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歌川広重の絵が日本人の心に響く理由

歌川広重の目が見ていた世界は、現代の私達にも通じる世界だ、と私は感じたことがあります。

日本史を習った人たちの中で、歌川広重を知らない人はほとんどいないでしょう。それくらい浮世絵師では超がつくほどの有名人。

歌川広重は、江戸時代後期頃の浮世絵師で、各地の風景を気品と詩情溢れる眼差しで表現した人です。「東海道五十三次」や「江戸名所百景」などの作品が有名。

1.私と広重の出会い

最初の出会いは、歌川広重の代名詞でもある「東海道五十三次」のカードがなぜか自宅に大量にあり、それをよく眺めていたように思います。うろ覚えなところもあるのですが、たぶん「永谷園」のお茶漬けに付いていたカードだったんだろうな、というくらいの記憶です。

今でこそお茶漬けのおまけとして復刻されていますが、当時は何だか分からないまま遊んでいました。セーラームーンのカード集めなんかにハマっていた年代でしたので、同じように「東海道五十三次」のカードもおもちゃ代わりにしていたんだろうと思います。

そんな私が歌川広重の浮世絵や、肉筆画を真剣に見始めたのは大学の頃でした。大学は日本美術などを中心に学んでいたこともあり、それなりに美術館や博物館にも足を運びました。浮世絵展は、美術の巡回展の中でもとても人気の部類なので、在学中だけでもかなりの数を観ました。

江戸時代に活躍して今もたくさんの人に好かれている浮世絵師には、歌川広重以外にも葛飾北斎、喜多川歌麿、歌川国芳、鈴木晴信など多数います。中でも私の心を惹き付けてやまなかったのは、やはり歌川広重でした。

2.広重の詩人的な絵の表現

歌川広重は、江戸時代当時から風景画で評価されたので、残る浮世絵も肉筆画も風景画を中心に動物や植物などが多く残ります。

この人の表現する景色というのは、不思議と懐かしくてどこか知っている風景を思わせるのです。雨や雪など、天候を細やかに表現して絵に深みを持たせてくれるのも特徴。時刻や昼夜、月などバリエーションも多くてどれも叙情的で風情ある光景なんです。

3.東海道五十三次を見てみよう!

■日本橋 朝之景

↑↑こちらがいわゆる東海道五十三次シリーズのはじまりで、東海道の始点である「日本橋」になります。タイトルは「日本橋 朝之景」である通り、美しい朝焼けがグラデーションになり空に広がります。絶妙にのどかな光景です。

■三島宿 朝露

↑↑三島大社のある三島宿にて。源頼朝旗揚げの場所としても有名な場所になってます。また、箱根越えをする旅人は必ずここで宿を取ったとも言います。

朝に立ち込める霧の情景が、情感豊かに描かれている作品。背景や、鳥居、遠くの通行人を濃淡だけで表現するのは版画ならではの美しさではないでしょうか。

■庄野 白雨

↑↑白雨とは、にわか雨や夕立のことです。つまり絵の中の人々は急な雨で急いで移動している途中になります。斜めに走る無数の線で雨の激しさを表現し、背後の濃淡で描かれた木々は風にたわんでいます。強風にあおられる人々の体の動きはとてもリアルです。

東海道五十三次には雨のシーンがかなりありますが、個人的には一番これが自然のエネルギーを感じます。見ているだけで、風の音や雨の匂いまでしてきそうです。

■蒲原宿 夜之雪

↑↑東海道五十三次の中では一番好きな絵です。全体をねずみ色の濃淡で表す繊細な一枚。

夜中に降る雪って、雪が音を吸収しちゃうから本当に静かなんですよね。新雪を踏みしめる音や、聞こえるはずのない雪の積もる音まで聞こえてきそうです。

実際、友人と広重の浮世絵を見に行き、蒲原を見ていて「雪の降る音が聞こえそう」と言った私に友人も同じことを思ったと言ってました。

4.おわり

仏像や絵画、工芸などを見るようになって長いですが、面白いことに見るたびに感想が変わります。それは東海道五十三次を初めて見た幼少期と、大人になった今でも同じです。

また、広重の浮世絵を見ていると感じる、旅情や憧憬なども年々深まってしょうがないこの頃。

浮世絵の「浮世」は、訳すと「現代」というような意味になります。つまりは浮世絵とは江戸時代の人々からしたら「今どきな絵」なんですよ。その時代の生活や、流行っている役者、綺麗な人、皆が好きな合戦画や、武将画、そういう庶民達の楽しいこと全てが詰まっている濃厚な絵なわけです。

特に風景などが相手に与えるイメージは、昔も今も変わらないと部分が多いです。だから昔の絵を見て「綺麗だなぁ」となるし「この風景知ってる」っなるのでは?と最近では思います。

だからこそ友人と「蒲原宿 夜之雪」を見ていて、同時に同じような感想を抱くことができるんですよね。

浮世絵は、当時いくらでも刷ることのできたものですが、その中に歴史がこれでもかというくらい凝縮してます。見る人は、そこにその時代の良さや、古き良き日本のイメージを揺り起こす作用があるように思います。

【画像引用】
国会図書館所蔵本復刻シリーズ
君見ずや出版
東海道五十三次 保永堂版(大正再販)より拝借

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