ゲーミング長屋#5「リフレッシュレート」 | 森田一郎の毎日戯文 #57

毎日戯文とは

前回のゲーミング長屋

ドーモ、森田一郎です。

さて、所は江戸、ときの頃は、そうですね、私にもさっぱりなんですが、町方に1680万色に輝く長屋がございました。

これがゲーミング長屋といって、絢爛豪華ななりをして、中に住んでるのはゲームオタクばっかりだってんで、町人の中でも評判でしたそうです。

そんな長屋に住んでおります一郎、でっかい貴婦人が普通のサイズの扉から出てくるゲームを「テメーーーッ!! バキバキッ」

「クヌヤラーーーーッ!! ゴロゴロゴロ」

弥七と与太郎が取っ組み合いながら、障子を突き破ってころがりこんで

「144だーーーーーッ!! ベシイッ」

「240だーーーーーッ!! ドシィッ」

何やら数字を叫んでおります

「馬鹿なのかいおまえたち」

「おう一郎!聞いてくれ!この野郎がよ!」

「一郎さん聞いてくれよ!こいつが!!」

「聞くから順番に言ってごらん」

「「こいつが」」

「弥七さんから順番に言ってごらん」

「与太がよ、FPSは144以上出てりゃ十分だってんだ」

「だってそうだよ、240張り付いてたって人間にゃわかりゃしないんだから」

「あー、フレームレートの話だね」

「どうしたいあんたら」

「あ、大家さん、こいつらフレームレートで喧嘩してんですよ」

「フレームレート?」

「まあ、ゲームの描画のなめらかさの指標です。ところで大家さんこの障子ロハで直りますか」

「あー、喧嘩はやめなさい、弥七も、与太郎も」

「大家さんこの障子」

「あーやめなさい!喧嘩をやめなさい!」

「もう喧嘩してねえよ」

「大家さんどうしたの」

「大家さんこの障子は」

「知らないよ、こいつらに直させなよ、それよりフレームレートってのは、そんな取っ組み合うくらい大事なのかい」

「大事も大事ですよ、対戦FPSじゃ勝敗に直結するんだ」

「だからって画質落としてまで240張り付いてても意味ないって」

「意味ねえかどうかあーーー!!!」

「ワッ…………どしたの弥七さん」

「いや、意味ねえかどうか確かめるにはどうしたらいいのかなって、一郎なんかないか」

「まあ見比べてみたらいいんじゃない」

そうして弥七と与太郎、それぞれのPCとモニターを一郎のとこに持ち寄った。

「じゃあ大家さん、一郎さん見といてね」

「おう、一目瞭然だからよ!そらバカタレの与太やヨボ、FPSがあまり得意でない旦那にはわかんねえかもしれんがよ」

「弥七おまえ、あたしのことよくヨボヨボって言ってるの知ってるよ」

「FPS好きの一郎はピシャーッとわかるはずよ!見ときな!」

「弥七」

というわけで、双方同じFPSゲームを立ち上げてプレイしはじめます。

「んー、あたしにゃあどうもね、同じに見えますよ」

「そりゃあヨボ、旦那はFPSやらねえから」

「弥七」

「ほら弥七さん!一緒なんだよ!144出てればいいんだよ!一郎さんはどう思う?一緒でしょ?」

「あれっ」

「どうしたの」

一郎の怪訝な顔つきに、しぃん、と静まり返る場。

「うーん、ちょっともう一度動いてみて、ふたりとも」

一郎の眉間の皺がぐぐ……ぐぐぐ……と深くなっていく。

そのうち鎮痛な面持ちで、モニターの型番を見出したもんだから、弥七も与太郎も頭にハテナを浮かべており、やがて

「あのね、驚かずに聞いてくれ」

「「うん」」

「あんたらのモニター、どっちも60Hzまでしか出ないやつだね」

お後がよろしいようで。

またあした。

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