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事業開発のビジネスR&D|勝てるプロポジションを見つける仮説検証

事業開発(ビジネスR&D)は、新しい価値(プロポジション)を創造する専門職です。仮説検証によって、売れるプロポジションを見つけ出す方法を紹介します。

ビジネスR&Dとは?

図:事業開発の役割

狭義の事業開発

事業開発(ビジネスR&D)は、アイデアの仮説検証を通じて「売れるプロポジション」を見つけ、後行程のマーケティングにパスする仕事と定義しています。

ただし、初期段階から機能別の担当者がついていることはほとんどないため、事業開発担当者(ビジネスR&D)が、マーケティングからセールスまで一貫して実行することで、ビジネスモデルを検証することがしばしあります。そのため、事業開発の範囲をビジネスR&Dに留めることなく、より広義の事業開発でその役割を捉えられることが多くあります。

図: 広義の事業開発

広義の事業開発

ビジネスR&Dの機能と目的

機能:プロポジションの確定仮説の創出
目的:売れるものを見つける

ビジネスR&Dの機能は、売れるプロポジション(確定仮説)を見つけるために、Research (調査)とDevelopment(開発)を通じて、仮説検証を行うことです。

ビジネスR&Dは、Dev(0→1)の仕事で、売れるプロポジションを見つける役割です。それ以降のプロセスは、Growth(1→10)の仕事で、プロポジションを活用して、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスで、ビジネスを拡大する役割で、プロポジションの有無によって両者の役割が分かれます。

図:事業開発(ビジネスR&D)とグロース

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仮説検証の概念

図:仮説検証のファネル

仮説検証ファネル

初期仮説:できるだけアイデアを多く出す
仮説検証:優先順位をつけて、早く多く初期仮説を検証する
確定仮説:検証された確率の高いアイデア(プロポジション)

「仮説検証」は、ビジネスR&Dにとって重要な概念です。新しいビジネスのアイデアを見つけていくためには、科学的な仮説検証方法が欠かせません。

ビジネスR&Dでは、限られたリソースで最大の結果を出すために、初期仮説への分散投資と、確定仮説への集中投資を両立させる必要があります。「初期仮説への分散投資」×「確定仮説への集中投資」が、ビジネスR&Dの基本戦略になります。

初期仮説への分散投資とは、Research(調査)で、より多くの初期仮説をより早く仮説検証することです。多くのアイデアを比較検討することで、最終的に選択したテーマが、主観的に選ばれたテーマでなく、複数の可能性を検討した結果として選ばれたテーマであることを社内で論理的に説明することが可能になります。これは、大企業で社内説得するためには必要なテクニックです。また、単純により多くの可能性を検証することで、可能性の高いアイデアに出会う可能性が高まり、結果として成果につながりやすくなります。

確定仮説への集中投資とは、Development(開発)で、これはという確定仮説を元にビジネスモデルを検証し、事業可能性を立証することです。プロトタイプを作り、実際にユーザーからのフィールドバックを得ながら詳細に仮説検証することが必要となってくるので、Research(調査)のように数多くこなすことはできません。

KFS(Key Factor of Success)

ビジネスR&DのKFSは、「仮説検証の数」とするのが良いと考えています。

大企業の市場開発は、ある程度の事業規模が見込めることが条件となります。小さすぎるマーケットには既存事業と比べ、投資価値が相対的に小さくなってしまうためです。それが故に、なかなかアクションが起こせずに、大企業でイノベーションが生みにくい理由にもなってしまいますが、ビジネスR&Dはその障害を乗り越えて、新しいアイデアを生み出すことが任務です。

ある程度の事業規模が見込めるアイデアに辿り着くためには、数をこなしてありきたりなアイデア以上のものを見つけなければなりません。そのためには、「検証の数」を増やすのが最も効果的です。

もし、生み出した事業の売上や利益などをKFSにしてしまうと、どうしても短期的な目線にとどまってしまい、あまりイノベーティブなアイデアに取り組むことができません。実際、私も短期的な成果を出すことと、長期的にインパクトの大きいアイデアに投資することをどちらもバランスよく行い続けることは、今でも一番の課題だと感じている非常に難しい問題です。

「仮説検証の数」をKFSに設定すれば、行けそうなアイデアと行けそうでないアイデア、の見極めを素早く多くすることが可能になります。行けそうでないアイデアを避けることができれば、結果的に最終的な成果(売上や利益)にも自ずと繋がります。

成功のポイント

ビジネスR&Dは仮説検証を繰り返すことで小さな失敗はいくつも経験することになりますが、絶対に失敗してはいけません。つまり、負けるプロポジションを上げてはいけません。勝てる可能性が最も高いプロポジションだけ厳選するのが、絶対的なミッションです。

担当者レベルで取り組む事業開発は、一度失敗すると二度とチャンスは回ってきません。これは、事業開発テーマで結果を出すためには少なくとも数年はかかるため、一度失敗してしまえば年齢を取り戻すことができないためです。何歳になっても新規事業に取り組んでいられるようなキャリアパスを用意されている企業は、残念ながらほとんど聞いたことがありません。そして、事業開発のような特殊なポジションでは、失敗する人よりも成功する人にだけ投資をしてもらえます。事業開発を続けて行きたいなら、勝ち続ける必要があるのです。

私が失敗しないために大切にしているのは、以下の3点です。

・弱いプロポジションで勝負しない
・前提としての打数確保
・技術R&Dとの協力関係

弱いプロポジションで勝負しない

ビジネスR&Dは、会社にとって新しい選択肢を生み出します。

一方で、会社にとっては、新しい投資可能性が生まれると、既存事業への追加投資とその新しい事業可能性への投資、どちらを選ぶかという経営判断が必要になってきます。新しいアイデアに投資してもらうためには、仮説検証を通じてプロポジションの強さを示すことが必要です。

ビジネスR&Dで新しく発見したプロポジションが強ければ強いほど大きな投資(経営リソースの配分)を受けることができます。もし、そのアイデアが魅力的であれば、若干の戸惑いと不安を覚えるようなスピードで、会社なのかで勝手に話が大きくなっていくのを経験することになるだろうと思います。場合によっては買収や提携など経営戦略に大きな影響を与える話になっていくこともあるでしょう。

もし、プロポジションが弱ければ一新規事業として仮説検証をコツコツと続けていき、チャンスを伺うことになります。

焦って弱いプロポジションを上申してしまうのではなく、強いプロポジションが来るまで、粘り強く探索を続けることがポイントです。

前提としての打数確保

もし、雪だるま式に大きな話になっていくような素晴らしいアイデアに携わることができるのであれば、とても運が良いことは間違いありません。しかし、その裏には無数のトライ&エラーの積み重ねが必ずあるべきですし、それがなければ再現性のある事業開発の仕組みとは言えません。(もし、「当たり」だけを引き続ける人がいたとしたらその人はビジネスの天才かもしれませんが、天才の存在は仕組み化の前提とはしません。)

打率を高めるには限界があるので、打数をいかに確保していけるかが「仕組みとしての事業開発」のポイントになります。

組織として事業開発を継続的に実行し、その中で「当てて」いくためには、ボツとなる仮説の存在を前提として打数を増やすと共に、その中で「当たり」を探し続けるような仕組みが必要となります。そのために、ビジネスR&Dを独立部門とし、仮説探索と仮説検証をミッションとすることが成功への鍵となります。

なお、ここでいう事業開発(ビジネスR&D)は、今あるアセット(製品、技術、ノウハウ)などから新規事業を事業開発することを前提としています。事業開発(ビジネスR&D)は、下流の現場からの提言というイメージで、今あるアセットを生かすことを考えています。

技術R&Dとの協力関係

仮説を検証するプロトタイプを作成するためには、技術R&Dなどエンジニアの協力が不可欠となります。確定仮説の検証に入り、プロトタイプが必要となる場合には、他部門への協力要請が必要になります。

大企業で事業開発を実行する際は、ここが一番のハードルかもしれません。スタートアップと違い、歴史の長い大企業では、上から降ってきたテーマをこなすことが無意識の内に当たり前になってしまっており、「遊び(本業や主要業務以外に取り組むこと)」があまりありません。

研究の「遊び」はあくまでも個人次第で、組織としてそれを仕組み化できている会社は多くありません。もちろんGoogleの20%ルールは有名で、多くの会社が同様の制度や姿勢を取り入れていますが、実際の実行まで落とし込めて実施できている会社は少ないと思います。

どうすればプロトタイプを作り、市場での仮説検証に進めることができるか。プロセスマネジメントと権限構造を見極め、確実にプロセスを前に進めること。ここが、事業開発者の一番の腕の見せ所になると思います。

まとめ

事業開発(ビジネスR&D)は、新しい価値(プロポジション)を創造する専門職です。

・仮説検証によって、売れるプロポジションを見つけ出す。
・ファネルを使って仮説検証の数で管理する。
・失敗するテーマは選ばない(仮説検証でしっかりふるい落とす)。

来るべき機会の成功のために、少しでも参考になれば、幸いです。

参考文献

ピッチ:スタートアップ向けのフィット検証の説明が分かりやすく参考になります。事業アイデアの仮説検証の検証項目として参考にするために、いつも手元に置いています。


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