見出し画像

バーコード状のアレ

だいぶ昔のささいな思い出の話。
仕事の帰り道、職場の先輩と一緒に最寄り駅まで歩いていた。
10mくらい離れた向こうに、抱き合うカップルを見つけた。そのカップルが、異彩を放っていた。

女性のほうは地味なチェックの上下のスーツを着ている。昭和のOLみたいな野暮ったいチェック。年齢も50代くらいだろうか。聖子ちゃんヘアみたいな髪型をして、おじさんに抱きついている。抱きつかれたおじさんも昭和みたいなグレーのスーツを着ていて、そして髪型が見事なバーコードスタイルだった。辛うじて側頭部に生え残った髪を伸ばして無理やり頭頂部のつるつるした皮膚を覆う、アデランスの躍進とともに昭和で絶滅したようなあのスタイルだ。

……昭和だ。あまりにもわざとらしい程に昭和だ。ねちねちと抱き合うそのイチャイチャっぷりも、なんとなく昭和感がただよう。ドラマのロケだろうか。いや、周りにカメラはいない。何より二人とも酔ってベロンベロンなのが遠目に見ても分かる。

タイムスリップしてきたのか? そのあんまりにもあんまりな昭和感は、まるでサザエさん原作のモブキャラが単行本からそのまま出てきたようだった。

「……先輩! 先輩っ! 向こうにめちゃくちゃ昭和なカップルが!」
我慢しきれず私はカップルにバレないようにひそひそ声で先輩に話しかけた。
「……えぇ~?」
クールなできる女子の先輩は、クールに目の前の道を一瞥したあと
「えっ!? どこに?」
とクールに言った。
「いやいやいや、すぐそこのあそこで抱き合ってるカップルですよ! 今どきあの髪型のおじさん居ます? あんなバーコード頭頂部なんて何年ぶりかで見ましたよ!」
「……ぇえ~?」
私のテンションにちょっと引く先輩。

このやりとりの3回目くらいで先輩はやっと
「あぁ! あそこのあの人達か!」
と分かってくれた。

「経理部の部長とお局様みたいな感じじゃないですか!?」
「昼ドラ!」
みたいな会話をこそこそした。
ひとしきり遠巻きに盛り上がった後で、クールかつ人を褒めるのがうまい先輩は
「よくそんなところに気づいたねぇ」
と言ってくれた。

私はたぶん、これまでの人生、そんなところにばかり気づいてきた人間だ。気づくところがどこかズレている。そしてそういうふうにして気づくポイントは、世紀の大発見とか画期的な発明とかそういう役立つことにも目立つことにもカッコいいことにも繋がらない。

だけど、私に何か面白いことができるとしたら、このとき先輩がさりげなく褒めてくれた(のか?)視点がきっと役に立つのだと思う。
誰も気にしないような何かの、さりげない面白さをみつけていたい。


そんなわけで今日も仕事の帰り道、電車の中で面白いひとを探しています。
隣のカップルが仲良くずーっとぺらぺらしゃべってる。いつ息継ぎしてるのかなぁ。口の中が乾きそう。