ワコとマロニエさんII

マロニエさんは少しだけ苦手、とワコは感じている。
なんとなく、自分と価値観が違うと感じる人を、ワコは理解しないところがあるから。
もう年齢も高いというのに、どうしてだか。ワコの精神年齢はまだ低いのかも知れない。

マロニエさんは、よく自分の感じていることを話してくださる。
「体温が上がらなくて、いろいろ工夫してみようとは思っているんだけども」
「食べ過ぎに気をつけようと思うんだけれども」
なんだか人生うまくいかない、という話の終わり方が多いように、ワコには聞こえてしまう。

たぶん、ワコの立場から、話は聞くだけでいいのだろう。
マロニエさんは、解決したいわけではない。
ただ、話をしたいだけだ。
解決したいと思ってしまうのは、ワコの悪い癖だ。

あるとき、ワコはふと気がついた。
マロニエさんは、私と会話をしたいというか、私に話題を提供したいのかも知れないと。
そのために、自分のちょっとした引っかかっていることとか、心に残っていることを話題として選んでいるのではないか、と。
確信はないけれど、ワコはそう思って話を聞くことにした。そうしたら、そんなに内容が気にならなくなった。

ダイエットしたいと言いながら、バランスなど無意識に食事を取ったり、あれもやりたい、だけど時間がない、と感じながら日々を過ごすということは、誰でもあること。その話題をワコが聞いても、解決したくて話しているのではないのだ。
その見分けかたは、ワコにはいまだに難しいだけだ。

マロニエさんも、ワコの生活に共感しているわけではない。
例えば、ワコは岩塩ランプが好きで、ずっとつけ通している。小さなランプだが、どうしていつも消さないのか、マロニエさんには不可解だったようだ。
「電気代がもったいないことをしているって思っていたけれど、言ってはいけないと思って」
と、ワコはある時言われて、少しムッとした。唐突だったから。

ひとは、唐突にものを言われると、受け入れ難いものだ、と、ワコはこのとき学んだ。ワコもそうやって、日々人にものを言うことが多かった。自分が気持ちを経験しないと、自分がやってきたことがどういうことだったかなんて学べないものなんだと改めてこの時も思った。

ある日、マロニエさんは、言ってくださったことがある。少し日常で思うことがあり、感じたことがあったらしい。
「なんか、人から思い込みでいろいろ言われるって辛いことだなあって、しみじみ思ったのよ。私理解が足りなかったわ。あなたも嫌な思いしていたんじゃないの、すみません」
だいぶ前のことで詳細は忘れてしまったけれど、マロニエさんがいつになく緊張していたように、感じられたことだけは、ワコは今も覚えている。

でも、ワコはこのとき、何もなかったですよ、なんて嘘も方便も言えなくて、なぜなら確かに少しずつ少しずつ思うこともあったし、そこはでも、ストレートにそうなんですよとも言ってはいけないような気がしていた。
そして何を思ったのか、言った。

「どんな人とでも、私は大丈夫です。どんな人にでも支えてもらって、生活していきます。負けませんから」

ワコの言葉に、マロニエさんは緊張がほどけたように、笑ってくださった。




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