【短編小説】ピンキーリング
備前焼のどっしりとした器に、さっと炙られたエイヒレが盛られ運ばれてきた。
「ありがとう。」
関西弁のありがとうってなんでこんなに温かいんだろう。この後、ビールが運ばれたときも、かつおのたたきや、大根やはんぺんや卵がのったおでんが運ばれたときも、彼は変わらず「ありがとう。」と言った。蟻が10匹みたいなイントネーションで。
今まさに私の目の前でほくほくの大根を食べながら”うまい”と食べる男、多田健司。35歳。広告代理店のアートディレクター。そして私、小川美穂。35歳、ジュエリー