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トロント大学に進学、そしてPart 2

トロント大学統計学科でのPhD生活がスタートしてはや2ヶ月。Part 1では渡航に至るまでの困難を中心に書いたが、現在進行形の実際のPhD生活の様子を記してみたいと思う。

日本と異なり、北米の大学院のPhDは5年が基本であり、日本における修士と博士後期が一体となってプログラムになっていることが多い。したがって、1年目はコースワーク(必修授業の履修)が中心であり、1年目の終わりにComprehensive Examと言われる筆記試験でコースワークで学んだ内容の理解度が試される。この筆記試験に合格しなければ追い出されてしまうので、皆必死に勉強する。

加えて、日本の大学院と異なり、独り身ならば十分生活していけるだけの給料をもらえるわけだが、それはTeaching Assistant (TA)の労働の対価として受け取るわけである。Teaching Assistantの負荷は担当する授業によっても異なるが、大抵の場合は課題やテストの採点が中心であり、演習がある授業では演習の一部を担当することになったりもする。ちなみに金額的には大学から支給される給料のうちの3割程度がTAを通じたものとなっており、残りは研究(勉学)するだけでただでもらっているようなものなので、一般的な労働の対価とは感覚が異なるのは勿論だ。

コースワークもTAも単体では大した負担ではないのだが、両方含めると正直言ってめちゃくちゃ忙しい。コースワークの締め切りとTA業務の締め切りに常に追われている感覚である。中間試験の採点に追われながら自身の中間試験の準備に追われたりと、負荷が集中するタイミングが重なりがちでもある。

トロントに着いたのがプログラムが始まる1週間前だったのもあって、そもそも最初の一ヶ月は生活を立ち上げるだけで必死だったのだが、生活が立ち上がったあとも、上述の調子で多忙を極めたため全力で駆け抜けてきた2ヶ月だったと感じている。コースワーク以外の研究に繋がることに取り組まなければいけないのだが、とてもとてもそれどころではない状況で2ヶ月があっという間に経ってしまった。他のPhD同級生たちも必死に食らいついているやっているような状況なので、最初はこんなものなのだろう。全力だった証拠にたった2ヶ月で2kgも痩せた。なお、極めて健康的に痩せているのでご安心を。少なくとも霞ヶ関で働いている時よりもはるかに充実した忙しさだと感じている。

次に統計学科の様子を記してみたい。少し専門的になるが、統計学科の必修授業は①確率論(測度論に基づく厳密な)、②数理統計学(統計学の基礎をなす数学的理論)、③応用統計学の3科目となっている。ほとんどの統計学科の学生にとっては、数学的な理論を中心に扱う①と②が鬼門だ。というのも、北米の統計学科は一般的に数学に強い人はそんなに多くなく、応用志向の人が大多数だからだ。日本で統計を専門的にやっている人はゴリゴリの数学のトレーニングをこなしている人が多いと思うので対照的である。さらに言うと、PhDと言っても取得後に企業に就職することを前提として来ている人が多いのも日本と大きく異なる点である。勿論、より理論志向の研究をしているStanfordやUC Berkeleyともなると理論系の学生がもっと多いと思うが、一般的にはこのようなものだと思う。日本だと学部4年生で読むであろうテキストがこちらでは必修授業のテキストになっていたりする。

自分の場合は元々数学の修士を持っているので、測度論はお手のもので、測度論に基づく確率論は入学する前に独学であらかた済ませてしまっている。また、数理統計学もこちらの大学院でスタンダードとみなされているテキストの半分程度を独学で読み進めていたので理論系の二つの授業に関してはスムーズに取り組めている。それは良いのだが、実際のところ確率論に関しては自分にとっては簡単すぎるのだが、履修免除もさせてくれないし、授業の出欠も取られてしまうという融通の利かなさで、困ったことに無駄に時間が取られてしまっている(涙)。苦労しているのは応用統計学で、何せR言語でコードを書く練習など全くやったことがない初心者だし、数学は知っていていても統計学の基礎を学んだことがないので、カイ二乗検定やらF検定、T検定やら様々な統計学の一般常識がすっぽり抜けているので、課題を終えるのに毎回かなりの時間がかかってしまっているのだ。同級生たちのほとんどが自分と逆なので異端児状態である笑。

ただ、同級生を見ていて面白いのは、それらの一般常識は知っていても、何故そうなのか?を知らないことだ。統計学を道具としてしか見ていないので、何故F検定が分散を比較するのに使えるのかだとか、回帰分析をしたときのFitを見る時にカイ二乗検定が出てくる理由を知らないで使い方だけを覚えているのだ。応用統計の授業では理論的背景に関わる部分も毎週の課題で問われるのだが、この部分は基本的に数学なので逆に自分以外の同級生はみんな苦労している。

同級生とはWhatsappというチャットアプリで日々コミュニケーションをしているのだが、誰かが課題のわからないところを質問してはそれに答えて支えあっている。そして9割型は数学的に難しいところの質問なので、結局、自分が回答していることが多い(笑)。頼りにされるのは良いことだが、自分が毎週苦労しているRのコーディングは初歩的すぎて恥ずかしくて聞けないでいる(涙)。

忙しい日々を駆け抜けて来たが、来週はReading Weekといって、欧米の大学では一般的な大学のあらゆる授業がお休みの週に入る。秋休みみたいなものだ。これまでのことを振り返りつつ、普段忙しくて読むチャンスがなかった文献を静かに集中して読もうと思っている。

長くなったのでPart2はこのぐらいに。次はカナダの大学院を選んでよかったことなどを記していきたいと思う。


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