『人生で最初の記憶』 春風亭与いち

僕は年中クラスをすっ飛ばし、年長クラスを2年やった。

0歳から通っていた保育園。
年少になり、次は年中クラス。
と思った矢先、人数調整で誕生日の早い方から数人、年長クラスへ飛び級させられたのだ。
誕生日が4月5日の僕は抗うことすらできず、
促されるまま3年間を共にした仲間に別れを告げることすらできずに、
見ず知らずの先輩連中の輪に放り込まれた。

何故か、
「これは試されている」
と勝手に思い込み、周りに負けじと全てに全力を注いだ。
誰よりも奇抜な粘土作品を創作し、
誰よりも壮大なLEGOを建築し、
誰よりも速く三輪車を漕いだ。

そして、お昼寝の時間では決して眠らなかった。

周りの活動が全て止まっている空間を自分だけが動いている背徳感を感じていたのだと思う。
静止した時の中を唯一動くディオと同じ気持ちだ。
すやすや眠っている一つ上の先輩方に対し、
「貧弱貧弱ゥ!!」と思っていた。

ふと隣に目をやると、僕と同じく眠っていない女の子がいた。
静止した時の中を動けるのが自分だけでは無かったと気づいた時のディオと同じ気持ちになった。
そして、その時の承太郎を見るような目でその子のことを見ていると、
その自分の感情とは裏腹に優しく声をかけられた。
内容までは詳しく覚えていないが、想像で書くならば
「レン君も眠れないの?実は私もなの…」
みたいな感じだ。
そこからものすごい勢いでその子と仲良くなった。

それも、
"実は仲が良いということが周りには知られていない"
関係。
普段はほとんど喋らず、お昼寝の時間だけ。
わざと布団を隣り合わせに敷き、皆が寝静まった頃にコソコソお喋りをしたりするのだ。
僕にとって彼女は一つ上のお姉さん。
これは格別だ。
百四歳と百五歳とではほとんど違いは無いが、
四歳にとっての五歳はそれはそれは高嶺の花だ。
もう、サイコーである。
「夜だけの関係」ならぬ「昼だけの関係」。
たまに様子を見にくる先生や、周りの子、
いや、
ガキんちょ共に気づかれないように、二人だけの世界を楽しむのだ。
最早、「ア・ホールド・ニュー・ワールド」だ。
ミュージカル映画なら、あの子供用の魔法の布団が浮かび上がり、真っ昼間の保育園上空を旋回しただろう。

そんな楽しい日々も虚しく、あっという間に一年が経ち、彼女は一足先に小学生になった。

元の同級生と一緒に僕は二年目の年長クラスを過ごすのだが、その記憶はほぼ無い。
自分も小学生になればまた彼女に会える。
それだけを思っていたに違いない。

が、いざ入ったその小学校に彼女の姿は無かった。
住んでいる地域の関係で隣の小学校だったのだ。

そして更に時が経ち、
中学校でその子と再会した。

あの時の承太郎、、いや、ジャスミン。
益々可愛くなっ………て

あれ。。。。なんか。。。

……………ん。

……いやいや。

お元気そうで何よりです。


2020.8.22

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