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歯を削る

ここ数日の間奥歯周辺にずっと小石みたいなものが詰まっているような感覚があり、なんとか舌で取ってやろうと奮闘していたのだがそれが小石ではなく親知らずの顔見せだと気づいた僕は久しぶりに歯医者に行かなけばならないことにげんなりせざるを得なかった。

いや、ぶっちゃけ「親知らずなんだろうなこれ」と薄々感じてはいたが歯医者の世話になりたくないばかりに「これは歯ブラシの猛攻による死線を何度もかいくぐった食べかすが硬質化したものだ」と自己欺瞞を働かせていた。
しかし自分を騙し続けるのもいささか限界だ、痛いし。
よしんば硬質化した食べかすだったとしてもそれは所謂「歯石」であるため結局歯医者に行かなければならないことは宿命(カルマ)だった訳である。

親の勧めで今まで行ったことのない歯医者の予約を取り、その日のうちに受診しに行った。
その歯医者自体僕は行ったことはなかったが、よく玩具とかプラモを見に行く家電量販店の近くにあり「ここに歯医者あるんだ」と存在自体は把握していたため、親から外観や近くの店を聞いたときに「あそこか!!!」とすぐに気が付いたため真っ直ぐにたどり着けた。

しかし迷わず歯医者にたどり着けたからといってそんな幼児のおつかいレベルのことで喜んでもいられない。なんせ親知らずを歯医者に見せに行くことなんて高3にして初めての経験である。やっぱ抜かれるんだろうか、ヤだな
~、帝王切開みたいに自分自身の身体の機能だけでは対処しきれない生理現象の末に生まれた形あるものを外部からの介入でどうにかする行為って怖すぎる。そんなことを考えながら待合室で熱帯魚を眺めていると名前が呼ばれた。病院の待合室にでっかい水槽あると嬉しいがち。

この歯医者は治療を個室で行うタイプの歯医者であり、前方の壁が全面ガラス張りの個室に案内された。
治療用の椅子に座ったとたん椅子が「ウィーン」とスムーズに上昇しだしたのでもう帰りたかった。こういう時に機械がスムーズに動くと後戻りできなさが補強されるので怖い。
関係ないがここの駐輪場に自転車を停める時に各個室のガラスの壁の前に犬の置物が置かれているのが見えた。「きっと治療されてる子供が安心できるようになんだろうな」と思っていたら僕が案内された部屋から見えたのは積み重ねられた鉢植えときったないプランターという学校の寂れた中庭みたいな光景だったので「噓だろ」と思った。

椅子に座らされ歯を見られ、別室でレントゲンを取った後いよいよ治療が始まった。まずやられたのが歯茎の溝に細い針を差し込んで出血させ炎症の度合いを見る検査。この検査ってどうあがいても出血を免れない上に全歯茎やられるから嫌すぎる。針自体も鋭い、名人の釣り針くらい鋭い。

レントゲンの結果どうやら親知らずが生えてきたことにより周りの歯茎が歪み、そこが炎症を起こしていたらしい。親知らず自体はまだ小さいから今は抜くとか考えなくてもいいよ、とダンディーな院長先生が教えてくれた。その言葉に何よりも安心した。イケメンのリラクゼーション効果は凄い。
しかし緊張が解きほぐれたのも束の間、僕は次の「掃除」で地獄を見る。

実際、僅かに歯石はあったらしく今除去してしまおう!ということでお馴染みの超音波で歯を削る器具と常に風を噴射し続ける器具の二刀流による「掃除」が始まった。
これが信じられないくらい痛い、痛さにムラはあったものの痛い時はマジで痛い。チクチクとした痛みから急にズキッとした痛みが波のように襲い掛かる。時々乾燥した唇の端をこじ開けられるのも痛い。「痛かったら左手挙げてくださいね~」と言われてはいるが手を挙げても治療が中断されるわけでもない。せいぜいちょっと手加減してくれるくらいである。手加減してもらったところで痛さの尺度なんて他人に分かるわけない。

そんな意地を張りつつも治療は痛いので時々「ッ……!」みたいな声を発して「痛いよ~泣」ということをアピールするのだがそんな声も器具のキュイイイインという不快な金属音にかき消される。この音が「これ途中でくしゃみしたら死ぬのかな」「ベロ動かしたら死ぬのかな」「そういえば呼吸忘れてるけど窒息して死んだらどうしよう」という不安を掻き立てる。

気が付くと手も下の画像の通り、見たことない状態で硬直していた。

「印」…?

時々「うがいしてください~」と言われやっと終わったか、と安堵しているとまた「じゃあまた口開けてくださいね~」というフェイントもあった。
僕はその度に「ありがとうございます~」と口に器具が入ったまま言いそうになるのでぐっと堪えた。もし完璧に「ありがとうございます」と発音しきっていたら口を閉じる「り」とか「う」の発音の度に口内をズタズタにされていたかもしれない。

体感30分くらいに思われた10分間のファイトの末、治療が終わると僕は必要以上にうがいをした。うがいしすぎた為に看護婦さんから「もう大丈夫ですか?」と問われたので「すッすみません…!」と情けなく謝った。

その日は抗生物質と痛み止めを貰い「また様子見て辛かったら来てください」と言われたため全力で治したろ、と思った。

もうあんな「掃除は」コリゴリですわ~~~~~!!!!!(アイリスアウト)


さて、長々と書いちゃったし存在しないファンアートタグでも考えて締めようかな。


#描き絵
(ちびまる子ちゃんの柿絵のファンアートタグ)





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