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公用車広告⑨~市がダメなら次は議会。陳情書を提出

 市長には公用車広告を改善する気がない。
 2021年1月29日、市長からの回答書でそれを知った私は、市との直接交渉をやめ、次の手を打つことにした。一つは「住民監査請求」、もう一つは「陳情書」である。

住民監査請求/地方公共団体や職員の、違法・不当な行為や怠慢を防止したり、生じた損害の賠償を求めること。請求書は市議会議員や、市が委託した外部委員(税理士など)より成る監査委員会が監査し、結果は請求があった日から60日以内に決定される。住民の請求が認められた場合、監査委員会が行政に対し、必要な措置を取るよう勧告する。

陳情書/行政に対し要望があるとき、議会にあてて出す。議員たちが陳情者の要望を認めたら(採択)、議会が陳情者の代わりに市に対処するよう勧告する。

 これらの方法があることを、私はオンブズマンのX氏や今仲きい子議員に教えてもらった。

 そのX氏からは、2021年の年明け早々、「そろそろ住民監査請求か陳情書を出しましょう」というメールが来ていた。X氏は時々私からの報告を受けながら、公用車広告について次に行うべき事のタイミングを計っていたのだと思う。

 しかし私は他の広告事業の実態も調査していたため、前章で触れたような複数の部署とのやり取りが続いており、公用車広告についてゆっくり考えている余裕がなかった。

 そのためか、X氏はどちらも初挑戦の私のために、両文書のひな型まで送ってくれた。文書の形式だけでなく、どんな根拠に基づいて何を求めるのかが、明確にわかる文書だった。こちらがハッとさせられるような視点もあった。さすがベテラン運動家。

 特に陳情書のひな型では、パブリックコメント(制度などに対する住民の意見)を募り、事業を見直すことが提案されており、議員としてたくさん陳情書や請願書を見てきた今仲議員でも、その発想に感心していた。
 
 今回はパブリックコメントは求めなかったが、行政側からだけでなく、市民の側からもそういう要望が出せることを、知っておいていただければ幸いだ。

「多くを望んではいけないよ」。心に沁みたX氏の言葉

 気が付けば2月がすぐ目の前。陳情書は議会に出すので、2~3月開催の「第1回定例会」(市議会のこと)を逃すと、次は6~8月の「第2回定例会」まで待たなければならない。
 そこで住民監査請求ではなく、陳情書を先に出すことにした。

 なにしろ相手は公用車広告の実態を知らない議員たち。その人たちにどう問題点を伝え、共感してもらうかが勝負だ。

 でもX氏は「多くを望んではいけないよ」と、私の目を見て静かに言った。要望するポイントを絞りなさいということだけでなく、すべて望みどおりに行くわけではないのだから、こうあるべきだといって気負い過ぎないほうがいい、という意味だと思った。
 長年の経験を踏まえ、うまくいかなかった時の私の落胆を気遣ってくれたのだろう。ありがたかった。

 なるほどなと思ったのは、今仲議員の、受け取る側の議員としての視点である。
 当初私は「事業の即時廃止を求める」と書いたが、今仲議員は「廃止を求めるのは議会にとってハードルが高いから、停止のほうがいいのではないか」と。また「市民として今の事業に不安を感じていることを、もっとしっかり書いたほうがいい」などとアドバイスしてくれた。

 何度か書き直し、出来上がったのが以下である。少々長いが、ご覧いただければ幸いだ。資料として「公用車広告は不正だらけ⑥、⑧」で紹介した「起案書」「契約書」「他市と船橋市の公用車広告事業の状況」の表、「1月に私が出した質問書と市長からの回答書」をつけた。

公用車 iro

                        2021年2月12日

「公用車広告事業」の即時停止を求める陳情

船橋市議会議長 日色健人 様

陳情者   
(住所) 千葉県船橋市 ● ● ●                   
(氏名) ● ● ● ● ●

【願意】
「船橋市公用車広告掲載事業」は、
1. 事業目的である「市の公用車を利用して広告事業で最大の収益を挙げる」 ことができない仕組みである。
2. 不祥事を起こして新聞報道された企業の広告を掲載し、まるで市がその企業を推奨しているかのような誤った印象を市民に与えている。
 このような事業を漫然と来年度も継続するのは不当であるため、事業の即時停止を求める。

【理由】
<事業の概要>
実施期間/平成31年3月1日から令和4年2月28日の3年間。
事業を担当する財産管理課は、広告掲載審査委員会に、
「公用車1台当たりの広告料は月3000円。55台のうち半分しか広告が取れなくても年99万円の収入が見込める。また収入の安定化を図るために広告代理店を公募する」
 と申請し、承認を受けた。

 代理店の選定方法は一般競争入札。1社のみの応募で、13万5600円(抜)で長田広告㈱が落札した。契約書には、この落札金額が広告掲載料と名前を変えて記載され、市に入る年額は広告がたくさん取れても取れなくても、一律13万5600円、広告主から受け取る広告料は、全額長田広告が受け取るという契約が結ばれた。

1,広告料は全額代理店へ。公益に反する契約
 事業は本来、市にとって最大の収益をもたらす形態を採用しなければならない。そのため他の自治体の公用車広告事業は、市と広告主が直接契約して広告料を全額市が受け取るシステムになっている。

 唯一苫小牧市は広告代理店を使っているが、代理店が受け取るのは広告料の20%だけで、残り80%は市が受け取っている。
 いずれも取れた広告の数だけ広告料が入る仕組みで、すべての公用車に広告を取るべく、市が努力している。

 では船橋市はどうか。財産管理課が広告掲載審査委員会の承認を受けた金額は、市と広告主が直接契約する場合のもの。55台すべてに広告が取れれば、年198万円にもなる。

 したがって広告代理店を使うにしても、最低でも申請した99万円の収益を目指した契約でなければならない。しかし市はわずかな金額(13万5600円)と引き換えに、広告料を全額代理店に渡す契約を結んだ。全車に広告が取れれば、代理店は差し引き184万4400円を手にする計算である。

 99万円の見込み額はどこかに消えてしまった。なぜこのような契約を結んだのか財産管理課に問い合わせたが、納得のいく答えは得られなかった。

 このような契約は公益から大きく外れるばかりでなく、公用車を使って最大限の収益を上げるという事業本来の目的からも逸脱している。また市が手にする13万5600円では、職員一人分の直接費も賄えない。
 さらにこの契約は広告掲載審査委員会の承認に背いており、市の意思が反映されたものとは言い難い。

 市は現在、数々の助成金をカットし、公共施設の駐車場料金を有料にするなどして市民に負担を強いている。そんななか、行うべきは公益に資する事業であり、特定の代理店を儲けさせるために行っているような事業は、必要ない。

2,広告主の審査をしない。だから不祥事を起こした企業の広告がついている
 市有財産に民間企業の広告を取ることは、その企業を市が推奨するかのような誤ったイメージを与えかねないと、かねてより懸念されていた。
 私が最初にこの事業に疑問をもったのも、公用車に脱税で告発された会社の広告がついているのを見つけたからだ。
「市はなんでこんな会社の宣伝をしているのだろう」と。
 
 公用車広告は目立つだけに、広告主の審査はより慎重に行われなければならない。しかし財産管理課は広告取りから事業の実施まで、業務のすべてを代理店に丸投げしているため、広告主の審査も自分たちではほとんど行っていない。

「代理店がやっているから問題ない」という考えだ。しかしその代理店は私の調査記録の開示請求に、記録を提出することができなかった。つまり何も調査をしていなかったのである。

 船橋市には健全な広告事業を行うための基準があり(※)、そこには暴力団とつながっていないか、厚労省の基準を守っているか、薬事法に違反していないかなど、市自らが広告主の審査をするよう定めている。代理店が探してきた広告主についても、最終的に市が審査すると明記している。

 しかし現状はその審査を怠っているため、公用車には脱税で東京国税局に告発された会社や、顧客の個人情報を大量に流出させた会社の広告がついている。それに気づいた複数の市民から苦情が寄せられているが、財産管理課は契約期間内であるとして、なんの調査もせぬまま掲載を続けている。

 このような状況は市民にとって非常に危険であり、また大きな不安を抱かせるものである。

 資料〇は私がこの事業の不審点について市に問いただしたもの、資料〇はその回答である。市は建て前論に終始し、論点をずらし、私の質問にまともに答えようとしなかった。また、不祥事を起こした会社が更生したか否かの調査もせぬまま、その権利を守る考えを示したのは許されることではない。

【結論】
 これらの点から事業の目的は破綻していると言わざるを得ない。市議会は、一刻も早く当該事業を取りやめ、船橋市の信頼回復を図るよう勧告されたい。

※「船橋市広告掲載に関する要綱」「船橋市広告掲載基準」「広告掲載マニュアル」「船橋市動画広告事業に関する取扱い基準」など

別紙/添付

水色罫

 陳情書は議会事務局で受理され、後日、総務委員会に付託されることが決まった。

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