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諱と字が同じ人がいるのか_レファレンス

【表題】諱と字が同じ人がいるのか_大阪府立図書館:e-レファレンス回答

【質問・相談などの内容】
諱と字が同じ人がいるのかを知りたい。郭子儀があげられているが、本当だろうか。

【回答】
web情報で諱と字が同じ例として挙げられている人物4名(郭子儀・孟浩然・司馬徳文・司馬道子)について、中国の史書等も含め、諱(本名)と字をどう説明しているか調査しました。その結果、少なくとも中国で正史とされている史書において上記4名は諱と字が同じものとして伝わっていますので、諱と字が同じ(と考えられていた)人物はいると思われます。
なお、名前や諱・字等について研究した資料も併せて調査しましたが、諱(本名)を避ける風習についての研究や考察のみで、諱と字が同一である人物やその理由などについて考察している資料は見つかりませんでした。以下が調査結果です(【 】は当館請求記号)。

1)郭子儀
中国唐代の正史『新唐書(唐書)』唐書列伝第六十二(唐書巻一百三十七)「郭子儀列伝」冒頭に記載あり。
・『新唐書 下 (百衲本二十四史22)』((宋)欧陽脩/[等]撰 商務印書館 1967)【222/14F】
p16960 「郭子儀 字子儀」とあるため、正史において諱と字が同じとされています。

・『コンサイス外国人名事典』(三省堂編修所/編 三省堂 1985.12)【280.3/32】
p182 かく しぎ 郭子儀
「字は子儀」とあり。

なお、次の資料によると、郭子儀の父親・郭敬之も諱と字が同じものとして記載されています。
・『新唐書 上 (百衲本二十四史21)』((宋)欧陽脩/[等]撰 商務印書館 1967)【222/14F】
唐書宰相世系表 十四上 郭氏(二十八) p16558
「敬之 字敬之」 ここでも郭子儀は「子儀 字子儀」と記載あり。

2)孟浩然
・『新唐書 下 (百衲本二十四史22)』((宋)欧陽脩/[等]撰 商務印書館 1967)【222/14F】
唐書文藝列伝第一百二十八(唐書巻二百三)p17296
「孟浩然 字浩然」とあり。

・『唐才子传校注』([辛文房/撰]  孙映逵/校注 中國社会科学出版社 2013.10)【921.4/39F】
p123-128 四三 孟浩然(689-740)
中国・唐代の文学者の伝記集『唐才子伝』についての中国刊行の校注書。孟浩然の項に書かれた「浩然」についての校注に、王士源の『孟浩然集序』の次の文を引用、 “孟浩然 字浩然”。(p124)

なお、孟浩然について、日本の人名辞典などでは、諱は“浩”であるという一説について言及されている資料がありますが、その根拠となる資料については不明です。
・『コンサイス外国人名事典』(三省堂編修所/編 三省堂 1985.12)【280.3/32】
p929-930 もう こうぜん 孟浩然
「名は浩、字は浩然、こうねんとも読む。」に続いて、解説には「字をもって呼ばれる。」との記述あり。

・『漢詩の事典』(松浦友久/編 大修館書店 1999.1)【921/51N】
p78-80 孟浩然(六八九-七四〇)
「字も浩然。一説に、“名は浩、字は浩然”とする。」(p78)と記載あり。

以下の2名は日本の人名辞典では字の記載がありませんでしたので、中国の史書を確認しました。
3)司馬徳文
司馬徳文は東晋の第十一代(最後の)皇帝・恭帝のこと。
・『晋書 (百衲本二十四史7)』((唐)太宗/御撰 (唐)房玄齡/[等]撰 商務印書館 1967)【222/14F】
晋書巻十帝紀第十 安帝 恭帝
p5011「恭帝字諱德文 字德文」とあり。
p5008によると先帝(第十代皇帝)である兄の安帝も諱と字が同じで「安皇帝諱德宗 字德宗」とあり。しかし、父帝・簡文帝などそれ以前の歴代皇帝は、諱と字は違うものを使用。

4)司馬道子
司馬道子は東晋の皇族。会稽王。
・『晋書 (百衲本二十四史7)』((唐)太宗/御撰 (唐)房玄齡/[等]撰 商務印書館 1967)【222/14F】
晋書巻六十四列伝第三十四  武十三王・元四王・簡文三子
簡文三子:会稽王道子(司馬道子)
p5408 「会稽文孝王道子 字道子」とあり。

以上です。

「担当:大阪府立中央図書館人文系資料室」

【参考資料】新唐書 下 (宋)欧陽/脩∥[等]撰 商務印書館 1967

【掲載箇所】16960,17296 

【参考資料】コンサイス外国人名事典 三省堂編修所∥編 三省堂 1985.12

【掲載箇所】182,929-930

【参考資料】新唐書 上 (宋)欧陽/脩∥[等]撰 商務印書館 1967

【掲載箇所】16558

【参考資料】唐才子传校注 [辛文房撰] ; 孙映逵校注 中國社会科学出版社 2013.10

【掲載箇所】124

【参考資料】漢詩の事典 松浦/友久∥編 大修館書店 1999.1

【掲載箇所】78

【参考資料】晋書 (唐)太宗∥御撰 商務印書館 1967

【掲載箇所】5008,5011,5408

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