『なぜ11月がNovemberなのかというとだな…』 春風亭貫いち

「隠居さん、お願いします!是非教えて下さい」

えっ……何だい、お前さんも物好きだねぇ~そんなにこの話が聞きたいのかい?なら話してあげようじゃないか
なぜ11月がNovemberなのかというとだな……元々はラテン語由来で、9番目の月っていう意味なんだよ。何故9番目かというとこれはローマ暦に則っているからなんだよ。分かったかい?

「…………はぁ~……」

どうした八つぁん、その深い溜め息は?

「隠居さんは馬鹿ですか?」

なんであたしが馬鹿なんだい?

「だってそうじゃないですかっ!!そこは隠居さんは本当の由来を知らなくて、適当なことをダラダラ述べるだけ、それを八公が信じちゃうっていうのが王道中の王道でしょっ!今回のテーマの趣旨だってそういうことでしょ」

なんだテーマというのは?

「余計なこと気にしなくていいんですよ!とにかく馬鹿っ正直に答えちゃう隠居さんは有り得ないんですよ!センスを欠片も感じません」

おぉ~~八つぁん言うじゃないかっ!そこまで言われて何もしないのは隠居の名が廃るよーーそれなら代々隠居に伝わる頓知・頓才の技術、お前さんにとくとお見せしようじゃないかっ!
なぜ11月がNovemberなのかというとだな……

「その入りももう止めましょう」

は?

「現代的な、ぶっ飛んだもの聞かせて下さい」

注文の多いやつだなぁ……いいだろう!代々隠居に伝わる頓知・頓才の技術、お前さんにとくとお見せしようじゃないかっ!

「あとそのフレーズももういらないです!無駄に文字数稼がないで下さい」

今日の八つぁんは手厳しいね…では、いこうじゃないか
これは木枯らし吹き抜ける秋も暮れのお話だ。歩道橋から…

「歩道橋って何ですか?」

あと200年くらい経つと出来るんだよ!道の上に橋が架かってんだよ

「橋ってのは川の上に架けるものじゃないんですか?」

未来の世界ではな、我々江戸っ子が感じてるのとは比にならない精神的ストレスを感じながら人間たちは生活しているんだ。人間っていうのは落ち込んだ時や悲しい時に自分より下の人間を見つけて安堵感を得ようとすることがあるだろ?だから人を見下すために道の上に橋を架けたんだよ

「橋の由来…荒んでますね~」

そう!未来は荒んでいるんだよ
橋の下には鉄の駕籠が行き来してるんだ

「なんで駕籠を鉄で作ったんですか?」

分からないかい?そういう荒んだ世の中だよ。街中と言えどいつ何時、金目のものを狙った賊に襲われるとも限らない!その為に駕籠を鉄製にする必要があったんだよ。
夜分のことだからね、駕籠についてる赤提灯に火を入れると、橋の下は真っ赤な川みたいだったそうだよ。橋の上には男女二人……二人はどれくらい付き合っていたのかなぁ…結婚を前提に一緒に住んでいたんだろうね。ただし男は仕事のあとも酒を飲んで帰らない日もしばしば……女がそれを問いただすから余計に男は家に帰らない。その内、外に別の女をつくる。二人の間に喧嘩は絶えない。遂に男は1ヶ月も家に帰らなかった。女は1人家で泣いていた。確かに男を責めはしたが、そこに愛がないわけはなかった。そして1ヶ月越しの電話…近所の橋の上に来て欲しいと……女は喜んだ!久しぶりに男に会える!橋の上で男は温かそうなコートを着て女を待っていた。あれ?彼はあんなコート持っていただろうか?彼の稼ぎでは簡単に買える品とも思えない。お待たせと声をかけると男からの第一声は「もう会うのはやめにしよう」…………浮気相手に赤ちゃんが出来たらしい。女は笑って頷いた。男はアパートの鍵と僅かな手切れ金を渡して去っていった。あぁこれは嘘だ、そうだ今日エイプリルフールなんだ!彼はこういう攻めたジョークも言うんだな…しかしスマホの液晶には11月の文字……頬をつねってみると……痛い……無情にも夜風が安物ジャンパーの肩を抜けていく。

松任谷由実「11月のエイプリルフール」由来の一席でお時間でございます

「何の話だよっ!!?」

2020.11.7

今年の更新はおしまいです。皆様よいお年を。

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