悶絶★バイトヘル #1 秋の日に長靴を置いて。
わたくしは、闇属性のアルバイトが多い人生でした。
これは違法スレスーレであるとか、昨今巷を賑わすブラックバイトではございません。
わたくしという闇属性の人間が選び開いてしまった、様々なバイトの煉獄の門を笑い話にしたく、筆を執りました。
あれはいつの頃だったでしょうか。
わたくしの住む辺鄙な町にしては、時給がちょっと良いバイトでございました。
お仕事内容は、食品の包装。長靴だけ持ってきてください。
と、ありました。
わたくしは早速面接を受け、光の速さで採用され、長靴だけを持ち出勤いたしました。
食品の包装というにはあまりにも重装備の白き衣を着せられ、手には柳刃包丁を握らされました。それはサイレン等のホラーゲームの中盤に出てくる嫌な敵みたいな恰好ございました。
そして同僚は、中国の方と、韓国の方と、ブラジルの方の6名であり、日本語が通じるのはブラジル人のマリアさんだけでした。
とんでもない異文化交流の中でやった業務は、未だにちょっとアレはあかんかなと申し上げるしかほかならぬ食品加工でありますので割愛。
包丁を持った事のほとんどなかったわたくしに、異国の言葉で罵声が飛んではきましたが意味はわからなかったので大丈夫でした。
そしてブラジル人のマリアさんは大変優しく、とんでもなく甘いチョコレートを手に握らせてくださり、マタキテネと微笑んでいました。
しかしながらにして、会話がまったく成り立たずのままの業務はとんでもなく難しい。英語が出来ないまま海外留学に行くという気持ちを、片田舎の妖しい工場の一室で味わえた事だけが収穫でした。
爽やかな秋の日、わたくしは長靴だけを残してそっとその場から消え去ったのでありました。
ああ、マリアさん。ごめんなさい。今でもかの優しい微笑みは覚えております。
次回、円環の理に連れ去られるバス乗降調査の巻。乞うご期待。
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