのによく現れている。私自身は昭和生まれの人間なので、こういう形での恋愛は出来ないなと思う一方で、今の子たちはこういう感覚で人付き合いをしているんだな、と。スーパー空気読むという、その能力がないと恋愛の市場に乗れないんだなっていうのを感じて、だからやっぱり、今の子たちは大変だなあと思って観ていました。そして同時に、こういう関係性というか、子どもたちの生活のありようがドラマ化される時代になったんだなということには、とにかくすごく感心しました。BLとして萌えたとかではなく、子どもたちの人間関係の描き方が素晴らしいと思って観てました。
ちょっと、喋りだすと止まらなくなっちゃうんで、一旦ここで終わります(笑)
森の風
森の風です。これ、原作も読んでなくて、ドラマも未見だったので、全部流してくれるんだったら観に来ようと思って参加しました。
初めて観ての感想は、BLの流れの中では、学生もの、高校生もの、スクールカースト、クラスのキラキラ軍団がいて、犬っころみたいな男の子がいて、という設定に、大好きなのばらあいこさんの「秋山くん」(東京漫画社)に近いものを感じました。「秋山くん」の方がもうちょっと激しいイメージではあるんですけど……
この作品は、空気を読みつつ、段階を踏んで恋愛を進めていくところがいいなと思いました。私も高校生の時、こういう恋愛をしたかったなと思うような……
昭和の人間は、もっとスピードが速い。こんなに空気読んだり段階踏んだりしないで、深い関係になっていく……(笑)
そういう世代からすると、このドラマの主人公たちは、すごい誠実で真面目。いい子の話だなって思いました。「一生大切にするよ」とか、気持ちを慎重に確かめ合って、キスして、暴走しそうになっても無理に行為に及ぼうとはせず、「大事にしたい」という気持ちを優先する。
さらに、高良くんが、自分が属するボーイズクラブというか、男社会──一軍キラキラの男社会から抜けちゃってもいい、天城くんとだけ付き合っていければいいと言い切る、その姿まで描かれているのは、一見、日常をただただ描いているように見えて、恋愛の段階をすごく丁寧に描いている作品だな、と。
一方で、庇護してくれるはずの親とのつながりをうまく築けなかった天城くんが、自分を庇護してくれる彼氏としての高良くんを見つけるという図式は、バージンロードで父親から夫へと庇護者の交代が行われるというような、そういう図式にも見えて、令和の、新しい恋愛ドラマであるように見えて、実際は非常に古典的な恋愛ドラマが描かれているようにも思えました。とりあえず、以上です。
益岡
ありがとうございます。では、次、トットさん。
トット
トットです。登場人物の心がガッと動くという意味では第七話の田中の回が凄くて、僕としては、田中は、ゲイ自認はないけど、高良が好きで、その代償行為として天城に興味が向いていたんだと見て、優等生ってこじれちゃうよな、と思いました。
二人の関係としても、七話八話で、結構ぐっと話が進んだ感じがあって、田中に加えて香取も出てきて、この二人が見守る中で主人公たちの物語が展開するっていうのは、幸福で良かったな、と。
ヘイデン
トットさん、原作読んでますか?
トット
読んでないです。
ヘイデン
田中と香取のフラグは原作では立っているんじゃないかと……
トット
立ってる?
ヘイデン
深読みし過ぎかもしれないけど(笑)
益岡
では、萬澄さん。
萬澄
私は、この会に出るのは本当に久しぶり。最後が前回のジャニーズ号の「少年たち」座談会じゃないかと思うので四年ぶりくらいじゃないかと思います。
感想と言われても、あまりにもいっぱい、いろんな方面からの感想があるので、どういう風に話し始めればいいのかが本当に難しいんですけど、私はまず、BLはまったくよくわからない。BLならではのいろいろなルールがあるんだろうとは思いますが、その物差しが私にはないので、このドラマをBLとして評価することは出来ない。ただ、その一方で、BLドラマ自体はよく観ている方だと思うんですね。それはやっぱり、最近のドラマのつくりがマンネリで、同じことの繰り返しになって来ちゃったというのがある。そういう印象の中でBLドラマをみるとね、これは新しいパターンで、私にとっては新鮮なんです。だから、まだ飽きてない(笑)
一応、この「ドラマシャワー」という枠については、一作目の「ふこキス」(「不幸くんはキスするしかない」)から観ておりますけれども、脚本・演出では、一応、今のところ、この「高良くんと天城くん」がベストです。
益岡
これに勝てるとしたらどれなの?
ヘイデン
この枠でこれまで放送されたのは九タイトルだね。「ふこキス」、「セパ恋」(「先輩、断じて恋では!」)、「高良くんと天城くん」、「永遠の昨日」、「飴色パラドックス」、「ジャックフロスト」、「四月の東京は…」、「体感予報」。これに、「永遠の昨日」完全版を入れて九作。「ジャックフロスト」以外にはすべて原作があります。
萬澄 実は、ベストは「永遠の昨日」なんです。
ヘイデン
おお~、小宮くんじゃん。
益岡
田中氏役の小宮璃央くんね。
萬澄
あれは本当、ドラマ的には、私としては脚本演出を全部やり直してもらいたいというぐらいひどいものなんですけど、それでも最終回まで観せられてしまうというほど、小宮くんの演技が素晴らしかった。これが一番いいと思います。
ただ、キャスティング的な面と、やっぱり映像としてのうまさということで言えば、「高良くん」が一歩抜きんでている。私の中では二位です。ただ、今、放送している「体感予報」は、もしかしたら上に来るかもしれない。
ヘイデン
「体感予報」は、まだ二話ですからね。
萬澄
だから、もしかしたら「高良くん」を追い抜くかもしれないなあ、と。
美夜日
すごい予想が!
益岡
私は無理と思うよ。
一同 (笑)
益岡
「体感予報」には無理よ。
ヘイデン
だって、「同じような顔のイケメンが二人」とか言って批判してるんだもん(笑)
益岡
あんなに似たようなイケメン並べられたら、ちょっと……(笑)
美夜日
「作家先生描き分け出来てない!」みたいな(笑)
益岡
BLあるあるね。いや、原作はね、ちゃんと描き分け出来ているんですよ。それを何故、あんなに似た顔立ちの二人を揃えてやろうと思ったのか……まあ、私がちょっと、イケメン俳優に食傷気味なだけかもしれませんけれど(笑)
萬澄
益岡さん、ツイッターでも、「体感予報」は最初、コメント出してなかったんですよ。
ヘイデン
一週くらい遅れてコメントしてたもんね(笑)
益岡
私だってね、そんなにいつも暇じゃないんですよ(笑)
萬澄
「高良くん」の時も最初はダメだった。
ヘイデン
一話ダメだったもんね。
益岡
ネットで作品を貶すのは避けています(笑)ツイッターは特に、僕は《ますく堂なまけもの叢書》のアカウントしか持ってないから……このアカウントはジャニーズ関係のフォロワーの方も多いですからね。
美夜日
ジャニオタの方ね。
萬澄
「沈黙は金」だと(笑)
益岡
でも、一話は声明を出しましたよ。佐藤新くんの顔だけ褒めました(笑)
萬澄
実は、僕が一番良かったのは第一話なんです。一話目が一番力が入ってたっていうか、ちょっと入りすぎちゃってたかもしれないけど、でも、あれが僕の理想のドラマ。
二話目以降になってくると、ちょっと型ができてきちゃった。
さっきスクールカーストの話がありましたけど、もちろんそのテーマは私も強く感じたんですが、それによって二人の関係性が、やっぱり恋愛もののオーソドックスな方向に行ってしまった。
僕が第一話を観たときは、もっとすごい事件が最終的に起こって、その前哨譚として、この淡々とした日常が展開しているということなんだろうなと予想してたんで、それを想うと今ひとつ、期待外れだった印象があります。
もう一つは、さっきトットさんが仰っていた田中氏──小宮くんの問題なんですけど、作劇としては、僕も同じ解釈をしたんですけれど、それにしては、もうちょっとあの役には研究が必要だったのではないか、と。実は、今一番推している俳優が小宮くんなんですよ。小宮くんは次の「永遠の昨日」で本当に素晴らしい名演技を観せてくださったんで、今は推しなんですけど、この時は、「もうちょっと頑張って、小宮くん」と……
益岡 (笑)
萬澄
この出演者の中では、小宮くんが一番今、メディアに出ているんじゃないですか。出世したというか。バラエティにも出まくっている。
益岡
そうなんだ!
萬澄
準レギュラー格でも出ているし、この間は、「ダウンタウンDX」にも出ていた。「永遠の昨日」の後には、「アカイリンゴ」というドラマに出ているんですけど、これがもう本当に凄すぎる。これでもう完全に参りましたね。
益岡
私はそのドラマは、ちょっと一話でやめてしまったんですよね。最近、こういうアモラルな路線で攻めるの多くない?とか思ってしまって……でも、気になってはいます。
萬澄
ちなみに「アカイリンゴ」は大阪朝日放送の制作ですが、このドラマシャワーは大阪毎日放送が中心になって制作し、それを首都圏の UHF局であるテレビ神奈川、テレビ埼玉、千葉テレビなどがネットする、そして最終的に角川が設立したBLレーベル「トゥンク」でオンライン配信するっていうスタイルが基本なんで、だから原作も角川から出ているものが多いんですけど……最近、僕は、実はもう東京の民放を観るのが嫌なんです。……もう三十年も観ていると、出てくる人も同じだし、パターンも同じだし……そうなると、地方局の方が珍しい人がでているでしょう? なんかあんまり見かけない人だけど、「この人、この先、行くな!」という人を、地方局から見つけていきたいという願望がここ六、七年生まれて来ていて、ドラマシャワーという枠は、そういう欲望を満たしてくれる企画だと思うんですね。現在放映中の「体感予報」の主役二人は、私も今のところピンと来てはいないんですけど、脇で、最近、私が追いかけている水石亜飛夢が出るというので期待しているところがございます。よろしくお願いいたします。
河合南(以降、河合)
河合と申します。こういう会に参加するのは前のジャニーズ号以来なので、もう四、五年ぶりになります。
ちょっとこの世代の文化女子としてはあるまじきことに、全くBLを通らずに生きてきてて、まず、出てくる記号が読み解けない。「あ、ここでキュンとしなきゃいけないんだな」っていうのはなんとなくわかるんですけどそれがビルドインされてない感じがあってすごいもどかしかった。
最後のあたりは周囲の人たちが立ってきて、普通のドラマにはなっていくので、私でもわかるようになってきたかなっていう感じはありましたね。
あとはもう、ただただ勉強させて頂きます。よろしくお願いします。
美夜日
腐女子メガネなしで、裸眼でご覧になった、と(笑)
河合
なしで来てます(笑)
ヘイデン
BLは少女漫画ですからね、基本的な構造は。少女漫画は少女漫画なんだけど、いわゆる男女というジェンダー格差がない中で、どう恋愛をするか、というだけの話なので……物語の構造としては、少女漫画が原則というか、基本かな、という気はしますけれど。
美夜日
乙女チックな感じ。なんかこじらせているめんどくさい男の子と、なんか王子様みたいな男の子が恋に落ちる、みたいな。
河合
そうか、少女漫画からビルドインされてないのか(笑)
ヘイデン
段階を踏んで恋愛関係を築いていくというのも、完全に少女漫画ですよね。
河合
その「段階を踏む」というところについては、「事前に同意する、同意しない」という問題をちゃんと書いているのは、本当に今のドラマだな、と。そこはすごいと思いました。どうぞよろしくお願いします。
※続きが気になった方は、2023年11月11日初頒布予定の『高良くんと天城くんとその他の物語 インフラとしてのジャニーズⅡ』を是非、お求めくださいませ。
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